第03話_予想外でした
米という食材がある。
一般的に水田で作られ、それが実るとまるで黄金の野原のような情景となる。
しかし意外とその育成は難しいと聞いたことがある。
どうしてもその形状上、実となる部分が細い茎の先端部分に出来るため、ヘッドヘビーとなりちょっとしたことでも折れてしまうらしい。
さらに塩にはめっぽう弱い。
塩害と呼ばれるそれは性質上回復が難しく、一度なってしまえばしばらく田んぼが使えなくなってしまうのだ。
その原因として塩分を含んだ海風によるものがある。
風でそれなのだ。
海水などかかってしまった日には目も当てられない。
可能な限り塩と無縁で育てる、それがシュウの知ってる米の育成法だった。
・・・それなのに。
「えっと、もう一度聞くけど、このラース?は海の中で出来るの?」
「おかしなこと聞くね。アンタも食ったことがあるんだろ?ならどこで育つか知らないのかね?」
「えーと、俺の食ったことのあるやつは地上で育つやつなんだけど」
「へぇ、じゃあこのラースとは違うやつなんだね」
「いや、形は全く同じなんだよ・・・」
「地上で育つやつと海の中で育つやつでおんなじ形なんてもんがあるとは驚きだね」
「えっと、食べ方を聞いてもいいかい?」
「ん?食べ方は水と一緒に鍋にいれて一気に加熱させ、沸騰したら弱火にして水蒸気が出なくなるまで炊くんだ。そして少し蒸らして完成さ」
ラースと呼ばれる食べ物と自分の知ってる米が違う点を探そうとしたのだが、その調理法はシュウの知るそれとどうにも同じだ。
正確にはシュウが昔キャンプで行った飯盒での炊き方と比較したのだが恐らく家庭で行うのも違いはないだろう、と思っている。
さらにその触感は先ほど聞いた通りモチモチとしているらしい。
・・・調理法、食感は同じらしい。
そうなると余計育成環境が気になる。
この世界の食べ物が地球での食べ物と全く違う育成環境で育つのであればまだ納得できる。
しかし野菜は普通に地上で育つし果物は木になる。そして魚は海で取れるし肉は獣を狩ることで取得できる。
そこまでは同じなのだ。
それなのに・・・。
(何故米だけ違うんだよ・・・)
あまりにピンポイント過ぎる違いに戸惑いが隠せないシュウ。
そんなシュウの様子を見ていたエルフのお姉さんが戸惑いながらも聞いてくる。
「えっと、アンタの欲しいものとは違うっぽいし買うのはやめておくかい?」
「あ、いえ。買います。気になりますし」
「そうかい?アタイとしては買ってくれたほうが嬉しいからいいんだけどね」
「とりあえずさっきの一袋お願いします」
「あいよー」
お姉さんは袋を渡してくれたので代金を支払う。
エルフのお姉さんに別れを告げ、シュウたちは宿屋に戻ることにした。
◇◆◇
宿屋の食堂にて。
本日の収穫は日本でも見たことがある野菜各種とラースと呼ばれる米のような物だ。
正直それらの中でシュウが自身を持って扱えるのものはない。
だが、それでもシュウはやらねばならないのだ。
ほかの野菜は最悪後で調べればいい。
何なら宿の人に頼んで調理してもらうことだって出来るのだ。
しかし、このラースと呼ばれるものに関しては一刻も早く味わってみたかった。
なので厨房を借り、ラースの調理に挑戦することにした。
シュウは厨房にあったうち、可能な限り厚さのある鍋を選びラースを入れる。
育成環境から考えて必要はないだろうがサッと水洗いをして、これだ、と思う量の水を入れる。
そのまま蓋をして加熱用の魔道具を使って沸騰、そして熱量を弱くして湯気が出なくなるまで待つ。
湯気が出なくなったら魔道具を止めて少し蒸らす。
それで完成だ。
幸い焦がすようなこともなく炊き上げることが出来た。
一連の流れを真剣な顔でシュウが行っているのをティアナは見つめていた。
シュウがどれだけ非常識な魔法を使おうと、どれだけの強敵を相手にしようとこれほど思いつめたような表情を浮かべるのは初めて見たのだ。
それほど今日手に入れた食材が気になるらしいことはティアナにもよく分かったので何も言わず見ていた。
そして幾つかの手順を踏んでようやくシュウの顔に安堵の色が浮かぶ。
そこでようやく声をかけることが出来た。
「シュウ、出来たのですか?」
「あぁ、多分これでいいはずだ・・・。問題は味だけど」
「それでは早速食べてみましょうか」
「そうだね。・・・はい、ティアナの分」
「ありがとうございます」
小皿に取り分けられたそれを慎重に受け取る。
見た目は真っ白な小さい粒が湯気を立てている。
匂いは・・・美味しそうだが特筆すべきような点が見当たらない。
シュウの様子を見ると自分と同じで匂いを嗅いでいるが、自分とは違い物凄く感動している様子だ。
そのまま見ていると意を決したようにシュウは自分の分を口に放り込んだ。
咀嚼を繰り返し、放り込んだ分を飲み込むところまで見て、ティアナも自分の分に口をつける。
口に入れた瞬間感じたのは先程感じた匂いが口の中で更に広がること。
そして出来立てでまだ熱いそれを火傷しないように噛みしめると独特の食感が感じられた。
そして味の方は海で育った物らしく、薄く塩味が付いてるがしょっぱいということはなく、程よいものに感じられた。
そして飲み込むと後にはかすかな残り香が感じられるがすぐに消えてしまった。
美味しい。確かに美味しいのだが、物凄く美味しいとは感じられなかった。
むしろ素朴と言っていいような地味な味である。
これがシュウの追い求める味とは思えず、シュウの意見を聞こうと目線を向けると。
「!?」
ティアナは思わず驚いてしまった。
原因は単純でシュウの目から涙が溢れていたのである。
「シュウ!?どうかしましたか?」
「あぁ、これだよ。ちょっと塩気があるけど、これは俺が欲しかったものだ」
「これが、ですか?どうにも素朴な味にしか感じられないのですが?」
「でもこれが俺の故郷の味なんだ。あぁ、懐かしい」
「確かに美味しいとは思いますが。・・・私の分も食べますか?」
「え、いいの!?ありがたくもらうよ!」
そういってティアナからラースを分けてもらうシュウ。
一口一口味わいながら、それでいて決して止まることなく食べたシュウはあっという間に最後の一口を食べてしまった。
その瞬間なんとも悲しそうな表情を浮かべる様子を見てティアナは余程嬉しかったのだろう、と思った。
「シュウ、また明日あのお店に行ってみましょうか。今度はあるだけ買っておきましょう。シュウの収納袋があればどれだけあっても平気ですよね?」
「え?いいの?」
「だってそんなに美味しそうに食べるんですもの。それにそこまで高いものじゃなかったですしいいですよ」
「やった!!」
「ッ!?」
シュウは嬉しさのあまりティアナを抱きしめてしまった。
あまりに突然の出来事にティアナは目を白黒させながらパニックに陥っていた。
それが嫌なものなら即刻突き放すのだが、そういうわけでもなく、しかし突然過ぎて全く心の準備ができていない状況での出来事のため口をパクパク動かすことしか出来ない。
それでも何とか言葉を紡ぐことに成功した。
「あ、あの、シュウ。そ、そ、その、ちょっとお、落ち着いてほ、欲しいのですが///」
「あっ!ゴメン、ティアナ。嬉しくてつい」
パッと離れたシュウに対して落ち着いたような、しかし失敗したような顔をするティアナだが一瞬で立て直し、冷静さを取り戻していた。
「シュウ、決して抱きつかれることが嫌なのではありませんが時と場所を選んでもらわないと困りますよ?こういうのはもっとロマンチックな雰囲気というのをですね・・・」
しかし冷静なのは表面だけで凄いことを口走っていることに全く気づいていない。
だが幸いにも、いやタイミング悪くと言うべきかシュウの頭のなかはラースのことで一杯でティアナが何を言っているかなど全く理解していない。
少ししてティアナが我に返り、自分が何を言っていたか思い出して思わず赤面してしまうが、肝心のシュウが全く話を聞いていない、というか自分の世界に旅立ってしまっているのを見て再び複雑な感情を抱く。
発言を聞いてもらえず安心したような、悲しいような。
乙女心は複雑なのだ。
頭の中がラースのことで一杯ですっかり記憶の隅に追いやられていたが、シュウはもう一つ気になっていたことを忘れていた。
それはラースを売っていた人物が異世界の定番、エルフであり、予想通り耳が尖っていたりある一部がフルフラットだったりと物語そのままであったこと。
だが森の番人というイメージがあり、排他的な社会を築いていそうだが実のところ海辺で生活しており、漁師を生業としていて普通に街にでてきて商売をするほど俗っぽかった。
あと、しゃべり方がとてもフレンドリーで排他的とは全く思えないこと。
ついでに言えば色白な印象があったが実際は日焼けしており、とても健康的な見た目でありシュウも最初は違和感を覚えていた。
しかしラースの説明を聞いているうちにそちらに意識が持っていかれ、最終的には他の出来事が全く頭に入らなくなっていた。
そしてそれは翌日、再びラースを買うためエルフのお姉さんに会うまで続いており、というか買った後も危なく思い出さず去ってしまいそうになるのだがそれは後の話。
今は食堂で味の余韻に浸った少年とそれを見つつ若干悔しいような表情を浮かべる少女が佇んでいるだけであった。
実は投稿主も1ヶ月ほど白米を食べられない時期があったのですが、最初は大丈夫だろうと思っていても一週間で我慢できなくなっていました(笑)
あと、ティアナさんからラブコメ臭が立ち上っていますが、どうしてこうなったのかは投稿主にも謎です。




