第03話_ドワーフの国の実情です
ドワーフの国というのは別に名前があるわけではない。
というか国と言ってしまうには規模があまりにも小さいのである。
それもそのはずで、この国は正式な国ではない。
成り立ちが元々ドワーフ達が自由に物づくりをするためには他の国に所属しているとしがらみが多く不自由しかねない。
そのため自分たちでまとまり、団体を作ることで安全を確保しつつやりたいことをやりたいようにし始めたのが起こりである。
いつしかどんどん各国にいたドワーフ達が集まり、そこで作られる武器などを各国に卸すことで力を増していったのだ。
一度このドワーフ達を配下に収めるべく手を出した国があったそうだが見事に返り討ちにあってしまってからはヘタな手出しの禁止が暗黙の了解となった。
それ以降は職人たちが自分の得意分野を突き進み技術が発展し今の世界の技術状況となっているのである。
さすがにシュウがいた現代日本ほどは発達していないが、生活に便利な魔道具などが普及しており魔法がなくても生活水準の高さが維持されている。
そんな技術を次々と発達させているドワーフ達であるから物づくりに関してなら話を聞いてもらえる、と考えていたシュウ達には厳しい状況となっている。
「まさか話すら聞いてもらえないとは・・・」
「さすがにこれはおかしいです。あまりにドワーフの人たちの様子が聞いていた話と違いすぎていますね」
「なんて言うか・・・反応が冷たいっすね・・・」
この国に来てから武器屋や防具屋、雑貨屋などありとあらゆる店に顔を出してみた。
しかしどこも反応が同じで、普通に店内を見て回ったり陳列してある賞品の購入は出来そうなのだが新しい物を作って欲しい、という話になると決まってギルドカードの提示を求められ、その結果追い出されるという事を繰り返していた。
さすがに何度もとなるとシュウたちも異変に気づき始めてはいるのだが、本来の目的がオーダーメイドの船作りなので聞かない訳にはいかない。
ちなみに船を作るのであれば造船所に行くのが正しいのだろうが、そもそも立地的にこの国には海に面しているわけでもなく、それほど大きな運河も無いためシュウの欲しい大型の船が作れないのだ。
その事実に気づいたのがつい先程なので、いかにシュウが抜けているかご理解いただけるだろう。
「それにしてもホントに困ったぞ・・・。これじゃあ船が作ってもらえない・・・」
「最悪の場合普通に馬車を買って改造するしか無いですね」
「むむむ・・・」
ティアナの提示した妥協案についてはシュウも考えないでもなかったができれば却下したい。
魔石の質のこともあるのだが、ここまで来て却下するのは惜しいのである。
店売りされている商品を見てもドワーフ達の技術力の高さは眼を見張るものがあるし、何より『飛空艇』にはロマンが詰まっているのだ。
シュウは軽く暴走気味である。
当然ティアナたちもそんなシュウの様子には気づいているのだが、話を聞いてもらえないのでは進展しようがない。
一行は少々落胆しながらそれなりの人通りがある道を歩いていた。
今日も何の成果もないまま終わってしまったので当然であろう。
と、反対側から見知った人物が歩いてくるのが見えた。
相手もシュウたちに気づいたようで驚いている。
「え?どうしてここに?」
「そりゃあこっちのセリフだ。坊主こそどうしてここに・・・」
シュウ達と邂逅した相手、それはラグスの街で武器屋を営んでおり、シュウが最初に魔鋼製の武器を作った際に世話になったドワーフであった。
ドワーフがドワーフの国にいる事自体は何も驚くことがないが、彼の場合他の街で武器屋を開いているのでこの場所で会うとは思ってもみなかったため驚いているのだ。
「ワシは坊主からもらった例の砂とその塊について調べておったのだが、どうにもラグスにおっては限界があってな。それで色々な設備のあるこの国にやって来て調べておるのだ」
「わざわざそのために、ですか」
「そのため、と言うがな。ワシのようなドワーフにとってこんな新しい物を見せられては仕事も手につかんのだ。これはワシの趣味が多分に入っておることなので坊主たちが気にすることはないぞ」
店主が笑っているがシュウたちは驚きが隠せない。
自分がやりたいことをやるためにまさか店をほっぽり出してまでこの国にやって来るとはドワーフの知的探究心の底知れ無さを垣間見た気分である。
「それより坊主たちはどうしてこの国に?」
「あぁ、実は・・・」
シュウは自分たちがこの国に来ることになった経緯を説明した。
そしてこの国に来てからの経緯も。
すると店主はその話に共感を示した。
「なるほどな。俺もその辺は気になってたんだ。・・・昔はそんなことはなかったんだがなぁ」
どうやら昔に比べても今のこの状況はやや変わっているらしい。
「ま、とりあえず、そんな面白そうなことをやるならワシも噛ませろ。この国にはワシの師匠がいるんだ。実は例の砂についても師匠に協力を仰ぎに来たんだ」
話を聞くとこの師匠というのも店主に負けず劣らず新しいもの好きであり、『飛空艇』の話をすれば確実に飛びつく、とのことだった。
そういうことであればシュウたちに否はない。
早速話をするためにその師匠の元へと歩を進め始めるのであった。
◇◆◇
店主について行くと、師匠がいるという工場に到着した。
そこは驚くべきことにシュウ達が最初に訪れ、そして門前払いを食らった場所である。
そういえば他の店舗ではギルドカードを提示してから突然態度が急変し追い出されたのに対し、この工場ではそもそもここは物を買うところではないという理由で追い出されたのだ。
そう考えると物を作って欲しいというシュウの願いであればここで叶えてもらえる可能性が高いというのも頷ける。
店主に続いて工場に入り、奥へと進むと最奥に他のドワーフに比べ白髪の目立つ人物がいた。
何やら細かい細工をしているようでシュウ達が近づいても顔を上げることもなく集中している。
さすがにその作業の邪魔をするつもりも無いので静かに作業が一区切り付くまで待つことにした。
ただ待つのも暇なのでシュウは邪魔にならないように視線だけそのドワーフの手元に向ける。
掌よりも小さい程度の大きさの金属片に針のようなもので模様を入れているようだが、その緻密さには驚いた。
適当に引っ掻いているように見えて計算されつくされた模様は線が一本作られるごとに洗練されていくようである。
どの位そうしていただろうか。
すっかりその技術に魅了されていたシュウだが、不意にその手が止まったことでドワーフの顔の方に目を向けた。
と、自身の手元を見ていたはずのドワーフがシュウの方を見ており、つまり二人の目が合うという状況になっている。
「あ、すいません。気になりましたか?」
「いや。随分熱心に見てるもんで、な。そんなに気になるか?」
「気になる、というか素晴らしい細工に思わず目が釘付けになってしまいまして・・・」
シュウがそう言い放ったところでドワーフはフイッと視線を下げてしまった。
何か気に障るようなことを言ったのだろうか、とシュウは一瞬不安になったが店主がその答えを教えてくれた。
「あぁ、師匠は照れ屋なんだ。面と向かって褒められて恥ずかしいんだろう」
「うるさい!大体客人を連れてくるなら前もって連絡せんか!!」
「こっちだって会うと思わなかったんだ。それに、ほら、この坊主が例の砂の製作者だよ」
「・・・何?」
照れて下を向いていたのが嘘のようにシュウをマジマジと観察し始める師匠。
本当にこの青年が?と疑っているようだが、弟子がこんなウソを付くはずもないと信じることにしたようだ。
「なるほど。では例の砂に関しては後で改めて聞くことにして、だ。客人よ、歓迎する。ようこそ『ダンの工場』へ。ワシが代表のダンだ」
「はじめまして。『黒の刃』のリーダー、シュウです」
改めて自己紹介をして握手を交わす。
ドワーフということもあってシュウとダンが立って向き合うとシュウのほうがかなり上から見下ろすことになるのだが、ダンは身長こそ小さいながらも身にまとう筋肉や雰囲気から実際の身長よりも大きく感じる。
そして何よりその顔には職人としてのプライドや自信といったものが見て取れ、この人ならば自分の望みを叶えてくれる、という予感をシュウに感じさせるのであった。
書いていて気付きましたがラグスの武器屋の店主さんの名前を考えていませんでした(汗)




