第08話_大魔法らしいです
「魔法学校?」
「はい。王都にはそう呼ばれる施設があるらしいです」
「ふーん。さすがに王都にもなると魔法を使えるような人が多いんだね」
「いえ、シュウはいまいち理解していないようですがこの世界で魔法使いというのはほとんどいませんよ?いるとすればお伽話に憧れた私のような人たち・・・です」
「自分で言って傷つくなら言わないほうがいいのに」
ティアナの反応で思わず苦笑してしまったが、魔法学校という単語には惹かれるものがある。
この世界の魔法使いで知っているのはティアナのみであり、最初にあった時はライター程度の火を起こすだけで精一杯、という状態だったので学校という組織でのレベルを見てみたいと思ったのだ。
「今日は休みのつもりだったし行ってみようか」
「そうですね。私も気になりますし」
ティアナも気になっていたようだ。
ちなみに他のメンバーは前日の狩りの疲れが出ているのか朝食の時間になっても起き出してこないが狩りの次の日は大体こうなることが多いのでシュウは気にしていない。
むしろティアナが起き出してきたのに驚いたくらいだ。
最近の日程で朝起き出してこれたのは前衛職であるフィアかカエデ位だった。
ティアナは元々後衛なのでメンバーの中で体力は少なかったはずである。
そのティアナが起きだしてこれているというのはティアナの体力が上がっているということに外ならない。
成長速度に驚くシュウであった。
◇◆◇
「この辺のはずですが・・・」
2人で朝食を取った後、シュウたちはティアナの聞いた魔法学校を探している。
場所はシュウたちが宿泊している宿屋から丁度王都の反対側に位置しているらしくシュウはその存在を全く知らなかった。
いや、王都においても特殊過ぎる施設なので知っている人も決して多くないという事実もあるのだが。
「うーん、あ、ここらしいですね」
そう言ってティアナが立ち止まって一つの建物を見上げている。
シュウも釣られて目線を上げるが、そこには予想外の建物が建っていた。
「魔法学校って・・・どう見ても少し大きいくらいの一軒家に見えるんだけど」
「・・・魔法を習おうとするものが少ないのでこの規模で充分、ということではないですか」
自身が魔法好きなティアナは複雑な表情を浮かべている。
ティアナにしてみれば魔法を習える施設があるのなら何故人が集まらないのか、という思いと自分がシュウと出会った時に使えた魔法がこの世界で平均的、むしろ平均を上回っている威力を誇っていた、という事実があるため習いたがる人がいないのも分かるため一概に文句を言えないのである。
「まぁ、建物の大きさについて話していてもしょうがないし、ちょっと見学させてもらえるか聞いてみようよ」
「そうですね」
シュウは魔法学校という名の一軒家の扉をノックする。
すると中から老齢の男性が出てきた。
「何か用かね?」
「えっと、こちらで魔法を教えていると聞いたのですが」
「む、冷やかしなら帰ってもらおう」
「あ、違うんです。我々は冒険者なのですが、魔法を使うメンバーもいるので何か参考になるかもと思って来たのです」
「ほう。魔法を、ねえ」
そう言って老人はティアナを観察する。
ティアナの格好はシュウが出会った時と大きく変わらず、黒に近い色をしたローブにとんがり帽子、そして少し曲がりくねった杖を持っている。
違いといえばローブの中にシュウ作の魔鋼製のナイフがあるのだが今は見えていないので関係は無いだろう。
「ふむ。確かに格好は魔法使いそのものだね」
「はい。昔聞かせてもらっていたお伽話の魔法使いに憧れてこの格好をしています」
「ほっほっほ。結構結構。ワタシも同じような理由で魔法を使えるようになりたくてね。独学で学んだのだがこの歳になるとそれを誰かに教えたくてこの学校を作ったというわけじゃ」
「なるほど。ちなみに今はどの位の人数が学んでいるのですか?」
「ふむ。残念だが今は3人しかおらんな。まぁ、ワタシの教えられるレベルではあってもなくても同じ程度だからしょうがないといえばしょうがないが」
老人は寂しそうに目を伏せるが、シュウの隣でティアナが同じような表情を浮かべている。
自身もラグスの街では色々言われながら魔法使いを続けてきたので気持ちが分かるのだろう。
「おっと、お嬢さんにそんな顔をさせるつもりはなかったんじゃ。そうじゃ、確かにワタシの教えられるレベルはそんなに高くないが生徒の1人がとてつもなく才能を秘めていてのう。
あやつならばワタシなんか全く及ばないところまでいけるじゃろうて」
どうやら生徒の中に優秀な生徒がいるらしい。
しかのその生徒が生徒を更に募集するため本日デモンストレーションを行う予定らしい。
なんとも都合よく訪れることが出来た、と喜ぶシュウであった。
◇◆◇
デモンストレーションは街の広場の少し外れにある空き地で行われるということなので開始時間を聞いてシュウたちは魔法学校を後にした。
「いやぁ、丁度良かったね」
「そうですね。生徒さんの使う魔法には興味があります」
「どのくらい強力なんだろうね」
「・・・」
何やらティアナがシュウを見つめている。
ラブコメ的な波長を一切含まない、所謂ジト目というやつである。
「な、何かな?」
「シュウが言うと嫌味にしか聞こえないのですが」
「ええ!?どうしてさ?」
「どうすれば貴方より威力の出る魔法が使えると思います?威力については貴方を見すぎているのでこっちとしては驚けないのですが」
「いやいや、それは見ないとわからないじゃないか」
「ドラゴンを倒せるだけの魔法を放つ人が魔法の威力について楽しみだと言うと本当に嫌味にしかならないと思いますが」
「むぅ・・・」
確かにそんな威力を使える人物がそう簡単にいるとなるとこの世界で魔法が衰退したままということは無いだろう。
むしろ復活させようと国ぐるみで活動していても不思議ではない。
お伽話だから放っておける話なのであって実際にその位の威力の魔法を撃てる人物を野放しにしているなど国にとって頭痛の種にほかならないのだ。
まぁ、ここにその魔法を撃てる上に冒険者として気ままに活動を続ける人物がいるのだが。
「ま、まぁ威力は置いておいてもどんな魔法を使うかは気になるだろ?」
「そうですね。私もシュウと出会った頃に比べると遥かに魔法の威力が高まりましたが、あくまで思いつける範囲で、での話なので他の人がどのような魔法を使うか興味はあります」
この世界において魔法はイメージで現実になるものなので自分の知らない魔法はどうやっても撃つことは出来ない。
なので他の人の魔法を見ることが出来ればインスピレーションを受けて新しい魔法を思いつくかもしれないのだ。
その他の人の魔法を見る機会というのがこの世界において全くと言っていいほど無いのが問題なのだが。
今回はその問題を乗り越えて見ることが出来るためティアナとしては正直物凄く楽しみなのだ。
デモンストレーションの時間までは昼食の時間を挟むのでシュウたちはいつもの屋台街で買い食いすることにした。
人から見れば男女二人きりで屋台街で買い食いとなるとデート以外にほかならないのだが、あいにくと当事者の2人は全く気にしていない。むしろその発想すらないだろう。
シュウは日本時代で男女の付き合いというものをしたことがないし、ティアナはシュウと出会うまで変人扱いしか受けていなかったのでそういった考えを持ったことが無かった。
そのためラグスの街にいた頃も二人きりの時間はあったのだが特に気にしたこともなく過ごしていたのだ。
それを今更意識しろという方が無茶である。
そうして色気よりも食い気な時間が過ぎてデモンストレーションの時間となる。
2人は聞いていた場所にいた。
シュウたちの他には近所の子供や大人たちの姿があったが魔法について知りたいという人よりも大道芸を見に来た、という方が正しいだろう。
そもそもの目的がそういった人に魔法を見てもらい、興味を持ってもらうというものなので何の問題もないようだ。
そうしていると魔法学校でシュウたちの応対をした老人が出てくる。
「えー、皆さん、本日はお集まりいただきありがとうございます。これよりワタシが講師を勤めております『ハイエル魔法学校』の生徒によります魔法の実演を行いたいと思います」
どうやら魔法学校の正式名称は『ハイエル魔法学校』というらしい。
まぁこの王都、というか国でも唯一らしい組織なのでその名前以外は思いつかないのだろう。
老人の後ろから15歳くらいに見える男性が出てきた。
どうやら彼が今回のデモンストレーションを行うらしい。
「皆さん、僕はカーム先生のもとで魔法を学んでいるユリスと言います。本日は僕が先生から教えてもらった魔法をお見せしようと思います」
あの老人の名前はカームというらしい。
そういえば名前を聞くのを忘れていたな、と関係ないことを考えているとデモンストレーションの準備が着々と進んでいた。
おそらくユリス以外の生徒と思われる若者たちが運んでいる丸太が革鎧を着たような物を的に使うのだろう。
準備が終わると今度は見物する人々に対して少し離れるように指示が出される。
「えー、準備が整いましたのでこれから魔法を使いますが、大きな魔法なので近くにいると危険が及ぶかもしれません。念のためもう少し離れていてください!」
ユリスの自身に満ち溢れた声で見物人は10メートルほど後退する。
それを見てユリスが頷いているので離れるのはこのくらいで良さそうである。
「元々的からは離れていたけど、更に離すってことは余程大きな魔法なのかな?」
「そうかもしれませんね。昔の私が使えた魔法ではここまで離れる必要は全くありませんでしたから。どのくらいの大魔法なのか楽しみですね」
思ったよりも期待が出来そうだと考えを改める。
そして全ての準備が整ったのかユリスが集中し始める。
魔力は目に見えるものではないのでどの位の魔力を使うのかは不明だがその真剣な表情を見るとかなりのものだと予想できる。
そしてイメージが完了したらしくユリスは目を見開く。
「いでよ、大火炎ッ!」
ユリスが両手を的の方に向け突き出すとそこから大きな炎が吹き出す。
炎は的をまるごと飲み込み燃やし尽さんと叩きつけられた。
「「「「「おおおお!」」」」」
観衆は見た目の派手さで歓声を上げている。
だが、シュウたちは別の感想を持っていた。
(見た目は凄いけどあれだと・・・)
時間にして20秒ほどだろうか。
ユリスの手から出ていた炎が収まってきた。
それにともなって的もその姿が露わになってきたが、その威力を忠実に物語っていた。
「ん?思ったより燃えてないな・・・」
誰の発言かは分からないがそんな声が聞こえてきた。
そう、確かに炎は的に命中していたし、見た目は大きな炎だったのだが、所々焦げた跡はあるものの、その原型を留めていたのだ。
「シュウ、あれは・・・」
「うん。最初の頃のティアナと同じだね」
ティアナもその原因に思い当たったようだ。
なんとも言えない微妙な空気が場を支配しているのに気づいたのかユリスは少し憤慨しているようだ。
「何だ!僕の魔法に何か文句があるのか!?」
先程までとは打って変わって興奮した様子で観衆を睨みつけていた。
どうやら自分の魔法に対してかなりの自信を持っていたようだが、結果を見る観衆の態度が気に食わなかったらしい。
かなりプライドは高そうだ、とシュウとティアナは苦笑してしまう。
それを運悪くユリスに見つかってしまった。
「む、そこの女も魔法使いの格好をしているが、どうせ僕より威力の低い魔法しか使えないのだろう。それなのに何を笑っている!」
「こ、これユリス、やめんか」
「いいえ、先生。先生に教えてもらった僕の魔法を見て笑うなどあってはいけないことなのです。だから格好だけの魔法使いには核の違いというものを見せねばなりません!」
「あの人達は冒険者だ。それも実戦において魔法を使っているらしいからワタシの教えた魔法とは系統が違うのだ」
「だったらなおさら先生の魔法の素晴らしさを教えこなねばなりません」
ユリスは根は良い奴そうだがどうも視野が狭いらしい、とシュウは思う。
自分の力を観衆に認められなかったばかりか自分と自分の尊敬している先生を笑われたと思ったのだろう。
シュウたちはそんなつもりは無かったのだがユリスはそう受け取ってしまい、より興奮し始めたのだ。
「いい加減にせんか!そもそもワタシが教えた魔法はそれほど威力が無いのだ。それを後世に伝えいずれ昔の威力を取り戻すため君たちに教えているのだ。だから今現在威力が低いことは紛れも無い事実なのだ」
「ぐぐぐ、先生。それではあの魔法使いにも魔法を使わせましょう!それで僕の魔法に匹敵するのであればいいですが、もし威力が低いのなら笑ったことを謝ってもらわねば気がすみません」
さて、面倒なことになってきた。
シュウたちとしては魔法を披露することに何のメリットもないのでこのまま立ち去りたいのだが、それでは今必死にユリスを抑えているカームがあまりに可哀想だ。
更に魔法を使えと言われているのはシュウではなくティアナだ。
彼女がこのような場で魔法を披露するのは性格的に好まないだろう、と言うのはこれまでの経験から分かっている。
考えている間にもカームから申し訳無さそうな視線を向けられる。
どうにか打開策が無いかと考えているとティアナが声を出す。
「分かりました。お見せしましょう」
魔法は衰退しているけど魔法使いはいます、というお話です。
最初は予定になかった話ですが、今後の展開的にあったほうが美味しいので追加してみました。




