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告白

展開的にはベタ部類だと思いますが

宜しくお付き合い願います!

「付き合ってもらえないか!」

「え、いいけど」

 とある夕暮れの空き教室で一組の男女が向かい合っていた。

 定番の告白による呼び出しで辺りには誰もいなく、校庭から野球部の練習する音だけが聞こえてくる。

「そうだよな。突然で戸惑うかもしれないけど、おねが……って、えええ!? え、い、いいの!?」

「うん」

 告白をしたのは男の方で、予想外にも女から即行のOKに何故か男がわたわたと聞き返した。

 女はというと、こちらはたった今『付き合って』と言われたはずなのに微塵も照れた様子はなく、むしろ無表情で男を見つめ返していた。

「え……な、なんで?」

「いや、“なんで”ってこっちの方が“なんで”よ。付き合ってって言われて了承したのに、なんでそっちが訊くのよ」

 正論である。けれど男としては事前に聞いていた・・・・・・・・女の性格上絶対に頷く訳がないと思っていたのだから取り乱すのも仕方がなかった。女には知るはずもないことだけど。

「いやだって俺まだ君に“付き合って”としか言ってないんだけど」

 名前すら言ってないよ?、と男は言うが女の態度は変わらず無表情のまま。

「そうね。告白にしては非常識ね」

「それに君は俺のこと知らな――」

「浅羽和樹でしょ。さすがに知ってるわよ。学校一のイケメンくらい」

 そう、告白してきたのは彼氏にしたい相手ナンバーワンと誉れ高い男だった。

 スッと切れ長の目に日本とは思えない高い鼻。口元はいつも口角が上がっていて、嫌味な印象を全く感じさせない。そんな綺麗な顔立ちの上に頭も良くいつも成績上位で、運動も出来るときている。

 例え関心がなくとも女の友達がいれば、何処からともなく耳に入ってくるぐらいの有名人だ。

「う、まあそうか。そうだよな。てっきり興味ないとばかり思ってたよ」

 ぽりぽりと頬を掻いて少し照れ臭そうにする和樹。

「人並みに興味くらいはあるよ。で?」

「で、って……」

「話は終わり? じゃあこれから彼氏彼女で良いよね?」

「あ、ああ」

 たんたんと話を進める女にたじたじになる和樹。自分が主導権を握るはずだったのに、と不満に思いつつも自分の知っている女と全然違うことに少なからず面白いと思っている自分もいた。

「なにその返事。もしかして付き合ってって、どこそこに行くのを付き合えってことなの?」

 ――あ、なんか彼女の俺に対する評価がガッコンと一気に下がった気がする。

 その証拠にこの教室に来てから変わらなかった女の表情が、明らかに毛虫でも見るような目になっていた。

「違う違います最初の意味であっていますのでその目は止めてくださいお願いします」

 それは今まで培っていた矜持が一瞬でぽっきり折られるほどの視線だった。イケメンも形無しである。

 ガバァッと頭を勢い良く下げて頼み込む和樹に、女は一つため息を吐くと「分かったから顔上げて」と言った。

 和樹はゆっくり顔を上げながら確認の意味を込めて訊ねる。

「じゃあ……、これから君は彼女ってことでいい?」

「いい、けど一つ条件があるわ」

「条件?」

「付き合ってって言うぐらいだから浅羽は私の名前知ってるのよね?」

「ああ」

 今更それがどうしたんだ?、と訝しげに和樹は首を傾げた。

 それを聞き美夜はうっすらと笑みを浮かべてから言った。


「じゃあ十回……


 私の名前を呼んで“好きだ付き合ってくれ”


 ……と言ってくれたら付き合って上げるわ」


「…………は、ああ!?」

 口をパッカーンと開けて呆然とする和樹。そんな和樹に追い討ちを掛けるように催促する。

「ほらほら早く。たった十回言うだけで何も訊かずに・・・・・・付き合って上げるんだから安いもんでしょ?」

 そう言って手をポケットに突っ込んで首を傾げる女に、和樹はパチパチと数回目を瞬かせると次の瞬間にはニヤッと笑っていた。

「……そこまで言うなら言ってやるよ。よーく聴いとけよ!」

 相手の返事を待たず、息を吸い込むと教室の外にはギリギリ漏れないぐらいの声量で言った。


「黒野美夜が好きだ付き合ってくれ黒野美夜が好きだ付き合ってくれ黒野美夜が好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ、付き合って、くれーーー!」


「……はい、喜んで」


 ゼーハーゼーハー、と息を切らす和樹に女――美夜は、思わず見惚れてしまうほどとびっきりの笑顔を向けて再度了承した。

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