第12話_裁判らしいです
シュウがヴィアーノ邸で仲間たちに爆弾発言をしてから数日、一行に漂う空気はようやく元通りになりつつあった。
特に翌日などは前日に予定していた狩りが出来なかったので代わりに行ったのだが、狩りの最中もどこかソワソワとした空気が漂っており、いつもの半分程度の成果しか出来なかった。
それでも数十匹を狩った当たりはさすが、というべきだろう。
ちなみにだが、王都についてから行っている狩りで一行のレベルは上がったのだがギルドランクは一切の変化がない。
経験値的なものは獣を狩ることでも得ることが出来るのだがギルドランクを上げるためにはカードに記録されるモンスターの討伐数も重要な要素になる。
その討伐数が獣を狩るだけでは全く延びないのだ。
そもそもモンスターを討伐した時にモンスターから排出される魔素という物を感知して討伐したモンスターの種類と数を記録するらしいのだが、魔力溜まりから生まれるモンスターと違い普通に親から生まれてくる獣は倒しても魔素が出ないため記録できないのが原因らしい。
それを説明してくれたのは王都のギルド受付嬢だが、彼女も詳しくは分からず、そういうものだという認識らしい。
この世界において生活を便利にしてくれる魔道具と呼ばれる物はその大体がコアな部分がブラックボックスとなっており、きちんと解明できているものは少ないのだ。
だから、ギルドランクを上げたければモンスターを、金を稼ぎたければ獣をという認識だけ持っている冒険者が多いのだ。
シュウたちも知らないで特に困ることはないのでその認識に従うことにしている。
一行が仕留めたうち、ギルドに納めているのは毎回数匹程度だ。
理由はあまり大量に持って帰ると怪しまれるから、と至極単純なものである。
毎回数匹でも納めれば必要な分の生活費は捻出できるため、あまりは孤児院へ渡す分やいざという時の非常食扱いとしている。
それでも既にシュウの収納袋の中には数百匹の獲物が眠っているため、余程の状況でも無ければシュウ達に限っては食料の心配はない。
というかその食料が全てなくなるような状態など絶対に厄介な状況なので陥りたくは無い、というのもあるが。
さて、この日も毎朝恒例のミーティングである。
「皆、おはよう。今日もギルドへ行って狩りに出かけようと思うんだけど何かある?」
「我はそれでよい」
「私もですぅ」
シュウの呼びかけにカエデとリエルが答える。
この2人に関しては比較的早い段階で通常の状態に戻っていたため、シュウの呼びかけに最初に答えるのはここ最近の恒例となっていた。
「うちも無いっす」
「私もそれでいいです」
フィアとティアナが普通に接してくれるようになったのは昨日辺りからだったためシュウとしてはようやくか、という思いでいっぱいだ。
「あ、そういえば・・・」
「ん?ティアナ何かある?」
「いえ、今日の予定には何も無いのですが、ちょっと思ったことがありまして」
「狩りに関係ある?」
「狩りではないのですが、シュウ、あなたには関係あることですね」
「なんだろう?」
「この間の貴族がいるじゃないですか。あの人が思ったよりもおとなしいな、と思いまして」
そう、シュウによって威圧され、失禁したうえで気絶したシュウ命名『豚貴族』はあれから目立った動きを見せていない。
あれほどプライドが高く、冒険者や平民を下に見ている人物が何もしないなど考えられなかったため、あれから少しの間は警戒していたのだ。
だが予想に反して全く何のリアクションも取っていないように見えた。
てっきり再び呼び出されでもするのだろうと身構えていたこちらとしては肩透かしを食らった気分なのだ。
それでも何かあるよりはいいという判断でここ数日を過ごしていた。
そんなことを言われたシュウとしてはまた嫌な予感を感じ、ティアナにこう返した。
「ティアナ、それフラグ・・・」
「?」
以前にも同じようなことがあったなぁ、と思い返すシュウであった。
◇◆◇
嫌な予感はしつつもいつも通りギルドの前に到着したシュウ一行であるが、この日はいつもとは違った雰囲気が漂っていた。
冒険者ギルドには毎日武装した人々が通っているため、武器を持ち鎧を装備した者たちがギルド内にいても何の不思議もない。
だがその鎧が全員同じものであり、冒険者が好む動きやすさや軽さを重視したものとは違い、フルプレートの全身鎧で同じ紋章を胸のところにつけているとなると少し状況が変わってくる。
鎧をつけた騎士のうち、他よりも多少装飾のついた鎧をつけた人物がシュウの方を見る。
すると他の鎧騎士が統率の取れた動きでシュウたちの周りを囲んでしまった。
仮にこれがガラの悪い冒険者に囲まれただけであれば軽くのして終わりなのだが、どう見ても相手はただの冒険者に見えず、むしろ朝のフラグ回収以外の何物にも感じれなかった。
「冒険者パーティ『黒の刃』のシュウだな?」
「はい。私がシュウですが、これは一体何でしょうか?」
「貴様には貴族に対する脅迫、暴行の容疑が掛けられている。一緒に来てもらおうか」
シュウは見事に嫌な予感が的中し、ため息をつく。
「拒否権は?」
「あると思うか?」
「はぁ、今回は私だけでいいのでしょうか?」
「ああ。お前だけを連れてくるように命令を受けている」
「分かりました。ティアナ、ちょっと行って誤解を解いてくるよ。皆で宿屋で待ってて」
「ダメです!たとえ真実と異なっても貴族の言うことが正しい事になっていまします!」
「貴様、それは貴族全体に対する侮辱か?」
隊長と思わしき人物がティアナを見据えるが、ティアナは全くひこうとしない。
「ティアナ。こっちは俺がなんとかするから心配しないで待ってて」
「ですが・・・」
「大丈夫さ。なんとかなるって。あ、これは預かっててね」
そう言ってシュウは腰に差していた黒刀をティアナに手渡す。
ティアナは渋々と受け取りながらも納得した様子はない。
「今回のことはきちんと説明すれば大丈夫だって。じゃあちょっと行ってくるね」
ちょっとコンビニ行ってくる的なノリで連行されるシュウだが、最悪の場合おとなしく捕まっているつもりはない。
だが何らかの手段で脱出しようとした場合、仲間と分断でもされていれば探す手間が発生してしまうので、あえて最初から別行動とし居場所をハッキリとさせておこうと思っての行動だった。
ティアナも察しはいいほうなのでシュウが言外にそう言っているのはすぐに分かった。
しかしそれは自分たちがいると足手まといになると言われたにも等しく、歯がゆい気持ちになってしまったのだ。
ティアナ以外の仲間も自分自身の力の無さに悔やんでいるがシュウが連行される様子を黙って眺めるしか出来ないのであった。
◇◆◇
「さて、定番の地下牢だな」
シュウは1人つぶやく。
連行されて来た先は王城の地下にある牢屋だった。
何故王城の地下に牢屋が、とか罪人を牢屋とはいえ王城に入れてもいいのか、といった疑問は浮かんでくるが、答えが返ってくるわけでもないのでそういうものだ、と思うことにする。
ちなみにシュウを連行してきたのは王都の警備部隊のひとつであり、日本で言うところの警察のような組織のようだ。
警備部隊は王様直轄で近衛兵のような扱いを受けているらしい。
何故そこまで知っているのかというと連行中に直接聞いたからだ。
最初は何も答えてくれなかった警備隊の隊長だが、シュウがあまりに自然体なことに毒気を抜かれ、容疑者であることすら忘れかけてしまったため質問に答えていた。
シュウとしては警察のような役割をする組織の人間がそんなことでいいのかと思わないでもないが、それをやったのが自分であるため深くは追求しないつもりだ。
「定番の魔法を封じる腕輪とかも無いんだよなぁ。こういう時は魔法が衰退していて良かった、というべきなのかな?」
シュウがされているのは普通の手錠のような腕輪であり、シュウが身体強化で壊したり、直接魔力を流して魔鋼の砂にしても解除は容易そうだ。
それに牢屋も鉄製なので脱出する労力も少なく済むだろう。
だが、即脱出してもお尋ね者としてこの国にはいられなくなるため脱出は最終手段にとっておくことにした。
やることもないのでとりあえず、といった感じでシュウはお粗末なベッドに横になり、何か動きがあるまでダラダラすることにしたのだった。
◇◆◇
「・・・おい、起きろ!」
「・・・ん?どうかしました?」
「来てそうそう牢屋で寛ぐとかお前が初めてだよ!」
「いやぁ、やることがないもんでつい」
「まぁいい。お前の処分は我が国の王が直接言い渡されるそうだ」
「王様が?そりゃまた豪勢ですね」
「お前が手を出したのはこの国でも有力な貴族だからな。それにしても話が大きすぎると思うが」
シュウを呼びに来たのは連行された時の隊長であった。
牢屋の中であまりに我が物顔で過ごしていたシュウを見て少し顔が引き攣っているが職務を全うするためシュウを再び連行するようだ。
「いいか、王の目の前で変な気は起こすなよ?」
「何かしたくても手錠をされて武器も持ってないんですよ?普通は何も出来ませんよ」
「それはそうなんだが・・・。お前を見ているとそれでも何かしそうで怖いんだよ」
「む、失礼ですね」
適当に話を進めていくが、言っていることは決して間違ってはいない。
シュウはあくまで『普通は』という話をしているのであってそれが自分に当てはまるとは言っていないのだから。
「それにしてもずいぶん早いのですね。てっきり明日以降になると思っていましたが、まさか午前中に捕まって午後には連れ出されるとは」
「確かにこの早さは今までにないな・・・。相当根に持たれているらしいな」
「なんのことやら」
「お前・・・。まぁ、いい。ここが王たちのおられる謁見の間である。以後勝手な行動はしないように」
「なるべく静かにしていますよ」
「・・・」
全く信用ならない、と言いたげな表情でシュウを見る隊長だがシュウはどこ吹く風だ。
何か言いたいがこのままここで話していても王の不興を買うだけなので自分の仕事を遂行するため部屋の中へ呼びかける。
少し待って入室許可が降りるとシュウを伴って中に入るのであった。
(・・・へぇ、これは)
中に通されるとシュウは不自然にならない程度に部屋の中を見渡した。
そこは謁見の間と言われるだけあって、豪華な調度品などが並んでいた。
しかし豚貴族の屋敷とは違い決して嫌味にならない程度であり、それに気品を感じさせる空間であった。
そして扉から真っ直ぐ伸びた絨毯の左右にはシュウを連れてきた隊長より更に上位と思われる騎士たちが並んでおり、普通の罪人であればここで何か行動を起こせる訳もない。
ただし、通常の罪人であれば王が直接処分を下すことも無いのでここに来る段階で普通の罪人とは言えないだろうが。
(で、あそこにいるのが王様ね)
騎士が並ぶ絨毯の先には小上がりのような空間となっており、そこには立派な椅子に座った、だがその椅子に全く負けていない存在感を放つ人物が座っていた。
身に着けている物やその貫禄から間違いなく王様というやつだ、と確信を持つ。
「ヴィアーノ様に暴行を働いた冒険者シュウを連行いたしました」
「ご苦労、下がってよいぞ」
「はっ」
隊長は頭を下げるとそのまま退室していった。
シュウは少しの間とはいえ会話をしていた人物がいなくなると少しさみしさを覚えるがそれよりも現状のほうが大事だ、と気持ちを切り替える。
「お前がシュウか。それではこれより今回の件について双方の話を聞くとしよう」
双方、という言い方に疑問を抱くが、その答えはとある人物が騎士の後ろから出てきたことで解決した。
「王よ、話をするまでもありませんぞ。この小僧は我が屋敷に乗り込んできて暴れた上、この我輩に怪我をさせたのです。即刻処刑にしても問題無いでしょう」
そう息巻くのは豚貴族その人であった。
だが、その容姿は以前とは違い、包帯であちこちを巻かれたいかにも重症という体を装っていた。
その重傷者が1人で立って元気に喋っているあたりで説得力というものが皆無ではあるが。
「ふむ、そうはいうがのヴィアーノ。双方の言い分をきちんと聞くのが仕来りというものだ」
「ですが・・・」
「これ以上妨害するというのなら結果が変わってくると思うがの」
「・・・分かりました」
豚貴族は王にひと睨みされるとおとなしく引き下がった。
どうやら一方的に処分を言い渡されるだけではなくお互いの主張を言い合う裁判のようだな、と冷静に思うシュウであった。
王様が登場しました。
登場人物が増えるたびに簡単なプロフィールを作成するのですが王様については難産でした。
偉い人ってどんな性格してるんだろうか。




