第05話_ギルマスは強いです
「ぬははは、よし小僧、行くぞい」
「はぁ、お手柔らかにお願いします」
挨拶もそこそこにギルマスが突っ込んでくる。
シュウは恐ろしい速度で突進してくるギルマスを間一髪で躱すことに成功する。
「いきなりかよ!」
「おお、今のを躱すか。やはり久々に本気が出せそうだ」
「勘弁して下さい!」
本気でこられるとさすがにヤバイ。
何とか模擬戦の範囲内で収めたいがギルマスはそのつもりは全く無いらしい。
今度は先ほどと違い大剣を上段に構えながら突撃してくる。
「行くぞ小僧ぉ!」
「うおっ!」
突っ込んできながら自らの間合いに入ると構えた大剣を振り下ろしてくる。
またしても躱すことに成功したシュウだが振り下ろされた剣は止まることなく地面と激突する。
剣はそのまま地面にめり込むことになるが威力がハンパではない。
めり込みながらも地面をえぐり飛ばしてきたのだ。
魔力による強化は程々にしようと思っていたがこれには堪らず全力で防御のため強化を行う。
カエデと戦った時にそのブレスを耐えぬいた防御だ。ただの石つぶて程度どうということはない。
だがその光景はシュウに強烈なインパクトを与えていた。
「あー、ギルマス?その剣は魔道具か何かですか?」
「む、今のをまともに食らっても平気そうだの。この剣は別に魔道具ではないぞ。それなりの名剣だがな」
「いや、地面が爆発しましたよね?」
「うむ。全力で振ったからの」
「あー、そうですか。あと今更ですが何故真剣で戦っているのでしょうか?」
「そっちのほうがお互い全力出せるだろうが?」
「あー、はい。じゃあこっちから行きますよ」
そう言って黒刀を抜き放ちギルマスに突っ込んでいく。
単純な力で地面をえぐり取る力とそれに耐える剣なのだ。まともにぶつかっても全く勝てる気がしない。
なのである程度まで戻した身体強化を使って速度で挑んでいく。
「ぬう!?随分早いのう」
「これも俺の売りですから」
お互い会話はできるが目は真剣そのものだ。
シュウは隙を伺いながら動き続けているし、ギルマスは速度では勝てないと踏んで攻撃に対処するためシュウを視界から外さないようにしている。
それでも完全に見切っているわけではないのかシュウがギルマスの背後へ回り込めた。
(早めに決める)
これで決着を付けるつもりでギルマスへと斬りかかる。
もちろん命のやり取りを行うつもりは無いので峰打ちだ。
それでも魔力強化をした身体能力と武器なので並大抵の冒険者であれば吹き飛ばされて怪我をしてしまうだろうがギルマスの体格なら大丈夫だろうという判断だ。
そしてシュウの刀が完全にギルマスを捉える。
だがここでシュウの予想外の出来事が起きる。
ガキンッ
「なっ!?」
「やはり早いが威力は出ないようだの」
「いや、充分な威力は出ているはずですが・・・」
いくら鎧を着ているとはいえシュウの一撃が全く効かないとは思っていなかった。
想定外の出来事にシュウは思わず固まるがそれが致命的な隙となる。
「じゃあ今度はまたこっちから行くぞい」
「しまっ」
「ぬううううぅぅ」
「ぐっ」
ギルマスの大剣の腹で吹き飛ばされる。
刃を立てないあたりはギルマスも命のやり取りをしないつもりであることは確かだが、その状態でもシュウは思いっきり吹っ飛んでしまう。
何とか体勢を立て直し、着地には成功したシュウだがダメージは軽いものではない。
「げほっ、げほっ。流石に強いですね」
「むう、決まったと思ったんだが・・・。小僧も中々やりおるわい」
今のやり取りだが、見学している冒険者の中で完全に見えていたものは少ない。
シュウがものすごい速さで動いていたと思ったらいつの間にか吹き飛んでいたという認識が大半である。
数少ない完全にやり取りを把握している者も離れていたから見えたので実際に自分が戦うことになった場合対処は確実に無理だということを理解している。
それをなしているが『竜殺し』と噂される人物なので、その噂が真実味を帯びてくるのだが、ほぼ全員が知らない事実としてシュウのギルドランクが未だEランクであり、この場の殆どの冒険者よりランクが低いことがもし判明してしまえば自信を喪失する者が続出するだろう。
知らないほうが幸せなことが本当に多い世界である。
さて模擬戦の方だがシュウはこのままではジリ貧だと分かったので更に魔力による身体強化を深める。
結果先程より速度と攻撃力は上がるのだがそれでもなおギルマスの防御は崩せない。
ならば、とギルマスの剣を何とか使用不能にして勝利をつかもうとしたのだが何度斬りつけても傷一つつかない。
「無駄だ、無駄だ。この剣は絶対に壊れん」
「く、何か特殊な素材でも使っているんですか!?」
「いや?普通の鉄だが?そういえばこの剣を作った奴が時間が経つたびに硬さが増している気がすると言っていたがの」
時間が経つほど硬くなるって何だよ、と突っ込みたいシュウだがそれほどの余裕もない。
「あ、あとひとつ教えておくが、ワシとここまで戦える人族はおらんぞ?」
「え?」
「一応人族最強ということになっておるからの」
そういうことは最初に言って欲しいものである。
何が悲しくて人族最強と模擬戦などやっているのか。
しかもある程度互角に戦えているなど周囲に知られると物凄く目立ちそうだ。
だが最強、という言葉には抗えない好奇心が湧き上がってくる。
シュウだって元は男子高校生だ。若干厨二病と思われるような時代も過ごしてきた身としては轢かれないほうがおかしい称号だ。
最強に対して自分がどこまでやれるか試したい気持ちを抑えられずシュウは思わず本気を出す。
魔力による全力の身体強化と武器強化を施し突撃していく。
先程より速い速度にギルマスは目を見開くが、瞬間笑みを浮かべるとこちらも突っ込んでくる。
刀と大剣がぶつかり合うがお互いに全く傷が付く様子はない。
(ホントになんて硬さだよ。普通の鉄から作ったって話なのに・・・ん?)
シュウはある可能性にたどり着いた。
(まさかこの黒刀と同じで魔力で強化されてないかこれ?いや、刀身は黒くないし・・・。
そうか時間か!使い続けて時間が経ったからゆっくりと魔力が浸透した結果じゃないか?
だとすれば魔鋼よりは柔らかそうだけど一筋縄じゃいかなそうだな)
シュウの考えはあながち間違いではない。
違いがあるとすればギルマスの剣は魔力による強化というよりもギルマスが長年使い続けたことにより本人の闘気ともいえるものが剣に染み付いた結果である。
だがその違いは今は全く関係ない話だ。
問題は現在のシュウの技量では剣を使用不能にするのは難しいということだろう。
(ならわかりやすい形で俺の勝ちにするしかないだろう)
そう思いながらシュウはギルマスと打ち合っていく。
シュウの刀より遥かに思い大剣をシュウと同じ速度で振り回せるギルマスも化物だが、その大剣による攻撃を防いでも吹き飛ばないシュウの方も化物だ、周囲の誰もが思っている。
「ぬはははは。楽しいのう」
「こっちはそんな余裕ありませんよ、っと」
お互いに一息つきながら隙を伺っている。
こうなればいずれボロが出そうなシュウの敗戦は濃厚だろう。
だがシュウも手が残っていないわけではない。
最後のカードを切ることを決める。
「そろそろ限界も近いので次で決めさせてもらいますよ」
「ぬ、しょうがないの。ではワシも決めさせてもらおう」
お互いに次を最後の一撃と決め集中していく。
周囲にもその緊張感は伝わっていき、誰かが息を呑む音が響くように聞こえてくる。
そしてその瞬間が訪れる。
「はああぁぁぁぁああああ!」
「ぬううううううぅぅぅ」
お互いに気迫を声に乗せ吐き出しながら突進する。
ギルマスは最初と同じで剣を上段に構えながら前進して来る。
だが最初と違うのはその腕に盛り上がる筋肉だろう。
本当の全力で振るわれる剣に対してシュウが同じようにぶつかれば吹き飛ばされるだけではなく、大怪我をしてもおかしくはない。
ギルマスはシュウに対しての遠慮など全く考えなくなったようだ。
しかしそれはシュウも同じである。
もちろんカエデにそうしたような全力で魔法を打ち込むつもりはない。
何をするつもりかというと、
「これでも喰らえ!」
「ぬぅ!?」
シュウは左手に魔力を集めると強烈な閃光を発生させたのだ。
まさに今大剣を振り下ろそうとしていたギルマスだが予想外の光に目を眩ませ突進が止まる。
その隙に全力の身体強化で再度ギルマスの後ろに回りこんだシュウはその黒刀をピタリと首筋に当てた。
「はい、これで俺の勝ちですね」
最初に後ろへ回りこんだ時と違いギルマスは全く動けず、未だ目が眩んでいるのかシュウがどこにいるのかすら分かっていないようなのでこれで勝利条件としては充分だろう、と判断だ。
・・・ワアアアァァァァァ!
周囲の冒険者達も最初は状況が分かっていないようだったが次第にシュウが勝利したことを理解したのか歓声が訓練場を埋め尽くすのだった。
シュウに全力の魔力強化を出させた上、攻撃的なものでないとはいえ魔法を使わせたギルマスは紛れも無く化物です。
仮にドラゴンが目の前に現れたら笑いながら突撃するタイプの人間です。




