第10話_また呼びだされました
シュウたちが宿屋にてカームやユリスといった魔法学校の関係者による襲撃を受けるようになってから数日経ったある日のことである。
その日は森へ狩りに行く予定の日であり、いつも通り依頼を受けようとギルドへやって来たのだが、どうやらいつも通りであったのはそこまでであったようだ。
「え?呼び出しですか?」
「はい・・・。相手は貴族ですので断るのも難しいかと思います・・・」
ギルドの受付嬢が申し訳なさそうに言っているが、その様子からただの呼び出しではないようだと感じ取る。
一瞬この間魔法でやり過ぎたかと思ったがそうではないようだ。
「何か厄介な相手なのですか?」
「えぇと・・・。本来私達の立場では言えないことなのですが、ちょっと評判の良くない方でして・・・」
そこでシュウは理解する。
これは自分が知識として知っていてなるべく関わり合いになりたく無かった、所謂悪徳貴族からの呼び出しだ、と。
そしてここで断ったりボイコットしたりすれば何倍にもなって返ってくるやつだ、と。
正直面倒くさいのでこのままラグスの街へ帰りたいと思ったりもしたが、プライドの塊のような相手だった場合どれだけ離れようと国内にいる限り完全に逃れることは難しいというところまで予想したところで呼び出しに応じることにした。
「正直面倒ですが、行ってみようと思います」
「本当に申し訳ありません。皆さんでお越しくださいということでしたのでよろしくお願いします」
最悪自分一人で行くつもりだったがそれは叶わないらしい。
どうしても嫌な予感が拭い去れないシュウであった。
◇◆◇
「ここか・・・」
呼び出しをギルドで知らされてから1時間程でシュウたちは貴族の屋敷前に到着していた。
ギルドの受付嬢から教えてもらった情報によると、シュウたちを呼び出した貴族の名前は
ヴィアーノ・ダルタというらしい。
ダルタ家というのはこの国に昔からある貴族ではなく、ここ数代でひとつの商会からのし上がった叩き上げの一族らしい。
先代の当主まではこの国の流通を担うまともな貴族だったらしいのだが、現在の当主に代替わりしてから黒い噂が絶えなくなったらしい。
それでも先代までがこの国にもたらした恩恵は素晴らしく、当代がいかに悪人であっても簡単には潰せないような大貴族ということだった。
正直そのような人物に呼び出されたとなると嫌な予感以外を感じろと言われても無理があるだろう。
「なぁ、ティアナ。やっぱり帰っちゃダメかな?」
「ここまで来て何を言っているのですか。嫌ならさっさと要件を済ませて帰れるようにしますよ」
「はぁ・・・」
「シュウさぁん。後でいい子いい子してあげますから頑張りましょうねぇ」
「リエル、ありがと。でもヨダレ拭こうな」
リエルが珍しくお姉さんぶったことを言ってきたのに驚いたが、この顔は早く要件を済ませて屋台で買食いしたいと語っているので正直そこまでありがたみはない。
それでも言葉だけであっても励ましてくれたのは嬉しく思ったので素直にお礼を言っておく。
屋敷の前で立ち話をしていると門番らしき人物が怪訝そうな顔をして近寄ってきた。
「お前たち、そこで何をしている」
「あ、実は私達このお屋敷のヴィアーノ様に呼び出しを受けたのですが」
「ヴィアーノ様に?ふむ・・・」
そう言ってシュウたちを見る門番。
だがその視線はシュウよりも後ろにいた女性陣に多く注がれているようだ。
決して好意的とはいえない笑みを浮かべながら見られるのはさすがに我慢ならないのか、女性陣はシュウの影に隠れるように移動している。
それを見た門番は面白く無さそうに舌打ちをした。
「チッ。まぁ、いい。通っていいぞ。だが変なことは考えず、ヴィアーノ様の言うことを聞くんだぞ」
正直大貴族の屋敷に務めている門番の対応とは思えなかったが気にしないことにして屋敷へと通される。
屋敷に入ると執事らしき人物が待っており、シュウたちが要件を告げると客間のようなところに通され、少し待つように言われた。
「はぁ、さっきの門番といいホントに嫌な予感しかしないよ」
「うちは貴族様のお屋敷に入るなんて初めてっすから緊張でそれどころじゃないっす」
「普通は貴族様に呼び出されることなんでないですから。ですが、シュウの言うことには賛成ですね」
そう言って部屋の中を見渡すティアナ。つられて仲間たちも視線を向ける。
部屋の中は貴族の屋敷らしく豪華な装飾や調度品が並んでいた。
いや、正確に言うとそういった物がありすぎて最早悪趣味と言っていいほどギラギラしていたのだ。
このように飾り立てるような人物とは決して友達になれそうにはないな、とシュウが考えていると扉が開く。
「皆様、おまたせいたしました。主人の用意が整いましたのでお部屋へ案内させて頂きます。
ですがその前に武器の類を預からせて・・・おや?お持ち出なかったですかな?」
「貴族様のところへお邪魔するのに武器の類は失礼かと思いまして今は持っておりません」
「はて、確か先程までお持ちでしたような・・・。まぁ、いいでしょう。ご案内します」
シュウ達は先程までは各自武器を所持していた。
だが、部屋に案内されたところで嫌な予感が強まったのでシュウの収納袋へ全員分の武器を収納したのだ。
それなら最初から仕舞っておけ、と言われそうだが思いついたのがつい先程なのでしょうがないだろう。
それにしても随分とぼけた執事だな、とシュウは目の前の人物に対して逆に警戒を強めていた。
明らかにこんな簡単なことで誤魔化せるような人物には見えないのだが、ハッキリ言って仕事に対する情熱のようなものが感じられない。
能力は高そうなのに根腐れしたような感じだ。
シュウは疑問を抱きながらも執事の後を付いて行く。
最初に通された部屋は玄関脇の本当にお客を待たせておく用の部屋だったのか、奥へ進むと扉から明らかに豪華さが増していくのが分かった。
先ほどの部屋で悪趣味全開な豪華さだったのにこれ以上か、と扉を見るだけで気が重くなってくる。
それでも我慢しながら執事の後を付いてくと2階突き当りの部屋へと到着した。
そこで執事はノックをする。
「ご主人様、客様をお連れいたしました」
「入れ」
そうして部屋の中へと通されると、シュウの目に飛び込んできたのは悪趣味な装飾品、ではなくギラギラに輝くオーク(豚)だった。
(いや、この世界のオークはイノシシタイプだったろ)
自分に対してツッコミをして、改めて相手を観察する。
太り過ぎと言っていい体格に髪の薄くなった頭、首、手首、指など付けれる所全てに宝石や装飾品をつけまくった姿はまさしくギラギラのオーク(豚)だ。
その豚がシュウにチラリと視線を向けるとすぐ女性陣を見ている。
門番以上に怖気を感じたのか女性陣がまたシュウの背後へ隠れるように移動した。
それでも見つめるのを止めない豚に対してどうしたものかと思っていると執事が助け舟を出してくれた。
「ご主人様、まずは挨拶などしたほうがよろしいのではないでしょうか」
「チッ、いちいち五月蝿いやつだ。お前はもう下がれ」
「・・・はい」
執事は不承不承といった感じで頭を下げると部屋から出て行った。
「まったく、アイツは昔から小うるさくていかん。まぁアイツの言うことも分からんではないし挨拶はしてやろう。我輩が大貴族ダルタ家の当主であるヴィアーノ・ダルタだ」
「我々は冒険者パーティ『黒の刃』といいまして、私はそのリーダーをしておりますシュウと申します」
シュウが挨拶し、頭を下げると仲間たちもそれに習って頭を下げた。
「ふむ、冒険者風情には珍しく礼儀は分かっているようだな」
「ありがとうございます。早速ですが、呼び出しを受けたのは何故かお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「ふむ、せっかちなことよの。まあ、いい。貴様らをわざわざ我が屋敷まで呼び出してやったのは他でもない。我輩の傘下へ入れ」
「はい?」
「物分りの悪いやつだな。貴様らを手足のように使ってやると言っているのだ。ありがたく思え」
「えっと、我々は一介の冒険者ですので誰かの元で働くつもりはないのですが」
「なんだと!?この大貴族であるヴィアーノ様の誘いを断るというのか!」
豚が大声を出すと部屋のどこからか武装した男たちがぞろぞろと出てきた。
揃いも揃ってニヤニヤと嫌な表情を浮かべている。
中には先程門のところであった門番もいたので、どうやらあの人は門番ではなかったらしい、とどうでもいいことを考えて現実逃避するが、どうやら現実からは逃げられないらしい。
「ふん。どれだけ貴様らの態度が無礼であろうと寛大な我輩は許してやろう。だが、吾輩の部下たちが許すかは分からんぞ?」
豚がそう言うと男たちはこれ見よがしにそれぞれ武器を構えた。
多数の武装した男たちに武器を向けられ、さらに自分の武器が取り上げられる状況であれば普通は足がすくんだりするものだが、生憎武器はシュウが持っている上にとシュウの非常識な強さを見せられ続けている仲間たちにとって特に脅威には感じられない状況であった。
シュウたちがあまりに平然としているのを感じたのか豚はまた声を荒げ始めた。
「お、おい!貴様ら状況が分かっているのか!?」
「はぁ、まぁ」
「ぐぐぐ、貴様らが強力な魔法の使い手だということは知っている。だが、この人数に囲まれて勝てるなどとは思わないことだな!」
どうやら先日の魔法学校のデモンストレーションのことは知っているらしい。
それが原因で目をつけられたのかもしれない。
だが、正確にその威力や速さまでは聞いていないのか豚とその仲間たちはニヤニヤとした表情を崩してはいない。
正直カエデ以外の女性陣はこの状況となるとマズイのだが、今はシュウが一緒にいるためヘタに前に出なければ安全だろうと思っている。
それは当たっていて、シュウであれば男たちが動く前に一瞬で全員を無力化出来る。
しかし相手は間違っても貴族であり、手を出せば面倒事にしか発展しないのでなるべく穏便にこの場を切り抜けることを考えていた。
「あのぉ、ご用件が終わりならそろそろ帰りたいのですが」
「何だと!?この状況で帰りたいだと!?」
シュウのあんまりな言い分で逆に呆気にとられる豚。
それは男たちにも言えることで全員不思議そうな表情をしていた。
「ぐぬぬぬ・・・不愉快だ!貴様の顔を見ていると頭がどうにかなりそうだ!」
正直頭の方は既にネジが足りないようだがそれに拍車が掛かっているらしい。
「それでは失礼させていただきますね」
このまま勢いで帰ろうとするが、そこまで上手くは物事が運ばないらしい。
「誰が帰っていいと言った!?」
「えっと、私がいるとヴィアーノ様のお体に触るようですので」
「ぐぬぬぬぬ・・・」
怒りのあまり口の端には泡を出しながら真っ赤になっている。
このまま倒れてくれれば簡単に帰れるのになぁ、と割りと酷いことを考えていると豚の中で結論が出たようだ。
「もういい。貴様はとっとと失せろ!」
「では、失礼します」
ようやく帰れる、と思いつつ今後も厄介事に巻き込まれそうだなぁ、と考えながら踵を返そうとする一行だが、再度呼び止められる。
「む、誰が帰っていいと言った!」
支離滅裂である。
本当に壊れたのか?と思いつつ振り返ると、
「貴様は帰れ!」
とシュウだけに向かって言ってきた。
意味が分からず首を傾げていると豚が更に続けてきた。
「そこの女どもは残れ、と言っているのだ」
本格的に言葉が通じない相手らしい。
典型的(偏見)な貴族が登場しました。
何でもかんでも自分の思い通りになると思っている人ってどこからその自信が湧いてくるんですかね?




