第25話_喧嘩するほど仲が良さそうです
「此度の討伐ご苦労であった」
「はっ」
王の言葉にシュウは片膝をつき、左腕を胸に当てながら恭しく答える。
シュウの後ろにはティアナ、フィア、リエル、カエデが控えており、シュウと同じ体勢だ。
「お主たちには褒美を取らせようと思う。なにか欲しいものはあるか?」
「我々は冒険者として当然のことをしたまで。褒美など不要にございます」
「そうか・・・。本当にいらんのか?」
「・・・はい」
この謁見にあたり、王城に連れてこられてからシュウたちは事前に王とのやり取りについて打ち合わせをしていた。
この場には大臣や役人といったこの国の重鎮が出席しており、ヘタな真似をすれば立場が極端に悪くなるためそれを防ぐための措置だった。
だが、王はその打ち合わせをまるっきり無視した発言をしてくる。
本当にであれば褒美はいらないと言った時点で謁見は終了し、ちょっと多めの褒美をもらう手はずだったのだ。
その報酬ですら本当は遠慮したかったのだが受け取らないと国の沽券に関わるらしく受け取ることにしたのだ。
ちなみに他にも参加した冒険者は多くいたので自分たちだけ受け取っていいのか?と聞いたのだが、ほとんどシュウ達が倒したのに他の誰が受け取るのだ?と逆に聞かれてしまい答えに詰まってしまったのだ。
確かに最初の大群はティアナ、カエデの援護があったとはいえほぼ全てをシュウの魔法で倒した。
続く王亀は冒険者も攻撃に参加したがダメージを与えられたものはシュウ達以外ではギルマスくらいであり、そのギルマスも役職上特別報酬など受け取れないらしい。
ならば受け取ることが決定している分のみ受け取ってさっさと退散したいのだ。
「私どもの他にも冒険者は多数参加しておりました。言わば全員で勝ち取った勝利であり、私達だけ受け取ってしまっては申し訳ないのです」
この話を切り上げるためシュウは理由を明確にした。
いくら実際に攻撃が通じたのは自分たちだけだったとは言え理由としては充分だろう。
暗にこれ以上の追求は勘弁して下さい、と目で訴えながらも王に直訴する。
だが、それは全く通じていないようだ。
「ふむ。ならば参加した冒険者全員にギルドからの報酬とは別に特別報酬を出そうじゃないか」
「!?」
何を言い出すのだこの王は!?とシュウが声にならない声を上げていると王が更に続ける。
「で、だ。ギルマスから聞いた所によると特にお主らが活躍したそうではないか。そんな人物に特別報酬を出さぬと余の気がすまぬ」
「い、いえ・・・。あの・・・」
さすがにどうすればいいか分からずシュウは前回同様王の隣にいたギルマスに目線を向ける。
するとサッと目をそらされた。
(ちょ、助けて下さいよ!)
(無理じゃ。こいつは言い出したら聞かん)
という会話を目だけでしている気分になるが実際その通りなのだろう。
とりあえずこの会話は王の暴走によるもののようだ。
失礼にならないように周りの重鎮たちを見ると苦笑しているものや諦めの表情を浮かべている者がほとんどだ。
どうやらこの程度いつもの事のようだ。
「さて、何を渡せばよいかの・・・。あれか?いや、あれのほうが・・・」
「無礼を承知で申し上げます。私たちはまだ駆け出しの新人でございます。今回の活躍も運が良かっただけのこと。特別報酬など貰ってしまっては気が引けてしまうのです」
「ふむ・・・。駆け出しのう。おい、ギルマスよ。この者らのギルドランクはどうなっておるのだ?」
「はっ。そこのカエデはパーティの見習いでギルドに登録しておりませんが他の者らはEかFだったかと」
いつも豪快なギルマスだがこの間の裁判のような茶番ではないきちんとした場なので一応丁寧な話し方をしていた。
「なるほどの。それなら駈け出しと言われてもしょうがないランクじゃのう」
「今回の件で昇格の条件を満たしたでしょうし多少上がっているかもしれませんが」
そう、王都に来てからは魔力を持たない獣のみを相手にしていたのでいくら倒したところで個人の技能を表すレベルが上っても、ギルドカードに記録されることがないためギルドランクを上げるための条件が満たせないのだ。
しかし今回の魔獣は獣が魔力を持った存在なのでカードにも記憶されている。
そのカードをギルドの受付へ提出すれば報酬と共にランクへの反映がされるはずである。
一行は倒した数も質も桁違いなのでランクアップ間違いないらしい。
それでも一足飛びに数個上のランクになったりしないらしいのだが・・・
「よし、それならばギルドランクをAにしよう。それならば報酬を受け取ってもらえる」
王はそんなことは一切関係ないとランクを爆上げさせようとしていた。
これにはさすがのシュウも声を荒らげる。
「ちょ、お待ち下さい!さすがにそれは本当にお受けできません!!」
「何故じゃ?」
「そもそもギルドランクとは冒険者としての経験を積むことで上昇出来るもののはずです。そのように一気に上げられては今後困ってしまいます」
「それはワシもさすがに許可できんのう。シュウたちは確かに強いがAランクになるには経験が足りん」
「むぅ、経験と言っておきながら魔力を持たぬ獣を倒してもランクが上がらんではないか。
聞けばシュウたちは王都に来てから大量の獣を狩っていたらしいじゃないか。
それはおかしくないのか!」
ギルマスは呆れたせいか口調が素に戻っていた。
それに乗せらのか王はシュウも知りたかったことを聞いてくれた。
獣を狩っても報酬は出るがランクが上がらないというのは不思議でならなかったのだ。
しかし冒険者、というかこの世界の住人があまりに『え?そんなの常識でしょ?』と言わんばかりの対応されたので詳しく聞けなかったのだ。
まさか王が聞いてくれるとは予想外だったが、シュウは答えを聞き逃さんと集中している。
「はぁ、まさかお主からそんな言葉が出るとはのう。大臣どもや、お主らはこいつに何を教育していたのだ?」
「「「・・・(スッ)」」」
ギルマスの矛先が自分たちに向くと大臣たちは目をそらした。
まさかここまで常識というものを覚えていなかったとは予想外だったのだ。
「・・・まったく。その年まで知らんかったとは情けないわい。
いいか、一度しか言わぬからよく聞くのだぞ?
獣というのはいくら強くてもCランク冒険者程度の強さしか持たんのである程度の強ささえあれば功績として数えるには不足しておるし、そもそも獣を倒した証明ができん、というのが大きな理由じゃ」
「何故じゃ?倒した獣を持ってくればいいじゃろう」
「昔はそれでも良かったのじゃが他人が倒した獣を納めてランクを上げる駆け出しが続出してのう。それでランクを上げる要素からは外した代わりに多少多めの報酬を出す程度にしたのじゃ。そうすれば他人の倒した獣を横取りしても旨味が少ないからの」
「むぅ、それではカードに記録できるようにすればいいではないか」
「カードはモンスターを倒した時に放出される魔力で自動記録されるのだが、製造法までは解明されておるがどうやって記録しておるかまでは不明なままじゃ。それが分からんので改良は無理じゃな」
「ちっ、使えんのう」
「なんじゃと!?」
「大体お前は・・・」
話が変に盛り上がってとうとう2人は喧嘩を初めてしまった。
お互いに言っていることは子供の喧嘩レベルなのだが、お互いの立場がこの国のトップである王と人族最強とされるギルマスなのだ。ハッキリ言って迫力が違う。
本来であればそんな2人が言い合っているところを見れば冷や汗ものだが内容が内容だけに何処か白けた空気が流れていた。
(知りたいことも知れたしあとは早く終わってくれないかな・・・)
シュウは勉強になった、と思いつつ後は早く終わることを祈るのみだった。
◇◆◇
王とギルドマスターの口喧嘩という通常あり得ないものを見た後、結局シュウたちへの特別報酬を今決めるということは無くなった。
と言っても報酬そのものが無くなったわけではなくひとまず『貸し』ということにしておいた。
いつでも取り立てに来い、と言われたがそんな予定は今のところない。
スムーズに逃げるためにそういうことにしておいた。
ちなみに謁見の間を後にする際、ギルマスから後でギルドに顔を出すように言われた。
今度はギルマスが何か企んでいる、ということではなく普通に今回の報酬の受け取り&ランク昇格手続きのためだと言われた。
今回懸念していたこととしてまた王から魔法関連の質問攻めにあうことだ。
前回言葉を濁していた強力で強大な魔法を使ったため、それがバレると面倒くさそうだ、と思っていたのである意味2人が口喧嘩したことはちょうどよかった。
喧嘩終了後の2人はなにはともあれ疲れた、と顔に書いてあったので仮にバレていたとしてもその瞬間は頭から抜け落ちていたのだろう。
「いやぁ、疲れたね」
「うち、あの2人が喧嘩しだした時はどうなるかと思っちゃったっす」
「ですねぇ。お友達ならもっと仲良くしてればいいですのにぃ」
「昔からの友達だとあれでもスキンシップになるんじゃない?」
「そういうものですかね?」
「まぁ、何事も無く終わってよかったではないか!」
「そうだね。・・・よし、昨日も討伐成功のお祝いしたけど今日も疲れちゃったし美味しいもの食べようか!」
「賛成でぇす!」
「食事、か・・・」
「カエデ、どうかした?」
「うむ。少々気になっていたのだ。あの魔獣の群れが生まれた原因がな」
「え?たまたまじゃないの?」
「あれほどの群れが生まれる程の魔力溜まりがあれば我が気づかぬはずがない。それがいきなり生まれあの数の獣に作用したのだ。何か気になるのう」
カエデは基本的にシュウ達と同じ食事を取らなくてもシュウから直接魔力を分けてもらうだけで充分に生きていけるのだ。
その魔力を食べる(吸収する)カエデが自分の食事である魔力溜まりに気づかないのは確かにおかしい。
「そもそも主殿と出会う前から魔力溜まりが少なかったのじゃ。それなのに突然あの規模・・・。むぅ・・・」
カエデは真剣に考えこむ。
だが。
「カエデさぁん。ご飯食べないんですかぁ?カエデさんの分も食べちゃいますよぉ」
「なに!?それは駄目じゃ!えぇい、すぐ行く!!」
そう言ってリエルのもとに駆け寄った。
それを見ていたシュウは思わず苦笑してしまった。
(カエデもすっかり人の生活に染まっちゃったなぁ。・・・それにしても突然生まれた魔力溜まり、か。また厄介事が出てこなきゃいいんだけどなぁ)
その考え事態がフラグであり、既にシュウがこれから発生する厄介事に巻き込まれることが確定しているのを彼が知るのはもう少し後なのだ。
◇◆◇
時は戻ってシュウが魔獣の群れに突撃した頃。
様子を伺っていた人物はすっかり絶句してしまっていた。
それもそのはずで1人頭のおかしいのが魔獣の群れに突撃したと思ったらその背後から魔法が飛んできた。
それに驚いていると突撃したのがいきなり空を飛び始め魔法を連発したのだ。それも大魔法と言っても過言ではないレベルで、だ。
それにより魔獣の群れは全滅、もし生き残りがいたとしてもとても戦えない状態だろう。
だがそれで喜んでいるはずの冒険者たちも一人残らず魔法の余波で地面に倒れており、異様な光景が広がっていた。
それでもしばらくすると冒険者達も起き上がり始め、状況を理解したのかその顔に笑顔が出てきている。
その様子を見ていると計画がまたしても崩れ去っていったことを悔しく思いながらも、まだ切り札である王亀が到着していないことを思い出す。
巨大ではあるが、元々が亀であるためその進行速度は遅い。
だが、時間的にそろそろ、と思っていると森から王亀が出てきた。
その大きさに冒険者達が呆気にとられているのがよく分かる。
何しろ当初の予定より大幅に余ってしまった魔力をほぼすべてつぎ込むことに成功した個体なのだ。
あれ一体だけで計画の遅れを取り戻すことも可能だろう、と考えていると再び先ほどの男が突っ込んでいった。
まさか、と思って見ていたが王亀の硬さの前に成果も上げられず戻ってくることしか出来ないのを見てようやく余裕が出てきた。
その後、冒険者達が突撃するが思ったような戦果を上げられず、当初の懸念事項であったギルマスですら王亀からみたら僅かなダメージしか与えられていない。
これはさすがに、と思って見ていたら再びあの男が飛んでいった。
何度やっても無駄なものは無駄、と見ていると何と王亀の足を動かせぬまで斬り裂いてしまったではないか。
先程までそんなことが出来るとは思っていなかったのでその男の動きを注視していたが、今度はその反対側の足が跳ね上がった。
見ると少女と言ってもいい軽装の人影が見える。
その少女は武器すら持たず、どうやら殴って王亀の足をズタズタにしたらしい。
注意するべき人物が増えたことで焦っていると3人の冒険者が攻撃を開始していた。
そのすべてが王亀に対して明確なダメージを与えており、最後の1人に関してはその姿がぶれたと思ったら王亀の首を半ばまで切り落としてみせたのだ。
所詮王亀が魔獣化、それもより強力な個体になったからといってランク的にはAに少し近づいた位のBなのだ。
いずれ倒されるとは予想していたが、その時期はもっと後だったはずだ。
「まさかこんなに早く倒されるとは・・・。しかし収穫もあったな。
あれほどの魔法を使い、さらには空を飛べるとなると『召喚石』を壊したのもあいつだろう・・・」
収穫とはシュウたちのことだ。
本来『自分たちしか使えないはず』の魔法をあのレベルで使ってみせたのだ。
貯めに貯めた魔力を使ってしまったが今後自分たちの計画の障害になりそうな危険分子を早期発見できた、と考えれば安い代償だろう。
多少時間は掛かるが再び同じだけの魔力を貯めるのは容易いのだ。
今度はその貯めた魔力を使ってシュウたちを効率的に排除するべく自分たちの隠れ家に戻り結果を報告する。
そのために半ば悔しさを滲ませながらも口だけは笑いつつその人物はフッと姿を消すのであった。
王様の正確は好きなんですが、どうにも上手く動かせません。
あと、説明不足だった部分についてギルマスにサラッと説明してもらいました。
今後本編で活かされるかは全く不明な設定ですが、一応念のためです。




