第01話_間違えられたようです
和宮修(17歳)はライトオタクである。
ゲームやアニメ、漫画は嗜むがあくまで楽しむ範囲でありそこまで深入りするようなことはしないからヘビーではなくライトだと思っている。
見た目は太っているわけでも痩せているわけでもなく身長も平均的で髪も染めておらず短すぎない程度の黒髪だ。
ただし、様々なジャンルの作品に触れ、知識としては広く浅く持っているので変に大人びた物言いをすることもある。
だが基本的には一般的な高校生と言ってもいいだろう。
そんな彼は現在とても一般的とは言いがたい状況に陥っているため絶賛混乱中である。
彼の現状を一言で表すとこうなるだろう。
俺の目の前で女神様が土下座している件について
(うん、訳が分からん)
現状だけ見ていると余計混乱するので順番に整理することにしよう。
まず自分はいつも通り学校に登校し、授業を受けていつも通りに徒歩で帰宅中だったはずだ。
そして気づいたら今いる全てが白い空間に立っていた。
あまりに一瞬のことでパニックを起こしかけていると目の前にこの世のものとは思えないキレイな女の人が出現したのだ。
一目見た瞬間逆らってはいけない存在だと理解したし、逆らう気にすらならなかった。
相手は圧倒的な強者であり自分は弱者であると理解させられたのだ。
そんな相手がこう話しかけてきたのだ。
「和宮修さん、残念ながら貴方は死んでしまいました。」
何を言われたのかすぐには理解できなかったが何やら不穏な事を言われたのはすぐ分かった。
そしてライトオタクとしての本能が死んでしまった自分は女神様に会っているのだと言っているように感じた。
そう感じてしまうとあまりに呆気無く終わったらしい自分の人生に対してなんとも言えない感情が浮かんでしまう。
そんな修に対して女神様は更に言葉を続ける。
「覚えていらっしゃるかと思いますが、貴方は帰宅中トラックに轢かれてすぐに死んでしまったのです。
ですが貴方は死んでしまうにはあまりにも若い。
なのでここにお呼びして今後のお話を「あの・・・」
と続けそうなところで女神様の話に違和感を感じた修は話に割り込む。
「何か?」
自分の話が遮られたことには特に何も思わないが修の納得いかないという表情を見た女神様は少し不思議そうな顔だ。
修は話を始める前に少しだけ間を置き自分の感じた違和感に間違いが無いことを確認してから疑問点を挙げた。
「あの・・・俺の歩いていた道は見通しが良い一本道でどこにもトラックなんて見当たらなかったのですが・・・」
そう、修の感じた違和感とはどう考えてもトラックのような大型車がいれば目立つような道を歩いていたのに気付かず轢かれたのか?ということだった。
本当に気付かなかった可能性もあるのだが自身の死因なのでキチンと確認しておきたく話に割り込んだのだ。
もちろん自分の勘違いなら謝罪はするつもりでいたのだが、それを聞いた女神様は少しだけ表情が強張ったようだ。
女神様は「ちょっと待って下さい」と目を閉じて何か確認し始めたようなので修は少し緊張しながらも返事を待つことにした。
体感時間で1分ほど経った頃女神様は目を開け修の方を見る。
ドキドキしながらも結果を待っていると大量の汗を流した女神様はキレイなバック転からの土下座の体勢に移行した。
あまりのキレイな動きに思わず見惚れていると、
「ごめんなさいいいぃぃぃぃ」
と大きな声で謝罪を始めたのだった。
「いやいやいや、取り敢えず何に対して謝っているんですか!顔を上げてください!!」
女性に土下座させて喜ぶ趣味は無いので慌てて顔を上げるように言っても女神様は頑なに頭を下げ続けた。
それでも事情を説明して欲しいと説得を続けようやく話を聞ける状態まで落ち着かせることに成功した。
そしてポツポツと話し始めた事をまとめると以下の様なことだった。
・修はトラックに轢かれてはいない
・轢かれるというのは女神様の勘違いだった
・勘違いだが死ぬには若すぎると不憫に感じた女神様は異世界転生の形で修を助けようとした
・異世界転生の手順を踏むため実際は死んでいない修を何の確認もせず神界に召喚してしまった
修としては驚きはしたものの実害があったわけでもなく、女神様に悪意があったわけでもないのでそこまで怒る要素もなかった。
そう、次の女神様の発言を聞くまでは。
「それで修さんが異世界に行くにあたって悲しむご家族やご友人の事を気にされると思い、関係者の皆様の修さんに関する記憶を消去してしまいまして・・・」
「・・・はい?」
流石の修も自分に関する記憶の消去=自分をいなかったことにされては怒りも湧いてくる。
即記憶を戻して自分も現世に帰還させて欲しいと言うと女神様、いや女神は更に汗を流しながら
「帰還させるのは出来るのですが、あるものを無くすのは簡単で無くなったものは戻せないと言いますか・・・」
と言ってきた。
つまり現世に戻ることは出来ても自分のことは誰も覚えておらず戻ってしまえば何の後ろ盾も保証もない未成年となり通常の生活が送れないということだ。
こうなってしまえば怒るなという方が無理だ。
修の怒りに反応して女神は土下座の体勢から更に体を縮めて震え始めている。
ただ、ここで女神を怒鳴りつけても何も変わらず、しかも相手としては善意でやってくれていたのことは理解できるのだ。
なので怒ってはいるが努めて冷静に女神に話しかける。
「ちなみに異世界とやらに行ったら俺はどうなる?」
自分の事を知らない知人がいる世界よりだったら最初から知らない人だらけの異世界の方がマシかもしれないというある意味大物感のある発想からだった。
「えっと・・・怒らないんですか?罵倒しないんですか?殴りかかってこないんですか?」
(この女神は自分のことを何だと思っているのだろうか・・・)
つい怒りたくなったりはしたものの取り敢えず女神による異世界の説明が始まるのだった。