第09話_新たな発見です
今日も今日とてエルフの村で朝食である。
ハイエルの王都でラースに出会ってからというものシュウは毎食ラースを食べ続けている。
しかし今日は様子が違うようだ。
「・・・」
「シュウどうかしましたか?」
「・・・うん」
「どうかされましたかな?・・・ラースが何か?」
いつもと違う様子にティアナや村長が不思議そうな顔をしている。
あれだけ毎回美味しそうにラースを食べていたシュウなのに今回は何か物足りなさそうな顔をしているのだ。
「ホントにどうかしたんすか?」
「いやぁ、足りないなぁ、と思って」
「足りない、ですか?もっと炊いてもらいますか?」
「いや、そうじゃなくてさ。・・・やっぱり米は味噌汁とセットじゃないとな、って」
「みそ・・・?みそとは何でしょうか」
「えーっと・・・説明が難しいんだけど、調味料の一種、かな」
「ふむ、ワシも長いこと生きてますがそのような調味料は知りませんな」
「俺の故郷の物なので知らなくてもしょうがないです」
「うーむ。お力になれず申し訳ない」
「あ、いいんです、いいんです。俺が勝手に言ってるだけなので気にしないでください」
最早食べられないと思っていた米を思わぬ形で手に入れることができたのでシュウには更なる願望が芽吹いてしまっている。
しかし素材そのものと言ってもいい米より明らかに人の手が必要な味噌は手に入る可能性は低いだろう。
それはシュウにも分かっているのだがラースの味がその思いを強めていくのだ。
「手に入らないのなら一端忘れて今日はアタイと漁に出ようよ。この間見学させてあげられなかったしさ」
「それはいいですね。ほら、シュウ。いつまでも落ち込んでないでさっさと食べてくださいな」
「そういえばニアさんも船持ってたんすね?」
「ん?あぁ、ちょっと壊れてたんで修理してもらってたんだ。で、昨日直ったって連絡が来たから今日から漁を再開さ」
「ニアさんのお船どんなのか気になりますねぇ」
「別に普通の船さ。ま、ここにいる全員くらいなら難なく乗せられるけどね」
こうしてほぼ会話の勢いで本日の予定はニアの船で漁の見学に決まったのであった。
◇◆◇
「大きいですねぇ」
「ま、このくらいの大きさならこの村じゃ普通さ」
朝食を終え、ニアの後についていくと港についた。
港は船で漁に出る漁師のために船の着岸がしやすいように整備されている。
そして停泊している船の中にニアの船も含まれている。
日本にいた頃にテレビで見た漁船と違い、もちろんエンジンなど付いておらず、帆がついた木製の帆船である。
大きさは巨大なわけではないがシュウたち一行が乗る分には申し分ない程度である。
「ところでニアはどんな漁をするの?」
「ん?アタイは釣りもするけど主に素潜りだね」
「素潜りかぁ・・・。俺達もやっていい?」
「そりゃあ構わないけど。でもラースのところと違って足がつかないけど大丈夫かい?」
「大丈夫、大丈夫。俺泳げるし」
「へぇ、珍しいね」
「シュウさん凄いっすねぇ。うちなんかラースの収穫だって一杯一杯だったのに」
「んー、たまたま泳ぎの練習が出来てね」
もちろん日本時代に練習した結果である。
この世界ではプールはもちろん川や海で遊ぶ機会も少ないため泳いだことのない人が多いのだ。
ちなみにこの数日で同じラース好きとしてすっかり意気投合したのかシュウはニアに対して敬語を使わなくなっていた。
「さ、さっさと出航しようじゃないか」
「「「「「はーい」」」」」
ニアの号令で船に乗り込む一行。
(ん?何か忘れているような・・・?)
そんな中シュウは何か頭のなかに引っ掛かりを覚えた。
しかしそれが何か理解する前に急かされて船に乗り込むのであった。
◇◆◇
「うえぇぇ、気持ち悪いっすぅ・・・」
「フィア、大丈夫?」
「大丈夫・・・じゃないっす・・・」
フィアがダウンした。
「シュウ、これは一体・・・?」
「あぁ、船酔いだね」
「船酔い?」
「波に揺られて酔っちゃうんだよ。それで今のフィアみたいになる」
「あららぁ。大丈夫ですかぁ?」
シュウが先程覚えた引っ掛かりの正体が船酔いであることを理解し、注意を促そうとしたのだが時既に遅し、フィアが見事に船酔していた。
それでもフィア以外のメンバーがまるで平気そうなのが意外であったが。
リエルがフィアに駆け寄り背中をさすっている。
そして同時にニアにバレないように回復魔法を掛けているようなのでこれ以上悪化はしないだろうと思われる。
「さて、そろそろ漁場だよ!」
「意外と近いんですね」
「まぁ、遠くまで行っちまうと陸が見えなくなるからね」
「あ、そうか」
シュウが小さく納得する。
恐らく羅針盤のようなものがないのだろう。
そのため陸が目に見える範囲でしか活動できないのだろうと思われる。
それでも自力で泳いでくるよりは活動範囲が広いのだが。
「よし、ここだ。じゃあ皆準備してね。あ、船から離れすぎないように!」
「行っくぞお!」バシャーン
船が停止したところでシュウが勢い良く飛び込む。
朝の元気の無さが嘘のようだ。
着水するとそのまま潜って獲物を探しだした。
「あ、ちょっと、シュウ!銛!銛を忘れてどうするんだい!」
「・・・潜っちゃいましたね」
「まったく・・・」
元気が良すぎて銛を忘れていったシュウである。
全員で苦笑しつつシュウの後を追う。
ちなみにフィアと付き添いのリエルはお休みだ。
さすがに今の状態で海に入るには危険過ぎる。
さて、銛を忘れたシュウである。
(あ、銛忘れた・・・)ゴボゴボ
潜水しながらも冷静に忘れ物に気づいた。
海で遊んでいる時に気づいたのだが、どうやら強化された身体能力は心肺能力も強化されているらしく、潜水時間は軽く5分を超えるためこのまま戻るのもアレなので獲物の目星をつけてから戻ることにした。
(おー、いろんな魚がいるなぁ。それに貝っぽいのも沢山・・・。あ!アレはタコか!)
透明度の高い海を泳ぎながらシュウは周囲を観察している。
名前は違うのだろうが日本近海でも取れるような魚介類が沢山なのだ。
それらを見ながら更に獲物を探していく。
すると深さ5メートルほどの海底にそれが見えた。
(ん?あれは・・・)
取るのに銛など必要無さそうなそれを一気に潜水して手にした。
そしてそのまま浮上する。
「プハァ」
「あ、シュウ。銛を忘れていましたよ」
「ティアナか。気づいてたけどそのまま戻るのもアレだから海の中を観察してたんだ」
「それで何か見つけましたか?」
「これを見つけたんだ。多分食べれるやつだと思うけど」
「・・・とても食用には見えませんね」
「まぁニアに見てもらおう」
そう言って船から降ろされた縄梯子を登り船へ戻っていった。
「お、一番乗りだね。何を取ってきたんだい?」
「これなんだけど。一応似たようなやつは故郷にもいたから食べれるかと思って」
「あー、これは・・・。残念だけど食べられないね」
「そうなんだ。残念」
シュウが持ってきたのはウニのような生物であった。
回転寿司などに行くと必ず食べていた物なので取ってきたがどうやら無駄であったらしい。
「そいつは殻を開くと中に茶色い物が入ってるんだ。別に毒とかはないんだけど、とにかくしょっぱくて食べられたものじゃないんだよ」
「茶色?」
シュウが気にしているようなのでニアはシュウからウニのような物を受け取り持ってきていたナイフで器用に殻を開いた。
「ほら、こいつがそうさ」
「ふーん。見た目は俺の知ってるのと同じっぽいけど・・・ちょっと舐めてみていい?」
「いいけど、しょっぱいよ?」
「ものは試しってことで。じゃ、いただきまーす」
そう言ってシュウはそれを口に運んだ。
そして固まる。
「ははは。どうだい?しょっぱいだろ?」
「・・・」
「・・・どうしたのさ?」
「・・・」
「しょっぱすぎて気絶してる?」
「・・・いや」
「大丈夫そうだね。一体どうしたんだい?」
「・・・これ、味噌だ」
◇◆◇
味噌という調味料は通常大豆を発酵させて作る日本の調味料である。
それ単体のみを食することはほぼないが、野菜につけて食べたり、出汁に溶かして味噌汁にしたりと幅広い活用法がある。
しかしその作成方法は人が丹精込めて世話をしながら最低でも数ヶ月はかかる。
決してそのままの形で自然から取れたりはしないのだ。
・・・そう思っていた。
「これが『みそ』ですか」
「そう、味噌。自然から取れるものじゃないんだけど・・・」
「でも普通にそのイガイガのやつから取れたっすよね?」
「・・・そうなんだよね」
「そいつは触ると棘が痛いし、割って中身を取り出してもしょっぱすぎて食べるのには向かないんで誰も取らないんだよね」
ニアがその食材について説明をしてくれる。
そして言っていることは正しいだろう。
取るのも大変、苦労してもそれほど美味しくないとなれば好き好んで取るような者は皆無だろう。・・・シュウを除いて
「よし、今日の夕食にはこいつを食べよう」
「ホントに食べる気かい?」
「美味しいのなら試食しますぅ。・・・うえぇぇ、しょっぱいですぅ」
「・・・むぅ、確かに美味しいとは言えんのう」
「ほら見なよ。これだけしょっぱいものが美味しい訳ないんだよ」
「まぁ、それは調理法によるんだよね。ニア、このくらいの大きさの貝を取っている漁師さんはいないか?」
「そりゃあいるけど・・・。まさか貝を味噌につけて食べるってのかい?やめときなよ」
「一緒に食べる、っていうのはあってるけど付けるわけじゃないよ。ま、結果は食べてのお楽しみさ」
シュウはそう言って不敵な笑いを浮かべる。
細かいことは置いておくとして、食べたかった日本の味が手に入ったのでシュウはとても満足そうであった。
昔味噌の塊を口に入れたことがあり、びっくりするくらいしょっぱかった、という経験が今回のお話に繋がりました。
今のだし入り味噌は扱いやすくて手間もかかりませんが、昔ながらの味噌もたまにはいいものです。




