第25話_決勝戦です
最後の試合があっさりと終わってしまった準決勝から明けて翌朝、毎朝恒例のミーティング中である。
いつもは和気藹々(わきあいあい)とその日の予定を話し合う場なのだが、今日はどこかギクシャクした空気が流れている。
それもそのはずで今日は武術大会決勝戦、つまりシュウとフィアが戦う日なのである。
そのためいつもの雰囲気が鳴りを潜め、全員が静かに朝食を取っている。
とは言ってもその表情は様々であり、シュウはいつも通りにしているし、カエデもどういった展開になるか予想しているのかどこか楽しそうである。
ティアナは今日戦う2人を心配しているのかやや不安げな表情にも見えるがいつも通りと言ってもいいだろう。
問題のフィアはこれでもかというほど緊張している。
つまり、今日の雰囲気は確実にフィアが作り出しているのだ。
食事が喉を通らないようだが、体力を確保するため無理矢理口へと押し込んでいるように見えるため、その点はシュウも心配しているが。
ちなみにリエルは食事に集中している。
「シュウ、フィアさん。今日の体調はいかがですか?」
「俺はいつも通り元気だよ」
「うちは・・・少し寝不足だけど大丈夫っす」
「フィアよ、何を今更緊張しておるのだ?主殿との戦いなど今まで何度もやってきておろう」
「うぅ・・・だって今日はシュウさん本気だすって言ってたっす・・・。ということはいつもは本気じゃなかったっていうことっす。・・・緊張しないほうがおかしいっす」
「フィアさんが少し心配ですが・・・。とにかく今日で大会もお終いですし今までの試合で色々と経験出来ましたか?」
「うーん。やっぱりずっと戦い続けてきた人たちとの試合は勉強になったなぁ。どうやって戦術を組み上げるか考えさせられたよ」
「あ、うちもそうっすね。と言うかわりとギリギリの戦いを繰り返してきたような気がするっす・・・」
フィアの言うとおり、彼女の戦ってきた相手は強敵ばかりであり、身体能力で勝るフィアでも油断すれば負けてしまうような試合だったのだ。
特に最後に戦ったカイも結果だけ見ればほぼ無傷で勝利出来たのだが何度もヒヤリとする場面が多かった。
それらの試合を制したことでフィアもかなりの経験を得ており、参加前の身体能力を全面に押し出した戦いからどこでどう自身の力を使えばいいのかという考えながらの戦いが出来るようになっていた。
適した場面で適した行動をすることでより勝利出来る可能性を上げることが出来るようになったためさすがのシュウも最初よりは苦戦しそうなものだが、そのシュウもまた大会で様々なタイプの選手と戦ったことにより経験を得ているためフィアのアドバンテージがどこまであるのか疑問である。
それが分かっているからこそフィアは緊張を隠せていないのだ。
そんなフィアを見ながらシュウはあることを考えていた。
昨日のフィアの試合については聞いていたため、そこで少し引っかかりを覚えていたのだ。
「ところでフィア。昨日カイと戦った時最後のカイをどう思った?」
「最後っていうと意識が飛んでた時のことっすか?あれは・・・純粋に凄いと思ったっすね。だってうちの早さに普通に付いて来て最初は攻撃するタイミングすら掴めなかったんすから」
「じゃああの力があればどんな相手にも負けないと思う?」
「うーん・・・。それはどうっすかね。昨日のカイさんもそうっすけど、あれって限界を超えた動きができる分体へのダメージがあるっすからねぇ。それに攻撃が単調になるっす」
「そうだね。体へのダメージがありすぎるのも攻撃が単調になるのも元を正せば意識が飛んだ状態だったからだよね」
「そうっすね。あの状態で戦えた事自体驚きなんすけど」
「・・・あれがもし意識を保ったままだったらもっと凄いんじゃない?」
「それはそうっすけど・・・。なにか考えがあるんすか?」
「うーん、どうだろうね」
最後は笑って誤魔化す。
フィアが不思議そうな顔をしているがシュウはニコニコとしてそれ以上は何も語らなかったのである。
◇◆◇
【短かったような長かったような武術大会も本日で全ての決着が付きます。これまでの試合はどれも素晴らしいものでした。そして今日行われる決勝戦こそそれらの集大成としてふさわしいでしょう。会場の皆様、準備はよろしいでしょうか?それでは決勝戦を戦う2人の入場だあああぁぁぁ】
最初は粛々と始まった司会者の言葉だが、徐々にテンションを上げ、最後には絶叫となっていた。
それに合わせて会場中の観客も雄叫びを上げ始める。
【まずは!本戦出場者の中で紅一点。美しい金髪と華奢な体。最初はそんな見た目で本当に戦えるのか、と疑問に思われた方も多いでしょう。ですが実際に試合を見てどうだ!?屈強な選手たちを次々と屠って来た実力は最早疑いの余地も無いでしょう!実際に相対してみると消えたと思ってしまうほどの速度で相手を翻弄し倒していくその姿に既にファンも付いているという噂も!果たして今日はどのような動きを見せてくれるのか!?フィア選手の入場です!!】
司会者の言葉に合わせて歓声が上がり、フィアが入場してくる。
朝は試合について緊張していたが、今は紹介の中で色々と気になる点があったので別の意味で体が固まっている。
それでも何とか舞台上に上がると努めて冷静に振る舞おうとしている。
それは今から入場してくる対戦相手に集中することで行われた。
【そしてそんなフィア選手と戦うのはこれまた圧倒的な強さで勝ち上がってきたこの選手!あくまで余裕たっぷりに勝ち上がるその姿は相手の選手に絶望を与えてきたことでしょう。そしてッ!!ついに本人が認めてくれました。彼が噂の『竜殺し』であると!!そしてフィア選手が最初に言っていた彼女の仲間で彼女より強いというのは紛れも無いこの選手を指しての事だった!シュウ選手の入場です!!】
『竜殺し』の名が出たことで一層興奮した観客は歓声に加えてその場で足踏みをしており、会場中が揺れているような気さえしてくる。
そもそも絶望を与えたつもりはないんだけどなぁ、と苦笑しながらシュウは舞台上へと歩を進めた。
舞台へ上がるとそこには真剣なフィアが待ち受けており、彼女からは朝感じた過度の緊張が程々のそれへと緩和されている事に気づいた。
どうやら一周回っていい感じに落ち着いたらしい。
【舞台で2人が向かい合っています。いつもは仲間として苦楽を共にする2人ですが今日だけは全力で戦うという事を約束しているそうです】
【それでなければ場が白けてしまうからのう。あれから小僧がどれだけ腕を上げたのか見るのが楽しみじゃ】
【そういえばシュウ選手はいぜんギルバートさんと模擬戦をされたということでしたね。・・・フィア選手とは行わなかったのでしょうか?】
【うむ、機会がなくての。じゃがやってみるのも面白そうじゃ】
その発言を聞いてフィアがビクリと反応する。
カイといいギルマスといいこの大会では様々な人に目をつけられている気がする。
【まぁ、ワシも楽には戦えんじゃろうな。あの早さはなかなか厳しそうじゃ】
【ギルバートさんもそうなのですか?】
【昨日獣王との模擬戦で見せたあの斬撃を飛ばす技、あぁ、あれは小僧から教わったのじゃが、遠距離から攻撃するために少し溜めが必要でのう。あの早さで動かれたらさすがに撃つことすら出来んじゃろうな】
【ち、ちょっと待って下さい!シュウ選手からあの技を教わったと言ったような気がするのですが・・・】
【む?そう言ったのじゃが?】
【・・・とんでもない試合になりそうですね】
【そうじゃの。あ、小僧!少しなら『あれ』を使っても構わんぞ。というかガンガン使えぃ】
本戦での最初の試合時と同様に突然実況席からシュウに対して声が掛けられる。
その内容はその時と正反対で『あれ』つまり魔法の解禁であった。
それを聞いたフィアは本当にビクリとしてシュウの方を見る。
最初は魔法だけは使わない、と言っていたのだ。
ルール上使用は構わないのだが、使えば一瞬で試合が決まってしまう。
フィア相手に本気を出すと言っていたがあくまで身体能力の面だけのはずである。
だから少し不安になりつつシュウの方を見ている。
首を横に振ってくれるものと信じて。
そのシュウはゆっくりとした動きで実況席の方を向き、これまたゆっくりと答えた。
見事なサムズアップで。
「ちょ!?シュウさん!?」
「あ、大丈夫。『千雷』みたいなヤバイのは使わないから」
「そういう問題じゃないっす!魔法は使わないって言ってたじゃないっすか!!」
「いやぁ、これまでのフィアの戦いを見てると使っても大丈夫かなぁ、って思ってさ。大丈夫。魔法に関してだけはほんの少しだけ手加減するから」
「何一つ安心できる要素がないっす!?」
【よく聞こえませんが舞台上の2人も戦闘準備万全のようですね。そして観客の皆様もそろそろ待つのも限界でしょう。それではお待たせいたしました。武術大会決勝戦、試合開始!】
フィアのことなどお構いなしに試合開始が宣言されてしまった。
シュウはフィアの反応を面白そうに見ているし、こうなってしまえば最早諦める以外に選択肢がない。
こうしてどんな試合になるのか誰も予想が付かない決勝戦が開始されたのであった。
決勝戦直前のアレコレでした。
バトルは・・・次の話から頑張ります(ニッコリ




