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第28話_落ち着けるのはまだ先のようです

ドラゴンと戦ってから数日、街は普段通りの様子を取り戻していた。

そもそもドラゴンに襲撃されるなど百年単位で起こっておらず、狙われてしまえばほぼ確実に街は崩壊する、という言い伝えのみ残っている程度なのだ。

そんなドラゴンが街の近くに現れ、そして冒険者達によって撃退されたと聞けば街の住人がお祭り騒ぎで数日潰したとしてもしかたのないことだろう。

ドラゴンが現れたと聞いて街を出てきた冒険者達だが、どう戦うつもりだったのか聞くと、弓矢と投げ槍で攻撃しつつ剣で斬りかかるつもりだったらしい。

それはどうなんだ、と思ったシュウだが魔法の衰退した科学も未発達な世界においてそれが冒険者に出来る最大の攻撃方法だったのだろう。

最後は刀で決めたシュウでも魔力を用いた攻撃で倒しきることは出来なかったのでドラゴンが人々にとっていかに脅威であるか想像は容易いだろう。

そんな絶望的な相手でも街を守るため決意を決めた冒険者は街の住人にとって英雄なのだ。

その冒険者達の労をねぎらうため数日にわたって街全体が宴会モードだったのだ。

だがいつまでもそうしているわけにもいかず、ようやく昨日辺りから平常運転へと戻ってきたのだ。


「さて、今日からまた依頼を受けようと思うんだけどいいよね?」

「はい、もちろんです」

「宴会もいいっすけど、依頼をこなしてこそ冒険者っす!」


シュウたちも本日から冒険者活動を再開するため全員気合を入れていた。


「我も全力で手伝うのじゃ」

「あー、カエデが全力だすと俺達の出番がなくなるから程々にね」

「むー・・・」


カエデも冒険者達に宣言した通りシュウ達の手伝いをしたいようだが、正体が正体なので全力を出されると困るのはシュウたちであった。


「カエデさん。気持ちは大変嬉しいのですが私達のためだと思って我慢してくださいませんか?」

「そうっすよ!カエデちゃんには困ったら助けてもらうっすから」


ティアナはカエデの正体を知っているため本音での意見で、フィアは正体を知らないので子供が背伸びして言っているのを微笑ましく思いつつ流しているのだ。

シュウはフィアにも話そうと思ったのだが、連日の宴会騒ぎでフィアは大体酒を飲んで潰れており、タイミングがあわなかったのだ。

シュウはいずれ話す機会もあるだろう、とすぐに話そうとは思っていない。

ティアナとしてはフィアの発言でカエデが起こってしまったら、と最初は心配していたが酒を飲んだフィアが酔っ払って絡んでいっても適当に流していたカエデを見てそうそう悪いようにはならないだろう、と考えを改めていた。


「じゃあギルドに行こうか」

「行くのじゃ!」


ちなみにカエデの冒険者としての扱いだが、ギルドに登録できるのは15歳からで見た目が上に見ても13歳のカエデは登録出来なかった。

だが、冒険者になりたい子供が大体この頃から先輩冒険者のもとで雑用をしながら見習い、ということで冒険者に付いて行くことは珍しくないのでカエデもそのようにしている。

その雑用が実はこの世界において災厄とも言われるモンスターだとは誰も思いもしないだろう。

そうしてシュウ達一行はギルドへと向かっていった。


◇◆◇


「あ、シュウさん。今日から依頼を受けられますか?」

「はい。流石に数日何もしていないとお金も心配になりますしね」

「ドラゴンを追い払っていただいたので、本来は特別報酬をお出ししたいのですが・・・」

「まぁ、倒していないので証拠がないならしょうがないですね」

「申し訳ありません」


いつもの受付嬢が申し訳無さそうに目を伏せている。

本来であればドラゴン撃退など一生遊んで暮らしてもお釣りが来るような報酬をもらえてもおかしくないのだが、シュウが1人でやったことで目撃者もおらず、倒してもいないので冒険者カードにも記録されていないのでギルドとしても報酬を出すには理由がない状態なのだ。

それでも状況的にシュウがやったことは間違いないので街の人々や冒険者からはこの数日だいぶ奢ってもらったのでシュウとしては何の不満もない。

それに、だ。


「ん?主殿?我の顔に何か付いておるのか?」

「いや、なんでもないよ」


その当事者であるドラゴンがここにいるため報酬をもらうと精神的に居心地が悪くなるような気がする。

シュウとしては気のいいドラゴンが仲間になったのでこれ以上は何ももらうつもりがないのである意味調度良かった。


「まぁ、その話はこれでいいとして。何かいい依頼ありませんか?」

「そうですね・・・。この間のドラゴン騒ぎで弱いモンスターは隠れるかこの地を離れていってしまったようで討伐依頼は出ていませんね」

「となると採集系になるのか・・・。まぁ久々だしリハビリにはちょうどいいかな」

「ではいつもの森での採集依頼でよろしいですか?」

「はい、それでお願いします」

「分かりました。それではお気をつけていってらっしゃい」

「うむ。行ってくるのじゃ!」


受付嬢は元気に返事をしたカエデを温かい目で見ている。

見た目は元気いっぱいな少女なのだ。

受付嬢がそんな顔をする理由も分かるが、正体を知っているシュウとティアナは事実を知った時の受付嬢がどんな反応をするかと想像してしまっている。


「モンスターが少ないと言っても何があるか分からないっすから、うちらの側を離れちゃダメっすよ?」

「分かったのじゃ!」


ここにも1人事実を知らない者がいたようだ。

世の中知らないほうが幸せなことが多いのである。


「よし、じゃあ行こうか」


シュウたちはギルドを出ていつもの森へと向かった。


◇◆◇


久々の依頼だが何の問題もなく完了し、街へと帰還したシュウ達一行。

時間は夕方と言うには少し早いくらいの時間だが久々ということもあって早めに戻ってくることにしたのだ。


「むぅ、モンスターが出なかったのじゃ」

「カエデちゃん。危険な目に会わないことがすごく大事なんすよ?」

「むむぅ」


フィアはすっかりお姉さんモードだがシュウたちは苦笑いしか出ない会話である。


「それにしても何事もなく終わってよかったよ。まずはギルドで報酬をもらおうね」

「そうですね。明日からはもう少し森の奥へ行くか護衛依頼でも受けてみましょうか」

「そうしよう。・・・ん?ギルドのほうが騒がしいような・・・」


シュウの言うとおりギルドの中から女性が大声を上げているのが聞こえてきた。

トラブルが起こって悲鳴を上げているというより駄々をこねているようにも聞こえる。


「確かに騒がしいですね。どっちにしろギルドには行かなければいけませんし、少し様子を見てみましょうか」


ティアナの提案にのり、ギルド前へと到着する。

中からは変わらず声が聞こえてくる。


「だがらお願いししますぅ~。今はお金を持ってませんけど依頼をこなして必ず払いますから冒険者登録させてくださいぃぃ」

「規則ですから無理です!登録するには銅貨3枚必要なんですってば」

「そこを何とか~」


どうやら冒険者志望の女性が登録料もないのに受付嬢に無理を言っているようだ。

受付嬢もあまり無理できず、相手が女性ということで周囲の冒険者も止めるに止められない、といった状況だろう。

幸い絡まれている受付担当者はシュウがいつもお願いしている人とは別人だったため自分たちの用件を済ませるためにいつもの受付嬢のところへ向かう。


「やぁ、なんだか大変そうですね」

「そうなんですよ。たまに登録料がない方もいらっしゃるんですが、あの方はとにかくしつこくて・・・」


心の中でご愁傷様、と絡まれている受付担当者に目線を送る。

すると、何の因果か受付に絡んでいた冒険者志望と思われる女性と目が合った。合ってしまった。


(え!?)


シュウは驚きのあまり目を見開いて固まってしまう。


「シュウ?どうしました?」


ティアナが怪訝そうに聞いてくるがシュウの耳には届かない。

そうしているうちに冒険者志望の女性がシュウの方へとやって来る。ダッシュで。


「シュウさあぁぁぁぁん!会いたかったですぅ!!」


そうしていきなりシュウに抱きついてきた。


「「なぁ!?」」


突然の出来事に目を見開くティアナとフィア。

カエデは何やら面白いことが起きそうだと笑っている。


「ちょ、何で君がここに!?」

「シュウさんを送り出した後、先輩にメチャクチャ怒られて、罰としてシュウさんを手助けするようにとここに送り込まれちゃったんですぅ」

「は!?先輩?というか送り込まれたって」


シュウは会話しながらも全力で振りほどこうとするが全く離れる事ができない。


「それでこっちで冒険者やってればシュウさんに会えると思ってたんですけどお金がなくて登録出来ないんですぅ。

お金貸してくださいぃ~」

「いや、それだともう俺と会ってるし目的達成してるじゃん!」

「はっ!シュウさんって頭いいんですねぇ」


なんとも頭の悪い会話で頭が痛くなってきたシュウだが、それ以上に現状を把握することが出来ずに混乱している。


(なんで・・・なんでリエルがここにいるんだよ!?)


先程からシュウに抱きついている頭の悪い子、もとい女性は何を隠そうシュウを勘違いで転生させてしまった女神様その人(神?)であった。


(一難去ってまた一難ってやつか・・・。もうちょっとのんびり暮らせたらなぁ・・・)


現状を理解は出来ないがとりあえずシュウが女性に抱きつかれているのを何とかするため現実に戻ってきたティアナとフィアがリエルを引き剥がすため四苦八苦していたり、ニヤニヤとその様子を見つめているカエデや、状況は全く分からないが女性3人に揉みくちゃにされるカエデを何処か恨めしい目で見ている冒険者(もれなく男性)を見ながらシュウはそんなことを考える。


どうやらシュウがノンビリと思い描いていた異世界生活を過ごせるのはまだまだ先らしい。

まずはこの状態をいかに収めるか、が急務なシュウであった。


これで第一章に当たる部分は完結とさせて頂きます。

明日からは第二章になる予定です。

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