第04話_オーダーメイド発注です
「さて、それじゃあ詳しい話を聞こう」
ひとしきり挨拶が終わった後でダンが詳しい話を聞こうとしてきた。
このやり取りの中でラグスで出会った武器屋の店主の名前が『ラルフ』というらしいことが判明したが、だからといってシュウたちに何か変化があるかと言われれば全く無く、いつも通り『店主さん』と呼び続けることにした。
「実は・・・」
店主にも話したのと同じ説明をダンにも行う。
やはり、というべきか『飛行艇』の件で並々ならぬ興味を持ったようだが、それ以降のこの国での対応を聞いて少々落ち込んでしまったようだ。
「そうか、話すら聞かんかったか・・・」
「師匠、この国は一体どうしちまったんだ?昔はもっと新しい物には貪欲だったように思うんだが・・・?」
「そういやぁ、お前がこの国から出て行ってからだもんなぁ。この国がおかしくなってきたのは」
「何かあったのですか?もしよろしければ私達にも教えていただきたいのですが?」
ティアナが思わず、と言ったように口を挟んだ。
それに気を悪くするでもなく、ダンは経緯を話し始めた。
「若手の職人にも仕事を回すため職人ごとにランクを付けて、冒険者ギルドのランクと同じように仕事を受ける、受けないってのを分け始めたのが事の起こりよ」
ダンの説明によると、技術力のある職人が難易度の高い仕事を、若手の職人が比較的簡単な仕事で経験を積むというすみ分けが始まったらしい。
最初こそ順調に見えたその制度だが、時が経つにつれ問題が出てきたのだ。
難易度の高い仕事というのが、詰まるところ発生する報酬の高い仕事であり、その逆は報酬も安い。
そのため若い職人たちが得られる報酬は必然的に安いものになり、生活苦を訴える者が出始めたそうだ。
しかし制度を決めた国のまとめ役たちはその状況を改善しようとはせず、見かねた熟練の職人達が救いの手を差し伸べた。
つまり自分の工場や店舗へと招き入れ、高額な報酬を得られる仕事を手伝わせることにより、自分たちの負担を軽くしつつも若手の職人へ充分な給料を支払える体勢を整えたのだ。
こうなれば問題ないように思えるが、実は大きな問題が残っている。
若い職人が自分で仕事を受けなくなったことで比較的簡単とされる仕事の担い手が居なくなったのだ。
それこそ熟練の職人のもとにいる若手育成のために引き受ければよかったのだが、通常受ける職人がいないことで一度受け入れたという噂が立てばその店に客が殺到。
それでいて単価の安い仕事ばかりを受けるはめになってしまい、本来の報酬を得られる仕事が受けられないという状況になっため危うく倒産しそうになった職人がいたらしい。
その二の鉄を踏まないためにも職人たちは頑なに難易度の低い仕事を受けることを拒否しだして現状に至る、ということらしい。
そしてシュウ達がカードを見せただけで断られたのはランクが低い、つまり持ってくる仕事のランクも低いため報酬も安いという考えになったためだろう、とのことであった。
「あー、確かに俺のランクはDだもんなぁ」
そこまで聞いたシュウは自分のランクを思い返す。
戦闘力こそ相当なものだが、ギルド的にランクが上がるような事をしていないため王都での魔獣襲撃以来全く上げていないのだ。
まさかそれがこんなところで足を引っ張ってくるとはシュウも思ってもみなかった。
実際に話を聞いてもらったり、獣人の国での武術大会優勝者という情報でも伝えれば話は違ったかもしれないが、その話を聞いてもらえなかったのだからランクだけで評価されてしまったのである。
「まぁ、他にも問題があってなぁ・・・」
更にダンが続ける。
簡単な仕事の担い手がいないだけで、難易度の低い仕事先がなくなっただけかと思われたが、それに伴い難しい仕事も来なくなってしまったらしい。
理由は単純で、簡単な仕事を持ってくるような者が離れていってしまったことにより、その者が何らかの成長や成功を納め、報酬の高い仕事が発生した時でもドワーフの国へ持ち込まず、他の国でやりくりし始めたらしいのだ。
確かに昔から世話になっていれば、それ以降もずっとそこを贔屓にするのは当然であり、そういった最初の段階で門前払いしていたのでは需要が減っていくのも当然である。
この段階に至って上層部も焦り始め、そういった問題の元凶となったランク分け制度を廃止しようとはしているのだが、足並みを揃えないで一つの店でのみ簡単な仕事を受け始めると倒産の文字が見えるため職人たちも踏みきれず悪循環から抜け出せなくなってしまったそうだ。
「まあワシの工場でも徐々に受け入れる体制を整えようとしているのだがいざとなるとタイミングが掴めずにいたんだ」
ダンはそう言って話を締めくくったのであった。
◇◆◇
「ま、辛気臭い話は置いといて、だ。『飛行艇』だと?詳しく聞かせてくれ」
この国の現状を憂いているような表情から一転、ダンはシュウに向かって前のめりになってきた。
その変化に驚きつつもシュウは自身の考えをダンに説明し始めた。
これにはラルフも興味津々と言った様子で聞く体勢だ。
「『飛行艇』っていうのはつまり『空を飛ぶ船』ですね」
「さっきも聞いたが船が飛ぶだと?」
「そうです。俺も色々と物づくりはしたりしているのですが、流石に船となると厳しいのでこの国の職人さんにお願いしたくてやって来たんです」
「そりゃあ、この国の職人なら普通の船くらいなら作れる奴が多いさ。だが空を飛ぶとなると作れる奴がいない、というかどこにもいないと思うぞ?」
「あ、別に空を飛ぶ機能は良いんです。そこは俺がやるんで」
「やる、って?」
「さっきも言いましたが武術大会で大きな魔石を貰いましたからね。それを空を飛ぶための魔道具代わりにして船を浮かべようと思ってます。それで推進力や制御については風の魔法とかを使ってしまおうかと。あ、でもそれだったら魔石にまとめて機能を付けたほうが良いのかな?」
「・・・船を作るのはいい。だが本当にそんな機能を付けれるのか?」
「え?特に問題なく」
「・・・そうか」
話をしているうちにダンが徐々に元気がなくなっていた。
シュウは当然のごとく心配して、どうしたのだろう、と考え始めていたのだが、話をシュウの後ろで聞いていたティアナたちはそんなダンの様子を見ていかにも同感しています、といったように頷いているのが印象的である。
シュウは普通のことを言っているつもりだが、この世界において空を飛ぶ魔道具など存在しないうえにそれをアッサリと作ると言っているのがどれほど非常識なのか未だ完全には理解していないための所業である。
「まあ船をつくるのは良い。だがどうやって操縦するつもりだ?魔法を使うといってもヘタをすりゃ空でひっくり返るぞ?」
「あ!」
とはいえ流石に職人である。
常識はずれの魔道具や魔法の話をしてもしっかりと問題点を把握し、そこをどうするか聞いてくる。
シュウの考えでは船を空に浮かべ、風の魔法を帆に当てて進むということまでしか考えていなかった。
しかしそれでは旋回や停止など基本的な操作はおろか、バランスをどう制御するのかも不明瞭なためダンの指摘通りひっくり返ってしまう可能性が高い。
「えっと、あの、ダンさん?シュウの話をそんなに簡単に信じていいのですか?」
「あん?そうは言うがな、嬢ちゃん。この坊主は嘘を言っている面じゃない。それに嬢ちゃんたちの態度を見てもそれは明らか、だろ?」
「はぁ、まぁ。でも普通はいきなりこんな話をされたら信じられないと思うのですが」
「そこは職人としての勘かな」
「さすがダンさんですね。これなら安心して船作りをお願いできますよ」
「う、うるせいやい!!」
ティアナとダンの会話にシュウが参加し、ダンを褒める。
するとダンはプイッと視線を外しつつ応えた。
どうにもダンの照れるポイントが把握できないが、腕の方は確かなので多少のことは気にしない方向なのだ。
さて、この短い付き合いの中でもダンが一度照れると戻ってくるまでに少し時間がかかることが判明しているため、シュウは頭のなかで指摘された問題点について考え始めた。
最初は普通に船を作ってもらい、その中にでも魔石を設置する台を作ってもらうくらいでいいだろう、と思っていたが、考えてみるとそれだけではまったくもって足りず、細部にまでこだわったオーダーメイドである必要が出てきた。
しかしそうなるとどうしても費用のほうが掛かる。
シュウは普通の船を作るくらいの気持ちでいたため、考えていた費用も普通の船をつくる程度の金額程度であった。
だがオーダーメイドとなると費用が倍増することは火を見るより明らかであり、シュウはこの世界にやってきて初めてお金をもっと稼いでおけば良かった、と思い始めている。
最悪ローンかな、と考えているが、この年でローン持ちになるという情けなさと、そもそもローンという概念がこの世界にあるのかという不安がある。
どの位の費用がかかるのか見積もってもらい、作成期間中に1人ででもギルドの仕事をこなして報酬を得ることで何とか支払いを済ませたい。
などと考えていることは実はティアナたちもお見通しであり、シュウが自分たちに迷惑をかけないためにも1人で出かける覚悟を決めたのを見て内心ため息を付いている。
シュウとの付き合いは一番長いティアナでも1年に満たないのだが、どうにも優しすぎるというか甘すぎるところがあるのは知っている。
恐らく1人で捻出した費用で船を完成させても自分たちには何の躊躇いもなく利用させるであろうことは明白であるが、さすがに自分たちも冒険者としてパーティを組んでいる以上何もしていないのに何かしてもらうのは気が引ける。
確かにそもそもの始まりはシュウの思いつきであるが、自分たちも利用させてもらうため自分たちにも苦労を背負わせて欲しいのだ。
戦闘力の面ではシュウの足元にも及ばないが、それ以外の面では対等でいたいがための考えである。
ダンの照れが収まるまで一行はそれぞれの思考にふけっていたのだが、唯一、ラルフだけは手持ち無沙汰でどうしていいか分からず、居心地が悪そうにしていたが誰も気づかれなかったのである。




