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亜矢

時系列があっちこっち。

大変ですが頑張って付いてきて下さい。

「でっさー、ソイツがー……」

「えーマジでー? ウケるー」

 今日の授業が終わり、高倉亜矢は友人達と一緒に帰っていた。

 女子高生らしくおしゃべりしながら下駄箱を出て正門の近くまで来たとき、一人の友人が「あ。あれ……」と呟いた。

「ん? どうしたの?」

 話を中断し、亜矢は友人に問い掛けた。

「ほら、前よ前! あの後ろ姿って浅羽君でしょ?」

「え?」

 横にしていた顔を前に戻して見てみると、確かに正門のところに立っているあのスラッとした後ろ姿は和樹だった。

 亜矢は仄かに体が熱くなるのが分かった。

「あーほんとだー! 会えるとかマジラッキー!」

「亜矢ってあの和樹と幼なじみなんでしょー?」

「うん。そうだよ」

 和樹の姿に一気に色めきたつ友人達に、照れながら頬を赤く染めて幼なじみと答える亜矢。その様は恋してる女そのものでとても可愛らしいものだった。しかし――

「マジで!? じゃー声掛けなー……って、何だ彼女と一緒かよ」

 その言葉に亜矢の顔は一瞬にして強張った。

 隠れて見えていなかったが和樹は彼女と一緒にいたのだ。とても楽しそうに談笑しているかと思えば、そのまま二人でどこかに行ってしまった。

「あれってさー二年の黒野美夜って子でしょー?」

「そーそー。あんな地味なヤツすぐ別れるって思ってたのにさー。もう二ヶ月くらい?」

「そんくらいだね。今回長くね?」

「確かにー。いつもは半月も持たないよねー」

「もしかして本気になっちゃったとか!?」

 まっさかー!、と有ること無いことケラケラ笑いながらしゃべる友人達は気付かなかった。

 無表情で拳を白くなるまで握り、二人が去ったところをじっと見つめる亜矢を。



*****



 亜矢は小さい頃から可愛いと言われ育ってきた。

 少し垂れ気味の大きな目、形の良いぷるぷるの唇などのパーツが小さい顔に程よく配置された、とても愛嬌のある顔。

 我が儘言っても許される、お強請りしてもすぐに買ってくれる、褒めてくれる、余り叱られない。私の顔を見て絆されるそんな甘い顔の大人達。

 そのため亜矢は自分の顔が本当に可愛いのだと、早くから自覚していた。おかげで自分の顔を最大限に利用し、自分の良いように世を渡る術を身に付けた亜矢の人生はすでに順風満帆。

 そんなある日、隣にとある一家が越してきた。

 その家には亜矢より一つ下の男の子がいた。亜矢にほどよく甘い善人の両親は『お姉さんなんだし男の子の面倒を見てやれ』と言ってきた。

 亜矢は嫌だった。けれど“良い子”である自分が拒否することは出来なく、隣の人達は好い人だったためしぶしぶ亜矢は引き受けた。勿論顔は笑顔を貼り付けたけれど。

「私は高倉亜矢。今日からよろしくね」

「ほら。お姉さんに挨拶は?」

「……う、ん。浅羽和樹、です……よろしく……」


 これが亜矢と和樹の初めての出会いだった。




 それから亜矢は出来る限り和樹の面倒を見た。けれどそれは正直、亜矢をイライラさせるものでしかなかった。

 ちやほやされていたのは亜矢だったはずなのに、いつの間にか“お姉さんだから”という言葉に変わり、偉いと褒められる割にはあまり我が儘が許されなくなっていった。

 その上面倒見ている和樹は、トロくて、ダサくて、チビのガリガリ。オマケに暗い。猫を被っていなかったら今頃とっくに投げたしていた。

 ――アイツは私の弟じゃないっつーの! なんで一人っ子の私がこんな思いをしなくちゃなんないわけ? あー鬱陶しい!

 亜矢は毎日そう思うようになったが、それでも外面の良い亜矢は投げ出さず、真面目に和樹の相手をしていた。

 しかしそれから月日が経つと、亜矢の考えは次第に変わっていく。

 相変わらず和樹のことを根暗っぽいと思っている亜矢だけど、一つだけ気付いたことがある。

 それは和樹の顔が良いことだ。

 ――アイツったら、よくよく見ればキレイな顔してんじゃない。長い前髪と眼鏡で気が付かなかったわ。ま、あの両親の息子なんだから当然って言えば当然かな。

 亜矢の言う通り、和樹の両親はどちらとも同じ日本人とは思えないほどキレイな顔をしていた。父親にいたっては亜矢の好みど真ん中。その息子となれば将来が楽しみになるのも無理はない。

 ――というか今から私好みに育てちゃおっと! 面倒見てるんだからそのくらい別に良いよね!

 幸いというのか、和樹の性格を少し心配していた両親は協力的の上、和樹は和樹で優しく接してくれる亜矢によく懐いていた。誘導はしやすいと亜矢は考えた。

 ――上手く育てば私に釣り合う最高の彼氏じゃない! 邪魔だと思っていたけど楽しくなってきたわ! 早速始めなきゃ!


「良く見れば和樹君は――………」



*****



 結果から言えば亜矢の想像以上に和樹は最高の男になった。そして自分好みへ育てているうちに亜矢は和樹に本気で惚れてしまい、和樹しか見えなくなっていた。

 けれど亜矢は和樹に告白をしなかった。プライドの高い亜矢はこれからも優位性を持つために、どうしても和樹から告白してもらわなければならなかった。それに和樹という最高の男に告白されるほど良い女というの周りに知らしめたかった。

 だから亜矢は、周りには自分が嫉妬の標的にならないように亜矢と和樹の仲を徐々に浸透させ、和樹にはさり気なく他の男との仲を匂わせて早く告白してくるようにして告白を待った。

 ――和樹君が私を好きなのは明らか。告白も時間の問題ね。

 自信満々の亜矢。勿論その自信も根拠があってのことだ。和樹は親以外の女には素っ気ないけれど、亜矢だけには昔から変わらず目を輝かせて話し掛けてくる。これを好き以外にどう判断しろというのか。

 だからどんなに他の女に寄り道していても、あれは遊びであって最後は必ず自分の元に帰ってくると思い、亜矢はじっと待っていた。


 ――なのに。なのになのになのに!! 何なのよあの女は!!


 正門で二人を見かけてから亜矢の心の中は嵐のように荒れていた。どうして亜矢のところへは来ないのか、どうして和樹は美夜に笑いかけたのか、どうして二人は……まだ一緒にいるのか。そんなことばかりが胸の内を占める。

 けれどいつものようにそんな様子は微塵も表に出さず、友人達と寄り道をして楽しく遊んできた。今はその帰り道。

 この角を曲がればもうすぐ家に着くと思いつつ曲がれば、前の方に和樹がいるのが見えた。どうやら和樹も遊んでいたらしい。……おそらくは美夜と。

 亜矢は嫉妬で顔が歪みそうになるのを抑えつつ、和樹へと駆け寄った。

「おーい! 和樹くーーん!」

 少し俯いていた和樹は、亜矢の声に素早く反応してその場に止まり振り返る。

「亜矢」

 柔らかく微笑む和樹に今まで荒れに荒れていた亜矢の心は凪いでいく。

 ――大丈夫。和樹君は私のもの。

 和樹の隣に着くと上にある顔を仰ぎ、心からの笑顔で話し掛けた。

「和樹君も今帰りなのかな? 会えて嬉しい!」

「そ、今帰り。なんだか会うの久しぶりだし俺も会えて嬉しいよ」

 ちょっとごめん、そう言うと和樹は手に持っていたスマホに目を落とし、何か打ったかと思うとすぐに鞄に仕舞った。その時和樹の顔に微かに笑みを浮かんでいたのを亜矢は見逃さなかった。

「……メール? もしかして彼女、に?」

 亜矢は笑顔のまま、けれど少し固い声で和樹で尋ねた。しかし和樹は亜矢の様子には気付かず照れ臭そうに答える。

「ん? ……あーまーそうなんだ。さっきまで彼女と遊んでたからそのメールをちょっと……」

 照れていることに和樹は気が付いていない。亜矢は動揺し頭が働かないまま、ポツリと溢す。

「……何だか、和樹君変わったね。何だか楽しそうに見えるけど、女の人って苦手じゃなかったっけ?」

「え?」

 一瞬にして和樹は目を見開いたまま固まり、徐々に頬を染めていった。


 そして。

 何かが壊れる音を、亜矢は聞いた気がした――


書いてから思ったこと。

「ま、まともな女がいない……」

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