第18話_出し惜しみは出来ません
魔族がやってくることが分かった翌朝である。
村民とシュウたちはその日のうちに村を出発し王都へ向かっていた。
普通に移動すれば1週間の道程だが少ないとはいえ村まるごとひとつ分の人数が移動しているので数日は余計にかかるだろう。
その間に魔族により襲撃される可能性があるためシュウたちは移動中気が抜けない。
「とりあえず昨晩は何もなかったね」
「そうですね。ですが何も夜だけ注意していればいいというものでもありませんし気は抜かないでおきましょう」
「そうっすね。皆さんを無事に避難させ終えることを考えましょう」
まだ初日ということもありシュウたちの気力は充分である。
昨日は避難準備を始めたのが昼過ぎということもあり出発したのは夕方近くになってからだったためほぼ歩かず野営となった。
襲撃のことを考えれば休まず夜通し移動することも選択肢として存在していたのだが、初日から無理をし過ぎるといざというときに逃げる体力がなくなるため見張りをしっかりとしながら夜を明かすことになった。
その際、シュウたちは一番村側、つまり魔族の襲撃が高そうな方にテントを張り、交代で休みながら見張りを行っていた。
その結果を全員で毎朝恒例のミーティングの代わりに話し合っていたのだ。
話も終わりさぁ出発だ、となったところでニアが走り寄ってきた。
「シュウ!皆!」
「ニア、どうしたんだい?」
「村長には黙っていろと言われたんだけど、アタイやっぱり心配で・・・」
「村長がどうかしたの?」
「村長が・・・村長が村に残っているだよ」
「えっ!?」
「自分がいては避難の邪魔になる、って囮になると言って屋敷に残ってるだよ!」
「ッ!」
村長は昔負った傷が原因で日常生活には問題ないが戦闘などを行うと不調が出るらしい。
そのため今回のような長距離の移動に不安が出るのも無理は無い。
しかし事前の話し合いでは村人を先導し常に先頭グループにいることになっていた。
最後尾についていたシュウたちからは見えなかったが全員が問題なく動いていたので何の疑問も持たなかったのだ。
それが一晩明けてからそのことを知っていたニアが不安に駆られ教えてくれたのだ。
「くそっ。あまり進んでないとはいえ今から戻ったり立ち止まってるのは得策じゃないぞ・・・」
「シュウ、どうしましょう」
「・・・ニア」
「どうするんだい?」
「ニアはこのまま村の皆を先導して王都へ向かっていてくれ。ティアナたちは護衛を。俺は村に戻って村長を連れてくる!」
「1人で戻るつもりですか!」
「全員が戻ったり立ち止まったりするよりはその方がいい。護衛も必要だからこれが一番いいと思う」
「・・・ダメだね」
「ニア?」
「シュウの非常識さは知っているけど1人でなんてダメだよ。そもそも村長が言い出してアタイらが隠してたことなんだ。それにアタイらだって多少は戦える。だからシュウたちは全員で村長を迎えに行ってくれないか?もし襲撃されてもあんたらが戻ってくるまでだったら持ちこたえられるさ」
「でも・・・」
「これはアタイらアルスに住むエルフの総意さ。その証拠に、ほら」
ニアが後ろを振り向くと村人たちが全員シュウの方を見ていた。
どうやら村長が残ることを知っていたのはシュウたち以外全員らしい。
恐らくシュウに知られてしまえば無理矢理にでも連れて行かれると思った村長が口止めをしていたようだ。
ニアたちも最初は渋ったのだろうが村長に説得され村を出たはいいがやはり不安を感じてこうして訴えてきたのだろう。
そしてそれを受けたシュウの行動も決まっていた。
「よし、俺達は全員で村に戻る。ニアはさっき言った通り王都へ向かってくれ」
「あいよ!」
「可能な限り早く動くけど万が一の場合は無理しないように。最悪俺1人で迎撃に向かう。ティアナたちもそれでいいね?」
「「「「はい!」」」」
こうしてこれからの動きが決まったのである。
◇◆◇
「村長!」
「シュウ殿!?どうしてここに?」
「村長が残ってるって聞いたから戻ってきたんです!さぁ、早く行きましょう!!」
「・・・ダメです。ワシの体では皆に迷惑をかける。それであればここで多少でも時間稼ぎをしていたほうがいい」
「そんなことをして誰が喜ぶんですか!村の皆が村長のことを心配して俺たちに連れて来て欲しいと言ってきたんです。さぁ、早く!」
「しかし・・・」
「村のことを思うなら生きて皆の所に戻りましょう!」
「・・・わかりました。ご迷惑をお掛けしました」
ニア達と離した後すぐに村へ向かってきたため時刻は正午になろうかというくらいであった。
村の中で1人武装していた村長を見つけ何とか戻ってくるように説得できた。
恐らくここに1人でもエルフがいれば多少相手の目をそらせると考えたのであろうがあまりに無謀すぎた。
魔族が本当に転移魔法を使えるのだとしたら無駄死にになった可能性が高いのだ。
極限状態の中でそこまで考えが及ばなかったのかもしれないがあまりに軽率な行動であった。
とりあえず今は村長を連れて早く村人に追いつかなければならないためこれ以上の会話は無駄であると判断し、急いで村を離れ・・・ようとしたところで目の前に人影が現れた。
「チッ、もう来たか・・・。村長さん、離れていてください」
「あれが・・・魔族」
村長の言うとおり目の前には昨日の2人を戦闘に少なく見ても三桁になるであろう軍勢が突如として現れたのだ。
急いで村長を村の奥へと避難させて軍勢と向き合う。
「ふむ。やはり村人は逃げた後、か。しかしお前たちは残ったようだな」
「・・・ふん。お前らをここで倒すために、だよ」
ローブの人物の言葉に思わずそう返してしまったシュウだが、内心物凄く焦っていた。
思ったよりも行動を起こすのが早かった上に人数も多い。
昨日の会話が事実であれば一人ひとりが相当な強さを持っているためはっきり言って絶体絶命のピンチなのだ。
「いいねぇ。その心意気気に入ったよぉ。それに免じてお前らはここで皆殺しにしてやるよぉ」
「昨日のように簡単にいくとは思わないことですね」
「そうじゃ。今度はこちらが勝つ番じゃ」
「昨日俺様に手も足も出ず負けたの忘れたのかなぁ?たったの1日でそんなに強くなるとは思えないんだけどなぁ」
ヴァレスもニヤニヤとしながら前に出てきた。
言っていることはその通りで、昨日戦いに参加しなかったリエルとフィアがいても劇的な変化はないだろう。
ヴァレスとローブの人物だけでも厄介なのに今日は人数が多い。
どうにか出来ないか、とシュウは頭をフル回転させた。
(くそ、数が多い。恐らく全員が魔法を使えるだろうし魔獣の時みたいに一気にかたをつけるのも難しい・・・。何か、何か手はないか・・・)
起死回生の手を探し目線だけをアチラコチラに向ける。
相手の武装、配置、こちらの攻撃手段、その威力と範囲。
相手の武器は剣や槍といった近接武器がメインのようだが、遠距離は魔法が使えるため隙にはならない。
こちらの攻撃手段はティアナがシュウ以外では唯一魔法による遠距離攻撃が可能。
だが魔族相手には決定力にかけるだろう。
残りのメンバーは魔力を用いた近接攻撃がメインで・・・とそこまで考えたところでシュウの目線がカエデで止まった。
カエデは篭手とすね当てを付けて近接格闘を主に戦い、魔力を駆使して拳圧を飛ばしある程度の距離であれば遠距離攻撃も可能なのだ。
だがその威力はティアナと同様魔族相手には決定力に不安がある。
しかしシュウが考えたのはもっと別のことだった。
相手には聞こえない程度の声量でカエデに話かける。
「カエデ。頼みがある」
「なんじゃ、主殿?」
「・・・」
「・・・!・・・・!!」
ボソボソと会話をしているの気づいたヴァレスがさらにニヤニヤとしながら口を開いた。
「おぉ?内緒話かなぁ?俺様たちを倒す作戦でも考えてるのぉ?いいよぉ、なんでもしてきなぁ。ぜーんぶ弾き返して絶望させてやるよぉ」
「随分悪趣味だな。だがお前たちを倒す算段はついたぞ」
「へぇ。何をするのか楽しみだなぁ」
「よし、全員カエデから離れろ!」
シュウの号令に従い全員がカエデから距離を取る。
突然の号令に全員戸惑ってはいたが、それでも迅速に動いた当たりシュウへの信頼度はかなりの高さだろう。
だが結果として魔族の軍勢の前にはカエデが1人で相対している事になりヴァレスも不思議そうにしていた。
「なんだぁ?その小さいのを囮にして逃げるつもりかぁ?」
「ふん。貴様らの相手など我一人で充分ということよ」
「あぁ?随分と面白い冗談だねぇ。じゃあお前を殺してその考えの甘さを教えてやるよぉ」
「出来るものならやってみよ。・・・ぉぉぉおおおおおおおおお!!!」
カエデが咆哮を上げる。
それと同時にカエデを中心とした旋風が起きえいた。
その現象に今まさにカエデに飛びかかろうとしていたヴァレスどころか魔族全員が様子を伺っている。
そして。
「な、何だぁ」
『この姿になるのは久しぶりじゃのう。人間の姿でいるうちに魔力の操作に慣れたせいか以前より力が増しておるわい』
「おいおい、こりゃあマジかよぉ」
『さて、これで我が主殿の考えが甘いかどうかはっきりさせられるのう』
呆然と見上げるヴァレスの目の前には体長15メートル、真っ赤なウロコを持ち気の弱いものであれば目線があっただけで気絶してしまいそうな鋭い眼光を放つ巨大な姿があった。
この世界で遭遇してしまったら全てを諦めろ、と言われる災厄。
かつてシュウたちが滞在していたラグスの街近くに出没し、街を恐慌状態に陥れた圧倒的強者が魔族の前に顕現した。
『さて、我の本気を見せようかの。ドラゴンとしての、の』
この時ヴァレスの顔に初めて緊張の色が浮かんだのだった。
カエデ無双の予感しかしません。




