第09話_魔法の可能性です
「ティアナ、いいの?」
「ええ。こうしないとこの場が収まりそうにありませんし、それに思うところもありますし」
「うーん、分かった。でもやり過ぎないようにね」
「・・・シュウにだけは言われたくありませんね」
「酷いね!?」
いつも通りのやり取りをしたあと的へと向き直るティアナ。
するとユリスを抑えていたカームが近づいてきた。
「せっかくお越しいただいたのにこちらの不手際で巻き込んでしまい申し訳ありません」
「いえ、構いません。私としても魔法がこのまま消滅するのは良しと思いませんので一般の方々に見てもらって知ってもらういい機会だと思いますし」
「そう言ってもらえると助かります。ですが本当によろしいのですかな?身贔屓するわけではありませんがユリスはワタシの知っている中でも優秀な魔法使いです。
冒険者の方が使うような実戦向けの魔法は確かに素晴らしいですが、このような場では多少見劣りするかと」
「ふふふ。正直に冒険者の使う魔法は目眩ましや牽制程度の威力しか無い、と仰ってもらってもいいのですよ?」
「あ、いや、その・・・」
「昔は私も同じことを思っていたんですよ。でもある人物に会ってその考えは全く違うと思わされました」
「は、はぁ・・・?」
ティアナは話しながらシュウの方を見ていた。
その視線をシュウは優しく受け止める。
ティアナと出会った頃を思い出すと、ちょっと強い魔法を使って見るだけで物凄い勢いで食いついてきたものだ。
それが今では教えてもらったことを元に自分で考えてさらなる高みを目指している。
おそらくユリスの魔法に対して一本気な所を過去の自分と重ねあわせているのでは無いだろうか。
そして過去の自分に対して今の自分を見せたいのではないだろうか、そう思ってしまう視線だったのだ。
当のユリスはと言うとこちらが魔法を見せると言ったことで多少拍子抜けしたような動揺を見せもしたが、今は学友たちに無かって新しい的を持ってくるように指示を出していた。
「あ、ユリス君、と言いましたね。その的はそのままで構いませんよ」
「む、この的を使うだと?この的は僕の魔法の跡が残っているのだ。それに君が魔法をぶつけて跡を大きくして自分が優れている、とでも言うつもりか!?」
「いいえ、そんなつもりはありませんよ。それにその程度の跡では問題になりませんし」
「なんだと!」
「こ、これ、ユリス・・・」
再び興奮しだしたユリスをカームが必死に抑えるが、ティアナはそれに関せず的に向かって両手で杖を持ち的へ向けた。
そして先程のユリスと違い対して集中してないような体勢から魔法を放つ。
「火よ」
言葉はシュウが初めてティアナに魔法を見せてもらった時と同じ物だ。
だが、その威力は比べ物にならない。
杖からユリスと同じような炎が出始めるがユリスの魔法と違い観衆のいるところまで熱気が伝わるのだ。
その出来事に観衆は驚いているようだが、それ以上にユリスが驚愕の表情を浮かべていた。
見るからに自分より熱量を持った炎を自分より簡単に生み出しているのだ。驚くなという方が無理だろう。
そうしてこれまたユリスと同じ20秒ほど炎を放射したところでティアナは魔法を止める。
炎が消えると現れたのは先程ユリスが魔法で燃やしていた、いや今の状態から比べると単に炙っていた的が現れる。
ティアナが魔法を撃ちこむまでは少し焦げた革鎧が丸太にくっついていたのだが、今はかろうじて鎧に見えなくもない残骸が地面に落ちており、丸太も立ってはいるが見える限り完全に炭化している。
確かにこれではティアナの言うとおり多少焦げ跡が付いている程度では問題にならなかっただろう。
ユリスは最早驚愕を通り越して放心していたが、ティアナが話しかけた。
「これが私の魔法です。満足していただけましたか?」
「な、な、な・・・」
「確かにあなたの言うとおり、あなたの魔法は素晴らしいです。ですが上には上がいるのです」
「・・・」
「かくいう私も昔はあなたと同じでした。魔法は素晴らしいと言いつつも馬鹿にされると短気を起こしたこともあります。ですが、そこで怒るだけではなんにもなりません」
「・・・ではどうすればいいのですか」
「魔法にとって一番大切なことは分かりますか?」
「イメージです」
「そうです。魔法というものは自分にできるイメージの限界、と言ってもいいのかもしれません。他人から馬鹿にされて怒るということは自分でも同じ事を思っている証拠です。それではより強力なイメージなど出来るはずがありません」
「ではどうすればいいのですか?」
「受け入れなさい。他人の言うことを受け入れ、吸収しなさい。そしてより強力なイメージに吸収した物を上乗せするのです。私はそうしてこれだけの魔法を使えるようになりました」
「受け入れる・・・。でも馬鹿にされたことまで受け入れることは出来ません!」
「そうかもしれませんね。ですが今この場で魔法を馬鹿に出来る人はいますか?」
そう言って周りを見渡すと観衆は先程まで「魔法ってやっぱりこの程度か」と言いたげだったのが目を見張り、子供たちの多くは憧れの視線を送っていた。
その様子を見たユリスだが、再度首を振る。
「確かに先程までとは違うようです。ですがこれは僕のやったことではなくあなたのやったことです。あなたがいなくなればまた同じです」
「はぁ、まだ分かっていないようですね」
「な、何がですか?」
「どうして私が撃てる魔法を自分も撃てると思わないのですか?」
「だ、だってあなたは冒険者で実戦で魔法を使っているのでしょう?僕は確かに魔法は使えますが実戦はしたことがありません。その差は中々埋められるものではないでしょう?」
「だからそれがダメだと言うのです。私が魔法を使えた、じゃあ自分出来るようにしよう、という風に受け入れなさいと言っているのです」
「なるほど・・・」
ユリスが言われたことを理解したのか神妙な表情で頷いている。
最初のプライドにまみれた態度はすっかり鳴りを潜めていた。
そこへカームが入っていく。
「あなたの言われることは確かに的を得ています。ですが、強力な魔法のイメージとは我武者羅にしても出来ないものです。あなたはどうやってそれほどまでのイメージを?」
「あぁ、それは・・・」
ティアナはそう言ってシュウの方へ視線を送る。
カームとユリスはその視線の意味が分かったらしいが、同時に疑問も浮かんだらしい。
「彼ですか?ということはあなたが先程仰っていた自分の考えを変えてくれた人というのも?」
「ええ、そうです」
「い、いや、あの人はどう見たって魔法使いって格好じゃないじゃないか!」
「そういうものだと受け入れてください。私も最初は受け入れられませんでしたし」
「はあ・・・」
シュウはこれまで一度も魔法使いのような格好はしたことがない。
今も軽装ではあるが鎧をつけ刀を腰に差している。
そんな格好の人物が魔法を使えると言われても信ぴょう性が無いだろう。
そのことについてシュウとティアナは思わず苦笑するがカームとユリスは首を傾げている。
「シュウ、すいませんがあなたも魔法を使ってみてもらえませんか?」
「俺はいいけど・・・いいの?」
シュウの言いたいことは大衆の面前で自分の魔法を披露して問題が起きないか、ということだ。
「構いません。どうせ私がここまで大々的にやってしまったのです。シュウが多少やらかしたところで変わりませんよ」
「うーん、じゃあちょっとだけ」
そう言ってシュウは前に出るが、再びユリスが待ったをかける。
「い、いや、さすがにあの的はもう使えないだろう!?」
「あなたの言うことも最もですが、あの人にそういったことは通用しませんよ?」
「で、ですがもうあの的は炭になっていますよ?あれ以上魔法を撃ちこんでもそうそう変わるとは思えないのですが・・・」
ユリスの言い分も最もで、確かに的は見える限り全て炭化している。
仮にティアナが再度魔法を放っても大きな変化は起こらないだろう。
しかしこれから魔法を放つのはシュウである。ティアナ曰く非常識の塊のシュウである。
シュウは的のに向き直ると右手を向ける。
今回はあくまで魔法がメインなので刀は抜かないことにしたようだ。
そうしてシュウの目に力が入ると的に変化が現れた。
「「はぁ!?」」
カームとユリスが声を上げる。
その他の観衆はと言うと先程のティアナの魔法の衝撃が抜け切らない所にシュウの魔法だったのでもう何と言っていいか分からない表情を浮かべている。
ティアナはシュウのやることだから、と思ってはいても多少動揺したようだ。
それもそのはずで、まずシュウは何の言葉も唱えていない。
この世界では魔法を使う場合には詠唱は必要ないが、イメージを確定させるため最後に関連する言葉を言うのが常識となっているためシュウのやったことは常識外ということになる。
だが、そんな些細な事に気づくものは誰もいなかった。
全員の視線はある一点を見つめていた。
それは的、いや正確には的のあった場所だ。既に的は存在していない。
吹き飛ばされたとかではなく、一瞬炎が上がったかと思うとすさまじい熱気が全員に届き、それが収まると的のあった部分の地面が盛大に焦げているだけで的そのものは焼失していた。
いくらティアナの魔法で炭化していたとしても一瞬の炎で燃え尽きるということは普通あり得ない。
そのあり得ないことが全員の目の前で起こり、それをやった人物はやり過ぎたか、と焦っている。
「えーと・・・」
「シュウ?全員を代表して聞きますが、何をしたのですか?」
「・・・的を燃やしただけです」
「炎が一瞬しか出なかったようですが?」
「単純にティアナがやったのを大きくしたりするだけじゃ面白く無いなぁ、とおもって温度を上げて一瞬で焼きつくしてみました」
やったら出来た、という内容にも取れるその発言を聞き、ティアナは呆れ、観衆は引き、ユリスは腰を抜かしていた。
ティアナの魔法を見ても思ったが、ユリスは自分がとんでもない人たちに絡んでいたことを再認識しており、後から自分がどうなるかと考えてしまったためだ。
もちろんユリスの勝手な妄想で、シュウたちには何かするつもりは全く無いのだが。
こうしてハイエル魔法学校のデモンストレーションは部外者による魔法が一番目立つというアクシデントはあったが、魔法に対するイメージを覆すことには成功したのだった。
このしばらく後、ハイエルの王都では魔法使いを馬鹿にすると燃やされる、と言う噂が駆け巡り、ハイエル魔法学校には入学希望者が多数押し寄せることになる。
だが、シュウ達の目下の課題はシュウたちが休みと決めた日になるとカームとユリスが教えを請うためにシュウたちの泊まっている宿屋を訪れ、朝から晩まで質問攻めにされたためどうやって止めさせるかを考えることなのであった。
ティアナも日々努力して魔法の威力を高めています。
いまいち目立たないのはその描写を上手く出せない投稿者のせいです。




