第22話_遅刻しました
シュウが思いがけず王都に迫った危機を(味方ごと)薙ぎ払ったと思われたその時、地面が僅かに揺れた。
「ん?」
「どうしたのですかシュウ?」
「いや、地面が揺れたような気がしてさ。・・・また!」
「言われてみれば・・・?」
冒険者の中にもそれに気づくものが多数いた。
残りのものはまだシュウが放った雷の影響から抜け出せてはいない。
「揺れが起きたと思ったら止まって、また揺れて、か。なんだか足音みたいだね」
「さすがに地面が揺れるだけの足音を立てるような生物はいないと・・・あぁ、『この辺には』いないと思いますよ」
ティアナは会話中カエデの方をチラリと見てから言い直した。
確かにカエデが元の姿に戻ったら歩くたびにこのような地響きが起きそうだ。
だが見える範囲には何も見当たらない。
障害物になりそうなものといえば遠くに森の一部が見える程度だ。
さすがにあの距離であればたとえカエデが元の姿であってもハッキリ分かるほど足音を立てるとなると余程強く地面を踏みしめねばならぬだろう。
原因は別か、とシュウが森から目を離したその時、ティアナの顔が一気に強張ったのに気づいた。
「ティアナ?何か見つけた?」
「あ・・・」
ティアナは一点を見つめたまま声がでないようだ。
周りを見渡すと回復した冒険者達もティアナと同じ方向を見て固まっていた。
その方向とはシュウが先程まで見つめていた森の方角であり、そこに異変があるようには見えなかった。
不思議に思ってシュウが再びそちらに目をやると・・・森がなくなっていた。
綺麗さっぱり消えたわけではない。
残骸と呼べるシロモノが倒れているのが見える。
無残にも『踏み倒された』木々によりあの一帯は見通しが良くなりそうだ。
・・・出てきた『それ』がいなくなれば、だが。
「・・・俺の目がおかしくなったかな?」
「奇遇ですねシュウ。私の目もおかしくなったようです」
二人同時に目がおかしくなるなんて奇遇なこともあるものだ。
いや、周りの冒険者も同じ行動をしていることから全員の目がおかしくなっている可能性すらある。
シュウがそう思いつつも目がおかしくなったと判断して無かったことにしたかった『生物』を再度見つめる。
見た目は地球で言うところのカメ、それもワニガメと呼ばれるものに近い。
テレビなどで果物や硬いものをその強靭な顎の力で砕いているのを見たことがある。
体長も大きくなると1メートルを超え、仮に日本でそんな大きさのワニガメが発見されればそれなりのニュースになるだろう。
余談だがシュウは密かにワニガメが気に入っている。
ゴツゴツした甲羅にその厳つい面構えがシュウの厨ニ心をくすぐるのだ。
だがそんなシュウでも危険で有名なワニガメを間近で、それも囲い等のない状況で対面したいとは思っていなかった。
・・・それが森の木々を楽に押しつぶせる大きさとなればなおさらだ。
森から出てきたのは高さ的には木々と同じくらいの約5メートルほどだろうか。
高さでそれなのだ。全長など恐らく20メートルは超えるだろう。
カエデの元の大きさより更に大きい。
そんな生物がカメよろしくゆっくり、だが確実にこちらに歩いてきているのだ。
「何だ、あれ・・・」
冒険者の誰かがそんなことを呟いた。
だが、誰も答えられない。
答えられないというか答えを持ち合わせていないのだ。
そんな唖然とした空気が漂うなか、さすがというべきか最初に我を取り戻したのはギルマスだった。
「あれは・・・まさか王亀か?」
「王亀?」
「そうだ。王都近くの森の奥に生息している大型の亀だ」
「それってあんだけ大きいのですか?」
「いや、王亀はどれだけ成長しても2メートルを超える程度にしかならん。だがあれを見ろ。黒い体表に赤いライン・・・魔獣化しておる」
シュウの質問に彼なりの答えを出すギルマス。
その答えは的を得ていた。
森から出てきたその巨大な生物はシュウが先程全滅させた魔獣と同じ特徴を持っていた。
つまり魔獣化していると見て間違いない。
だが気になることがあるのでギルマスに更に質問をぶつける。
「王亀って魔獣化するとあれだけ大きくなるのですか?」
「いや、魔獣化した王亀自体珍しいのだが、その発見された個体も大きくて倍の大きさ程度だったらしい」
「多分10倍の大きさはありますね・・・」
「くっ、あれはマズイぞ・・・」
ギルマスが焦りの色を見せる。
本来ここに来た目的は獣の大群が王都に押し寄せてきているから、だったため持ってきた装備も小回りが効き、威力よりも手数を重視した装備のみだったのだ。
いや、仮に大型兵器、例えばバリスタのような物を持ってきていたとしてもあの王亀には大した効果があるとは思えないのだが。
それほどまでに巨大な相手なのだ。
遅刻してきたのだからおとなしく廊下に立っていて欲しい、と思わなくもないが現実逃避している場合では無さそうだ。
「お前さんの魔法で何とかならんか?」
「・・・やってみます」
ギルマスの要請によりシュウは地面を蹴ると王亀の方向に向かって飛び始めた。
近づいて頭上から見るとその巨大さは眼を見張るものがある。
まるで動く要塞である。
これほど大きな生き物だと先程放ったような『千雷』では一発一発の威力が低すぎて大したダメージにならないだろう。
そう思ったシュウは恐らく今開発済みの魔法の中で一番威力が高いと思われる『雷槍』をぶつけることにした。
「・・・行くぞ!雷槍!!」
溜から発射された雷の槍は真っ直ぐ王亀の甲羅へと吸い込まれた。
ちなみにカエデと戦った時より魔力の運用が上達しており、少ない溜め時間で威力が高まったものを撃つことが出来るようになっている。
そんな雷槍が直撃し、周囲にはスパークが迸っている。
水でヘタに分散させることもなく、甲羅を貫通せんと放たれた雷槍であるがその結果を十全に残せるものではなかった。
甲羅に刺さり電撃の猛威を振るっていたはずの雷槍はある瞬間フッと消えてしまったのだ。
「なに!?」
これにはさすがのシュウも驚く。
この世界で最強とさえ言われているドラゴンのカエデでもかなりの大ダメージを与えた魔法なのだ。
それが甲羅の一部が多少焦がした程度で消えてしまうなど予想外もいいところだ。
シュウの攻撃など全く意に介さず王亀は王都に向かい更に歩みを進めている。
シュウはありったけの魔法を手当たり次第に打ち込み始めた。
「炎柱!水龍!!風刃!!!千雷!!!!」
だがどの魔法も大した効果を見せず消え失せてしまう。
ならば、とシュウは直接手にした刀で斬りかかることにした。
魔力による身体・武器強化全開状態で、だ。
「うおおおおお!!!」
王亀に向かい全力で落ちていく。
そして刀が甲羅にぶつかる。
ガキンッ
まるで金属同士がぶつかるかのような音を立てて刀が弾かれた。
鉄をバターのようにスライス出来る刀だが王亀の甲羅相手には全く刃が立たなかった。
それならば、とシュウは王亀の首を狙って再度斬りかかる。
さすがに甲羅ほどの硬度は無いのか刀がその肉体に食い込む。
だがそれも僅かであり、仕留めるには程遠い。
それでも甲羅に当てた時よりダメージがあったのか王亀は頭を振る。
頭だけでも数メートルの大きさがあるため頭を振ったその動作により首部分に斬りかかったままの体勢だったシュウは思いっきりぶつかり弾き飛ばされてしまった。
弾き飛ばされた方向は偶然にも冒険者のいる方向であり、途中で速度を落として何とかその側に着地することが出来た。
「大丈夫っすか!?」
「なんとか、ね」
「大きい上にシュウさんの攻撃が効かないなんて凄いですねぇ」
「全くその通りですね。どうしましょうか」
「こうなったら我が・・・」
「それはやめておこう」
仲間たちが心配して駆け寄ってくれたのは嬉しいが、カエデが真の姿に戻るのだけは最終手段としておきたい。
できれば怪獣対戦は見たくない。
仲間に遅れること少し、ギルマスも駆け寄ってきた。
「おお、無事じゃったか」
「ええ。ですがあれはマズイですね。私の魔法が殆ど効きません」
「見ている時も思ったがやはり、か・・・。おとなしく森に帰ってくれるとありがたいんじゃがのう」
「さすがに無理でしょう。私が多少ダメージを与えたことで怒ってしまったようですし」
シュウの言うとおり王亀は先程より早い速度でこちらに向かってきている。
時間の猶予は残されているが、打開策が思い浮かばないので会敵した時が敗北の時なのだ。
シュウは頭を巡らせて対策を考える。
「ギルマス、通常の王亀はどうやって倒すのでしょうか?」
「む、あやつらは動きが鈍いので普通の冒険者であれば追いつかれることはまず無い。
その遅さを利用して罠のあるところまで誘導し仕留めるのが一般的じゃの」
「罠とは?」
「多いのは落とし穴じゃな。一度ひっくり返ると中々起き上がれんからの」
「落とし穴か・・・。でもあの巨体を落とすだけとなると」
「うむ、ここに来るまで、いや王都に着くまでの時間を考えても完成させることはできんの」
「ですよね。他に何か弱点は無いのですか?」
「ふむ・・・。おお、ひとつあった。あやつらは背中側の甲羅よりも腹側の方が薄い。
いや、脆いというべきかの。それに重要な臓器なども腹側にあるのでダメージが通りやすいはずじゃ」
「腹側、ですか」
「あぁ、つまりひっくり返さんと手が出しづらいの。下に潜り込んではそのまま押し潰されるのが落ちじゃ」
確かに高さが5メートルほどあるため普通の大きさの王亀よりは簡単に腹の下に潜り込めるだろう。
だが、それをやると確実に潰されて終わりだ。
つまり安全に攻撃するにはやはりひっくり返さないといけない。あの巨体を、だ。
「むぅ、まずは弱らせんと話にならんの」
そう言ってギルマスは悠然と駈け出した。
その行動にシュウのみならず冒険者全員が驚いているとあっという間に王亀の近くまでたどり着いたギルマスがその大剣を振りかぶる。
そのまま王亀の足へと剣が振り下ろされる。
シュウは先程自分の刀が足よりも柔らかそうな首の部分でもめり込んだ程度で止まってしまったのを思い出し、ギルマスの攻撃も同じくらいで終わるだろう、と予想した。
だが、結果は異なる。
驚くべきことにギルマスの大剣は途中で止まることなく王亀の足を切り裂いたのだ。
これにはさすがの王亀も足をとめ悲鳴のような鳴き声を上げている。
ギルマスは続けて二撃目を放とうとしているが、それは王亀の足が振るわれ、先ほどのシュウと同様にギルマスが吹き飛ばされたため行われることは無かった。
シュウはギルマスが吹き飛んだ先へ急いで向かった。
最悪の場合回復魔法の出番かと思ったからだ。
「ギルマス!大丈夫ですか」
「ぬぅ、上手く斬れたからそのまま続けたかったんじゃがのう」
驚くべきことにギルマスは無傷であった。
地面を転がったため装備こそ汚れているが、体そのものには何の影響も無かったらしい。
さすが人族最強と言われるだけのことはある、とシュウは思う。
「ところでどうやって斬ったのですか?私がやった時は途中で止められてしまったのですが」
「ん?ワシはただ単純に斬り抜いただけじゃよ?・・・そういえば途中で何か抵抗があった気がするのう」
どうやら抵抗があったらしいがそのまま力で振りぬいたらしい。
『パワーは力』を地で体現したらしい。
だがシュウにはある仮説が思い浮かぶ。
ギルマスが大丈夫そうなので、急いでカエデの元へと向かう。
「カエデ!」
「む、主殿。我の出番かの。どれ今から変身して・・・」
「いや、違うんだ。聞きたいことがある」
「聞きたいこと?」
「あぁ。実は・・・」
自分の出した仮定が打開策になることを信じてシュウはカエデにあることを聞くのであった。
一瞬王亀vsカエデ(竜)をやろうと思ったのですが、収集がつかない上にシュウが空気になってしまいそうなのでやめておきました。




