美夜
いじめ描写があります。
苦手な人はごめんなさい。
あと美夜の報復シーンもありますが、容赦なくてドン引き(かも)です。
あの付き合って発言から一週間。二人は校内で時間があれば会いに行き、お昼には一緒にお弁当を食べるようになった。
当然そんなことをすれば片方が人気者、二人は付き合っているのでは?、という噂が学校中に広まってしまうのも仕方がない話だった。
そして――
「お前みたいなブスが和樹に近寄ってんじゃないわよ!」
「あんたなんかに和樹が本気で付き合ってるとでも?」
「本気で付き合ってると思ってるのなら、救いようのないバカね」
「なんて恥ずかしいのかしら」
「身の程を知りなよ。遊びに決まってんじゃない」
――などなど。それはもうイケメンと付き合ったらこういう洗礼をしなさいと言われてのか?、と思うほどテンプレのように苛めが発生した。
この暴言の他にも物を隠されたり、汚されたり、突き飛ばされたりと、安全な場所と言えば和樹の横くらいしかなかった。
しかしそれも数分のことで別のクラスへ戻り、和樹の目がなくなったとなるとすぐに陰険な苛めは再開された。
さて、話は変わるが美夜のことを話そう。
容姿は真っ黒な髪を肩口で切り揃え、太い黒縁の眼鏡をしている。顔は可愛い顔立ちだけど、敢えて評価を付けるなら中の上くらいだろうか。成績、運動共に普通。特に可もなく不可もなくな目立たない生徒だ。
だけどそれは美夜の友人達からすれば全力で『アイツが普通だって!? 馬鹿か! 死にたいのか!』と否定してきただろう。
今は美夜の近くにいない友人達曰く、――触るな危険。ヤツの腹の中は真っ黒だ。迂闊なことをすれば地獄を見るぞ。
そんなある意味百パーセント信頼(?)されてる腹黒少女が、このまま黙って苛めを受けている訳がなかった。
「さっさと別れろって言ってんのよ!」
バシャアッ
付き合ってから既に一ヶ月が経つが今日も今日とて学校裏に呼び出され、着いた途端に水を掛けられる。
全身ずぶ濡れになり、今が夏で良かったと美夜は思った。けれど頭からも滴がポタポタ落ち、これじゃあすぐには帰れないなと少し憂鬱になった。
美夜はサッと前髪を払い、自分の前にいる人達を見遣る。
その全てを見透かすような美夜の視線に、ニヤニヤと笑っていた女達はたじろいだ。
「な、なによその目は」
一番前にいるリーダー格の女はすぐに美夜を睨み返すが、美夜は気にした様子もなくうっすらと笑みを浮かべた。
「突然手紙で放課後学校裏に来いと呼び出されて来てみれば、いきなり全身に水を掛けられてしかも理不尽な罵倒まで。これは酷いんじゃないですか? 3-Cの水崎香織先輩、佐藤悠里先輩、鈴木千香先輩」
「「「なっ……!?」」」
美夜に名前を言い当てられ驚愕する三人。
「な、なんで私達の名前を……」
「あ、当たってました? 確証はなかったので頷いて頂けて良かったです」
「ふざけっ……!」
鎌を掛けられカッとなり怒鳴ろうと思ったのに、今までにない美夜の態度のせいなのか言葉は出なかった。
「さて先輩方、知っているとは思いますが……」
「何をよ……」
「苛めって、犯罪なんですよ?」
愉しそうに、可笑しそうに、艶然と笑う美夜に三人は顔が強張っていく。
「ふ、ふん。これは“苛め”じゃなくて“忠告”よ。それに証拠なんてないじゃ――」
カチッ――――
『さっさと別れろって言ってんのよ!』
バシャアッ
『な、なによその目は』
『突然手紙で放課後学校裏に来いと呼び出されて来てみれば、いきなり全身に水を掛けられてしかも理不尽な罵倒まで。これは酷いんじゃないですか? 3-Cの水崎香織先輩、佐藤悠里先輩、鈴木千香先輩』
『『『なっ……!?』』』
『な、なんで私達の名前を……』
『あ、当たってました? 確証はなかったので頷いて頂けて良かったです』
『ふざけっ……!』
カチッ――――
顔面蒼白になる三人。美夜はポケットからレコーダーを取り出し、三人の前でひらひらと振って見せる。
「最近の科学は進んでいて良いですよねえ。小さくて持ちやすいレコーダーが簡単に安く手に入るんですから。しかも小さな声でも拾ってくれるという高性能。手放せないですよ」
にこっ、と無邪気に笑う美夜。
「う、ああ、あ……」
「取り敢えず今回のだけで、そーだなあ多分ですが……、暴行罪と脅迫罪ですかね」
先輩方が他にしたことも保存していますが聞きます?、と美夜は言うけれど、もはや三人の耳には届いてなかった。
「大変ですねーその若さで捕まってしまうなんて。罰金でも良いですけど大金ですねー。ご家族の生活は大丈夫でしょうか?」
「それだけは止めて!」
「お願い謝るから!」
「警察はいやああ!」
腰が抜けているのか座り込み、ぼろぼろと泣いて懇願してくるが、美夜は心底愉しそうに「それは先輩方次第ですよ」と言った。
「え……?」
「もう私にちょっかいしないでください。あと今後私の視界に入ることも許しません。破ったら……分かりますよね?」
「そ、そんなの無理よ!」
「同じ学校なのに!」
「そうよ! 無理に決まってるわ!」
「あれ、何をいっているのですか? 決定権は私にあって、先輩方にはありませんよ」
「つっ……!」
「まあ自業自得ってやつですよ。大変勉強になりましたね! ではそろそろ服が乾いてきたので私は帰ります」
三人をそのままに美夜は踵を返しスタスタと歩いていく。しかし数歩進んだところで「ああそうだ」と言って振り返った。
「一つ良いものを聴かせてあげますね」
そう言うと美夜はレコーダーを入れていたポケットとは別のポケットに手を入れてごそごそしだした。
「…………?」
美夜はポケットから何かいくつか出し、これじゃないこれでもないと探しながら三人に話し掛ける。
「先輩方は浅羽和樹が好きで、付き合っている私にちょっかいを出してきたんですよね?」
「……そうよ。悪い?」
「悪いに決まってるじゃないですか。寝惚けてます? どうして嫉妬に狂った人っていうのは自分を正当化出来るのでしょうか。世界の七不思議に入れてもいいと思います」
怒りで真っ赤になった三人が何かを言う前に、美夜は「あった!」と目的の物を見つけ素早くスイッチを押した。
カチッ――――
『……そこまで言うなら言ってやるよ。よーく聴いとけよ!』
『黒野美夜が好きだ付き合ってくれ黒野美夜が好きだ付き合ってくれ黒野美夜が好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ、付き合って、くれーーー!』
カチッ――――
「さてさて。これで解ったと思いますが敢えて言いますね」
びくっと肩を震わせる三人を尻目に美夜は続けた。
「先輩方は私が浅羽に付きまとったと信じたかったのでしょうが逆です。浅羽が私に熱烈な告白をしてきたので仕方なく付き合ったんですよ? ふふ。無駄な足掻きお疲れ様です先輩。心しっかり折れました?」
――敵を容赦なく完全に叩き潰すために。
「さてもう一度言っておきますね。――次はないですよ?」
そして興味も失せたとばかりに今度こそ美夜は振り返らず去っていった。
――数日後、三人は転校していった。
同じように美夜を苛めていた友人や知り合いに『アイツにもう関わらない方がいい。私達のようになる』という言葉を残して。
この言葉の意味をちゃんと理解するのは後どのくらいだろうか――
「さーて。次は誰にしようかなあー」
美夜はいつの間に告白シーンを録音したんだろーねー(笑)