第04話_助けてもらえるようです
必死に自分は盗賊でないし怪しいものではないと説得した結果、ほんの少しだが警戒を解いてもらえたようだ。
剣を構えないまでも手にしていることには違いないのだが。
それでも切っ先が自分に向いているのといないのではずいぶん緊張度が違うためさっきよりは話しやすい。
「で、君は何でこんな所にたった一人でいたんだ?」
異世界から来ました、など怪しいことを言ってしまえばまた剣が自分に向くのは確実なので誤魔化す方向に全力を出す。
何故ここにいるのか自分でもわからない。気づいたら何も持っていない状態で平原に立っており助けを求めてさまよっていると運良く馬車が通りかかり藁にもすがる思いで助けを求めた、と。
周囲に誰か隠れられるような場所もなくシュウの状況をみると嘘は言っていないことは信じてもらえたようだ。
冒険者風の男はアランと名乗ると馬車の方に声をかける。
馬車から降りてきたのは斧を背負った大柄な人物と弓を手にした女性だ。
女性の方はアランと同じで周囲を警戒しつつもシュウを油断なく観察している。
遠距離武器も気になるのだが、さらに気になるのはもう一人の斧を背負った人物のほうだ。
戦斧というやつだろうか、前の世界のホームセンターで見るような手斧とは形も大きさも異なる戦うことに特化してそうな斧を持っているが、武器よりも風貌がより異世界っぽさを出している。
何故ならその人物はアランや女性のような人間ではなく狼のような顔をしていたのだ。
所謂獣人というやつであろうここが前の世界と根本的に異なるという事を強烈に印象づかせるその人物は何やらニヤニヤと笑っていた。
「おいおいアラン、また簡単に人を信じちまったのか?」
笑いながらもどこか余裕のある人物が言うと
「だってどう見ても嘘を言ってるようには見えないしさ。それにそんな顔してるってことはゴルドもそう思ってるんだろ?」
ゴルドと呼ばれた人物は目をつむり肩を軽く竦めてみせる。
そこに弓を持った女性が会話に入ってくる。
「全くあんた達二人はいつも考えが足りないんだよ。それでいつも振り回されるアタシの身にもなれってんだ」
「そうは言っても困ってるのは本当のようだし、それなら助けたいじゃないか」
「こいつの演技が上手いって可能性もあるし信じるには証拠が足りないって言ってるのさ
」
「嘘だったら僕が何とかするし、助けてあげようよ」
「はぁ、全くあんたは・・・いいよ。ただしあんたが責任とりなよ」
「ありがとうイリーネ!」
どうやらこの場で切り捨てられたり見捨てられたりすることはないようだと安心しているとアランが近づいてくる。
「近くの街まで送っていってあげようと思うだけどそれでいいなら付いて来るかい?」
「お願いします!」
なんとか異世界最初の窮地を乗り切るとシュウは緊張から忘れていた喉の乾きを思い出した。
馬車に積んであった水を少し分けてもらいようやく一息つけたので馬車に乗せてもらい出発することが出来た。
◇◆◇
移動する馬車の中でさっきは記憶が怪しいという設定で説明していたのでアランたちからこの世界について色々と教えてもらうことになった。
曰く、この世界はヒースと呼ばれている。
曰く、今から向かう街はラグスという名前であり馬車でここから約二日である。
曰く、アランたちは草原の狼という冒険者パーティーでDランクで一人前冒険者の部類である。
そしてシュウが一番気になっているゴルドと呼ばれる狼のような人物についても教えてもらうことが出来た。
彼は獣人と呼ばれる種族で狼のような特徴を持っているが、他の動物の特徴を持った種族もいるということ。
ゲームであるような人種差別は基本的に受けておらずそんなことをするのは一部の人間至高主義者くらいであること。
アラン、イリーネとは同じ村の出身で彼らよりも先に冒険者として活動しており村から出てきた彼らの兄貴分ということを教えてもらった。
ちなみに草原の狼というパーティ名はゴルドがいたからつけたそうだ。
他にもお金のことや冒険者について、この世界には貴族や王族といったものがいるということも教えてもらいファンタジーな世界にワクワクが止まらないシュウであった。
基本登場人物はいい意味でも悪い意味でも裏表のない性格となります。
裏のある人物描写が上手く出来ないので。