第15話_王様はお茶目さんでした
「それで要件というのは何でしょうか?」
「お主もせっかちよの」
「早く帰って仲間たちを安心させてあげたいので」
「ふむ、それならば仕方ないの。実はお主に頼みがあったのじゃ」
王は神妙そうな顔をシュウに向けた。
それに対するシュウは何を言われるのかまったく予想がつかない。
そもそも王とあったのは今日が初めてなのでどのような性格なのかもいまいち掴めていない。
ヴィアーノを追い詰める手際を見れば狡猾そうな印象を受けるがギルマスとの会話を聞く限り気さくな面もあるようだ。
だが仮にも一国の王なので油断しているとこちらが食われてしまう可能性もある。
何を言われても即対応できるように身構えると王が再び口を開いた。
「ヴィアーノの件を調べていて分かったのじゃが・・・お主が魔法を使えるというのは本当か?」
「魔法、ですか」
王が自分に頼みたいことと言うのは魔法絡みのことか、とシュウは考えた。
なるほど、確かに自分はこの世界で強力な部類に入る(とシュウは思っているが実際は最強クラス)魔法を使える。
その魔法を使って何かして欲しいのかも、と予想を立てつつ会話を続ける。
「確かに私は魔法を使えますが、それに関係あるお話なのでしょうか?」
「うむ。実はの・・・」
ここに来て王は若干話しにくそうな雰囲気を醸し出し始めた。
余程の厄介事なのかとシュウの警戒心は更に上がる。
「全く、一国の王が何をモジモジしておるか。さっさと話さんか」
「いや、しかしのう」
そんな王を見てギルマスが口を挟むが王は言いにくそうにしている。
「早うせんか。でないとワシがシュウを連れて帰るぞ?」
「待つのじゃ。分かった、今から話すから待つのじゃ」
いい加減早く要件を話して欲しい。
だが相手は王なので強くも言えない。そんなジレンマを抱えつつシュウは王が話し始めるのを待った。
「実はの・・・余は魔法に憧れていての」
「・・・はい?」
「だから魔法に憧れておるのじゃ。それで魔法を使えるというお主と話をしたかったのじゃ」
老人と言っても良い年齢の男性が照れないで欲しい。
誰得展開だ、とシュウがやや現実逃避していると、ギルマスが再び助け舟を出してくれた。
「ほれ見ろ。お前が変なことを言うからシュウが固まっておるではないか」
「何を言う!現代にほとんどおらん魔法使い、それもお主に勝つような強力な人物じゃぞ!?緊張するなという方がおかしいわい!」
「お前のう・・・。一応お前はこの国の王で相手は一介の冒険者じゃぞ?どこに緊張する要素がある?」
「お主には分からんわい!先程までだって余がどれほど緊張して話していたと思う?」
どうやら裁判の間ずっと王様は緊張していたらしい。
ここでようやくシュウが現実に戻ってきた。
「あの」
「な、なんじゃろうか」
シュウが話しかけると目に見えて狼狽し始める王。
何だこの状況、と思わないでもないがそこは敢えて無視する。
「えっと、確かに魔法は使えますが、私は一体何をすれば良いのでしょうか?」
「何をとは・・・何をしてくれるのじゃ!?」
「あ、いえこの場で披露しろと言われるのかと思いまして」
「なんと!?見せてくれるのか?」
「小さいのでよければ、こんな風にお見せできますよ。火よ」
シュウは人差し指に火を灯してみせる。
その瞬間、王はものすご勢いで立ち上がった。
「おおおお。これが魔法の火か」
「あ、本当に熱いので気をつけてくださいね」
「うむ。すごいのう。お主は熱くないのか?」
「はい。自分の魔力で手を保護していますので」
「なるほどのう。・・・いやぁ、こんなに近くで見るのは初めてじゃ」
「えぇと、もう消しますね」
長時間見つめられても居心地が悪いので魔法を消す。
その瞬間とても残念そうな顔をされたがシュウは自分を優先した。
「いいものを見せてもらった。感謝するぞ」
「いえ。・・・今まで魔法を見たことがないのですか?数は少ないですがこの王都にも何人か魔法使いの方はいらっしゃると思いますが。それに魔法学校もありましたし」
「それがのう・・・大臣たちに頼んでも連れて来てくれなかったのじゃ」
「はぁ」
「それはそうじゃろう。お主は王なのじゃ。そのような者を近づけさせるわけにもましてや謁見する時間もないだろうに」
「皆そう言うのじゃ!だからこっそり抜け出して見に行こうとしたのじゃ!そしたら見つかってすごく怒られたのじゃ」
そう言って肩を落とす王。
シュウはこの人何してるんだろう、と本気で思う。
「そうしたらヴィアーノの件に魔法使いが関わっていると言うではないか!じゃからヴィアーノを失脚させるついでにお主と話せると思ったので呼び出したのじゃ」
「いや、そのついでには呼ばれたくなかったのですが」
「こうでもしなければお主と話が出来なかったのじゃ!だから許すのじゃ!」
「まぁ、いいですけど」
「それにお主はこの男と戦った時どのような魔法を使ったのじゃ?炎で焼きつくしたのか?水で溺れさせたのか?」
「そんな魔法を食らったらさすがのワシでも今こうしておらんわ!それにさすがの此奴でもそこまで強力な魔法は・・・使えんよな?」
「あははは・・・」
乾いた笑いで流そうとするが、そうは上手くいかずにその意味をギルマスが悟り苦笑いを浮かべている。
「ギルマスと戦った時は剣での勝負でしたので魔法は補助的なものしか使っていません。
私は魔法使いではなく魔法剣士ですので」
「魔法剣士とな?だがお主の荷物には剣など無さそうじゃが」
「あぁ、それはここに連れてこられる前に仲間に預けたんですよ」
「ふむ。それは魔法剣というものかの?」
「いいえ。そのような物ではありませんよ」
魔力で作り出しました、とは言えないのでこれも適当に流しておく。
こうして王により魔法に関して様々な質問をされ、その全てに答えるということを続けているとすっかり外が暗くなっていることに気づいた。
「あ、外も暗くなっているので私はそろそろお暇したいのですが」
「むぅ、じゃが今日を逃せば次はいつ魔法について話を聞けるか分からんしのぅ・・・」
「あー、分かった分かった。ワシが何か考えておいてやるから今日のところは我慢しておけ」
「約束じゃぞ?約束を破ったらギルマスを首にするからの!」
「はぁ、またそれか。分かったからワシ等は帰るぞ」
そういってシュウの肩を押しながら謁見の間を後にした。
「あの、良かったんですか?ヘタするとギルマスを首になるようですが」
「別に構わんよ。そもそもギルマスをやっているのだってアイツに無理やりやらされているのだし」
「そうなんですか?」
「うむ。ワシはただの冒険者の方が良かったのだが当時のギルマスがどうにも堅物だったらしくてあの王と反りが合わなくてのう。引退するのに合わせて昔からの知り合いだったワシを推してきたのじゃ」
「昔からの知り合いというと?」
「まだワシ等が若かった頃モンスターの大規模な襲撃があってのう。そこで活躍したもんで王城で褒章を貰ったのじゃ。
アヤツはまだ王子だったのだが性格は変わっていなくて自分の好きなものになるとトコトン突っ走るやつだったのじゃ。
それでワシほどの強さがあれば様々な強者に巡り合うだろうと、そしてその中には魔法を使うものもいるだろうということで、そういった人物と会ったら報告するように命令されたのじゃ。
そこから今のような関係が続いておるわい」
「はぁ、それで私の前にもそのような人物はいたのですか?」
「お主ほどの強さを持ったものはおらんかったが、それこそお前さんが言っておった魔法学校の講師をしておるカームの話とかはしたのう。
呼びだそうとして周りの者に止められていたがの」
「なるほど、つまり今回は貴族の件も絡んでいたので呼び出すには条件が充分揃っていた為に私が呼び出された、と」
「そういうことじゃな」
全くもって厄介な人物である。
そう思ったが今話している人物も興味があるということでラグスの街から自分を呼び出し、模擬戦を挑んできたので同じ穴のムジナのようだが。
そういった意味を込めて視線を送ったが全く気づかれていないので疲労感がやってくる。
今日は朝一のギルドで捕まり、牢屋に入り、裁判を経て魔法について質問攻めにされていたのだ。
無事に開放されたので良かったのだが、とても疲れる1日だった。
ギルマスと2人王城内を歩き、何事も無く門のところまで着くことが出来た。
「さて、本来はお主を宿まで送って行かねばならんのだが・・・、どうも簡単にはいかないようじゃな」
「え?」
またトラブルか、と思ってギルマスの視線の先を見るとティアナ達が立っていた。
彼女らはこちらを見て固まっていたかと思うと全員が走ってシュウの元へやって来た。
「シュウ!無事だったのですね」
「ティアナ?宿屋で待ってなかったの?」
「シュウさんが捕まっているのに宿屋なんかで待ってられないっす!」
「全然落ち着かないのでここまで来ちゃったんですぅ」
「そうじゃぞ。あと少しで正面突破しようと思っておったところじゃ」
どうやら危機一髪で王城襲撃事件の発生を防げたようだ。
「はっはっは。お主ら随分仲がいいのう」
そこで仲間たちはこの場にギルマスがいるのに気づいたようだ。
恥ずかしそうにシュウから距離を取るが既に手遅れだったようで王城前にはギルマスの笑い声が響いているのだった。




