第12話_取っておきます
伝説上の生き物にクラーケンというものがいる。
物語によってその形がイカだったりタコだったりするのだが、この世界ではタコのようだ。
シュウの知っているそれは主に自身の縄張りに侵入してきた船に絡みつき沈めてしまう巨大な化物である。
船に乗っていないのに遭遇したのはシュウの放った衝撃波が沖にあるクラーケンの縄張りにまで到達してしまい、自らの住処を荒らされたと勘違いしたクラーケンが怒ってやって来たのである。
これだけ巨大な生物を怒らせてしまったのであれば通常は陸地に甚大な被害をもたらすはずである。
通常であれば、であるが。
「大きいっすねぇ」
「そうですねぇ。これ食べれるんでしょうかぁ?」
クラーケン、既に真っ二つである。
その巨体が海から出た瞬間、シュウが特訓していた魔力による衝撃波で攻撃をしてあっという間に倒してしまっていたのだ。
本来、海上で出会ってしまえば逃げ場がなく、絶体絶命のピンチに陥ること間違いなしのモンスターなのだがシュウにかかればこの程度の相手である。
ちなみにアルスの住人は航海術が発達していないこともあり、クラーケンの縄張りまでは漁をしに行けないので今まで被害に会ったものはいない。
幸いこの付近は陸地の近くでも食べ物が豊富にあるので何の問題もない。
さて、そのクラーケンを倒した後であるが、通常のモンスターとは違う点がある。
「・・・というか何で消えないんでしょうか?」
「ふむ、モンスターなのに倒しても消えないとはのう。・・・上位種なのか?」
そう、本来倒してしまえば魔力に還って消えてしまうモンスターの体が消える気配がないのだ。
もしやまだ倒しきれていないのでは?と考えもしたが一向に動き出す気配がないのでその線はないだろう。
それでは何故?と思いよく観察してみる。すると。
「・・・微妙に小さくなってる?」
微妙に小さくなっていることに気づいた。
しかし一回り程度小さくなっただけで完全に消失することはない。
訳がわからないので余計混乱しているとカエデが近づいてきた。
「主殿、主殿」
「どうした?」
「恐らくあれは我の時と同じじゃ」
「カエデの時?」
「ほれ、忘れてしまったのか?我が倒された時主殿に言ったことがあるじゃろう」
「あの時・・・?あぁ、魔石がどうとか言ってたっけ」
「そうじゃ。我のような上位のモンスターが倒されると完全には消滅せずに一部残るものがあるのじゃ」
「カエデの場合は魔石なんだ。それでこのクラーケンが・・・」
「そう、恐らくこの体じゃろう」
カエデの推測が正しければクラーケンの体から魔力が消失した結果一回り程小さくなったが、体の大部分が残った、ということだろう。
ちなみにカエデが残すと言っていた魔石はせいぜい直径20センチ程の大きさのはずなので純粋な質量ではクラーケンのほうが多い。
しかし貴重さからいけばカエデの、いやドラゴンの魔石のほうが遥かに勝る。
そもそもの強さがドラゴンとクラーケンでは全く次元が違う。
強さが違えばより強いほうが貴重な物を残すのが当たり前?なのだ。
「しっかしこれほど大きい物が残ってもなぁ」
「食べないんですかぁ?」
「そもそも食べれるのか、これ?」
「多分食べれると思いますよ?でもこの大きさとなると・・・」
「いっぱい食べれますねぇ」
「いくらリエルさんがいっぱい食べれるって言ってもこの量は無理があると思うっす」
「んー、とりあえずバラして収納袋に入れておこうか」
恐らく食べれる、というか見た目大きいだけのタコなので食べることに否はないのだが確実に食べ切るより先に腐ってしまう。
その点シュウの収納袋であれば入れてしまえば中の物が腐る心配がない。
だが収納袋に入れるにしても大きさが問題である。
いくら縮んだとは言っても元が巨大な生き物だったので現段階の大きさは10メートルを優に超えるだろう。
シュウの攻撃により半分の大きさになってはいるが収納袋の口から入れるにしては少々大きすぎる。
なので入れやすい、そして調理しやすい大きさにカットしてから入れることになった。
◇◆◇
「やっと終わったぁ・・・」
「お疲れ様です」
「やっぱり大きかったっすねぇ」
「しかし改めて見ると主殿の収納袋は凄いのう。いくら手頃な大きさに切ったとは言ってもあれほどの大きさのものが全て入ってしまうとは」
「そうですねぇ。でもこれでいざという時食べ物がないなんてことにはなりませんねぇ」
リエルの言うとおり今回のクラーケンだけでもかなりの量になる上に、元々王都周辺で狩った獣が大量に入っているのだ。
小さな村程度の人口であればしばらく食いつなぐことは難しくない。
しかし今回の件も王都での獣もシュウが望んで集めたというより、結果的に集まっただけなので特にどうということもない。
まぁいざという時に困る要因が減ったので結果オーライだろう。
「さて、主殿。一仕事終わったしまた特訓の続きをするのかの?」
「いや、そろそろ日が暮れるし今日はこれで終わりにしよう」
「じゃあ早く帰ってご飯を食べましょお!」
「いや、リエルさんほとんど寝てたような気がするんすけど・・・」
「むぅ、寝ててもお腹は減るんですよぉ!」
「リエル、開き直らないように」
「・・・えへへぇ」
笑ってごまかそうとするリエルだがその前の発言があまりにあれすぎるので全くごまかせていない。
本来あり得ないレベルの訓練をしたかと思えば船をも簡単に沈めてしまうようなモンスターと遭遇し、結果一撃で葬りさったとは思えないほどいつも通りのシュウたちである。
◇◆◇
「へぇ、何か美味しそうなもの取ってきたじゃないか」
「ふむ、しかしこれは一体何なのですかな?見たところ何かの一部のように見えますが?」
いつものように村長宅に帰ってきたシュウたちであるが、せっかくなのでクラーケンを料理してもらおうと切り分けて収納袋に入れたうちから一欠片取り出した。
それを見た村長とニアが感想を言った。
2人に共通するのはそれが何なのか分からない、ということだろう。
「あー、これはクラーケンを仕留めたのでその一部だよ」
「・・・今何と?」
「クラーケンを仕留めた、と」
「・・・シュウ、その冗談はちょっと大げさじゃないかい?クラーケンって言ったらあの馬鹿でかい化物のことだろ?それを倒したって、いくらあんたらでも無理でしょ」
「ニアさん、シュウさんはこんな嘘はつかないっすよ?」
「それにこれはほんの一部です。ご要望とあらば全て出せますが?」
フィアとティアナに言われるとさすがに上段で片付けるのは難しい、と思うニアだったがそれでもまだ信じられずにいる。
「まぁ、何でもいいではないか。それよりも腹をすかせた奴がおるので早いところご飯にしようではないか」
「お腹がすきましたぁ」
「・・・そうだね。早いところご飯の支度をしようか」
カエデに促されニアはご飯の支度に取り掛かった。
「ところでシュウ殿。クラーケンを仕留めたとしたのであればまた魔法を使われたので?」
「いいえ。今回はこの刀でスパっと一撃で」
「その剣で、ですか・・・。しかも一撃・・・」
「はい。いやぁ、意外と弱かったので簡単でした」
「・・・一応海であれに出会ったらお終い、とまで言われているのですがな」
仮に倒したのだとしたら大魔法を使ったのだろうと思っていた村長だがまさか刀で、しかも一撃で倒したのだと知って村長はから笑いしか出てこない。
とはいえ事実は事実なのでこれ以外の説明が出来ない。
そういうものとして納得してもらうこと以外方法がない。
そうこうしているうちに夕食の準備が出来たようだ。
「お待たせー。とりあえず焼いてみたよー」
「「「おぉー」」」
ニアができたての料理を持ってやって来た。
クラーケンの肉は更に薄切りにされ、軽く火が通されている。
味付けについては醤油をまだ見つけていないので塩だけだろうが素材が新鮮なので充分に美味いだろう。
それをおかずにもちろん今日もラースと味噌汁である。
アルスに来てからというもの海産物しか口にしていない気がするが美味しいので問題無いだろう。
だが、たまには肉が食べたいので明日辺り収納袋に入っている獣の肉を出してみようかな、と思うシュウであった。
ただ大きいだけでは最早相手になりませんでしたね。
タコが手に入ったのでたこ焼きをしたかったのですがソースがありませんでした。




