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和樹

 突然だが浅羽和樹は文武両道のイケメンである。

 しかし和樹がモテ始めたのは中学に入ってしばらくたった頃からだ。それ以前は頭は良かったけれど、眼鏡でチビでガリガリだったため女子から見向きもされなかった。いや、ほとんど無視に近かった。

 そんな彼を変えたのは一つ上の幼なじみ、高倉亜矢の言葉だった。


 ――良く見れば和樹君はカッコイイ顔してるよね! 頭も良いんだからそのうちモテ始めるよ! あと運動も出来れば言うことないんだけどなあ……。


 和樹は自分を厭わず接してくれている亜矢に仄かに好意を抱いていた。その彼女に“運動も出来れば”と言われれば、やらずにはいられなかった。

 いつか自分を見てくれると淡い期待を抱いて。


 運動をし始め、やがて成長期へと入り、いつの間にかチビだった身長は伸び、ガリガリだった体も程よく筋肉がついた。眼鏡も亜矢の言葉でコンタクトに変えた。

 すると亜矢が言った通り、自分に見向きもしなかった女子から手のひらを返したようにモテ始めた。

 和樹は嬉しい反面、女という生き物が怖かった。

 ――亜矢以外の女は信用出来ない。

 そうは言いつつも本命の亜矢には告白出来ず、和樹も男だったため性欲の捌け口に何人かの女と付き合った。すぐに別れてのとっかえひっかえだったけれど。

 でもそんな女にだらしない噂がたったおかげか、時々亜矢から嫉妬の視線が来るようになった。

 嬉しかった。大好きな亜矢から“嫉妬”をしてもらえるなんて、と。自分のことを好きだと言っている証に違いなかったから。

 けれど亜矢に告白をしようとした矢先、とんでもない場面を目撃した。

 数日前に和樹に告白してきた女子が苛められていたのだ。理由は和樹に“キス”されたからだと。

 キスと言ってもおでこに軽くするくらいのもの。いつもなら素っ気なく振るのだけど、その女子がたまたま亜矢と目元がそっくりだったから気まぐれでしただけ。告白は勿論断った。

 ……それからその女子は学校で見掛けることはなかった。

 怖かった。

 もし自分が何も知らなく亜矢に告白していたら。OKされてもされなくてもその事実が何処からか漏れたら。……大切な亜矢はどうなるのかと。

 そんなとき、ある女子の話を聞いた。

 曰く、その女子は興味有るものと無いものの差が激しい。自分の益になるときしか動かない。普段は大人しいけれど、迂闊なことをすれば最後大変な目に合う、と。

 これだ!、と和樹は思った。

 ――彼女を囮にして喧しい外野を全て押し付け、そのうちに亜矢に告白して彼女になってもらおう。

 彼女の話が本当かどうかは知らない。けれどそこまで言われている人物ならきっと図太くちょっとやそっとでは動じないだろうと考えた。

 亜矢以外はどうでもいい和樹はそう計画し、それにはまず彼女に自分のことを興味持ってもらわないと、と誰にも知られないように慎重に彼女を呼び出した。



*****



 和樹が美夜に告白してから二ヶ月。……美夜がとある女子生徒達に報復をしてから一ヶ月が経った。

 けれど和樹はまだ亜矢に告白していなかった。それどころか亜矢に会う時間も少しずつ減っていた。

 最初は当初の予定通り少し時間を置いてから告白をするつもりだった。でもカモフラージュのためと美夜に毎回休みの時間会い、会話していくうちに予想外にも美夜の話が楽しく、また居心地が良いものとなっていった。

 様々な本を読み頭の回転の良い美夜との会話は、テンポが良く冗談を言い合え久しぶりに気分が良かった。


 だから和樹は段々美夜に罪悪感を覚えるようになった。


 たまに聞く噂によると、最近では美夜への苛めは少なくなっているらしい。

 その証拠にどうやっているのか知らないけれど、和樹の計画の通り、和樹にベッタリと引っ付いてあんなに喧しかった外野が近寄らず大人しくなっていた。

 ――あーあ。俺は一体何をやりたいんだか……。

「おーい浅羽? もう昼休み終わるわよ?」

「へっ!?」

 美夜の言葉で思考の渦から抜け出すと、辺りを見回した。

 ――ああそうか。弁当を食べに来てたんだっけ。

 そこは学校の屋上。美夜とお昼を過ごすためにやって来ていた。

「何か考え事? 相談なら格安で受けるけれど?」

「金取るのかよ!」

 ははは!、と楽しそうに笑う美夜に釣られて和樹も表情を緩める。

「じゃあ笑ったことだし、教室に戻りましょーか」

 立ち上がりパパパッとスカートの汚れを落とすと、美夜はそのまま和樹に背を向けた。和樹はその様子をボウッと見つめていると、美夜が突然くんっと引っ張られたように止まり、和樹へ振り返った。

「腕掴んでどーしたのよ?」

「え……?」

 顔を下に向けてみると、いつの間にか和樹の手が美夜の腕を掴んでいた。

「おわっ! ごめん美夜!」

 和樹は慌てて腕を離し、あわあわと両手を中途半端に上げて「あー」や「うー」など言葉にならない声を出した。

 何か言わないと、でも何を言えばいいのか分からない、もどかしい気持ちでいっぱいになる和樹。

 美夜はそんな和樹を見てため息を溢すと、仕方がないとばかりの表情で和樹の耳元で囁いた。


「何も聞かないと言ったのは私。何も困っていないし、誰も恨んでない。浅羽は自分のことだけを考えなさい」


 バッと和樹は仰ぎ見るが、逆行で美夜の表情は分からなかった。




「美夜はどこまで何を知ってるんだろう……」

 放課後、和樹は一人で帰る準備をしていた。

 和樹と美夜は付き合っているとはいえ、放課後は滅多に一緒には帰らなかった。二人の帰り道が真逆というのもあるけれど、美夜は何かすることがあるらしく一緒に帰ろうと言わなければ、教室に残っていてくれなかった。

 しかも今日和樹は日直。美夜を待たせるにはいかず一緒に帰れなかった上に、頭が働かないままのろのろと日誌を書いていれば、やっと書き上げた頃には教室に自分一人しかいなかった。因みにもう一人の日直は用事があるとかで一番最初に帰っていった。

 和樹は歩きながら今日のお昼のことや少し前に自覚したことなど、もやもやしっぱなしの気持ち落ち着かせる意味も込めてでかいため息を吐く。

「すぅ……はあーーーーー、んあ?」

 窓の外、特別教室棟に繋がる渡り廊下で数人の女が通って行くのが見えた。すぐに棟の中に入ってしまい、顔は良く見えなかった。

「……なんだあれは?」

 少子化の今ほとんど資材倉庫として使われている特別教室棟にはこの時間誰もいなく、また部活も別に部室棟があるため使われていないはず。あんな大人数であそこに用事があるとは思えない。

「いやいや、だから何だって言うね……。俺には関係ないでしょ」

 ――どうでもいい。誰がどうなろうが知らない。俺には関係ない。

 目を瞑り肩を竦め、下駄箱へと足を一歩進め……なかった。

 一瞬和樹の脳裏を過ったのは、亜矢に目元が似ているだけのいつの間にかいなくなっていた女子のこと。

 もしかしたらあれはーー。

「~~ああクソッ! 俺はこんなキャラじゃねえっつーのに!」

 和樹は特別教室棟へと走った――

やべ。

美夜と亜矢って名前被ったことに書き終わってから気付いた!(笑)

亜弓に変えようか……

でも面倒だからこのままでいこう←

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