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第23話_稽古します

「いやー、楽しかったぁ」


ラグスの街にて、シュウが伸びをしながら呟く。

シュウは今まで新魔法の練習と称して街の周りを飛行していたのだ。

自分の身ひとつで飛んでいたのだ。

日本人に生まれた若者であれば一度はやってみたい体験だろう、というのはシュウの意見だ。


「さて、と。ティアナ達と合流してメシでも食うかな」


シュウはご機嫌で街を歩く。

すると宿屋の前でティアナとフィアが立っていた。


「お、ティアナ達も戻ってきてたのか」

「ええ。そうです」

「いやぁ、さっきまで楽しく買い物してたんすけどちょっと見過ごせないものを見つけてしまったものでここで待機してたっす」

「見過ごせないもの?何かあったのか」

「シュウ、取り敢えずいつも通りあなたの部屋に行きましょうか?」

「・・・」


とてつもなく嫌な予感がするシュウ。

本心としては断りたかったが二人の雰囲気がそれをさせない。

苦笑いしつつも2人に続いて部屋に入るシュウだった。

女性に対して強気に出れない悲しい性である。


◇◆◇


「シュウ。あなたは今まで何をしていたのですか?」

「新魔法の開発だけど?」

「そうですか。ところで私達が2人で買い物をしてたら空に鳥ではない何かが飛んでいるのを見かけまして」

「あ・・・」


何故自分がここに呼ばれたか理解したシュウ。


「シュウさん、もう一度聞くっすよ?今まで何をしてたんすか?」

「・・・魔法で空を飛んだりしていました」

「「はぁ」」

「えっと、やっぱりマズイ?」

「マズイというかなんというか・・・。これも人前でやらないほうがいいと思います」

「そうっすね。ところで他になにかしてたような口ぶりですが他にはどんなことしてたんすか?」

「ん?ちょっと収納袋を魔法でいじってた」

「収納袋をっすか?ちなみにどんな非常識な性能にしたんすか?」

「非常識って決めつけられると・・・。とりあえず容量を増やしてみた」

「容量をですか?シュウにしてはまともな性能に聞こえますね」

「そうっすね。少し位容量が増えるだけならちょっと高価ですが魔道具店で売ってたりするっすからね」

「あ、そうなんだ。飛行魔法より簡単にできたからやっぱりありふれた物なんだ」

「いや、普通なら簡単に出来るものじゃないんすけど・・・。どのくらい容量増えてるんすか?」

「一割増し位なら普通に売ってますからね。シュウなら二割くらいですか?まさか三割!?」

「えっと・・・今この収納袋には採集依頼で集める3倍位の量の薬草が入ってる」

「それくらいなら普通の範囲内ですね」

「あと、岩場にあった1m位の岩が10個位と手に持てるくらいの岩がいっぱい」

「・・・その容量に驚くべきか、何故岩を入れたのか質問するべきか悩むっすね」

「シュウ。それも秘密にする方向で」

「・・・はい」


さらに中に入れたものの時間が止まったり取り出したいものが一瞬で取り出せると言った性能を話すとより厳密に秘密にするようにと注意を受けたのであった。


◇◆◇


シュウが怒られた翌日、シュウ達3人は再び岩場に来ていた。

シュウが幾つか収納袋に岩を入れたので心なしか岩が少なくなっているような気がするが毎日来るでもしないかぎり気づかれない範囲だろう。

今日3人がやってきたのはシュウの飛行魔法をティアナとフィアに見せるためだ。

秘密にするべきだと説教はしてみたものの空を飛ぶ魔法を実際に見てみたいという好奇心には敵わなかったようである。


「シュウさん。それではお願いするっす!」

「了解。じゃあ飛ぶね」


シュウは昨日同様魔力を体に行き渡らせる。

そして重力を操作しつつ体を浮かび上がらせ、ゆっくりと前進する。


「凄いっす!シュウさん飛んでるっす!」

「本当に凄いですね。その速度でしか進めないのですか?」

「いいや。もっと早く動けるよ」


そう言って魔力で足場を作り加速する。

そのまま急加速、方向転換、急減速をしてみせる。

ついでとばかりにその辺の岩に火の魔法を放つ。

一通りの動きを見せた後、シュウは地上に戻ってきた。


「こんな感じ。どう?」

「どうもなにも・・・。凄すぎる、としか言いようがありませんね」

「いや、ホントびっくりしすぎて声が出ないっす」

「シュウ。私に出来るとは思いませんが一応原理を教えてもらえますか?」

「いいよ」


シュウは自身の魔法の原理を説明するがシュウ自身もフワッとしたイメージだけで作り上げた魔法なのできちんとした説明を出来るはずもなくティアナがこの時に理解出来はしなかった。


◇◆◇


「シュウさん!うちにはその刀を貸してもらえないっすか?」

「いいよ。はい」


フィアに刀を貸すと早速鞘から抜いて素振りし始めた。


「すごく軽くて振りやすいっすね。この軽さだと材料となった鉄の量も少なかったんすかねぇ。それでこの強度を持ってるならうちも欲しいっすね」

「いや、全然鉄の量は少なくないぞ?樽いっぱいの剣を全部使ったし」

「え!?でも全然重くないっすよ?あ、何本か作ったんすか」

「いや、全部入ってるよ。何故か軽いけど」

「うぅ、うちも欲しいけどその量の鉄は用意できないっす・・・」

「えぇと、武器屋さんに壊れた武器を譲ってもらえるように頼んでみるよ」

「ッ!お願いするっす!!」

「お、おう」


フィアが興奮して言い寄ってくるのでシュウは戸惑いながら応える。

ちなみにフィアは興奮しているためか耳も尻尾もピンと張っているのにシュウがつい目を奪われたのはご愛嬌だろう。


「でもこの刀だけじゃあの時のシュウさんの動きの速さが説明できないっすね。他に秘密あるんすか?」

「あれは魔力を体や刀に通して身体強化してるからだよ」

「ふむ。魔力を使うってことはうちには難しいっすかね」

「いや?魔力量が少なくても身体強化は出来るはずだよ?流石に俺と全く同じってのは難しいかもだけど、魔力を通した分だけ強化される感じだし」

「ホントっすか!?教えてほしいっす!」

「いいよ」

「やったっす」

「シュウ、それなら私にも教えてほしいです。魔法使いとはいえ身体能力はあっても損はしないですし」

「オーケー。じゃあ一緒にやってみようか」


◇◆◇


ティアナとフィアに魔力による身体強化を教えると言ってもシュウは当然のことながら理屈では理解していない。

なのでまずは2人に精神集中の真似事をさせて自身の魔力を感じさせることから始めた。


「俺の感覚だと自分の中にある魔力を意識しながら体の中を巡らせるイメージでやってるんだ。

だからまずは魔力を感じるところから始めよう」

「「はい」」


さて、2人が集中を始めるとシュウはやることがなくなる。

一応街の外なので警戒しないわけにはいかないが、それでもここでモンスターや獣に遭遇したことはないので少し気を抜きつつも自身もいつも以上に魔力を体に巡らせる訓練を始めるのであった。


(いつもは血管を通る血をイメージしながら魔力を送り込んでるけど、送り込むだけじゃなくて細胞一つ一つに染み込ませるようにすればどうなるかな)


無論血の巡りのように魔力を行き渡らせるだけで常識はずれなのだがアッサリ出来たシュウはさらなる異常さに気づいていない。

細胞一つ一つに魔力を充実させるようにしていくといつも以上に力が漲る感覚になる。


(おお、これは凄いぞ。これならいつもより魔力で強化出来そうだ)


シュウは完全に調子に乗っている。

だから周囲の様子が変わり始めたことに全く気づいていなかった。

森に生息する小鳥や動物たちが逃げ始め、モンスターたちの悲鳴がかすかに聞こえ始める。

魔力強化の練習中だったティアナとフィアが異常に気づくが、シュウはまだ自分の世界の中にいた。

普通の生物は本能的に圧倒的強者の存在に怯え始め、ティアナとフィアもその存在が何なのか不明ながらも本能的な恐怖が襲ってきている。


それは森の更に向こう、本来街の近くにいるはずのないオークがやってきたと思われる山の方から絶望を振りまきながらやって来た。




何かがやって来ました。

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