第27話_街へ帰還します
ドラゴンとの戦いで左足を負傷したシュウだが、いざ回復魔法をかけようとすると思ったより火傷がひどくなかった。
いや、火傷を負わされた時にも傷口は確認したのだが、今より酷かったはずだ。
勘違いでないのならこの短時間である程度回復したことになる。
(んな馬鹿な・・・。あ、これがもらった能力の回復か?)
大正解である。
本来であれば数ヶ月は生活が困難になるほどの火傷だがその驚異的な回復力でまだ痛々しいがそれなりに回復していた。
更にシュウの回復魔法をかけることで火傷をしたなどウソのようにキレイな状態に戻ったのである。
(うーん、回復魔法があるから回復能力って影が薄いんじゃ?)
何気にひどいことを思うシュウであるが、回復能力以上に影の薄い「胃腸が強くなる女神の加護」のことも思い出してあげて欲しい。
「ところで主殿、早速で申し訳ないのだが」
「ん?あぁ、そうだね早く帰ろうか」
「そうではなくてだな・・・」
「えーと、何かあったけ?」
「さっきまでの戦闘で興奮して忘れていたが我は空腹なのじゃが・・・」
「あ!そうだったね。えーと、魔力ってどうやってあげればいいんだろうか」
「では手をこちらに貸して欲しい。それでそのままその手に魔力を溜めて欲しいのじゃ」
「えっと、こう」
「ふおおおおおお!これじゃ!これが欲しかったんじゃぁ」
ややカエデの目が怪しい光を帯びているが気にしてはいけない。
魔力を流すこと数分、カエデが握りっぱなしだった手を離した。
「ふぅ、我は満足じゃ!」
「お粗末さま。そんなにお腹へってたんだ」
「そうなのじゃ。最近魔力溜まりが見つからなくなってのう。魔力は感じるのじゃがその場所に行くと無くなっておるのじゃ」
「ふぅん。魔力溜まりってそんな簡単になくなるんだ」
「本来はそんなことありえんのじゃが・・・。まぁ、そういうわけでまともに補給もできず空腹状態で気が立っておったんじゃよ」
「それでこっちに飛んできた時あれだけの咆哮をあげたのか」
「そうじゃ。我はあの森の奥にある山で空腹を紛らわせるため大人しくしておったのじゃが周りがうるさくてのう。
少し威嚇したら静かになったのじゃが今度は余計に空腹を紛らわせなくなっておったのじゃ。
そこへ主殿の美味そうな魔力の気配じゃ。飛び出さんほうがどうかしておる」
「へぇ、そうなんだ」
シュウは軽く流したが、カエデが潜んでいたという山は本来初討伐でシュウが倒したオークが住んでいた山である。
カエデに威嚇されオークが逃げ出し、それに釣られるようにゴブリンたちも森や平原に炙りだされた結果シュウ達に退治されてしまったのだ。
仮にその原因を突き止めるべく冒険者が山へ調査に出掛け、カエデと遭遇してしまえばそれは厄介なことになっていたであろう。
ここで決着を付けれたことはお互いにとってある意味ラッキーな結果であった。
「しかし主殿のように濃密な魔力を纏わせる人間がまだおったとはのう。
すでに全員死に絶えたかと思っておったわ」
「あー、まぁ俺は例外ってことで」
流石に神様にチートを貰ったことは言えないので適当にはぐらかしておく。
「さて、腹も膨れたしそろそろ主殿の街へ帰ろうか」
「そうだね。ところでどうやって帰ろうか・・・。俺の飛行魔法じゃまだ2人は無理かも」
「それなら我が元の姿に戻って、主殿を乗せて帰ればいいじゃろう」
「いや、それ街が大混乱になるからやめよう。少し遠いけど普通に歩いて帰ろうか」
「わかったのじゃ!」
本当はもっと遠くで戦うつもりだったがブレスと体当たりにより予定より街の近くで戦うことにはなったが、それでも街が全く見えない程度には離れていた。
今から歩き始めればかろうじて夕方には着けるだろうか、という距離だったので早速行動を開始する。
カエデはシュウの隣を歩きながらこれからの生活に思いを馳せているのか終始楽しそうな様子であった。
◇◆◇
途中適度に休憩を挟みつつ、ようやく街がハッキリ見える距離までやって来た。
今朝街を出たばかりなのに、あまりに濃密な時間を過ごしたせいか感慨深いものがある。
シュウは早く宿で休みたいと思い速度をあげようとしたが、街の方の異変を見つけ怪訝そうな顔をする。
街は朝と全く様子が変わっていない。違いがあるとすれば街と自分たちの間に人影があることだろう。
行商人や旅人がいることは全く不思議ではない。
不思議なのはその人影が1人や2人ではなく少なくとも50人はいる集団であることだ。
しかも見える限り集団はもれなく完全武装と言っていい出で立ちであった。
「あの集団はなんだろうか・・・。戦争でもやるつもりか?」
思わずつぶやきつつ街の方へと歩を進めるシュウとカエデ。
近づいてくるとその集団は全員決意を固めたような、あるものは絶望したような表情を浮かべながらシュウたちの方へと進んでくる。
するとその集団の戦闘にいた者たちがシュウたちに気づく。
そして後方へと連絡が行っているようで、その様子を進みながら見ていると、集団から人影が飛び出してきた。
「「シュウ(さん)!!」」
それは岩場で別れたシュウのパーティーメンバー、ティアナとフィアであった。
全力で走ってくる2人にただならぬ空気を感じ強張るシュウ。
(あの2人があんな表情をするなんて。一体何が起きたんだ)
モンスターの大群でも近づいているのかと冷や汗を流すシュウ。
そんなシュウの強張った表情を見てティアナとフィアは更に速度を上げシュウに抱きついてくる。
「シュウ!無事でよかったです!!」
「ティアナ、一体どうしたんだ?まさかモンスターの大群でも押し寄せてくるのか!?」
「何言ってるんすか!モンスターの大群なんて来るわけないじゃないっすか!」
「え?じゃあ2人は何を焦っているの?というかあの人達は?」
見ると武装した集団はなんとも言えない表情を浮かべていた。
いや、よくよく見ればそれはギルドでみたことのある顔ばかりであった。
「モンスターの大群でも来ないんじゃこの冒険者の人達は何で完全武装なのさ?」
「ドラゴンが出たんですよ!?街を守るために出てきたに決まってるじゃないですか!」
ティアナの発言で現状を完全に理解できた。
つまりこの集団は街の近くに出たドラゴンを倒すために武装して出てきたのだ。
あれだけの咆哮を街の近くで上げたのだ。気づかないほうがおかしい。
そしてドラゴンを相手にするため腹を決めたものや、ドラゴンに関する噂を知っていて絶望した表情を浮かべていたのだ。
だがその全員が街を守るため決死の覚悟で街を出てきたのだ。
(やばい、ドラゴンを仲間にしたなんて言える状況じゃない!?)
シュウはさっきまでとは別の意味で冷や汗を流し始める。
うまいこと自然な感じで全員帰還してくれないかと思ってはいるが現実はそんなに上手くいかない。
「ところでシュウさん。ドラゴンはどうなったっすか?シュウさんを追っていったはずっすけど?」
「あー、それは・・・うん」
どうしたものかと考えるシュウ。
ここにいます、とカエデを差し出しても信じてもらえないだろうし、元の姿に戻ってもらうと何のためにここまで歩いてきたのか分からなくなるくらい混乱が起こるだろう。
しばらく目を泳がせつつ言い訳を考えているとティアナが追撃してくる。
「シュウ?どうしたのですか。まさかあなたがここにいるということはドラゴンもここに来るのですか!?」
周囲に緊張が走る。
「いや!それはない!それはないけど・・・」
「けど?あのドラゴンの速度では逃げ切るのも難しかったと思いますが」
「あー、うん。見事に撃ち落とされたよ。でそのあと戦闘になってさ」
「ドラゴンと1人で戦闘!?なんて無茶を・・・。それでドラゴンはどうなったのですか?まさか討伐したのですか!?」
「討伐というかまだ生きているというか・・・」
話していると集団の中からまた人が出てきた。
「シュウくん、まさか1人で追い払ったのかい!?」
「おいおい、上級冒険者が大勢でかかりながらその半数の犠牲を出してようやく追い払えるものを1人でやってのけたのか」
「ほんとに規格外なやつだね」
アラン、ゴルド、イリーネの草原の狼一行であった。
「アランさん。えーと、何とかなりました。もう街を襲いに来ることはないと思いますよ?もともと違う目的でしたし」
シュウの返事の最後は小声だったので誰にも聞こえていない。
「そうか。一応警戒はしていたほうがいいと思うけど、君が無事で戻ってきたというなら、君の言うことは本当なんだろう。しかし本当によくやったね?」
「まぁ、運が良かったんですかね」
もうその方向で押し通すことにした。
「ところでシュウ。あなたと一緒に来た女の子はいったい何者なのですか?」
「あ・・・」
カエデに関する言い訳は何も考えていなかった。
どうするか焦っていると、他ならぬカエデから助け舟が出てくる。
「我は主殿に救われたのじゃ。空腹で死にそうになっていたところを食物を分けてもらったので恩返ししたく、主殿の役に立つため付いて来たのじゃ」
「むむむ?ドラゴンと戦った時近くにいたんすかね」
「あー、まぁ、そんな感じ。かな」
またしても最後は誰にも聞こえていない。
このような少女が平原の真ん中で1人空腹でいた事については誰も疑問に思わない、否そこまで考えが及んでいないようであった。
「がははは、しっかし俺達は死ぬ覚悟をしてここまで来たってのに坊主は相変わらず軽いなぁ!」
ゴルドが豪快に笑っており、周囲もそれに流されたのか表情が緩んでいる。
「よおし!坊主が無事だった祝いだ。アラン、イリーネ!今日は宴会するぞ!!」
「今日も、でしょ?まったくアンタはいつもそうなんだよ。でもアタシも今日は賛成かな」
その会話がキッカケになったのか冒険者達は緊張から開放されたように表情を和らげた。
遭遇したら諦めろ、とまで言われるドラゴンと戦いを決意し、出発したはいいが恐怖はあったのだ。
実際に戦ったわけではないが、強大な相手との戦いが控えていると精神はどんどん疲弊したのだろう。
そこから開放されたのだから細かいことまで気がまわらないのはしょうがないかもしれない。
そしてそれはシュウにとってもありがたいことなので指摘するつもりはない。
こうしてシュウの濃い一日は終わりを迎えようとしていたのだが、そうは問屋がおろさないようだ。
「シュウ?私にはキチンと説明してもらえるのでしょうね?」
「・・・はい」
ティアナの目は誤魔化せなかったようで、その夜、宴会が終わった後で事情を全て説明しカエデの正体にティアナが驚き慌てふためく場面もあったのだがカエデ自身がシュウに従うことをキッチリ説明したため落ち着きを取り戻したり、と色々あった。
ちなみにフィアはシュウが無事で嬉しかったのかすっかり酔いつぶれて熟睡していたのであった。
この世界ではお酒は合法です(棒)




