第17話_基本は大事です
「このままじゃダメだよなぁ」
アランたちと宴会をした翌日、ティアナと朝食を取っている最中にシュウが呟く。
「ダメって何がですか?」
「昨日は結局アランたちと割り勘だっただろ?せっかく少しでもお金を返せると思ったのにさ」
「あぁ、そのことですか。イリーネさんが言ってましたが、別に返さなくても気にしないようですよ?」
「アランたちが気にしなくても俺が気にするよ。でも少しずつ返そうと思っても受け取ってくれそうにないしなぁ・・・」
「随分と律儀なんですねぇ」
シュウは日本人として借りたものはキチンと返さないと気がすまない性格なのだ。
小心者ともいう。
「頑張ってランクを上げてその報酬で返そうかなぁ・・・。でも今のままじゃ力不足だしなぁ」
「力不足って・・・。魔力は最大、剣は鉄をバターのように切り裂くのにこれ以上何を求めるのですか」
「俺に足りないのは技術と経験だよ」
「技術と経験?」
「そう。昨日の戦いで実感したけど、どうも力に振り回されてるだけなんだよ。
で、結局油断して怪我しちゃったし」
「その辺はこれから慎重にやっていけば補えそうですがシュウはそれで納得しないのでしょうね」
「そうだね。ちょっとギルドで特訓させてもらおうかなぁ」
「特訓ですか?あぁ、ギルドで行っている戦闘訓練ですね」
「そう、それ。Fランクの昇格試験の時の試験官に勧められたけど一回も行ってないから丁度いいかと思ってさ」
「そうですね。それなら少しの間だけ依頼は受けずに訓練しましょうか。
幸い昨日の報酬で少し余裕がありますし」
「よし!そうと決まれば早速ギルドに行こうか!」
「ちょ、早いです!私がまだ食べ終わってません!」
ティアナが食べ終わるのを待って2人はギルドへと向かうのであった。
◇◆◇
「あ、シュウさん。今日も討伐依頼ですか?」
ギルドに入るといつもの受付嬢が声をかけてくる。
「いえ、今日はギルドで行っているという戦闘訓練を受けさせてもらおうと思って」
「え?戦闘訓練ですか?・・・シュウさんには必要ないと思いますが。オークを倒せるようですし」
「いやいや、昨日実感しましたよ。基本をキチンとしていないといざという時危ないって。
それでしばらく依頼を休んで基本を磨こうと思いまして」
「うーん、取り敢えず分かりました。では訓練所の方へどうぞ。担当の者がいるはずですので」
「分かりました」
ティアナと一緒に訓練所へ入るとそこには昇格試験の時の試験官がいた。
「あ、あの時の試験官さんですね?今日は戦闘訓練を受けさせていただこうと思って来ました」
「お、あの時の奴か。・・・ん?お前たしか昨日ランク上がってなかったか?」
「えぇ、確かに上がりましたけどキチンと基本を押さえてないとこれから危ないと思いまして、以前戦闘訓練に誘われたことを思い出してやって来ました」
「そうかそうか。確かに基本を疎かにしていいことはないぞ?最近の冒険者はその辺わかってる奴が少ないがお前は違うようだな」
「昨日少し危ない目に逢いましてね。だからそこまで言われるのは気恥ずかしいですね」
「はははは。そうやって素直に反省して来れるだけでも違うってもんだ!
・・・おや?お前と一緒にいるお嬢ちゃんは確か」
「はい、私もFランクの試験の際に試験官さんにお世話になりました」
「あぁ、そうか。あの時の魔法を使ってきたお嬢ちゃんか!」
「試験の時も魔法を?」
「そうだ。水滴を顔に飛ばされてな、気が逸れた時に短剣で斬りかかってきたんだ。
さすがに少し焦ったな」
「試験官はその後一瞬で私の肩あたりに剣を振り下ろして寸止めしたじゃないですか。
あの時に短剣だけでも戦えるように、とアドバイスされたのでそっちの訓練もしているんですよ?」
「おぉ、そうか。感心感心。魔法が使えるだけでも充分驚きだがそれを活かせるような戦闘スタイルがあれば充分上のランクを目指せるだろう。
ちなみに魔法はあの時のままか?」
「いえ、シュウに色々教わって威力が少し上がりました」
「この坊主に?そういえば魔力が規格外って聞いたが・・・。ふむ、まぁいいだろう。
何にせよ今の時代魔法を使えるだけで珍しいんだ。その威力が上がるのならお前たちの為になるだろうよ」
「そうですね。それに近接戦闘も鍛えればより安心して依頼が受けれますし。試験官さん、今日はよろしくお願いします」
「今の俺は試験官じゃない。エルグでいいよ」
「わかりました。では改めてエルグさん、今日はお願いします」
「おうよ!」
◇◆◇
エルグはまず模擬戦をすると言ってきた。
模擬戦の中でマズイところや弱点となりそうな部分を教えてくれるらしい。
さすがに実剣では行えないのでティアナはナイフに近い木製の短剣を、シュウは同じく長剣を握る。
まずはティアナからだ。
エルグに向かって試験の時に出したという水滴よりもかなり量が多いと思われる水をエルグの顔にむけて放った。
威力が上がったといっても流石に予想よりも遥かに多い量をかけられて驚いたのか、目に水が入ったらしく片目を閉じてしまった。
その隙を逃さずティアナは死角に潜り込むと短剣を振り上げる。
だがその攻撃はエルグにとって死角であるはずなのにしっかりと防御されてしまい、今度はティアナが驚き固まってしまう。
その隙を逃さずエルグが反撃を行い、ティアナの肩口に長剣を寸止めしたのだった。
「完全に死角に入ったと思ったのですけど・・・」
「うむ、確かに見事な魔法で目に水が入った時は流石に焦ったがそこにいるのが分かれば防御自体はそんなに難しくはない。
それに短剣を振り上げたな?せっかく素早い動きで死角に入ったのにそこで動きを止めてしまうのは得策ではないな。
次は速さを活かして斬りつけるようにしてみろ」
「はい!」
その後もティアナは水の量を変えたり風をぶつけてみたりと試したようだがまともにダメージを入れるような攻撃は出来なかった。
ちなみに流石に火の魔法は訓練で使うには危ないので使ってはいない。
「よし、ティアナはここまでだ。試験の時に比べて魔法の腕も上がっているし、剣さばきも悪く無い。あとは訓練あるのみだ」
「はぁはぁ・・・ありがとうございます」
全力で動いていたらしいティアナは息切れを起こしているがエルグの方は余裕がある。
それだけ無駄なく動いていたのだ。
シュウはその動きをしっかりと観察しながら2人の模擬戦を見ており、少しでも吸収しようとしていた。
そして次はシュウの番となり、エルグと対峙する。
「よし、次はシュウだな。お前は武器を長剣にしたのか」
「正確に言えば違いますが、今使っている武器に一番近いのがこれだったんですよ。
あと、俺は剣だけじゃなく魔法も使う魔法剣士を目指してます。
ティアナに教わって使えるようになりましたし」
「そうか!規格外の魔力だけ持っていたんじゃ宝の持ち腐れだからな。じゃあティアナと同じで魔法も使ってかかってこい!」
「えぇと、俺の魔法はちょっと加減が難しくて訓練じゃ危なくて使えないので剣だけで行きます」
「む、そうか?まぁ確かに規格外の魔力から放たれる魔法なんて想像もつかないからお前がそう言うなら剣だけでもいいぞ」
「では行きます!」
シュウは試験の時同様真っ直ぐ全力で向かっていく。
相変わらずの速さだがエルグはそれを一度体験しており、以前防御したそれを今度は回避しようとしているようだ。
だがシュウはエルグの目の前で一気に減速する。
タイミングをずらされたエルグは一瞬固まるが、次の瞬間シュウが横薙ぎを放ってきたのでまたしても防御を選択させられる。
(くっ、フェイントか。だがこの攻撃を凌げば・・・)
エルグとシュウの剣が打ち合わさるが以前と違いエルグはシュウの剣をまともに迎え撃つのではなく受け流すようにしている。
だが、エルグの予想に反してシュウの攻撃は軽く剣を撫でるように動かし通り抜ける。
(なっ!?)
受け流すように力を入れていたが全くの空振りとなりまたしてもエルグに隙が生まれる。
シュウはその隙を逃さず、エルグの剣の反対に通り抜けさせることに成功した自分の剣をある程度の速さを持ってエルグの肩口へと打ち下ろす。
先ほどのティアナの時とは逆に自分の肩口へと寸止された剣を見てエルグは自分が負けたことを知る。
「くくく・・・まさかいきなり一本取られるとはな。これでも試験の時から少しは鍛え直したつもりだったんだが」
「いやぁ、ティアナとの模擬戦を見ていて色々考えてみたんですよ。それが上手くいっただけです」
「なるほどな。だが一本は一本だ。これは俺も本格的に鍛えなおさんとなぁ。よし、まだまだ行くぞ!」
「はい!」
そうして何度か戦うがエルグは流石元冒険者と言うべきかシュウを追い詰めていく。
だが、単純な能力ならエルグを遥かに上回るチート持ちのシュウがただ押されるだけでもなく、さらにどんどん技術を吸収していくので2人の戦いは拮抗したものになっている。
休憩しながら戦いを見ていたティアナはシュウの成長の速さにほんの少しだけ遠い目をしているようだ。
「はぁはぁはぁ、試験の時から思っていたがお前の体力の底が見えんな」
「これでも結構疲れているんですけどね」
「くくく、結構疲れている割には余裕があるじゃないか。俺はもうヘトヘトだよ」
「それじゃあ少し休みましょうか」
「全く、これではどちらが訓練しているかわからんな」
エルグはそうそう言いながらも楽しそうに笑っており、シュウも自分の成長を実感して満足しているのであった。
シュウはチート持ちですがその上に胡座をかいたりはしません。
全力で異世界を楽しみたいので、早くお金を返して気持ちをすっきりさせるために努力します。




