第16話_魔族襲来です
「さぁて、俺様ともと遊ぼぉぜぇ」
ヴァレスがニヤニヤとしながらシュウたちに向かってくる。
シュウは自分たち以外では初めてまともな魔法が使える者と出会ったので正直戦いづらさを感じていた。
今までは物理攻撃しかしてこないモンスターや獣との戦いしか経験しておらず、魔法攻撃をされるなど初めての経験なのだ。
「ティアナ、カエデ。無理はしないように」
「分かりました」
「しかし魔法とは相手にしてみると厄介なものじゃのう」
シュウは2人に注意を促した。
シュウが一人で相手をするのであればチート能力や飛行魔法で逃げる手段はいくつか考えられる。
しかし2人が一緒だとそのタイミングがズレてしまうことが考えられる。
「ククク、見たところお前が一番強そうだなぁ」
「・・・このまま何もせず帰るなら見逃すけど?」
「さっきから言ってるだろぉ?こんなにおもしろいものを見つけて帰るなんて出来ないってばぁ」
「チッ。戦闘狂め」
「さぁて、俺様ともっと楽しもうぜぇ」
「誰が楽しむか、よっ」
シュウは会話の途中で攻撃を開始した。
卑怯だとか言われてもしょうがないのだが、相手が相手だけになりふり構ってもいられない。
その証拠に先程まで素手だったのが今は腰の刀を抜き放っての攻撃だ。
しかしそれも余裕を持って躱された。
「おぉっと、危ないねぇ。・・・見たところその剣にも魔力が通ってるねぇ。いいぞぉ、もっと楽しくなってきたぁ」
今のを躱されると本当に厄介である。
このまま本気になると手加減など出来ずヴァレスを殺してしまう。
人と同じような形をしているとはいえ、今まで倒してきたのはゴブリンやオークといったモンスターか獣くらいであり、人を傷つけたことはないのである。
いくら相手がエルフを傷つけに来たといっても攻撃して殺してしまうのは躊躇ってしまう。
「あぁ?何だぁ、その顔はぁ?もっと楽しもうぜぇ」
「ッ!」
躊躇いが顔に出たのかヴァレスにそんなことを指摘されてしまう。
その発言で更に表情が曇る。
それを見たヴァレスが苛立ちを隠そうともせずシュウに近づいてきた。
「主殿、ためらっている場合では無いぞ!」
動けずにいるとカエデが代わりに攻撃をする。
魔力を拳にまとい拳圧を飛ばす。
純粋な衝撃なので不可視の攻撃であるがヴァレスは事も無げに防御を成功させた。
「おぉ、そっちの小さいのも中々やるねぇ」
「く、距離を置いた攻撃では通じぬか」
「シュウ!カエデさん!私が援護します。近づいて攻撃を!!」
「分かったのじゃ」
言うが早いかティアナが特の火魔法を放つ。
しかしそのまま当てようとしても防御されるか躱されてしまうのでヴァレスの逃げ道を塞ぐように放った。
「お、逃げ道が無くなったねぇ」
「よそ見をしていて良いのか?」
ティアナの攻撃を見ていたヴァレスが視線をこちらから外した。
その隙を逃さずカエデが打撃の届く距離まで接近し直接拳を打ち込もうと踏み込んだ。
確実に決まるタイミングだった。
身長差の問題もありカエデの拳はヴァレスの腹部にめり込み、吹き飛ばさんとしている。
しかしヴァレスはその場から一歩も動くことなくカエデを見ていた。
「な!?」
「いいねぇ。小さいけど強いんだねぇ」
全く効いた様子も見せずヴァレスがニィと口角を上げている。
嫌なものを感じたのかカエデがその場から離れようとした瞬間、ヴァレスの拳がカエデをとらえた。
「がぁっ!」
「でも魔力の扱いがいまいち。もぉっと鍛錬が必要だねぇ」
「カエデさん!」
「さっきあの小さい子が言ってたけどよそ見している暇があるのかなぁ?」
カエデが吹き飛ばされるのを見たティアナが声を上げるがヴァレスがすかさず攻撃をしてきた。
先程カエデがやったのを参考にしたのか魔力を拳にまとい拳圧を飛ばしてきた。
「きゃあ!」
「カエデ!ティアナ!」
自分が葛藤したことが原因で2人が倒れてしまった。
そのことで自分自身に苛立ちを覚える。
「さぁて、あの2人は弱かったけど君は違うよねぇ。早く戦おうぜぇ」
「・・・」
ヴァレスが続けて声を掛けて来るがシュウは答えられない。
自分は何をしていた?
日本と違いこの世界では外に出れば危険がたくさんあるのだ。
その危険を排除するのを躊躇えば自分だけでなく仲間まで危険にさらされる。
そんなことはわかっていたはずだ。
それが今の自分は何だ。
相手が人だとはいえ敵なのだ。
攻撃を躊躇っている暇はない。
そしてそれを躊躇ってしまった結果がこれだ。
幸い2人とも派手に吹き飛ばされはしたが深刻なダメージを負っている様子はない。
だがこのまま自分がうだうだしていると取り返しの付かないことになるかもしれない。
そうならないためにすべきことは何か。
その答えは簡単だ。
いち早く目の前の敵を排除しなければならない。
「・・・ッ!」
「おぉ、いいねぇ。その目。燃えてくる、ブベェ」
発言の途中で吹っ飛んでいくヴァレス。
理由は簡単。シュウが顔面を殴り飛ばしたのだ。
先程殴った時とは違い魔法を纏った打撃ではない。
純粋な魔力で強化された拳である。
ただし一切の手加減などしていない、本気の一撃である。
「ガハッ。・・・痛いねぇ」
打撃の衝撃で切ったのかヴァレスの口からは血が出ていた。
それを理解したヴァレスは怯むどころか先程より口角を上げ、最早不気味といっても過言ではない表情を浮かべている。
「いいぞぉ、どんどん燃えてきたぁ。ヒャーハッハッハッハ」
「もう手加減しない。痛い目にあいたくなければ帰れ」
「誰が帰るかよぉ。こんな面白いこと途中で放り出せるかよぉ」
「いや、そこまでだ」
「!?」
突然第三者が会話に参加してきたので驚き、そちらに視線を向ける。
そこには黒いローブで全身を覆った人物が立っていた。
勿論シュウに見覚えはない。
だがヴァレスは違ったようだ。
「チッ、面白くなってきたってのに邪魔するんじゃねぇぞ?」
「お前は戦いになると我を忘れて突っ走るから監視は必要だろう。それよりも今は引け」
「うるせぇ!俺は今こいつと戦いたいんだよぉ」
「駄目だ。この男は侮っていると危険だ。それにこいつの仲間が村人を連れて戻ってきてしまえば確実に倒せる状況では無くなってしまう。お前だって邪魔が入るのは良しとしないだろう?」
「んなもん全員まとめてぶっ殺せばいいだろぉ!?」
「はぁ、これだからお前を出すのは反対だったのだ。そもそも命令を無視して1人で単独行動をして・・・」
「命令も作戦も必要ねぇ。こんな任務くらい俺様1人で充分なんだよぉ」
「それで冒険者に足止めされていては世話はないな。それにこの少年は王都を魔獣の群れに襲わせた時1人で全滅させるようなやつだぞ。油断しているとこちらがやられる」
二人の会話に気になる言葉が混じっていた。
素直に受け取るのならあの魔獣達の侵攻は目の前のローブ姿の人物が起こしたと言っているのだ。
「おい、あの魔獣騒ぎの犯人はお前か」
「ふむ、そういえばあの時は姿を見せなかったな。そうだ、あれは私が引き起こしたものだ。君に邪魔されたがね」
「何故あんなことを」
「我々の目的のために必要だから行ったまでだ」
「目的だと?」
「君に語ることではない。今は引こう。だが近いうち我らの軍勢がこの村を襲う。魔獣の群れとは比較にならない強さだ。巻き込まれたくなければ仲間を連れ逃げることだな」
「何勝手に話を進めてるんだぁ。俺様はまだ納得して・・・」
ヴァレスが最後まで何か言っていたがローブの男に肩を掴まれるとその場から一瞬で消えてしまった。
あまりに突然のことで唖然としたがすぐに周囲を見渡す。
しかし2人の姿を見つけることは出来なかった。
もし仮にあのまま2対1の戦いになったとしたら正直厳しい物があったのでシュウとしては助かった、と思う気持ちがある。
しかし最後に軍勢が村を襲う、と言っていたのでどうやら戦いは避けられそうにないらしい。
そのように考えていたシュウダが、ティアナとカエデが吹き飛ばされていたことを思い出した。
「あ、ティアナ!カエデ!」
「む、我は大丈夫だ」
「私もです。でもあの強さは・・・」
「うむ、完全な本気ではなかったとはいえ我があそこまで簡単に吹き飛ばされるとは・・・」
カエデが本当に本気を出そうとするとドラゴンの姿に戻る必要があるため若干手加減した状態で戦っていたのだ。
しかしその中でも可能な範囲で本気を出せばカエデに敵う者はそう多くない。
そんなカエデをいとも簡単に吹き飛ばしてみせたのだ。
はっきり言って今までの相手とは比べ物にならない強さを持っていることになる。
「まずは村に戻ろう。門番さんがどうなったか気になるし、襲撃があるってことを皆に教えなきゃ」
「そうですね。戻りましょう」
今ここで相手の強さに不安を感じていてもしょうがないため目先の出来事から対処をすることにした。
もし襲撃が本当であれば相手の規模が不明である。
だが確実にヴァレスは出てくるだろう。
ヴァレス1人であれば何とかなるだろうが、あのローブ姿の人物もまとめて来られると難しい。
会話を聞く限り2人は対等な関係、もしくはローブの人物のほうがやや上に感じられた。
それが強さに比例しているかは不明だが大きく劣っているということはないだろう。
これまでにない危機感を抱きつつ村の中へを走るシュウであった。
ローブの人物と王都編で出てきた怪しい奴は同一人物です。
ただ、書いてたら予定より魔族が強くなってきたのでどう決着を付けるか物凄く悩んでいます。
・・・ほんとにどうしよう




