第24話_「あれ」がやってきました
「シュウ!」
「ん、何かあった?」
「何か分かんないっすけど、何かが来るっす!」
「何かって何なのさ。見える限り何もいないけど」
「いえ、森のほうを見てください。鳥達が一斉に飛び立っています。おそらく森の中か更に向こう側から何か来ます」
「2人は何か感じるの?」
「はい。何と言いますか、肌が粟立っている感じです」
「何か怖いのが来るっす!」
「うーん、俺は何も感じないけど・・・。2人が感じるならそうなんだろうね。急いで街に戻ろう」
日本から来た自分よりこの世界で生きてきた2人の危機管理能力のほうが高いだろうという判断で、街への帰還を決める。
しかしそれは遅かった。
いや、仮にすぐに決断したとしても街に辿り着くより先にそれと遭遇しただろうが。
「お、何か森の上に見えるぞ」
「「え?」」
シュウが何かを見つけたことを報告するとティアナとフィアは反射的にその方角を見つめ、固まった。
「んー、なんだろうね、あれ」
「「・・・」」
「2人は何か分かる?すごく大きい鳥に見えるけど」
「「・・・」」
「ティアナ?フィア?」
2人が何も言わないので不思議に思いつつ飛んで来る物を見つめるシュウ。
その姿は離れていても巨大であることは疑いようのない事実であることは認識できた。
しかしシュウの知識ではあれほど巨大な生物は見たことがなかった。
昔両親に連れて行ってもらった動物園で見た象よりは大きいだろう。
博物館で見た恐竜の実物大模型よりも大きいかもしれない。
そんな事を考えているとようやく2人が現実に戻ってきたようだ。
「あ、あれは・・・」
「ティアナ、あれが何か分かるの?」
「分かるというかなんというか・・・」
「あれがうちの知ってるあれだとすれば・・・、いやあれじゃないほうがいいんすけど」
「フィアも知ってるんだ。ってことはあれはよく見かける生物なのかな?」
「いいえ。あれは誰もが知っていますが誰も見たことがないものです」
「ん?それっておかしくない?」
「いいえ、それで合ってるっす。だってあれを見た人は誰も帰ってこないんすから」
「?」
シュウは全く分かっていない。
いや、シュウも知識としては知っているのだ。
それはシュウが日本時代にゲームでよく戦ったりしていたある意味メジャーな生物。
ゲームに詳しくない人でもその伝説上の生物のことは知っているだろう。
そう、その名は。
「「ドラゴン・・・」」
ゲームでも物語でも終盤に遭遇するはずのボスモンスターに最初の街付近で遭遇するというある意味「事実は小説より奇なり」状態である。
それでもドラゴンというのは悪いドラゴンと良いドラゴンに分けられることが多い。
シュウのやっていたゲームでも、世界の半分を譲ろうとするドラゴンの王と戦ったりする物語もあるが、主人公たちに協力して悪役を一緒に倒すようなドラゴンが登場する物語も好きなのだ。
このドラゴンはどっちだろう、と少し場違いなことを考えていると、
GYAOOOOOOOOOOO!
咆哮が木霊する。
(あ、これダメなやつだ)
その咆哮だけでこれは仲間にならないダメな方のドラゴンだ、と思うシュウだがこの状況でそんなことを考えるのとどちらがダメな方か。
まだ距離はあるが、飛行速度を考えると全く逃げきれる気がしない。
咆哮が届いたのか街の方で慌ただしく門を閉じようとしているのが見える。
空を飛ぶ相手に門を閉めて何の意味があるのか疑問ではあるが、少し厄介な状況になったぞ、とシュウは仲間の方を見る。
ティアナとフィアはドラゴンの咆哮により再び硬直していた。
(そういえばティアナがドラゴンに遭遇したら諦めろ、なんて言われてるって言ってたっけ)
2人は顔に絶望という字が書いてあるようにわかりやすく諦めの色が見えた。
確かにあの速度で移動する友好的ではない存在を見てしまったのでその反応は分からなくもない。
だがシュウは全く諦めるつもりはなかった。
というかこの男、この状況でもワクワクしていたのである。
(さぁて、ザ・ファンタジーの象徴っぽいドラゴンだ!)
全く不謹慎な態度である。
それでもこのまま到着を待っていれば確実に2人はおろか街にまで甚大な被害が出ることは理解できたのでシュウは自分が囮になり街から遠ざけることを決める。
「ティアナ!フィア!俺があれを引き付ける。2人はその隙に街に戻ってくれ」
「え?引き付け、え?」
ティアナが混乱しているがあまり時間を掛けてられないのでシュウは昨日覚えたばかりの飛行魔法で空へ浮かび始めた。
「待つっす!シュウさん、いったい何するつもりっすか!?」
「このままここに来られると厄介だから、離れたところまで誘導する。2人は万が一に備えて街の防備をしててくれ!」
言うが早いかシュウはドラゴンへ向かって全力で飛び立った。
2人が何か言っている気がしたが聞こえなかったのでスルーする。
(さて、勢い良く飛び出してきたけどどうしようかな)
まさかの無計画だった。
そうこうしている間にもドラゴンとの距離は詰まってきた。
近づいてみると、以前ティアナが言っていたように巨大な赤いトカゲに羽が生えたタイプのドラゴンのようだ。
シュウはとりあえず剣を抜き魔法を放ってみることにした。
「風刃ッ!」
速度と飛行しながら出せる威力の問題で風刃を飛ばす。
見えない刃がドラゴンの前足の付け根に命中する。
GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!
ダメージを与えられたのかドラゴンが多少苦しみながらも先程より大きな咆哮を上げる。
(むぅ、切り落としたかったけどさすがに無理か)
ちなみにだが通常ドラゴンを相手にする際にはバリスタ等の大型兵器を使いジワジワと体力を減らしていくのがセオリーだ。
間違っても個人でダメージを与えられる相手ではない。
今の一撃でドラゴンは完全にシュウを敵と認識したようだ。
怒りに燃える相貌でシュウを睨みつけてくる。
「おぉ、怖いなぁ。よし、こっちについて来い!」
シュウは当初の予定通り街やティアナたちのいる岩場から離れるように移動を開始する。
ドラゴンはそのままシュウに付いて来た。
(よし、付いて来たな・・・って!)
シュウが見るとドラゴンの口からは炎が溢れてきていた。
そこから連想されることはひとつ。
(炎のブレスかよっ)
ドラゴンが口から炎を吐き出してくる。
それは防具を纏っていようが関係なく人間を消し炭に出来る威力をもっていた。
仮に街の防壁に撃ち込まれたりしたら岩が解けて溶岩になってしまうだろう。
だが、いくら威力があっても当たらなければ意味が無い。
シュウは魔力で作った足場を蹴って左に避ける。
広範囲を焼きつくす目的ではなく、単体を狙い撃ちにするような一撃だったので躱すことは出来た。
それでも少し離れた程度では感じる熱量までは完全に避けることが出来ず、シュウは思わず体勢を崩した。
(やべっ)
その隙をついてドラゴンが体当たりしてきた。
とっさに手にしている刀を盾に致命傷を避けるがそのまま吹き飛ばされて地面へ落下してしまった。
「いててて。身体強化してなかったら大怪我してるぞ」
普通は大怪我では済まないがそこはシュウクオリティである。
「さて、街から少しは離れられたし、今度はこっちからも攻めるぞ!」
先ほどの風刃を警戒してかドラゴンはシュウから少し離れた位置で浮かんで様子を見ていた。
よく見れば風刃で傷ついたはずの前足の付け根の部分はすっかり回復しているようでシュウはどうすれば倒せるか計算している。
「むう、あれくらいの傷じゃあ回復するのか。どうしようかなぁ。最悪倒せなくても追い払えれば良いんだろうけど・・・」
GYAOOOOOOOOOOO!
「それも難しそうだなぁ。どうやって攻めようかな・・・」
圧倒的強者を目の前にしてもシュウはシュウであった。
ザ・ファンタジーの象徴とも言えるドラゴンさん登場です。




