第05話_エルフの村です
「ようこそおいでなすった。冒険者殿」
「どうも、突然押しかけまして」
「いやいや、構いませんよ。それよりラースを所望だとか」
「ええ。自分の故郷で似たような物を食べていまして。懐かしい味にすっかり魅了されてしまったのですよ」
「ほっほっほ。それはそれは。ここにはラース以外にも美味しいものが沢山ありますのでゆっくりしていってくださいな」
「お言葉に甘えさせていただきます。ところでこの村には宿屋などあるのでしょうか?」
「申し訳ありませんがこのような小さな村にはお客様が来ることなどほぼありませんでな。たまに来る方には我が家にお泊まりいただいておるのですよ」
「あ、そうなのですか・・・。しかし我々は人数も多いのでさすがに泊まるのは悪いかと。どこかスペースを貸していただければテントを張れるのですが」
「せっかく来ていただいたお客様に野宿のようなことをさせるわけにはいきません!しかし我が家だけでは狭いのは事実・・・ニア、お前の家に空きはあるか?」
「うちはアタイ1人だから2人くらいなら大丈夫だよ」
「それでは冒険者殿、我が家には3人、ニアのうちに2人と分かれてしまいますがどうでしょうか?」
「・・・ではそれでお願いします。その代わり、と言ってはなんですが何かお手伝いできることがあれば言っていただければ可能な限りお手伝いいたしますので」
「お客人にそこまでしてもらうには・・・。いや、せっかくの申し出を無下にするわけにも行きますまい。その時はお願いしたします」
エルフの村 -アルス- に入る許可をもらったシュウたちが村長宅で話をしている。
内容としては訪ねてきた目的と滞在先の話だが、どうにもこの村の住人は警戒心というものが少ないらしい。
いきなり訪ねてきた人物を自分の家に泊めるなど普通はしないだろう。
まぁ、その信頼を裏切るつもりは毛頭ないのだが。
ちなみにこの村長であるが、老人のような言葉使いをしているが見た目はニアより少し上に見える程度だ。
それでも実年齢は500歳近いらしい。
実はカエデと年が近いのだがこっちはこっちで見た目が少女なので年齢という面において相応ということはない。
そんなことを考えていると村長が再び口を開いた。
「ところで、冒険者殿」
「はい?あ、俺のことはシュウでいいですよ」
「では、シュウ殿。冒険者として活動されているということは何か様々な体験をされているのでは?」
「体験、ですか。そりゃあ色々とやってますけど」
「ほほう。いや、村で暮らしていると平和なのはいいのですが刺激が少なくてですね。なにかおもしろい話を聞かせてもらえれば、と」
「なるほど。しかしそれほど面白い話となると・・・」
「何でも構いません。例えば先日王都の方で魔獣の侵攻があったと聞いております。
それを冒険者の方々の力で討伐したとか。
しかも1人の冒険者がその大半を強大な魔法で殲滅したと聞いております。シュウ殿も王都で活動されているということはその討伐にも参加されたのでしょう?
その時見た魔法について聞かせてもらえませんかの」
「あー、その時ですか・・・」
「もしやその討伐戦には参加されていないので?」
「いや、参加はしてましたよ。してましたけど、魔法を見たというのはちょっと違うというか」
「はて?参加したのに見ておられないので?」
「えっと、それやったの俺なんですよ」
「・・・はい?」
「だから俺がその魔法を使ったんです」
それを聞いた村長はシュウの横に並んでいる女性陣にギギギと効果音が付きそうな首の動きで視線を向けた。
その意味を理解したティアナが代表して答える。
「シュウの言っていることは本当ですよ」
「いや、しかし、シュウ殿はどう見ても剣士の格好ではないですか。・・・よく見ればお嬢さんのほうが魔法使いのようですな」
「彼いわくただの剣士ではなく魔法剣士だそうですよ?それと私は確かに魔法使いですが彼より弱い魔法しか使えません」
「魔法が使える時点で凄いと思うのですが・・・。しかしそうですか。彼がそんな大魔法を」
「村長さん、たしかに強力な魔法を使いますがシュウさんは怖い人じゃないっすよ?」
ティアナの答えを聞いた村長がどうにも震えているようなので見かねたフィアが続ける。
「別に怖がっているのではありません。というか喜びのほうが大きい」
「はい?」
「そもそも魔法というのは昔、我々エルフ族がどの種族よりも優れた使い手でありました。
しかし皆さん知っての通り今は魔法が廃れてしまっている。
それは我々エルフ族も例外ではありません」
村長が語ってくれた内容はつまりこういうことだった。
エルフ族は元々どの種族よりも魔法を上手く使うことができ、その力で大森林の奥地で多種族に影響されないように暮らすことができていた。
しかしそれは過去の大魔法使いの引き起こした戦争が原因で一変した。
エルフ族の若者たちは魔法使いこそ優れたものであり、それをどの種族より扱える自分たちが優れた種族であることを疑っておらず、魔法使いの集まる魔法国家の思想に共感してしまったそうだ。
そしてその多くが魔法国家側として戦争に参加した。
だが結果は魔法国家の敗北という形で決着となる。
参加したエルフたち、というか魔法使いたちはほぼ全滅状態であり世界的に魔法が忌諱される時代が訪れた。
そんな時代にあってその種族の半数ほどが戦争に参加してしまったエルフ族は自主的に魔法を封印。
そして魔法が使えたからこそ成り立っていた大森林での生活ができなくなり人里に出てきたそうだ。
だからといってすぐに他の種族に馴染めるわけでもなく人々の暮らす街から遠すぎない場所に自分たちの村を作った。
その時の全員が同じ村に住むのではなく、幾つかに分かれて住むことにした。
そしてその土地に最も適した仕事をしながら生活するようになったそうだ。
つまり、この場所に来たエルフたちは海の近くだからということで漁師という職業を選択したことになる。
ついでに聞いた話によると他の場所に住み着いたエルフは農業をしたり、ドワーフと共に鍛冶仕事をしたりしているらしい。
しかし時代が変わったのも事実であり、いつまでも同じ生活をしている理由はないのでは?と聞いてみると。
「別に今となっては魔法を使わない理由もないのですが、封印されて久しく、魔法を使えたエルフも既に他界しておりましての」
ということだ。
戦争が起こったのは大体500年ほど前。
その時参加しなかったのはエルフの中でも老人や子供のみ。
1000年以上生きるエルフといえど当時で800歳を超えた老人たちしか魔法の知識がない状態で子供にその継承を行わなず他界してしまったため、当時子供だった村長さんたち今の大人は魔法がほぼ使えないそうだ。
使える人もいるがせいぜい初期のティアナと同じで指先に火を灯す程度なのでとても戦闘には使えない。
そこに大魔法を使えるシュウの登場だ。
別に魔法を使って悪いことをしようとかではなく、単純に過去自分たちの種族が出来た事を知りたいのだ。
「そういうことならお話しましょう」
「ありがたい!あと、魔法以外の出来事も教えてくだされ」
どうやらそれだけではなく単純にこの村長さんの好奇心が強いのもあるようだ。
◇◆◇
村に着いたのが昼過ぎ位の時間で村長との話を終えたのがすっかり日暮れの時間となった今である。
以前ハイエルの国王と話していた時も同じくらいかかったな、と思いつつシュウたちはそれぞれ泊まる家へと案内された。
といってもシュウ、ティアナ、フィアの3人は引き続き村長の家に泊まるのだが。
それ以外のリエル、カエデは一度荷物を置くべくニアの家に向かっている。
ニアも自分の荷物を持ったままだったので一度解散した後再び村長宅で夕食を取ることになった。
村長はニアと違い一人暮らしということはなく、奥さんと二人暮らしだった。
その奥さんも村長さんと実年齢は変わらないはずだがニアより少し上に見える程度で普通に人族には20台前半で通じる容姿だ。
子供もいるらしいのだが、今は外へ出稼ぎに行っているらしい。
別にお金に困っている、というわけではなく外の世界の経験をして次の村長になった時に困らないように、ということらしい。
しかしエルフの寿命を考えると今の村長さんもあと数百年は現役だろうし、その時のために、とは随分気の長い話である。
リエル達が戻ってくると夕飯である。
メニューは漁村らしく海のものが多く、シュウたちは今までとまるで違う食事に興奮気味だ。
更にはシュウの目の前には炊いたラースが山盛りとなっており、おかずと一緒に口に頬張り美味しそうに食べている。
しかし残念ながら漁村でも魚を生で食べる習慣はなく、焼いたものか煮たものだけだった。
そして醤油も味噌もないためすこし物足りない味付けではあるが久々の魚だったシュウは気にした様子もない。
王都でニアとあった時はラースしか購入していなかったが、村への滞在中魚の干物なども買いだめすることを決めたシュウであった。
◇◆◇
夕飯も終わると後は軽く体を洗って寝るだけである。
ラグスの街や王都にいた頃からそうなのだが、この世界には風呂にはいるという習慣がないらしい。
なのでタライに水をくみ、タオルを濡らして体を拭くだけで済ますのが普通だ。
日本にいた頃からシャワーだけで済ますことの多かったシュウだが、いずれ何らかの形で風呂を再現することを脳内のメモに追加してる。
さて、それも終わると本当に寝るだけになるのだが、客人を迎えることを想定していないだけあってあてがわれた部屋は一つだけだ。
対してこちらはシュウもいるため男女が同じ部屋、ということになる。
しかしティアナやフィアは別に気にした様子がない。
そもそも宿屋では部屋を別にしているが何らかの依頼などで野宿する時は同じテントなのだ。
それにシュウも手を出すつもりがないため特に問題はない。
問題はないのだがシュウとしてはすこし居心地が悪いのも事実である。
信頼してもらっている、といえばいいのだが。
その点について聞いた所、明確な返事が帰ってきた。
「何を今更、ですね」
「そうっすねぇ。シュウさんなら別に同じ部屋でも問題無いっすよねぇ」
「でも気になることは気になるんだよ・・・」
「別に私は同じ部屋どころか同じ布団でもいいのですが?」
「ブッ!?」
「ティアナさん大胆っすねぇ」
「ふふふ、冗談ですよ」
「心臓に悪い冗談は勘弁してくれ・・・」
見事にティアナの手のひらの上で遊ばれたシュウである。
フィアも最初からわかっていたのか本気にしている様子はない。
だがティアナの言っていることもまるっきり嘘というわけではない。
しかしそれを知るものはまだ誰もおらず、内心を隠したままティアナは心底驚いた様子のシュウを見ているのであった。
エルフの村に到着しました。
しばらくはここで活動します。
・・・どうしてティアナはラブコメの波動を放ち続けるのか。




