第04話_食欲に忠実でした
「おや、お仲間を連れてまた来たね。ラースはどうだったい?」
「まさしく欲しかったものでしたよ。今日は追加で買いに来たのですが」
「気に入ってもらえるとは嬉しいねぇ。・・・だけど生憎そんなに量は持ってきてないんだ。まさか気に入ってくれる人がいるとは思わなくてさ」
「あぁ、そうなんですか・・・」
シュウがラースと呼ばれるこの世界の米に感動した翌日、一行は再び昨日の店を訪ねていた。
今日はパーティメンバー勢揃いである。
というのも昨日、残しておいたラースを帰ってきたメンバーにも振る舞ったのだが、その時はそれほどの感想を持つものはいなかった。
どちらかといえば美味しい、程度だったのだが、ラースを食べる仲間たちを見ているシュウがソワソワとしていたのだ。
不思議に思ったフィアが何気なく自分の食べていたラースを差し出すとシュウは嬉しそうに受け取り、そして食べたのだ。
それを見たカエデ、リエルも同様に差し出すとそれらも同じように嬉しそうに食べていく。
その様子に首を傾げつつティアナの方を見ると、ティアナが事情を説明してくれた。
自分たちにとっては今まで食べたことのない食材で美味しいことは美味しいがそこまで感動するほどのものではないのだがシュウにとってはとても重要なものらしい、と。
それを聞いたフィアたちは翌日ラースの買い付けに行くときは自分たちも行くと言い出したのだ。
理由は単純で、いつもとんでもないことをしだすシュウが食べ物を食べて子供のような素直な表情を見せるのがとても新鮮で、見ていて幸せな気分になれたからだ。
それほどまでにラースを食べるシュウは幸せそうなのだ。
ある意味母性を刺激された女性陣から反対意見も出るわけがなく買える限りのラースを購入することがすんなりと決定されて今日に至る。
しかし、現実は何と残酷なことか。
ラースを買いたくても在庫がないのだ。
これにはシュウも肩を落とし、それを見た仲間たちも少し落ち込んでしまった。
それを見たエルフのお姉さんが焦りながら口を開く。
「ホントにごめんね。次に来る時はもっと持ってくるからさ」
「あ、いえ。そんなつもりじゃあ」
「いいっていいって。ラースはアタイの好物でもあるからね。そのラースを他に好きって言ってくれる奴がいたんだ。喜びこそすれ面倒だなんて思わないって」
「それじゃあお言葉に甘えて」
「まかせときな!」
「シュウ、良かったですね。ところで次、とはいつぐらいになるのでしょうか?」
「そうだねぇ。明後日には村へ帰るつもりだから次は・・・2ヶ月位後になるねぇ」
シュウ、再び絶望である。
仮に在庫分全て購入したとしても多く見積もって1週間分程度にしかならなそうだ。
そして次の仕入れが2ヶ月先となると均等に分けて9日に一度食べれるかどうか。
週一より食べれないとなるとちょっと悲しくなってしまう。
「ごめんね。でも他の商品の仕込みもあるしなぁ。それに量だって他の商品を持ってくることを考えたら今回の倍がせいぜいなんだよ」
「そうですよね。仕方ないですよね・・・」
誰の目から見てもシュウの落ち込みようは半端ではない。
今のシュウを見て1000の魔獣を魔法の一撃で葬ったなどと誰が信じられるだろうか。
あまりの落ち込みようにお姉さんは本当に申し訳無さそうである。
「いやぁ、こっちに持ってこれる量を考えると厳しいんだよねぇ。そんなに気に入ってもらったのに申し訳ない!まぁ、あんたらが村まで来てくれるってんなら格安で譲ってもいいんだけど冒険者の方々をそれだけのために呼びつける「行きます!!」・・・は?」
「俺が直接買い付けに行きます!なので譲ってください!!」
「いや、アタイはいいんだけど。お仲間の意見は聞かなくていいの?」
「あ・・・」
勢いで買い付けに行く、などと言ってしまったがお姉さんの言うことももっともなのだ。
いくらリーダーと言っても勝手に行動はしては行けないのだ。
だが、今回ばかりは事情が違う。
「私達なら構いませんよ?」
「そうっすねぇ。海って見たことないんで行ってみたかったんすよねぇ」
「主殿の決めたことならば従おう」
「お魚~。塩焼き~。うふふ~」
全員シュウの意見を支持してくれるらしい。
「皆、ありがとう!」
この時女性陣の心はひとつにまとまっていた。
シュウの喜ぶことをしてあげたい、と。
いや、リエルだけは本当に魚を食べたいだけなのかもしれないが。
「まぁ、あんたらがいいならアタイは構わないさ。・・・じゃあアタイが村まで案内するから代わりに護衛してくれないか?万が一のこともあるしさ」
「それくらいなら喜んで!!」
シュウは思わずお姉さんの両手を掴んでキラキラとした目で頷いていた。
その様子に何とも言えない表情を浮かべるお姉さんであった。
◇◆◇
それから出発の日までシュウたちは王都から離れることを関係各所に報告して回った。
予定としては片道1週間程度ということなので1ヶ月以内には戻ってくるつもりなのだが、それでもしばらくいなくなることには変わりない。
魔獣騒ぎの一件以来すっかり入学希望者が殺到している魔法学校では戻ってきたら絶対手伝うように要請され(戻ってきても逃げるつもり)、ギルドではギルマスから魔力の使い方について質問攻めにされながらも要件を伝えた。
ちなみにギルマスだが、己の大剣に魔力を乗せて打ち出したいらしい。
シュウも風刃の魔法で似たようなことが出来るのだが、あくまで風の魔法であり、ギルマスのやりたいそれはカエデが使う拳圧を飛ばす魔拳の剣圧バージョンらしい。
というか射程はまだ短いが既に飛ばせている。
その成果に驚きつつもイメージをしっかり練りながらの反復練習が大事ですよ、とそれっぽいことを言ってお茶を濁しておいた。
しっかり腰を据えて教えればもっとアドバイスできるかもしれないのだが、出発まであまり時間がなかったのでしょうがない。
こうしてシュウたちの旅立ちの準備は進んでいくのであった。
ちなみに準備を進めつつも毎日夕食にシュウにだけパンの代わりにラースが出ており、ニコニコとして食べていたことは追記しておく。
そして、出発の日。
王都の門のところで待ち合わせしていたエルフのお姉さん -ニアというらしい- と合流して村へと出発した。
ちなみに村の名前はアルスというらしい。
ニアの話によるとごく普通の漁村だが、住んでいるものの殆どはエルフだという。
その中でも若い自分が王都での商いを担当しているのは村の外での経験を積むためらしい。
そして村の中で若いと言ってもニアの年齢は何と100歳オーバーらしい。
見た目20歳位にしか見えないので驚いた。
しかしシュウの知っているエルフは長命種であることが当たり前だったので案外すんなり受け入れられた。
その分アルスに住むエルフはその生涯漁師として暮らし、日焼けした健康的な一族と言われた時は若干引き笑いになってしまったが。
そういった話をしながらシュウたちはニアと話をしながら荷馬車の荷台でのんびりとしている。
フィアと出会った時に受けた護衛もそうだが対象が馬車等の場合、余程のことがない限り冒険者を歩かせる、ということはない。
冒険者が歩きだと必然的に馬車の移動速度も遅くなり、その分モンスターに襲われる確率が高くなる。
なので荷物を減らしてでも早く、安全に行動することが優先されるのだ。
まあ、ニアの場合そういったことではなく純粋に商品が売れた分スペースが生まれたので、ということのようだが。
それに幌がない分見通しもよく、万が一の場合でも素早く行動出来るためもあるのだ。
◇◆◇
朝一で出発してから数時間、丁度お昼の時間帯である。
「よし、ここらで休憩にしようか。ご飯は持ってきているかい?」
「はい。シュウ、お願いしますね」
「了解」
そうしてシュウが収納袋から取り出したのは今まさに出来立て、といった感じの焼き鶏だ。
収納袋に入れるとそのものの時間が止まるため出来立ててすぐ入れておけば冷めることはないし、他に入れたものに脂が付着するということもないのでこういう時は重宝する。
「え!?袋から?あと、何でそんなに温かそうなの?料理してる時間なんか無かったのに・・・」
「あぁ、これ魔道具なんですよ。良かったら食べます?」
「あ、ああ。てっきり干し肉でも出すのかと思ったんだが・・・」
「まぁ、そういうもんだと思ってください。あとコレも食べますか?」
そう言ってシュウが差し出したのは炊いて握り固めたラース、つまりおにぎりだ。
シュウは料理は出来ないがこの程度のことは出来るのだ。
「これ、ラースかい?はぁ、何でまたこういう形に・・・」
「こうしたほうが外だと食べやすいじゃないですか」
「普通は外で炊くような余裕もないし傷んじまうから作ったのを持ち歩くなんて考えないんだが・・・まぁ、魔道具を使えばそういうことも可能、なのかね」
ニアはいまいち納得しきれていないようだが今はそういうもの、と考えることにしたらしい。
おにぎりを受け取って頬張る。
ラースには元々少しだけだが塩気が付いているため追加で塩をつけたりはしていない。
完全に素材の味そのままであるそれは外で食べるとまた今までとは違った趣向となる。
しかも出来立てと言っても過言ではないそれである。
旅の途中で中々出来ない贅沢だろう。
ちなみにこのおにぎりだが、ニアから買ったラースを全てこの形にしている。
アルスに行けばラースがたくさん手に入るだろうし、最悪このまま収納袋に入れておけばいざという時の非常食にもなるのだ。
シュウが思いつきで作った収納袋だがその実態がバレると欲しがるものがたくさん出るであろう性能の魔道具なのだ。
◇◆◇
順調にアルスまでの道を進み、ハイエルを出発してから1週間、特にトラブルも起きずシュウたちは無事にアルスへとたどり着いた。
一応村へ入るには村長に話を通す必要があるということなので一足先にニアが村へ入り、シュウたちは外で待機していた。
その時シュウたちに向けられる視線は外部の人間を警戒するようなものではなく、むしろ歓迎している雰囲気さえ感じられる。
その様子に排他的で選民意識の強いエルフの物語しか知らないシュウは最早自分の知っているエルフと合致している方が少ないのでは、と思い始めていた。
ニアは日焼けした肌を除けばザ・エルフという出で立ちなのだが、この村ではそういったものが感じられない。
男は漁に出るためかしっかりと筋肉が付いており、いかにも海の男、という感じだ。
女はそれこそ人それぞれで恰幅のいいおばさんもいればヒョロリと痩せている女性もいる。
その全てに共通するのは海辺で生活しているための日焼けである。
一瞬ダークエルフでは?と思ったこともあるのだが、例えばニアが半袖を捲ると比較的白い肌が見えるため地肌の色ではなく日焼けだ、と判断した。
比較的、というのは真っ白ではなく、多少日に焼けたような後も見られたためである。
シュウがどうでもいいことを考えているとニアが戻ってきた。
「待たせたね。村長が皆に会いたいってさ」
「え?何かトラブル?」
「いいや。この村に外から人が来るなんて珍しいからね。単純にあって話がしたいってさ」
「そういうことならいいよ。皆、行こう」
「「「「はーい」」」」
シュウの言葉に全員で返事をした一行は揃って村の中へと入るのだった。
というわけで次の目的地が決まりました。
食欲に従うのは人間の宿命ですよね。




