第06話_森へ向かいます
「森だね」
「そうですね」
シュウたちは今神樹が生えているという森へ続く森のなかにいた。
森へ行くために森へ行くというよくわからない状況なのだがダンからはそういった説明しか受けていないためそうとしか言いようが無い。
「今までの森より静かっすね」
「モンスターや獣が少ないのじゃろうな」
「どうしてでしょうねぇ?」
フィアの言うとおりここに至るまでに戦闘が発生していない。
今まで森という場所に来ると一定時間ごとに敵と遭遇し戦闘に発展していた。
それがここまで平和だと拍子抜けと言うか不気味ですらある。
「ダンさんの話だとこの森にも相当のモンスターがいるはずなんだけど・・・どうしたんだろうね」
ここに来る前に得ていた情報だとCランクのモンスターが生息しているはずだがその気配すらない。
本当に平和な森そのものだ。
「でも何もない方がいいじゃないっすか」
「仮に何が出てきてもシュウさんがいれば大丈夫ですよねぇ」
「リエルも働いてね?」
リエルがニート宣言をしそうだったので釘を差しておいた。
確かにシュウがいれば大抵の敵は楽に撃退できる。
しかしそれでシュウばかり働かされるのは悔しいのだ。
無論リエルとしても冗談のつもりであり、モンスターが出てくれば応戦するのだが。
「出てこないものに気を揉んでいてもしょうが無いしまずは進もうか」
「「「「はい」」」」
このまま片道1日以上同じ森のなかを進まなければならないためここであまり時間を潰すのもアレなので進むことにする。
通常『神樹』などの伐採を行う場合は馬車、もしくは荷車を持ってくるため移動に時間がかかるのだがシュウたちの場合収納袋というチートアイテムがあるのでそういった制限がない。
なので通常よりは早く行動できるのだがそれでもこの森は広大なのだ。
ちなみにシュウとその他のメンバーでは「敵がいない」と判断する基準が違う。
他のメンバーはあくまで「目に見える、音の聞こえる」範囲内に自分たち以外は誰もいないという判断をしている。
しかしシュウはここで自らの魔法を用いている。
『索敵』
今いる森のような見通しの悪い場所の場合不意打ちを食らう可能性が通常よりも高くなる。
そのため危険もいつもより大きくなるので、その対策で開発した魔法である。
効果は半径1キロメートル以内に生き物がいるか、その生き物の大体の大きさが分かるというものだ。
理屈は簡単でまずシュウが自らの魔力を周囲に薄く伸ばす。
その中で魔力が何か生き物にぶつかると反応が返ってくるため、それまでの時間や返ってきた反応の大きさで判断するという物である。
しかしそうなると森のなかという状況では木や草、昆虫といった『生き物』が多数生息しているので反応が多すぎて処理能力が追いつかない事態に陥る。
というか森に入ってすぐに魔法を展開した瞬間そうなった。
そこで初めてこの魔法の欠点に気づいたシュウは早速改良を施した。
内容はある程度の大きさで動きのある反応のみを自分に伝えるように、というものだ。
結果現状でその条件に合致するような生物は範囲内にはいないという判断を下している。
「シュウさんと居るとあらゆる面で楽ができるっすね。普通だったらこういう森のなかだと警戒しっぱなしでもっと疲れるもんなんですけど」
「王都の時に開発できていればよかったんだけどね。魔力の操作について武術大会の時に精度が上がったからこそ出来た魔法なんだ」
「今出来ているんだからいいじゃないですか」
「まぁ、まだ欠点もあるんだけど」
「欠点ですか?」
「あぁ。すべての反応を見ていると情報が多すぎてとてもじゃないけど理解できないからある程度条件を付けて周囲を見ているんだ。でもその条件だと例えば人がいても一切動きを見せないと見つけられないってことになる。あとあまり生き物が多くても反応が多くなりすぎるから対応が遅くなるんだ」
「なるほど。便利なだけではないんですね」
「ああ。この辺は要改良だね」
そもそもこの魔法を思いついて創りだしたのが昨日ダンのところで話を聞いてからなので不備が見つかるのもしょうが無い。
だがこの段階でも魔法の少ないこの世界においては破格の恩恵をもたらしていることには違いないのだが。
◇◆◇
一切モンスターと遭遇することもなく一晩明けた翌日である。
本当に何事も無くここまでやって来たため拍子抜けにも程がある。
夜襲もなかったのでゆっくりと休めたのでいいのだが。
「さて、ダンさんの話だとそろそろ『神樹』の生えている森になるらしいけど・・・」
「そもそも森が変わるって言ってましたけど・・・どういう意味でしょうか?」
「生えているのが『神樹』だらけになって見た目が変わるんすかね?」
「うーん、どうだろう・・・。行けば分かるって言ってたけど・・・ッ!?」
会話の途中で先頭を歩いていたシュウの足が止まった。
それに伴いティアナたちも止まる。
何かあったのかと警戒していたがシュウの言葉により警戒が解ける。
「なるほど、こういう意味か。皆も俺のいる所まで来れば分かるよ」
ティアナは不思議そうにしながら歩を進め、シュウの横に立つとシュウの言っていた意味が理解できた。
見た目こそこれまでの森と同じなのだが、丁度いま立っている当たりを境にしてまるで空気が違うのだ。
「これは・・・?」
「多分これがダンさんの言っていた意味なんだろうね」
「さっきまでとぜんぜん違うっす・・・」
フィアは言いながら恐らく境界線の上であろう部分を行ったり来たりしている。
「うーん、これはぁ・・・」
「リエル、なにか知ってるの?」
「えっとぉ、多分シュウさんも覚えていると思うですけどぉ、これ神界の空気に似てますねぇ」
「・・・あぁ、そうか。道理で覚えがると思った」
リエルに言われてシュウも思い出した。
この世界に来る前にいた、そしてリエルと初めてであったあの場所と空気が似ているということ。
「神界、ですか。神々の住む世界・・・。そことこの場所の空気が似ているとは・・・?」
「多分昔に何かあったのだと思いますけどぉ、それが何かはわからないですねぇ」
「恐らくこの場所に『神樹』と呼ばれる木があるのも関係しているだろうね」
「うーむ・・・」
「カエデ、どうかした?」
「なんというか・・・嫌な感じがするのじゃ・・・」
珍しくカエデが不調を訴えるが、シュウにはなんとなく理由がわかるような気がした。
「多分カエデがドラゴンっていうモンスターであることに関係しているんだろうね」
「どういうことじゃ?」
「なんて言うのかな・・・。カエデは魔力を食べるでしょ?」
「うむ、そうじゃな」
「じゃあこの場にある魔力を食べたいと思う?」
「・・・嫌じゃ」
「シュウ、どういうことですか?」
「恐らく、なんだけど、この場所にある魔力が純粋すぎる感じなんだよね」
「純粋?」
「そう。俺達みたいな人族だとそれほど嫌な感じはしないで、むしろ神聖に感じるんだけど、カエデみたいに魔力を食べるような存在だと純粋すぎて逆に気持ち悪くなっちゃうんだと思う」
「なるほどの。別に食べるわけではないがその場にあるというだけでこの不快感か」
「そういうこと。無理そうならこの辺で待っていてもらってもいいんだけど?」
「いや、大丈夫じゃ。嫌な感じも我慢できんほどではないからの」
「分かった」
「あ、もしかしてさっきまでモンスターが出なかったのはこの森のせいなんすかね?」
「それは違うよ。だってさっきまではカエデも平気だったじゃないか。それにダンさんもモンスターが普通に出るって言ってたしね」
「じゃあどうして?」
「それは・・・今から来る奴に聞いたほうがいいかもね」
シュウは言葉を区切ると神樹の生える森の奥の方へ視線を向ける。
それだけでティアナたちはシュウの言わんとする事を理解し行動を開始する。
すなわち戦闘を視野においた警戒態勢を。
「何か」がやって来ました。




