第18話_魔法を披露します
「そういえばお前の魔法は威力が高くて模擬戦じゃ使えないと言っていたな?
試しに見せてもらうことは出来るか?」
エルグとの訓練の休憩中、エルグはそんなことを言ってきた。
「えーと、ですね。ちょっとこれは秘密にしておきたいなぁ、なんて」
「む。だが今この訓練場には俺達しかいないし、俺の口は軽くはないぞ?それに威力の高い魔法というものを見てみたい」
「えー・・・」
シュウは迷いながらもティアナの方を見る。
「・・・いいんじゃないでしょうか?エルグさんなら信頼できますし、このギルドでもそれなりに偉いみたいですから何かと便宜を図ってもらえるかもしれないですし」
「本人を目の前にして偉いみたいだとか便宜だとかよく言えるな・・・。まぁどんなもんかによっては考えなくもない」
「それでいいんですか・・・。じゃあ何か的になるような物はないですか?
なにもない所に撃つよりわかりやすいと思うんで」
「ちょっと待ってろ」
エルグはそう言うと訓練場端の倉庫のようなところに入っていく。
出てきた時には何やら人形のような物を抱えていた。
「これは訓練用の人形だ。だがいい加減ボロボロなんで処分しようと思っていたことろだ。
これなら遠慮はいらんから構わずぶっ放せ」
「分かりました。それじゃあ少し離れたところから見ててくださいね」
シュウは離れたところに置いていた黒刀を手にしながらティアナとエルグに言う。
2人が充分離れたことを確認したシュウは目標の人形へと向き合う。
「それじゃあ行きます。風刃!」
シュウが刀を抜き放つと同時に風の刃を纏わせ人形へと飛ばす。
風刃が当たった人形は上半身に当たる部分がキレイに斬り落とされる。
「はあ!?」
エルグが驚きの声を上げるがシュウは構わず次の魔法を放つ。
「水龍!」
今度は魔法を纏わせた刀を突き出し、残った下半身へと水龍を放つ。
黒刀を使わないで放った時はただの体当たりのような攻撃だったが、今回は威力があがり残った下半身の大部分を食いちぎったように吹き飛ばす。
「なあっ!?」
エルグが再び驚きの声を上げる。
シュウは再び無視して風刃で切り落とした人形の上半身部分へと意識を向ける。
今度は剣を下から振り上げるように動かしながら魔法を放つ。
「炎柱!」
振りぬかれた刀の軌跡をなぞるように渦を巻いた炎が吹き出し倒れている人形の上半身へと向かう。
炎の渦は人形の上半身を包み込みそのまま高さ5メートルほどの、まさしく炎の柱となり焼きつくしていく。
炎が消えた時には何かが燃えた跡のある地面があるだけだった。
「・・・」
エルグは絶句している。
「ふぅ、こんなもんですね」
「・・・」
「エルグさん?」
「はっ!すまん、予想外に強力だったので少し呆けてしまったようだ」
「えーと、それでどうでした?」
「うむ。お前が秘密にしたい理由が分かった。これが周りに知られれば大騒ぎになるし、ただの冒険者としてやっていくのが難しくなるだろうな」
「そうなんですよ。でもどうしても依頼中に魔法を使わないといけなくなることもありますし、そういう時にギルドの方で上手く誤魔化して貰えたら助かるなぁ、と」
「あー、分かった。そういう約束だったしな。その代わりこちらも出来る範囲で助けてもらうぞ?」
「俺に出来ることなら力を尽くしますよ」
ギルドの中でもそれなりの地位だというエルグの協力を得られるかもしれないというのはシュウにとってもありがたいことなので承知する。
「それにしても最後の炎の魔法はいつ練習したんですか?今までの魔法特訓でも見せたことないですよね?」
「ん?あぁ、あれ?風と水の魔法は刀に纏わせたことあったけど、そういえば火の魔法はないなぁ、と思ってやってみたら出来た」
「な!?お前あれだけの魔法を即興でやってみせたというのか!?本当に人間か?」
「そうなんですよ、エルグさん。シュウはこういうことをするので油断ならないんです」
「2人も酷くない?」
「「事実を言ってるだけだ(です)」」
2人に揃って言われると何も反論できないシュウであった。
◇◆◇
本日の戦闘訓練を終え、また明日来ることをエルグに伝えたシュウとティアナは再びギルド内部へと入っていた。
依頼を受けるつもりはないが、一応今日あった依頼は確認しておきたかったためだ。
すると依頼板の前にいつもの受付嬢がいたので挨拶だけはしておく。
「やあ、どうも」
「あら、シュウさん。戦闘訓練はどうでした?」
「エルグさんに協力してもらって基本から確認してきましたよ。ところで何をしているんですか?」
「それがシュウさんたちが昨日倒したオークなのですが、本来はあの森には棲息していなくて森を超えた山の方のモンスターなんですよ。
それが森まで来ていたので周辺で何か変わったことがないか調査依頼を出すことになったんです。
あ、この依頼はオークと遭遇することも考えてCランク扱いで出すのでシュウさんたちは受けられませんからね?」
「俺達だって自分の命は惜しいので無理するつもりはありませんよ。
昨日だってたまたま遭遇したから戦っただけですし」
事実なのだが受付嬢からすれば戦うという選択肢が出るだけで無茶をしている扱いなので多少ジト目になってしまったのはしょうがないことだろう。
受付嬢と、何故かティアナにまでどこか居心地の悪くなる視線を浴びせられたのでシュウは受付嬢に別れの挨拶をしてそそくさとギルドを後にするのだった。
◇◆◇
翌日も朝からシュウとティアナはギルドの訓練場に来ていた。
再びエルグに指導してもらいつつ戦闘訓練を重ねていく。
前日同様最初はティアナとの模擬戦で、ティアナの体力が尽きたらシュウの番となる。
「ところでシュウよ、昨日の魔法以外にはどんなことが出来るのだ?」
少し戦ったところでエルグはシュウに質問をぶつける。
「魔法として発動したことがあるのは昨日のくらいですね。他にもやろうと思えば出来ると思いますが、まずは今ある手札を使いこなせるようにならないと後で困るでしょうから増やそうとは思っていません。
というか昨日も言いましたが手加減出来ませんからこの模擬戦で使うつもりはありませんよ?」
「そうか。流石にあれを手加減出来ない状態で模擬戦で使われたんじゃ俺の身が危ないからなぁ・・・」
「まぁ、魔法にしない形でなら多少は使えるかもしれませんが」
「魔法にしない?どういうことだ?」
「単純な魔力として体に纏わせて身体能力を上げられます」
「ほう、それでお前の動きはそんなに早いのか」
「いえ、今は使ってませんよ?」
「なに!?ということは魔力を纏えば今以上に早くなるのか!?」
「そうですね。ただ練習以外で使ったことありませんね。
ゴブリン倒した時も刀と魔法だけで倒せましたし」
「むぅ・・・試しに使ってみろ。どんなものか見てみたい」
シュウはエルグに対して昨日に引き続き「見てみたい」とは随分好奇心旺盛だなぁ、と思いつつ魔力を体に流していく。
この時手にした訓練用の木剣には流さないように気をつける。
流石に木製なので魔鋼の砂にならないとは思うが念のためだ。
「これで魔力を流した状態ですね」
「見た限りでは分からんな。だが少しだけお前から感じる存在感が増したような気がするが」
「そうなんですか?自分では分かりませんね」
「よし、そのまま掛かって来い」
「分かりました。行きます!」
そう言ってエルグに向かって走りだすが、その動きは今までのそれを遥かに上回り、エルグは向かってくることは分かったが反応できない。
そのまま肩口へ木剣を振り下ろされ寸止される。
それでもエルグが何の反応も示さないのでシュウは戸惑いを覚える。
「えーと・・・」
「とりあえずシュウ、お前に言いたいことがある」
「何でしょう?」
「お前もう基礎訓練とかいらないんじゃないか?」
「えぇっ!?」
昨日の訓練時に基本が大事、と言っていた人物とは思えない発言に戸惑うシュウだがティアナも後ろで同意していたのでまたしても何も言えないのであった。
魔法は秘密、と言っていたわりにアッサリとバラします。
誰に何を言った、言わないというのを管理するのが苦手なので今後矛盾点が発生するかもですが、その時はご指摘いただければありがたいです。




