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第11話_我慢の限界です

「えぇと、彼女たちは私の仲間なので一緒に帰りたいのですが」


言葉が通じにくいと思いつつまだ丁寧な言葉づかいだけは止めないシュウ。

もともとシュウは貴族を敬うような習慣は無いので言葉の節々に適当さが垣間見えるが表面上は何とか取り繕っていた。

それでも限界というものはあるので多少視線を強めつつ聞いてみると、さも当たり前のように答えが帰ってきた。


「ふん、そこの女どもはこの我輩が面倒を見てやると言っているのだ。ありがたく思え」

「おっしゃっている意味がよく分かりませんね。もう一度いいますが彼女たちは私の仲間です。なぜ貴方が面倒を見ると言われるのでしょう」

「冒険者風情がまだ我輩に意見するか!ふん、ならば教えてやろう。吾輩は偉大な大貴族だ。金も権力もあるのだぞ?そんな吾輩が面倒を見てやるのだ。そこの女どもは幸せだろう?」


いかにも常識を語っているという口調だが、言っていることはやはり意味が分からない。

相手が自身に満ち溢れているため、この世界に来てから問題なかった翻訳機能がおかしくなったのかと仲間たちへ視線を向けるが、全員が嫌悪感に満ちた顔をしている。

やはりこの豚がおかしいのだ、と改めて答えを出す。


「彼女たちは誰もそれを望んでおりません。私たちはこのまま失礼します」

「な!まだ言うか!?そもそも顔のいい女冒険者がこの王都にいると聞いたから呼んでやったのだぞ?ならばその女どもを置いていくのが平民の義務というものだろうが!」


(なるほど、典型的な糞貴族ってやつか)


シュウは1人納得していた。

納得は出来たが状況は変わらない。

むしろ出入り口である扉の方にも男たちが回り込んでいたのだ。

無理やり出ようとしても邪魔されてしまうのは間違いない。

どうしたものかと考えていると我慢の限界だったのか女性陣からも声が出始める。


「いい加減にしてください。私たちは貴方の世話になるつもりはありません」

「そ、そうっす。うちらはシュウさんと一緒にいたいっす!」

「そうじゃ。我らは皆これからもシュウと共に冒険をしたいのじゃ」

「そうですぅ」

「ふん、貴様らは黙って吾輩の言うことを聞いていればいいのだ。なぜそれが分からん」

「だから何故貴様の言うことなど聞かねばならんのじゃ」

「我輩に向かって貴様、だと?なんと生意気な子供だ」


カエデが本来の姿であればこの王都中がパニックに陥るのだが、現在は人化の術で人間の姿になっており、さらにはその姿が普通の女の子に見えるため豚はまだ余裕を持っているようだ。

それでもカエデが切れて本来の姿に戻ったりしないか、と別の心配をするシュウとティアナだが、それでも無理に止める気がしないのはイライラが募ってきている証拠だろうか。


「まあいい。貴様らはおとなしく我輩に飼われていればいいのだ」

「・・・は?」


豚が何を言い始めたのか全く理解できない。

全員が同じ感想を持ったようで若干放心気味だ。

その表情にようやく少し満足したのか豚は更に続ける。


「ふん、ようやく吾輩の寛大な心が分かってきたようだな。最初からそうやっておとなしくしていれば良いのだ。そもそもこの我輩がわざわざ会ってやっておりのだぞ?その苦労もわかってほしいものだな」


人語を話しているとは思えないほどシュウの頭に入ってこない。

入ってこないが不思議と怒りの炎が燃えがってくるのだけは感じている。

そんなシュウの様子に気づいた様子もなく、徐々に豚の演説は熱を持ち始め自己陶酔しているようだ。


「心配せずとも貴様のもとにはいずれ返してやるさ。吾輩が飽きたら貴様の元へ送り届けてやろう。これで貴様も納得であろう?ぐふふ、大丈夫、最初は丁寧にあつかって「あ?もう一回言ってみろ豚野郎」・・・なんだと?」


自分の演説に夢中になっていたがシュウの発言はきちんと届いたらしい。


「貴様、今吾輩のことを何と呼んだ?」

「豚野郎って言ったんだよ、豚野郎」

「ぶ、豚?我輩を豚だと!?」

「豚に豚と言って何が悪い?それよりもお前さっき何て言った?」

「ぐぬぬ、またしても・・・。何度でも言ってやるさ。そこの女どもは飽きるまで飼ってやると言ったのだ!貴様の発言は水に流してやるからとっとと失せんか!!」


再び顔を赤くしながらもシュウを追い出しに掛かる豚と、シュウを排除するために距離を縮めてくる男たち。

だがそんなことは気にせずシュウは貴族を睨みつけている。


「何をしている!早くその男をつまみ出せ!だが、女どもには傷をつけないように「もう喋るな」だから貴様は出て行けと・・・ひっ」


豚はシュウの方を振り向くが思わず後ずさってしまう。

シュウの周りにいた男たちも同様だ。

仲間の女性陣ですらシュウから感じる圧力に固まっている。

そう、シュウは貴族のあまりな発言に怒りが頂点に達してしまい、所謂キレた状態なのだ。

それも魔力を全身に漲らせ、その圧力たるや本来魔力とは魔法にしないかぎり存在を感じることは出来ないのだが可視化出来るほどになっていた。

見えるまでになった魔力は周囲に風を起こし、何かの書類らしきものが宙を舞っており、その光景を見ている全員の一切の行動を封じてしまったかのようだ。


「な、な、な・・・なんだそれは!?」


戦いという物を知らないおかげか皮肉にも一番最初に我を取り戻したのはヴィアーノであった。

それでもすっかり尻もちをつきながら少しでもシュウとの距離を離そうと手足をバタバタとさせてはいるが。


「そんなことはどうでもいい。もし俺の大事な仲間である彼女たちに指一本でも触れてみろ。この屋敷まるごと吹き飛ばしてやるからな」

「ふ、ふざけるな!誰が貴様の言うことなど聞くものか!!これでも喰らえ」


ヴィアーノは手元に会ったらしいペーパーナイフのような物をシュウに向かって投げつけてきた。

投げナイフなどやったことは無いだろうがそれは奇跡的にもシュウの顔へ向かって真っ直ぐ飛んできた。

だが、シュウは焦る様子もなく片手で受け止めると、本当のナイフよりは切れ味が落ちるだろうがナイフには違いないそれを紙くずでも丸めるかのようにクシャクシャにしてしまう。


「鉄製のナイフを!?」


ヴィアーノの悲鳴など気にせずシュウはナイフだった塊を持った手をヴィアーノの方へ向ける。

手の魔力が強まったかと思うとそのままヴィアーノの顔の横を何かが通り過ぎ後ろの壁へとぶつかった。

丸めたナイフを風の魔法で打ち出したのだ。

それが命終すると壁の一部が爆発を起こしたように吹き飛び、その破片で近くにいた数人に僅かだが傷をつけていく。

その中にはヴィアーノも当然含まれており、頬を破片がかすったのか血が出ていた。


「ひいいぃぃぃぃぃ」


ヴィアーノは手足をより一層振り回しシュウから離れようと必死だが、その効果は全く出ていない。

更にはその股のあたりがうっすら湿ってきているのが分かる。

あまりの醜態にシュウは僅かに怒りが収まり、扉の方にいた男たちへ視線を向ける。

すると男たちはサッと扉までの道を譲り決してシュウと視線を合わせようとはしなかった。

そのまま帰るべくシュウは仲間たちの方を見る。

彼女たちはそんなシュウと視線が合うとぎこちなくだが帰るべく扉の方へを向かい始めた。

ちなみに先程壁を破壊した時さり気なく彼女たちを守るべく張っていた防御壁は既に解除している。

いくらキレても仲間への心配りは忘れない当たり流石である。

最後にヴィアーノの方を一瞥すると既に気絶していたようだ。

だが、誰も助けようとしないあたりシュウの威圧の凄まじさと彼自身の人望の無さが見え隠れしているようだ。

そのまま部屋を出ると執事が慌ててやって来てきたところに遭遇した。


「お、お客様!?一体何が・・・」

「お前のところの主人に攻撃されたので反撃しただけだ」

「な、なんですと!?」


執事は扉の中へ視線を送り、部屋の惨状を見てため息をついた。


「ご主人様は・・・どうやら気絶しおられるようですね」

「ふん、自業自得だ」

「ご主人様に何を言われたか分かりませんが大体想像できます。ご迷惑をお掛けしました」

「ふん」

「先代当主のころは良かったのですが、ご主人様の代になってからは王都の方々にも迷惑をかけるようになってしまいまして・・・」

「それを見ていてお前は何もしなかったのか?使用人とはただ主人に付き従えばいいのではなく主人が間違いを犯しそうになった時、それを正してやるものだと思っていたがな」

「ッ・・・」

「まぁ、いい。あの豚が起きたら伝えておけ。今後俺達に関わると痛い目に会うぞ、とな」

「・・・はい」


執事はそう言って部屋の中へ入っていった。

シュウはそれを見送り、そのまま仲間たちと共に屋敷を後にしたのであった。


◇◆◇


「・・・」

「「「「・・・」」」」


宿屋に着くとシュウの部屋に全員集合し、全員無言であった。

正確には屋敷を出てからずっと全員無言で宿屋まで帰ってきたのだが。

さらには貴族の部屋を出る時以来視線すら合わせてもらえない状態だった。

さすがにこの状態はツライのでシュウは勇気を持って声を出した。


「えっと・・・」

「「「「!」」」」


それに合わせて全員がビクリと体を震わせる。

若干傷つきながらも自分のやらかしたことで皆を怖がらせてしまったと思い反省する。


「さっきは怖がらせてごめんね」

「い、いえ。怖がってなんて・・・」

「そうっす。シュウさんはうちらの為に怒ってくれたんす!それを怖がるなんてとんでもないっす!」

「でも、皆あれから目を合わせてくれないし・・・」

「そ、それはさすがの我らもあのような事を言われては、な」

「そうですねぇ、シュウさんカッコ良かったですねぇ」

「え?」

「だから、あの貴族に向かって我らのことを大事な仲間と言ってくれたじゃろう?それがどうにも気恥ずかしくてのう」


カエデが若干顔を赤くしながら言うのを聞いてシュウは全員の顔を見渡す。

するとニコニコとシュウを見返しているリエル以外は顔を赤らめフイッと視線をずらす。

それを見たシュウも同じように恥ずかしくなってきて言い訳を始めた。


「あの時はさ、熱くなって思わず本音が出たというか・・・」

「本音ですか。じゃあ私達のことをそんなに思ってくれていたんですね」

「うぅ、なんか物凄く嬉しいんすけど恥ずかしいっす・・・」


ティアナはまだ赤い顔でシュウに笑顔を向け、フィアは狐耳をペタンと折りたたみつつも尻尾はパタパタと激しく揺れている。

カエデはいつもの不遜な態度は微塵もなく下を向きながらモジモジしていた。


「み、皆。とりあえず今日はゆっくりしよう!ね!!」


シュウは空気を変えるべく大きな声を出してみたがこの甘ったるい空気はなくなる気配を見せなかった。

結局夕飯の時間になっても空気は戻らず、翌朝になって少し緩和されたのであった。



貴族のクズさをもう少し書きたかったのですが、書いているうちに投稿者もイライラしてきたのでこの長さになっています。

最後の展開は気づいたらラブコメっぽくなりましたがどうしてこうなったかは投稿者にも分かりません。

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