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ひみつ特訓 【どこでもアウトドア】 その2



空は快晴、空気は新鮮。どこからか聴こえる川のせせらぎが耳を癒す。

都会の喧騒を忘れさせてくれるようなキャンプにうってつけの環境。


しかしぼくは焦っていた。ひどく混乱していた。

この状況に。

女子3人に男子がぼっちな状態に。

…前代未聞のハーレムに。


何だよコレ?何の特訓だよドライモーン!


そしてどうやらぼくには気持ちを整理するための猶予もないらしい。


「テントの組み立て手伝ってくれない?」

この中では一番の年長者である高2の及川おいかわさんに再度呼ばれる。


くっ…。なんでこんなにもフレンドリー?

まだ出会って1時間も経ってないよ?

それにテントの設置なんて得意な方じゃ…。



ぼくがしり込みしていると、ひらりと白い何かが目の前に着地した。

よく見るとそれは紙飛行機だった。

気になって中を確認すると…。


≪いいからやってみろ、お前ならできる。コツなど存在しない。お前はただテントの支柱を持つだけで構わない≫


…何だそれ。ホントに?


しかしそうしている間にも及川さんのコールは続く。


仕方がない、やるか。

ぼくは意を決してテントの方に行き、及川さんの前に広げられた支柱の何本かを手に取った。


すると不思議なことが起こった。


キュイーン、カシャカシャ

ガシャン、ガシャン、カコン、バタン

カチャカチャ、ザッザッ!

バサァッ…。



ものの1分でテントが完成した。

「…え?」


「「もぶ太くん、すごーい!!」」

及川さんと結衣ちゃんがそろって歓声を上げる。


……。


いやいやいや!

すごいじゃないよ!

確かに凄いけどぼくじゃないよ!


てゆーか今の何?

テントがひとりでに組み立てられていったよね?


「わぁー、すごいね~。もぶたすは」

ワンテンポ遅れて三島さん。


だからぼくじゃないんだって!

しかも何、『もぶたす』って!?

色んな意味で混乱するぼくのもとにまた紙飛行機。


≪謙遜するな、お前は出来る子だ≫


何それ…。でもちょっと嬉しいかも…。

ぼくはちょっぴり勇気が出た。


◆◇◆


さて、次の作業は…

着火だった。


着火担当は三島さんなのだがどうにもこの人はおっとり系というかマイペースというか

まったく作業が進んでいない。

というかさっきから積み上げた炭でジェンガをしている。

そして…

「もぶたす、ヘルプ~」

ぼくに丸投げだった。


ぼくはマジメな小学生だ。だから火遊びなんて、ライターなんて持ったことはない。

どうする?

そんなことを思っているとまた手紙。


≪カチッと一発、それだけだ≫


「……」


ぼくはチャッカマンを手にコンロの炭に近づいて…


…カチリ


シュボアァァ!!

「おわぁ!」


炭が自然発火した。

しかもみるみる適度な火加減に収まっていく。

なぜかガスの臭いがしたけどまあいっか。


「さっすが、もぶたす。天才だね~」

三島さんのスローテンポ賛辞。


あれ?なんだろう、かなりいい気分だぞ。

ぼくは段々楽しくなってきた。


◆◇◆


続いてみんなで野菜やお肉を切ったりした。

そう、キャンプの定番、カレー作りだ。

そしてこの初日の昼ごはんの出来栄えが後のテンションに直結することを

踏まえれば、非常に重要なイベントである。



「よいしょ、んっしょ…」

ぼくの隣では同学年の結衣ちゃんが少々危なっかしい手つきでニンジンを一口大にカットしている。

包丁を動かすたびに一緒に揺れるツインテールに思わずかわいいと思ってしまった。


「ふぅー、こんなもんかな」

高2の及川さんは流石と言った腕前で牛肉をさばいていく。


「タマネギが~わたしをくるしめる~」

そう言って涙目でタマネギと格闘しているのが中3の三島さん。


そしてぼくは…

完璧なまでの正確さでジャガイモの皮を剝き、煮崩れも考慮した適度な大きさにカットしていた。

というか持ったとたんにジャガイモが神憑かみがかった動きでバラけた。


もちろん女子の皆様は大賛辞。

なんだよ、もうおい、照れるじゃないか…!

細かいことはツッコまないことにしよう。

ぼくはそう思った。



具材が揃ったところで及川さんを主導に煮込み作業が始まり、

1時間もしないうちにカレーのいい匂いが周囲に漂いだす。


因みにぼくは飯盒炊爨を任されたんだけど、

これまた手紙が落ちてきて

≪米と水を入れてボタンを押せ≫


ボタンなんてどこに?と思ったが、飯盒を見ると中央に大きなボタンがあった。

ぼくは迷わず指示通りにすると、40分後には炊きあがりを告げるメロディーが鳴った。

あれ?はんごうってこんなものだったっけ?

ってなぐらいにあっさりとふっくらホクホクのご飯が炊けていた。

しかもそれは他に何も加えていないのに明るい黄金色に輝くサフランライスだった。


…イリュージョン?



◆◇◆



「「「いただきまーす!!」」」

晴れ渡る青空の下、女子3人の声が重なる。


「い、いただきま~す…」

ぼくもやや遅れて合掌。


次の瞬間…


「「「おいし~い!!」」」

ぼくが食べる間もなく大絶賛。

過剰に見えるほどの好反応だ。


そんなに?

と若干疑いつつも一口ぱくり……




………う

そこから先は声になっていた。


「うめぇぇぇ!!オレ、こんな美味いカレー初めて食ったよ!」

ぼくのキャラを崩壊させるほどに美味しかった。


及川さんスゲェ!


え?何これ、キャンプごはんのレベルじゃないよ!

ミシュランの星が付いてもいいんじゃないかな。


ルゥはまろやかでスパイシーだし、それらを支える野菜たちのハーモニー。

牛肉にいたっては舌の上でとろけるよ!?


今更だけど、さっきぼくらが調理してたのってとんでもない高級食材だったんじゃ…。

ドライモンはどうやって手に入れたんだろう…。


ぼくがカレーとドライモンの調達術に関心していると女子の皆様からお声がかかった。


「カレーがおいしいのはもぶ太くんのおかげだよ!」

と笑顔で言うのは結衣ちゃんだ。

「え?」


「そうそう、特にサフランライスなんてお洒落な発想よね…」

と関心気味の及川さん。

「あ、でも作ったのは及川さんですし…」


「うむうむ、謙虚でよろしい。でも火を点けたのは、もぶたす だよ~♪」

もぐもぐとカレーを頬張りつつも三島さんも嬉しい事を言ってくれる。


「い、いや~…」

嬉し恥ずかしな状態に陥ったぼくはしきりに頭をかいた。

こんなに褒められたのはいつぶりだろう。


「そ、そういえばこの山ってー…」

照れ隠しにぼくは他愛もない話をしはじめる。

そこにはいつの間にか自然に女子と会話する自分がいた。

雄大な自然の中でぼくはとにかく幸せだった。




そんなもぶ太の様子を背後の草むらでじっと見ていた男はさりげなく口角をつりあげる。


「まずはいいスタートだ…」

そう小さく呟いて、手元のリモコンや紙飛行機の束を回収すると彼は静かに立ち去った。


後には煙が微かに残る。



どうなる!どうする!(色んな意味で…)

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