第23話_押して駄目なら・・・です
シュウがカエデに自分の考えが正しいか聞いている頃、冒険者達は果敢にも王亀へと向かっていた。
その中にはティアナとフィア、リエルの姿もある。
ティアナは魔法を王亀の顔を中心にぶつけている。
フィアは魔鋼製の剣でギルマス同様足に斬りつけては距離を開き、とヒットアンドウェイを繰り返している。
リエルは自身の怪力を持って戦斧を振り回し遠心力を乗せた攻撃をフィアと同じく足にしている。
だが、彼女らの攻撃はシュウが先程行った攻撃より劣るものであり、効果が少ないことは彼女ら自身がよく分かっている。
ティアナの魔法はまったくもって王亀を怯ませることはなかったし、フィアの攻撃はそのまま弾かれ、リエルの攻撃は僅かにダメージを与えるが致命となるには弱すぎた。
だが、このまま何もしなければ王都は間違いなくこの王亀により深刻な被害を受けるだろう。
それを指を咥えて見ているだけ、というのは出来ない相談だった。
他の冒険者達も同じで出来る限りのことをするべく、各々攻撃を繰り返していた。
弓を持っているものは効果の薄そうな甲羅や皮膚を狙わず目や口といった比較的柔らかそうな部分を集中的に狙っている。
剣を持つものはギルマスがつけた傷を狙い、更に広げようとしてる。
ハンマーや打撃系の武器を持つものは足の関節に当たる部分を集中的に攻撃し、その歩みを止めようとしている。
王亀はそのすべてを弾き、時には鬱陶しそうに振り払いながら全く歩みを止める気配がない。
「くっ、やはり硬すぎます」
「シュウさんが少し傷つけるだけでやっとだったのをうちらが簡単に倒せるはず無かったっす。でも出来る限り頑張るっすよ!」
「頑張りますぅ」
3人は効果が無かったことを冷静に受け止めながら全く諦める気配を見せなかった。
攻撃を繰り返す冒険者も同じようで全員果敢に向かっていく。
吹き飛ばされていたギルマスも戻ってきており、着実にダメージを与えていた。
それが無意味とばかりに王亀は全く止まらない。
攻撃を繰り返すたびに疲労が蓄積し、集中力を欠き、正確性が失われていく。
王亀が進むたびに後退を余儀なくされ、気付けば遠目ではあるが王都が視認できるところまで来てしまっていた。
ここまで来ると冒険者達にも焦りの色が見え始める。
「もう王都が見えてしまいました・・・」
「うぅ、さすがにやばいっす」
「ところでぇ、シュウさんはどこに行ったんでしょうかぁ?」
「そういえば。カエデさんも姿が見えませんね」
ここに来て2人の姿が見えないことに気づいた。
あの2人に限って逃げるということは考えられないのだが、そうすると今この場にいないことが疑問である。
そう思ってティアナが周囲を見渡すとシュウが物凄いスピードでこちらに飛んで来るのが見えた。
そしてそのまま王亀へと斬りかかったのである。
王亀の足へと命中したその斬撃は先程同様途中までめり込むが斬り裂くことが出来ない。
また吹き飛ばされるのでは、とティアナが考えた瞬間、動きがあった。
「って・・・ええええええええ!?」
ティアナが思わず声を上げる。
それにつられてフィア、リエルもそちらを向くと、そこには足を半ばまで切断されバランスを崩して倒れた王亀がいた。
「ちょ、一体何があったんすか!?」
「あれだけやって斬れなかったのに亀さんが倒れてますぅ」
「何をしたのか分かりませんが、シュウがやったことは確かです」
シュウがやったと聞き、納得半分疑問半分な表情を浮かべた2人。
先ほどの結果を考えるにシュウの斬撃ではあそこまで深手を負わせることは出来なかったはずである。
それが今は王亀が初めて歩みを止めるだけの一撃なのだ。
一体どうやったのか、と考えているとシュウが近くにやって来た。
「皆!怪我はないかい?」
「怪我はありませんが・・・一体何をしたのですか?」
「斬りつけて斬り裂いた」
「それは分かります。ですが先程は全くと言っていいほど傷をつけられなかったのに今は・・・」
「それはね、あぁ、丁度カエデがやるらしい」
そう言ってシュウの視線を辿るとシュウが斬り裂いたのとは反対の足元にカエデの姿が見える。
彼女は腰だめに構えると拳を突き出した。
「あっ!カエデちゃんが・・・って、えええぇぇぇ」
今度はフィアが大声を上げる。
理由は単純、カエデの拳が王亀に当たったと思ったらその足が跳ね上がり、更には曲がらないであろう方向に曲がってしまっているからだ。
これにはさすがの王亀も完全な悲鳴を上げる。
その様子を見ていた冒険者たちは一瞬呆けたものの今がチャンスとばかりに攻撃を再開した。
だが、シュウたち一行は攻撃に参加せずその様子を見ているのみである。
「ちょ、シュウさんもカエデちゃんも一体何をしたんすか!?」
「簡単だよ。魔力を込めた一撃をお見舞いしたのさ」
「え?それなら私達もやってますし、シュウも最初に行って効果が無かったのでは?」
「あぁ、それはね・・・」
◇◆◇
シュウは正しいことが証明された自分の仮説を説明した。
最初に疑問に思ったのはシュウの斬撃がほとんど傷がつけられず、ギルマスの斬撃がしっかりと効果があったことだ。
自分が攻撃した際、その攻撃が何かに阻まれるような感触があり、そこで攻撃が止まってしまったのに対し、ギルマスの攻撃は抵抗があったらしいがそのまま構わず力を込めたらしい。
それが結果の差になったことを考えてシュウは最初単純に腕力の差だと思った。
だがチートで貰った身体能力に魔力による身体強化をしていることを考えるにギルマスと自分でそれほど差があるようには思えない。
そこで自分の感じた抵抗についてよく思い出してみた。
すると以前にも似たような感触があったことを思い出した。
それはカエデと戦った時で、最後に袈裟斬りに腹を斬り裂いた時だ。
あの時は単純に肉を斬り裂く感覚だと思ったのだが、よく考えてみると鉄の塊すら簡単に斬り裂く切れ味を持っているのにそれ程抵抗を感じるものだろうか、と思ったシュウはカエデに直接聞いてみたのだ。
何かバリアのようなものを張っていたのか、と。
すると何を今更、という答えが返ってきた。
「そもそも魔力を持つ生き物はすべて魔力による障壁があるではないか」
初耳である。
カエデの話によると保有する魔力が高いほど自然と障壁が厚くなり、身体能力も上がるということらしい。
魔力障壁は常に展開しているものではなく、自身へ害のあるものが近づいた場合のみそれを認識後自動展開するらしい。
シュウの身体強化はそれを意図的に展開させ、更に促進させたものであり、つまりモンスター以外にも可能な技術ということだ。
つまり高ランクのモンスターほど保有する魔力が多く、固く力強い個体となり、人間もレベルが上がると魔力もあがり、体も強くなるということらしい。
それほど重要な魔力だが魔法の衰退と同時にその効果でさえ忘れ去られ、今では何故ギルドガードに魔力の項目があるのか疑問視されているほどである。
「メチャクチャ大事ですやん・・・」
思わずキャラクターが崩壊しかけるシュウだが、今はそれどころではないと踏ん張る。
「その障壁を突破するにはどうすればいい?」
「簡単な事じゃ。それ以上の魔力をぶつけ続けて破壊すればよい。もしくはそれ以外の攻撃を当て続けて弱らせれば障壁も弱まるぞ?」
「それだけでいいの?」
「うむ。と言うか我を負かした時の主殿は自然とそれをやってのけたのう。魔力の値だけで言えばあの亀を遥かに上回る我を、じゃ」
「そうなの?」
「うむ。魔法を当てられ続け更には頭上から岩まで落とされてはさすがの我も弱るわい。止めにはあの雷じゃ。お手上げ以外の何物でもない状況じゃ」
「でもあの王亀には通じなかったけど?」
「それは単純に相性の問題じゃろう。仮にあれが頭に当たっておればそれで終わったはずじゃ」
雷槍は威力がある分細やかな制御に向かないので当てやすそうだった甲羅に当てたことが裏目に出たらしい。
とは言っても既に王亀の周りには冒険者が集まっており、雷槍を使おうものなら被害が甚大になるため使えない。
つまり魔法以外で障壁を破らねばならない。
そこで参考になるのはギルマスの攻撃だ。
シュウは抵抗があって刃が止まったところで引いた。だが彼は抵抗があっても構わず力を込め続けた。
それが結果の差になったのだろう。
ギルマスの剣は長年使い込まれたことにより魔力を帯びたような状態になっており、それをぶつけることで障壁を破ったのだろう。
つまり自分も同じように斬り裂けるまで魔力を込め続ければいいのだ。
ちなみにシュウが途中で力を抜いた事自体は間違っていない。
斬れないものを頑張って斬ろうとするとそれが致命的な隙になることがあるため、一度引いて再度攻撃したほうがいいこともあるのだ。
今まではその圧倒的な切れ味によって考える余地のなかった斬る際の力加減が今回の件により露見したため今後の訓練の課題とすることを決めたシュウである。
◇◆◇
「つまり今まで俺たちが与えた攻撃では軽すぎるんだよね。
獣ばっかり相手にしてたからスパっと斬ってお終い、っていう戦いに慣れすぎたせいもあるけど」
「なるほど。ですが今回の戦いに限らず今まで誰も生き物に魔力による障壁があるなんて気づかなかったのは不可解ですね」
「だって魔力の使い方も廃れちゃってたんだし強いモンスターに会ったら、あいつ硬いなぁ、で済ませちゃってたんじゃない?」
「そんな軽い・・・。でもありえますね」
「で、今回のアイツの倒し方なんだけど」
「そうですね。・・・シュウとカエデさんだけで充分だと思いますが」
ティアナの言うとおり、王亀は4本の足のうち前足2本が斬り裂かれていたり、あらぬ方向に曲がっていたりで最早先程のように移動することが出来ない。
それでも好機と見た冒険者が一斉に襲いかかってもそれ以上全く弱る気配を見せないのだがシュウ達が再び攻撃すればそれも終わるだろう。
だがそれをシュウは良しとしなかった。
「あれだけ魔力障壁の強い生き物って中々いないらしくてさ、今後のためにも経験は必要だと思うよ」
「・・・やってやるっす!どうすればいいんすか?教えて下さい!!」
フィアはシュウに作ってもらった愛剣のさらなる可能性を求めやる気全開だ。
先程少し傷をつけれたリエルも気合を入れている。
ちなみにリエルが傷をつけられた原因だが、単純に他のメンバーの攻撃よりも勢いがあったためだ。
それでも最近の獣狩りの経験が悪影響し、斬り裂けないのが分かった瞬間それ以上力を込めなかったため斬るには至らなかったが。
この場合の力とは魔力だ。
無論腕力も必要なのだが、それ以上に相手の障壁を無効化するためにも魔力が必要なのである。
しかしその魔力を込める、というのが普通の冒険者では基本的に行わない行動であり、それではあの王亀にダメージを与えることは難しい。
「つまり抵抗されて攻撃が止まったと思っても更に魔力を込めれば突破出来るんですね?」
「うん。でも確実に突破出来るとは限らないし、魔力を込める時は隙ができちゃうから使い所には気をつけてね」
「分かりました。・・・ちなみにシュウが抵抗を突破するにはどのくらい時間が掛かりますか?」
「俺?そうだなぁ・・・あ、抵抗されたな、って思ってすぐくらい?」
「・・・どうしてそれで最初は斬れなかったのか不思議ですね」
「斬れないと思ったらすぐ引き上げたからね。でもやってみたらすぐだったよ」
押して駄目だったので更に押し込んだ結果である。
ラグスの街にいた頃、カエデと戦った時は無我夢中で相手を斬ることしか考えなかった。
それで弱っていたとしても伝説上の生物であるドラゴンを斬り裂くため障壁を突破する魔力を込める時間を意識せず出来たのだ。
だが獣狩りのせいで弱い相手との経験ばかり蓄積され、斬ろうと思えばすぐ斬れ、斬れないという状況が無かったため斬るか即引くの攻撃になってしまっていた。
しかし種さえ分かれば対処は簡単であった。
シュウは抵抗されても魔力を止めず、カエデは魔拳で打ち出すはずの魔力を相手の体内に浸透、爆発させる技(シュウの思いつきをきちんと形にした)で相手の障壁を見事打ち砕くことに成功した。
であれば多少突破までの時間はかかるかもしれないが、多少なりとも魔力を用いた戦闘が可能なパーティメンバーであれば出来るのでは?とシュウは考え、その練習相手に王亀を選んだのだ。
幸い、というか必然的に相手は動ける状況ではなく、的としても巨大さ故申し分ない。
「分かりました。やってみます」
ティアナの発言をキッカケに3人はそれぞれの得意な攻撃法でいかに相手の障壁を破るか考えつつも相手に向かって行く。
最初は3人の中で唯一遠距離攻撃が可能なティアナだ。
「炎よ、針となりて敵を討て!!」
ティアナにしては珍しく長めの発動フレーズで魔法が発動した。
それまでの炎の塊をただ相手にぶつけるだけでは足りないと思ったのだろう、巨大な針状に整形された炎が王亀に向かって飛んで行く。
炎は王亀の頭に命中したが、それまで同様まったく効いているようには見えない。
だが、先程までとは違い、炎をその場で燃やそうとはしておらず、その形状を維持したまま相手に突き刺さらんと押し込まれていく。
時間にすると5秒ほど掛かっただろうか、ようやく炎がするりと相手に吸い込まれるような感覚がティアナに伝わる。
(なるほど、これが障壁を突破した感覚ですか)
離れた場所からの攻撃であり、炎にはティアナと感覚を共有させるような機能は無いのだが不思議とその感覚だけは伝わってきた。
一方障壁を突破された王亀は何の守りもない状態でティアナの魔法を食らってしまう。
炎の針が自身に刺さり、その場所から体内を直接燃やされているのだ。
シュウに斬られ、カエデに折られた2本の足以来、冒険者の攻撃をものともしなかった王亀が再び悲鳴を上げた。
近くにいた冒険者もその光景を目の当たりにしており、やはり攻撃が効く相手だと確認できたため更に攻撃は苛烈さを増していく。
そうして接近していく冒険者の中にリエルもいた。
彼女は自身の戦斧が先程少しとはいえ王亀を傷つけており、単純に魔力を多く通せれば斬れることは簡単に想像できる。
だが、それだけでは本来重量武器である戦斧の性能を充分に発揮しているとは言えないだろう。
何故なら刀に比べて戦斧の刃は短く、刀と同じように切ったとしてもダメージは明らかにこちらのほうが少ないのだ。
であればやることはひとつである。
「行きますよぉ」
多少気の抜けるような掛け声とともにリエルは地を蹴る。
シュウの飛行魔法とは違い単純な跳躍だ。しかし距離が段違いだ。
彼女は地上に降り立つ際にシュウに負けず劣らずのチートをその身に宿しており、常識を超えた跳躍など朝飯前なのだ。
そのまま彼女は大上段に構えた戦斧を振り下ろす。王亀には届かない距離で。
それを見ていた冒険者は目測を誤ったのか、と思ったがそれは違う。
リエルは空振りに終わったかと思われた振り下ろしの勢いをそのままに空中で一回転したのだ。
それを王亀に到達するまで3回繰り返す。
この時戦斧の背になっている部分から魔力を吹き出しており、それがブースターとなり回転速度は落ちるどころかどんどん上がっている。
そうして勢いをつけてリエルは王亀に攻撃を加える。
それもシュウの雷槍が全く効かなかった甲羅部分に、だ。
魔力で強化した武器を魔力でブーストした勢いをつけて、更には女神としての能力かシュウの重力を操る魔法の簡易版ともいうべき魔法を戦斧にかけ重さを遥かに増しているため、その一撃は魔力障壁など一瞬足りとも効果を果たさず甲羅に大きなクレーターを生成した。
ティアナの炎魔法が消えきらぬうちにそんな衝撃を受けて無事であるはずがなく、王亀の口からは体液なのか血液なのか分からないものが溢れ出ていた。
そして最後の1人が攻撃を開始する。
「むむむ、2人ともやるっすね!うちもやってやるっす」
ティアナは魔法の形状を変えより鋭く打ち込めるように工夫した。
リエルは回転による遠心力を最大限に活かした一撃で障壁を突破しあの硬い甲羅すら砕いてみせた。
ならば自分は?
ハッキリ言えばティアナのように魔力を器用に打ち出すこともリエルのように武器に循環させることも2人より劣るだろう。
2人に勝る点、それを考えると自ずと攻撃法が浮かんでくる。
フィアはティアナが魔法を命中させ、ダメージを負っている頭部へと真っ直ぐ走っていく。
この時、炎は完全に消失し、王亀は多少周りへの対処が出来るようになっていた。
自分へと真正面から真っ直ぐ突っ込んでくるフィアを迎え撃つ、いや食おうとしてその大きな口を開く。
そのまま頭を振り下ろし、フィアを口へ収めようとして・・・フィアの姿を見失う。
フィアは元々人族より優れた獣人族の身体能力を魔力により更に底上げし、一気に加速したのだ。
そして王亀の首の下まで来ると今度は直上へと跳躍する。
シュウや他のメンバーの攻撃を見ると攻撃が当たってから抵抗が発生し止められるまで、それもシュウの剣速でも僅かにめり込む程度までの時間しかかからないらしい。
一度抵抗が発生すれば自分の魔力では突破まで時間がかかるだろう。
ではどうするのか。
「障壁が機能すると攻撃が出来ないのなら、発生するまでに振りぬけばいいんす!!」
そう言って剣を振り上げる。
自身の魔力の殆どを身体強化につぎ込んだ。
愛剣には最低限王亀を斬り裂くに必要と思われる魔力しか振り分けていない。
しかしそれでいいのだ。
全力で剣を振るいそう思ったら振りぬいていればいいのだから。
周囲からはものすごい速度で前進し、飛び上がっただけに見えるだろう。
だがその攻撃は確かに意味のあるものだった。
「「「「おおおおおおおお!」」」」
冒険者の勝鬨が上がる。
自分たちの攻撃が全く効かなかった相手だが、今は頭を焼かれ、甲羅を砕かれ、そして・・・首をその半ばまで斬り裂かれて動かなくなったのだから。
こうして世界最大と思われる亀の討伐が完了したのであった。
結局小細工するよりゴリ押しのほうが強い、という結果でした。
フィアの攻撃方法だけ物凄く悩んだ結果、いつも通りのご都合主義全開な結果となりました。




