第05話_街についたようです
馬車に揺られること二日、遠くに壁のようなものが見えてきた。
あれがラグスの街らしい。
ちなみに、この二日間ずっと進み続けたわけでなく途中止まって野宿もしたのだが、外で寝るなど小学校の頃に学校行事でキャンプでテントに宿泊したことがあるくらいなのでどうしても疲れを取ることが出来なかった。
いくら食事が美味くてもちゃんと睡眠が取れないと疲れが残ったままになり更に風呂に入れないことも疲れを加速させていた。
また、異世界の定番と言っていいモンスターの襲撃だが、モンスターというのは通常森の奥や山岳地帯といった通常人間が好んで足を踏み入れないような場所に生息しており、今シュウたちがいるような平原で遭遇するのは滅多にないことらしい。
それでも一度だけイノシシのような動物の襲撃があったのだが、アラン達3人があっという間に倒してしまった。
その肉は食事として野宿の際に振る舞われたのだが、ただ切り分けて焼いただけなのに脂が滴り落ちてものすごく美味しい上にわりと流通している食材であることを聞いてシュウは今後の食事が楽しみになる。
ちなみにイノシシ肉が目の前に出された時に胃腸が強くなる加護というなんとも微妙すぎるスキルの事を思い出し、いくら見た目が美味しそうでもどんな環境で育ったかわからない野生動物を食べることへの不安感が軽減されたのでほんの少しリエルに感謝したのだ。
さて、道中でも充分異世界感は感じていたのだが、いざ街を見るとより現実感がある。
それもそのはずで見えてきたラグスの街にかぎらずこの世界である程度の大きさを持つ街はモンスターの侵入を防ぐため防壁に囲まれている。
さらにその防壁には見張り台や弓を射るためであろう穴が空いているし修理跡のようなものも見える。
それがよりこの世界が異世界でありそこで生活する人がいることを物語っている。
自分もこの世界で生きることになるという実感が出てきて楽しみにしている自分も不安になる自分もいる。
ここはゲームでしか知らなかった剣と魔法の世界であり、ステータス的にはチートを持っているはずなので期待感のほうが大きいのだが。
さらに進むと門のようなものと門番らしき人影が見えてきた。
(なるほど、やっぱり門番は定番だなぁ)
などと考えていると馬車が門の前で止まる。
シュウはなんとなくこの後の展開が分かってしまう。
良い展開であるなら良いが、どう考えてもこれは悪い展開しか考えられないだろう。
その予感は当然のごとく的中し、
「街に入るなら身分証明書を見せてもらおう。ないなら保証金を払うように」
(やっぱり・・・)
悪い予感が的中し若干であるが焦るシュウ。
若干焦りつつもアランの方を見ると頷いて、
「分かってるよ。俺たち三人は冒険者カードを持っているけど彼は途中で保護したんだ。保証金を払うから街に入れて欲しい」
と言いながら銅貨3枚を門番に渡す。
この世界の通貨は下から石貨、銅貨、銀貨、金貨、大金貨、白金貨という種類がありそれぞれ10枚ごとに上位通貨1枚分の価値になる。
ちなみに日本円換算だと石貨1枚=100円くらいの価値になるようだ。
その計算だと約3000円を支払ってもらったことになる。
「アラン、ありがとう」
「気にしないでいいよ。君を助けると決めたんだからこの程度なんてこと無いさ」
アランは顔もさることながら性格もイケメンである。
ゴルド、イリーネも特に表情を変えていないのでこの展開は予想済みのようだ。
いい人達に助けてもらったと感謝が尽きない。
無事門を通過できるとゴルドとイリーネが
「よっし、無事到着っと。さっさと飲みに行きたいぜ」
「まだダメよ。ギルドに顔を出して今回の報酬を貰わないと」
「わーってるよ。その後はたらふく飲むぜ」
「はいはい。ただあまり飲み過ぎないでよ?」
「りょーかい、りょーかい。さっさとギルドに行こうぜ」
と話しているのが聞こえてきた。
その会話を聞きつつアランが
「シュウ、君も一緒に冒険者ギルドに行かないかい?今後のことを考えると身分証明証が必要だし、住民カードは手続きが大変だから冒険者カードを作っておいたほうがいいだろう」
とアドバイスをくれたので一緒についていくことにしたシュウである。
登録料で銅貨5枚必要との事だったがこれもアランが渡してくれる。
やはり感謝してもしたりない。
大きめな通りを馬車で進んでいくと周りに冒険者らしき人々の姿がある。
彼らは剣や槍、斧や弓といった武器と各々の戦闘スタイルに合っているであろう鎧を装備しておりこれもまた自分が異世界に来たという実感を持たせてくれる。
だた、気になるのは魔法使いの格好をした人を見かけないことだ。
ゲームで得た知識だと魔法使いは数が少ないが全く見かけないわけではなく、その格好もいかにも魔法使いですと言っているようなものであった。
それでもここはゲームの世界ではなく異世界であり自分の知っているゲームの知識そのままということも無いだろうと考えていると目の前に他の建物に比べて大きい建物が見えてきた。
あれが冒険者ギルドらしい。
馬車をギルドの表に停めて中に入ると受付カウンターらしきものと酒場見える。
アランに案内されたのは受付カウンターの方で、その中でもここは冒険者として新規登録を行う窓口らしい。
近づくと受付嬢がアランに話しかけてきた。
「あら、アランさんおかえりなさい。無事依頼達成できたようね。でも達成報告ならここじゃなくてあっちの受け付けよ?」
「いや達成報告じゃなくて彼の冒険者登録をして欲しくてね。頼めるかい?」
「もちろん良いけど・・・どうしたの?」
アランはシュウと出会った経緯を説明した。
すると受付嬢は苦笑しながらも登録受付を行ってくれるようだ。
「じゃあシュウ、僕たちは達成報告をしてくるから登録を進めてくれ。大丈夫、受付の彼女がキチンとやってくれるからさ!」
「わかった。終わったらどうすればいい?」
「うーん、この辺で待っててくれ。後で迎えに来るよ」
「了解。じゃあまた後で」
アランたちと別れるとシュウは受付嬢と向き合う。
「それでは登録をさせていただきます。」
「よろしくお願いします。」
「まずは最初に冒険者について説明させていただきます。先に説明する理由は登録後に自分の思っていたものと違うと苦情を言われる方がいらっしゃるためで説明完了後に再度登録の意思を確認させていただきます」
ゲームだと登録後に説明が多いなぁ、などと考えていると受付嬢が説明を始める。
聞き逃して後で苦労するのは嫌なので意識を聞くことに集中する。
「まず、冒険者とは依頼を受けて達成し、依頼内容に応じて報酬を受け取ります。
冒険者にはG~A、その上にSランクが存在し、依頼難度及び報酬は上のランクになるほど上がります。
最初は冒険者見習いとしてGランクからスタートすることになります。
Gランクの依頼を10件クリア後試験を受けていただき合格すれば晴れて冒険者となることが出来ます。
以降は依頼の達成数やその難易度に応じてランクが上がります。
ちなみに報酬ですが、Gランクですと一日あたり銅貨5枚程度の収入になることが多いですね」
「5枚ですか?確か登録にも5枚必要だったの思うのですが?」
「そうです。カード不正取得防止の為この金額となっています。一応ギルドの方で建て替えて分割返済する形にも出来るのですが、今回はアランさんが用意しているということなので一括となります」
つまりアランは見習い一日分の報酬を渡してくれた上町に入る保証金まで払ってくれていたのだ。
説明を聞くにDランクのアランたちはそれ以上の報酬を得ているだろうがそれでも安い金額では無いはずだ。
これは頑張って利子を付けて返さねば、と気合を入れるシュウであった。
異世界転生と言ったら冒険者ギルドですね。