第03話_異世界に到着しました
「ここが異世界か・・・」
シュウは誰にも聞こえないような音量で呟く。
だが特別小声だったわけではない。
仮にどんな大声だとしても誰にも聞こえないだろう。
なぜならシュウがいるのは何もない平原のど真ん中だからだ。
(しまったなぁ・・・出現地点のことも聞いておけば良かった・・・)
ついでに言えば服装は学校帰りであっためブレザーの制服姿だ。
剣と魔法の世界に来るにしては少々心もとない格好である。
しかし後悔はいくらしても何にもならない。
なので取り敢えず行動を起こすことにした。
「うーん、まずは身体能力から調べてみるか。
とは言っても周りには何もないし・・・走るか」
安直な考えで走り出すシュウ。
前の世界では100mも全力で走れば息切れを起こす程度の体力だったが今は5分ほど全力疾走してようやく呼吸が早くなるくらいだった。
「ふぅ、思ったよりも走れるなぁ。
じゃあ次は魔力かな?どうやって調べようか」
もちろん魔力なんて扱った経験は無いので頼みはゲームの知識である。
手当たり次第思いつく呪文を唱えてみる。
「ファイア!アクア!ウィンドッ!ロックッッ!!サンダアアアァァァァァァアアァァァァッ!!!!」
完全に痛い子である。
そして何も出る感じはしない。
「ハァハァ・・・やっぱりちゃんとした詠唱じゃないとダメか。
回復力は・・・今この状況じゃ確かめれないしなぁ」
ひとまず魔力については後回しである。
そして回復力については今現在怪我もしてないし周りに何もない状況でひとつ間違えると大惨事になることは目に見えているのであえて傷を作るつもりもない。
ちなみにシュウはまだ気づいていないが回復とは傷が治ることだけでなく体力の回復も含まれており、先程全力疾走してもほんの少ししか疲れなかったのは走りながら回復していたためだった。
「じゃあ次は人を探すか。体力も上がって長時間動けそうだし人に会うくらいまでならイケるだろう」
現状これ以上検証することはできないため人のいそうな方向へ歩き出す。
いそうな方向と言っても完全に当てずっぽうだ。
異世界に来て多少なりともチートの恩恵を受けたのでシュウはテンションが上っていて深く考えず歩き出すが周囲を見渡しても何も無いことが分かるほど広い平原で人に遭遇するのにどれだけ時間がかかるのか、そして体力が上がっても他の問題が残っていることに気づいたのは手遅れ一歩手前になってからだった。
◇◆◇
「み、水・・・」
どれだけ体力が上がろうと、すさまじい回復力があろうとも人は水がなければ生きてはいけない。
そんな簡単なことに気づいたのは歩き始めて5時間ほど経った時のことだった。
最初はそこまで高くなかった太陽も今は真上を過ぎている。
気温は真夏ほど暑いわけではないがそれでも温かいと感じるくらいだった。
そんな中ろくに休まず通気性が決していいとは言えない制服姿だ。
すでに上着は脱いで脇に抱えている状態になってもなお汗が止まらない。
この辺はいくら身体能力があろうとも避けられない問題なんだなぁ、と回らなくなりつつある頭で考える。
(いくらなんでもマズイぞ・・・異世界に来て速攻脱水症状で死んでしまう)
必死に少しでも進もうとしていると後ろから何やら音が聞こえてきた。
ここは異世界でモンスターもいるということをシュウは思い出す。
今までモンスターに遭遇しなかったのはただ単に運が良かっただけでついに発見され後ろから迫ってきたのではないか、そして今の状況では走って逃げることも難しそうだ。
シュウは軽く絶望しながら後ろを振り向く。
そこにはモンスターの姿はなく馬車のようなものが近づいて来ていた。
モンスターで無かったことに安心しながらもシュウは必死に考える。
あの馬車をスルーしてしまうと本当に倒れてしまうためその選択肢はない。
問題はどうやって助けてもらうかだ。
といっても出来ることは少ない。
なので両手を振り上げ手を降って自分の存在をアピールする。
「すいませーん、助けてくださーい」
前の世界でもヒッチハイクなんて知識でしか知らないことを異世界に来てから全力で行っている自分を何処か他人事のように感じつつ馬車が止まってくれることを必死に祈りつつ声を上げる。
祈りが通じたのか馬車はシュウから少し離れたとこで止まった。
そして中から人が降りてくるが、その出で立ちは燃えるような赤髪に金属製と思われる軽鎧を着て腰には長剣を装備していた。
(冒険者ってやつなのかな?)
と止まってくれたことに安堵して流暢に構えていたシュウは降りてきた人物の次の行動で青ざめることになる。
冒険者風の人物は油断なくシュウを観察するとおもむろに腰の剣を抜き放ってゆっくりと近づいてくる。
武器を装備した相手と向かい合ったことなど今までの人生で一度もない。
ヤバイと思いつつも今の自分の状況で逃げることは難しいだろうし、そもそも緊張のあまり動くことも出来ない。
何も考えられずにいると自分の数歩前のあたりで相手が止まる。
そして剣を自分に向けながらも周囲の状況を見極めているようである。
どのくらいそうしていただろうか、冒険者風の人物が口を開く。
「ここで何をしている?盗賊か?」
「ち、違います!ちょっと道に迷って困っているんですっ!」
こんな平原の真ん中で道も何もあったものではないが、斬りかかって来られると間違いなく死んでしまうため必死の説得が始まるのであった。
基本的に話が中々進みません