第13話_魔法って便利ですね
今日も今日とて村長宅からシュウたちの1日が始まる。
ここ最近毎日何かしらの活動をしていたため、完全にオフの日を設けることにした。
今までも息抜きとして訓練も何もせず海で遊んだりした日はあったのだが今日は本当に全員が全員、思い思いの活動をしようということになった。
リエルは部屋で寝ているし、カエデは海を見てくる、と散歩に出掛けてしまったため現在シュウといるのはティアナとフィアの2人だけである。
彼らはこれから遊びに行くか、となったところであることに気づき顔を見合わせていた。
「さすがにそろそろヤバイね」
「そうですね。思ったより長い期間滞在しちゃってますからね」
そう、シュウたちはある問題に直面していた。
「さすがにもうストックがないよ・・・」
問題は単純。
着替えがもう無いのである。
普通の冒険者であれば少ない数で着回し可能な限り荷物を少なくして身軽に動けるようにしている。
だがシュウたちはいくら荷物が増えたとしても収納袋があるため問題にならない。
なので着替えをある程度の量持っておき、綺麗な状態の服装を保ちながら洗濯という外出先では行いづらい作業を省いているのだ。
しかしアルスに予定より長く滞在しているせいで余裕があったはずの服のストックが足りなくなってきてしまったのだ。
別に野宿をしているわけでもないので村長宅の道具を借りて洗濯を行えばいいのだが、少し遠慮してしまっているのが現状である。
台所を借りて好き勝手に色々と作っておきながら何を今更、という状況だがシュウには謎の境界線があるらしい。
「んー、洗濯かぁ・・・。あ、そうだ」
「・・・聞くのが怖いですが何を思いついたのですか?」
「何か言葉に棘があるような・・・」
こういった場合、シュウが思いつくのは大抵常識はずれの物であるのでティアナに油断はない。
そしてその態度に若干シュウが傷つきながらも話を続ける。
「えーっと、洗濯を簡単にできる方法を思いついたんだ」
「洗濯を、ですか?簡単と言っても水を張ったタライとかの中でゴシゴシ洗う以外に方法があるんですか?」
「あ、分かったっす!汚れを簡単に落とせるような水を作るんすね」
「残念。はずれ」
「えー。じゃあどうやるんすか」
「まずは空いている樽がないか聞いてこよう」
「樽ですか?深すぎて洗いにくいと思いますが」
「いいから、いいから」
そう言ってまずは村長と話をするべく歩き出したのである。
◇◆◇
「空の樽、ですか?あるにはありますが何かなさるので?」
空の樽を借りたいと言われた村長の返答である。
しかし別に貸すのが嫌、というわけではなく、純粋に何に使うのか気になっているだけである。
「そろそろ着替えが無くなりそうなので洗濯をしたいのでお借りしたいんですが」
「洗濯ですかな。それでしたらうちでいつも使っているタライがありますが?」
「あ、いえ。ちょっと変わった方法を試そうと思いまして。それで底の深い方がいいんですよ」
「変わった方法ですか。樽をお貸しするのは問題ありません。その代わり、と言ってはなんですが見学させてもらってもいいですかな?」
「構いませんよ」
予想外の見学者が増えたが何の問題もない。
別に非常識なことを行うわけではないのだ。シュウの中では、という言葉がつくが。
村長から樽を借りて庭へと出る。
「あ、水が必要ですかな?ちょっと取ってきます」
「水なら魔法で出せるのでお構い無く」
海辺で水が豊富にあると言っても衣服を海水では洗えない。
なのでアルスの村では飲料用とは別に生活用水として水を溜めておく習慣がある。
飲水としては使えなくても例えば今回のように洗濯に使ったりタオルを濡らして体を拭く用として使えるくらいには綺麗な水だ。
どうやら雨水などをろ過しているようだが無限にあるわけでもないのでシュウは自分で水を作り出すことにした。
「じゃあまずはお借りした樽の中に水を入れて、っと」
掌から水をジャバジャバと湧き出させ樽の半分くらいまで満たす。
その時点で村長の表情が魔法を間近で見れているという満足感と、せっかくの魔法を洗濯のために、というなんとも言えない表情が半々といった感じだ。
そんな村長を気にせずシュウは次のステップに進む。
「で、洗濯物を沈める」
まずはお試しで自分の分だけだ。
残りのパーティメンバーが全員女性といっても別にシュウの洗濯物と一緒に洗わられることを拒んではいない。
というか冒険者という職業上その程度のことを気にするような繊細な精神は持ち合わせていない。
せいぜい下着として使っている布くらいは自分でこっそり洗うくらいでシャツなどは一緒に洗ったほうが効率がいいとまで思っている。
しかし今回はお試しということもあり自分の服だけで試すのだ。
水だけで樽の半分を占めていたのだが、そこに洗濯物が加わることで7割位のところまで水面が上昇している。
ここまでは樽かタライかの違いだけで普通の洗濯と変わらない。
どこが変わった方法なのか、と村長たちが首を傾げていたのでシュウはこれから行うことを説明する。
「ここまでは普通に行う洗濯と同じですよね。でもここから違います」
そう言ってタライの上に右手をやる。
水面から離れたところに手を置いているだけに見えるのだが、変化はすぐに分かった。
「あれ?水面が揺れているような・・・?」
「あ、本当っすね」
水に触っていないにも関わらず、水面がゆらゆらと揺れ始める。
何が始まるのか、と全員が注目している中で水面が更に揺れる。
そして中心部分に徐々に渦ができはじめた。
渦が出来るということは周りの水が円運動を開始していることに他ならない。
そして水が動くということは一緒に放り込まれている洗濯物も一緒に動く、ということである。
「おお、服が回り始めましたな」
「でもこれが洗濯ですか?」
「そうっすね。これじゃああまり汚れが落ちそうにないっす」
「そうだね。このまま同じ方向に回しててもダメなんだ。だからこうして・・・」
そう言うと渦の回転が徐々に収まり、否、突然逆回転を始めた。
それにともなって洗濯物が渦の中で揉まれる。
これを数度繰り返すと水が目に見えて汚くなってきた。
「おお、汚れが出てきましたな」
「そうですね。後は水を入れ替えて、っと」
そう言いながら新しい水を注ぐ。
ちなみに汚れた水だが地面に垂れ流しているわけではない。
原理は不明だが魔法で生み出したものは綺麗サッパリ消すことが可能なようなのだ。
一緒に汚れまで消えるのは謎だが消えてしまうものはそういうものだと納得し使うしかない。
この魔法で作ったものが消せる、という現象だが意外と使いみちが少なかったりする。
例えば火の魔法を使った場合、最初の自分が出した分の火だけは消せるのだが、そこから延焼した部分については消すことが出来ない。
なので消化するためには普通に水魔法を使うなど別の手段に頼らざるをえないのだ。
さらには自分以外の作った魔法の炎も消せない。
なので魔法使いを相手取る場合、問答無用で相手の魔法を消すということも出来ないのだ。
とはいってもシュウ以外で実践レベルの魔法が使えるとなるとティアナぐらいしかいないのだが。
さて、そういった訳で『洗い』から『すすぎ』の状況へと移った洗濯だが村長たちはこれで終わりだと思っていた。
「さて、後は絞って干すだけですな」
「そうですね。じゃあ取り出しますね」
「あ、ちょっと待って。その前にもう一つやることがあるんだ」
「まだ洗うんすか?もう充分だと思うんすけど?」
「洗うのはもうお終い。次は『脱水』だよ」
「『脱水』・・・?」
「まあ見てて」
そう言って次の段階へ進む。
『脱水』の作業だが魔法で水を消すだけでは済まない。
水は消えても服が濡れている、という事実には変わりないのだ。
どうやら魔法で作った水は消せても衣服が吸収し『濡れた布』状態に変化した部分は変化させることが出来ないようだ。
もしこれが可能であれば何らかの要因で服が濡れた場合自分で作った水で濡らし、水を置き換えた状態で水を消去すればあっという間に乾かせることになる。
まぁ普通に火を生み出して乾かせば済む話なので問題ないが。
それはさておき『脱水』である。
樽の中に水が残っているといくらやっても無駄なためまずは樽の中の水を消す。
そして濡れた洗濯物しか残っていない状態で今度は風の魔法を使う。
樽の中に竜巻を発生させ、それに洗濯物を乗せる。
すると洗濯物が樽の中でグルグルと回り、遠心力によって水が樽の内側に弾き飛ばされる。
更にその風も火の魔法の応用である程度の温度を持っており、熱による乾燥も同時に行っている。
これでシュウがやろうとしたことは全てである。
発想は日本の全自動洗濯機から得ており、動きに関してはそれっぽく、という範囲で再現している。
洗剤などないがそこまで繊細な作りの服ではないので充分だろう。
どうしても取れない汚れがあればそこだけ手作業で洗えばいいのだ。
一連の流れを見ていた村長たちは感嘆の声を上げている。
「いやはや。なんとも早いものですな」
「そうですね。一度のこの量の洗濯が出来て、さらにここまで乾いていれば天日で干す時間も少なくて済むでしょうね」
「でも魔法が使えないと出来ないっすけどね」
「確かにそうですな。これがもっと簡単に行えれば毎日の作業ももっと楽になるのでしょうが」
「んー、色々な魔法が絡むのでちょっと難しいかもですね。まぁ水を入れれば自動で回転させる、位なら出来ると思いますが」
「出来るとは・・・。シュウ殿は魔道具も作れるのですか!?」
「まぁ簡単なものであれば。この収納袋も自作ですし」
「それは素晴らしい!大きなものが取り出せていたので魔道具であることは気づいていましたがまさかシュウ殿自作とは・・・」
詳しい性能までは話さない。
ちょっと収納容量が大きい、程度であれば普通に存在しているのでそれを装っている。
「ただ制御する方法が思い浮かばないのですぐには出来ませんが」
「制御、ですかな?」
「はい。水や洗濯物を入れた瞬間から回転が始まって止まらないと取り出せませんし」
「確かに・・・。ふむ、難しいものですな」
村長が納得してくれる。
言った通りただ回すだけではとても洗濯には使えない。
任意のタイミング、もしくは時間でスタート、ストップを切り替えられないといけないのだがどうやって実現すればいいのか検討もつかない。
そもそもシュウが作った魔道具はチート過ぎる性能を持っているとはいえ常時機能が発動しっぱなしでも問題ない収納袋であり、それもシュウが常に持ち歩いているため不測の事態でも対処が容易なのだ。
この世界の各家庭にあると言っていい調理に用いる火の魔道具(日本で言う電気コンロのようなもの)のように操作が容易な物を創りだすような知識も技術もないため簡単に請け負うことが出来ない。
それを説明すると村長は納得しつつも少しガッカリしたような表情になってしまった。
それを見ながらシュウは今まで魔法を攻撃手段か自分の趣味のためにしか使ってこなかったが何か人の役に立てるような転用方法がないか考え始めていた。
魔法があれば生活を便利にすることも出来ます。
日本で育ったシュウだからこその発想もあるのでしょうが。




