第05話_お金のお話です
シュウが金策について考えているとダンが照れの世界から還ってきた。
照れの世界というのがどこにあるのかは不明だがダンが話のできる状態になったのは間違いないので話を再開することにした。
幾つか要点を伝えていく度にダンが技術面で的確な回答をくれるので話し合いがスムーズに進んだ。
「さて、大体のところはこんなもんだろう」
「そうですね」
「それで、だ。お前さんの希望を叶えるには特殊な材料が必要だな」
「特殊な材料、ですか?」
「ああ。なにせ船を空に浮かべようってんだ。そこらにあるような材料で作ったんじゃあっという間にバラバラよ」
「なるほど。具体的にはどんな材料が必要なんですか?」
「一番大事なのは木材だな。物によっては金属よりも粘り強く船全体を支えてくれる」
そう言われたシュウは納得した。
確かに地球でも木材は優秀な素材であり、その種類により向き不向きがある。
通常船を作るには硬さよりも水に対する耐性が重要なのだ。
それを空に浮かべるとなれば求められる性質もより特殊なものになるのは当然であり、ダンの言わんとしていることも予測がついた。
「つまり特殊な木材が必要でそのために費用がかかる、と」
「まあ、な」
ダンはどこかバツが悪そうである。
先程まで他の職人がお金を求めることに苦言を呈していたのにここで費用の話をしなければならないことに申し訳無さを感じているのだろう。
だがシュウはそんなことは気にしていない。
自分の無茶なアイディアを実現するのに多額の費用がかかることは承知の上なのだ。
「それでどの位掛かりますか?」
「あー、その木材ってのは『神樹』って呼ばれる大木なんだがそいつが生えているのはモンスターが多く生息する地域の更に奥なんだ。それを取ってきてもらうのに冒険者に依頼しなければならんのだがその費用が最低でも大金貨数十枚になる」
「そんなにですか!?・・・そこまで危険な場所なんですね」
ダンの提示した金額に驚きを隠せないシュウ。
この世界にきてそれなりに稼いでいるが一度の依頼で大金貨を、それも数枚など受けたことも見たこともない。
つまり自分たちでは考えられないような高難易度な依頼だと予想した。
「ん?ああ、いや違う。確かに危険な場所なんだがな。それなりの冒険者なら行って来るだけなら可能だろう」
「じゃあどうしてそんなに?」
「言っただろう、『大木』だと。そんな僻地からでかい木を伐採してくるんだ。当然人手がいる。そして運搬自体にも時間がかかるからな。その分だ」
「なるほど・・・」
言われてみれば当然である。
必要な人数と時間が増えれば一気に必要経費が跳ね上がる。
その結果依頼人、つまりシュウが支払わなければいけない費用が多くなるのである。
「材料だけでそうなると・・・合計金額もかなりのものになるんですね」
「そういうこった」
「んー・・・」
シュウは思考の海に潜る。
確かに『飛行艇』は欲しいが下手をすれば合計白金貨が必要になる可能性があるのであれば考える必要がある。
最初はローンでも組めればいいな、とも考えていたがさすがに金額が金額である。
仲間とも相談の必要があるし、そもそも計画を練り直す必要があるだろう。
急いで作らずともこの街のギルドで依頼を受けその報酬を溜めてからでも遅くないだろう。
(ん?依頼?)
自分で考えたことに引っかかりを覚えた。
それを突き詰め自身の考えをまとめる。
「あの、こういうのはどうでしょう?」
そして自分の考えを口にした。
そもそもどうして全て人任せにしなければならないのか。
確かに自分は依頼人だが元々機関部分は自分でやる、というかシュウにしか出来ない魔法制御を用いるつもりだったのだ。
ならば外装部分も可能な限り自分たちでこなしてしまえばいいのだ。
具体的には材料の調達を、だ。
シュウたちは確かにランクこそ低いがその実力はそれに見合わないほど高い。
さらにはシュウ謹製の収納袋もある。
つまり『神樹』のもとへ辿り着くことも、それを伐採して持ち帰ることもシュウたちであれば容易なのだ。
「つまり材料の調達を坊主たちが、それを使った作成工程をワシらが行うと」
「そうです。それなら少なくとも材料費分くらいは安くしてもらえないかなぁ、と」
「そいつは当然だが・・・本当に取ってこれるのか?お前さんらが思っているより遥かにデカイぞ?」
「まぁその辺は秘密兵器があるんで」
「・・・本当に取ってこれるのならワシらも文句はない」
「ではそういうことで。ちなみに『神樹』のある場所について詳しく聞いてもいいですか?」
「街から出て道なりに1日くらい進むと大きな森が見えてくる。道はそこから森を迂回するように曲がるが、そのまま森のなかを進んで更に1日と少しくらいで森が変わる。更に進めば馬鹿でかい木が群生していて、そいつが『神樹』だ。持ってくるのは一本でいい」
「森が変わる、ですか。具体的にはどういった具合に?」
「行けば分かる」
ところどころ曖昧な説明も入ったが、そもそも精密な地図もないこの世界ではしょうが無いことだろう。
最悪迷ったとしてもどうとでも出来る自信もその実力もあるので深くは考えない。
「分かりました。それじゃあ明日から行ってきます」
「本当に行くのか?森はランクCのモンスターが数多く生息しておる。ランクで物を言うのは好かんがお前さんたちはDランクだろう?」
ダンは純粋に心配からシュウたちに向け言葉を発している。
それに反応したのはシュウたちではなくラグスの武器屋店主ことラルフであった。
「師匠、言ってなかったもしれんがこいつは『竜殺し』だ。俺の住んでるラグスにドラゴンがやって来た時に1人で退治しちまうほどの強さを持ってる。それに武術大会で優勝するような奴が弱いわけ無いだろう?」
「ドラゴンを?ラルフ、流石にそれは言いすぎだろう?」
「信じる信じないは師匠の勝手だがこれはラグスに住むものなら全員知ってることだぞ?」
ダンはギギギと音がなりそうな動きでシュウの方に顔を向けた。
そんな彼に対しシュウはコクリと頷いて話を肯定した。
それを見たダンは目を見開き一瞬固まっていたがハァと溜息をついて肩の力を抜いた。
「なるほど、これはワシの杞憂だったらしい。・・・よし、分かった。お前さん方が材料を取ってきたらワシの技術のすべてをつぎ込んで最高の船を作ってやる。だからしっかり取ってこい!」
半ばヤケのようにも見えるが最高の船という言葉にシュウは反応した。
力強く頷き明日からの計画を練り始める。
とは言っても特に準備するようなものもなく、することといえば今日はしっかり休んで備えることくらいだろう。
ちなみにこの会話の間ティアナたちはシュウから発せられる意見を表面上取り繕いながらも内心冷や汗を流しながら聞いていたのだ。
とんでもない速度で空を飛び、急な停止や旋回を可能にするため魔石の力を最大限利用しつつ内部の搭乗員には影響が出ないように配慮を欠かさないなど、よくもまあスラスラと出てくるものだと感心するような意見が次々と出ていた。
最初こそ大雑把に考えていたシュウだが細かい部分の指摘を受けると考えを即座に改め、考えられうるケースをあげていたのだ。
元々様々な機械類が身の回りにあったシュウだからこそ思いつくこともあるのだが、ティアナたちにしてみれば想像すらできないことなので全く口を挟む余裕が無かった。
しかし最後の材料を取りに行くのは自分たち、というところは理解できたのでそれに気持ちを向けている。
ここで「何故自分たちまで」と考えないあたりシュウの性格を正確に掴んでいる証拠だろう。
こうしてシュウたちのドワーフの国での活動が開始されたのであった。
話の中に出てくる大金貨は日本円で100万円、白金貨は1000万円ほどの価値になります。




