ひみつ特訓【どこでもアウトドア】 その1
『ドラ〇もん』のパクリもんの『ドライモン』にして
このサブタイ…(汗)
もう開き直りの境地に立ってます。
今のところ関係各所からの電話もないし大丈夫?
(いつまで保つかな…)
明日はお休み、土曜日さ☆
しかもうるさい親も社員旅行でいないしね!
朝は寝坊を決め込むぞ~!
そう思っていたもぶ太だったが、翌朝 彼の期待はあえなく砕け散った。
「起きな、もう8時だ」
シュッ…!
「んぁ!?」
テーブルクロスの如く布団を華麗に引っぺがされ、もぶ太は芋虫のように転がった。
何?何なの?
狼狽するもぶ太の前に朝日をバックに立つ人影…。
「せっかくの食事が冷める…早く降りるんだ」
ドライモンだった。
しかも今は人間バージョンのようだ。
もともと彼がオオカミ仕様なのは初代『ロボ-2000』が警備用に開発されたからなのだが、
改良を重ねた2100型の彼は自由に体を転換出来るようになっている。
彼はくるりと踵を返すと、自慢の銀髪がサラリと揺れる。
つくづくカッコイイ人だ、いやAIだけど。
ぼくは渋々一階に下りると、洗面所で顔を洗うとメガネをかけてダイニングに向かった。
いい匂いがする、今日は何だろう?
ガチャッ…
「あ、やっと起きたのね。もぶ太」
「!!」
パタン
衝撃的な光景にいったんぼくはドアを閉めた。
落ち着け、落ち着くんだぼく。
バクバクと脈打つ心臓をなだめて深呼吸。
きっとまだ寝ぼけているんだ。
じゃないとおかしい、イリーナさんが…
イリーナさんが…
あんな格好で…
うん、無いな。よし、気を取り直して…
ガチャッ…
「もう、なんなの?」
「!!!」
バタン!
ぼくは意識を失った。
朝っぱらからきわどいエプロン姿のイリーナさんは刺激が強すぎる…!!
◆◇◆
「はい、あーん♡」
「ん」
パクリ
「美味しい…ですか?」
「ああ、また腕を上げたな」
渋い声でそう言うのはドライモン。
今日は人間バージョンで、さらにイケメン度UPだ。
「光栄ですわ、ドライモン様!」
彼の賛辞に頬を赤らめて喜ぶイリーナさん。
「……」
そしてその様子を遠巻きに見ている、いや聞いているぼく。
何なんだホントに…。
朝からイチャイチャしちゃってさ。
もぶ太は内心毒を吐いた。
テーブルの端に座り距離もあけたというのに
実際には目を向けてもいないにのに音だけでそわそわしてしまう自分が憎い。
それにしても…とぼくは思う。
イリーナさんの格好、やっぱりマズくないか?
ぼくが卒倒した原因である彼女はエプロンを着用しているのだが
その下に着ているはずの洋服は面積が小さすぎて見えない。
つまり…
…限りなく裸エプロンに近かった。
おかげでまともに正面が向けないぼくは今もこうして朝ごはんとにらめっこするしかない。
因みにメニューはパンケーキにプレーンオムレツとソーセージ、クラムチャウダーとシーザーサラダ、
そこにコーヒーか紅茶のどちらかを選ぶという朝から何とも大層な食事だ。
全てイリーナさんが作ったのだが、これがまたこの上なく美味しいんだ!
彼女は特にコーヒーや紅茶にはこだわっていてコーヒーはいちいちハンドミルを使って豆から淹れるし、
紅茶も今日はダージリンのセカンドフラッシュ?とかいういかにも高級そうな銘柄だった。
流石は高性能アンドロイド、見事な仕事ぶりだね…。
ドライモンも確かな味にご満悦の様子だ。
ああ、そうそう機械のくせに食事?とかの質問はやめてね。
そこら辺はぼくもよく分かってないから…。
それと彼らがすっかりこの家に順応していることも…。
共働きで忙しい両親も最初は怪訝そうな様子だったけど
彼らが有能であると分かったとたんに「「Welcome!!」」と声をそろえて叫んでいた。
現金な人たちだよね。
ドライモン曰くぼくたちは血よりもなお濃い関係で繋がっているそうだ。
というかAIの彼らに血なんてあるの?
「イリーナ、済まないがもぶ太に話がある」
しばらくしてドライモンがナプキンで口を拭きながらそう告げると、
イリーナさんは分かりましたわ…とやや残念そうにダイニングを後にした。
ぼくはやっと一呼吸ついた。
「もぶ太…見るだけで卒倒とは。お前はやはり必要以上に女を意識し過ぎだ」
2人きりになった部屋でため息交じりに彼はそうこぼした。
そんな言い方…。まるでぼくが変態みたいじゃないか。
「そこでだ、今日はいつもと違うカリキュラムを組んだ」
「また、何かやるの?」
ぼくは辟易した。
「当たり前だ。俺の仕事はお前をモブからモテに更生することだからな」
う、また始まったよ。
そう、彼の目的はそれなんだ。だから今までも色んなレッスンをしてくれたんだけど…
相手がイリーナさんだったからほとんど効果はなかったんだよね…。
てゆーか彼女はぼくには荷が重すぎるよ!
「これまでのお前を見ていて気づいたことがある」
ドライモンはぼくの目をまっすぐに見てこう告げた。
いつになく重々しいな。な、何?
「お前は女との付き合い以前に、正直 男としてなってない」
………えーっと。
「あの~、ぼく一応小学生なんですけど…」
「甘い!!」
「うわぁ!?」
い、いきなり大声出さないでよ。
「男に年齢制限は無い…。生を受けたその時から男の自分磨きは始まっているんだ。そしてそれは死ぬまで続く」
ええー…何その哲学。いや美学?
「考えても見ろ、赤ん坊でさえ差し出された女の手を恐れるか?頬ずりに気絶するか?」
「否!…もぶ太。そういう意味ではお前は彼らにさえ劣っている。もはや予断は許されない状態なのだ」
赤ちゃんは無意識なだけじゃ…。
そう思うぼくに構わず彼は続ける。
「だから今回は通常訓練の代わりに野外合宿をしてもらう。そこで男の基本について学ぶのだ」
「自然に囲まれた環境でも立派に生き延びるのが男というものだからな」
そこで彼は何か質問は?という顔をした。
それはキャンプをしろということだろうか。
すかさずぼくは質問する。
「え、それって今から?野外って…キャンプ?準備は?」
「一度に訊くな忙しない…」
ドライモンは肩をすくめながらも順を追って説明してくれる。
「そうだキャンプだ。準備は既に完了済み、そして場所は裏山。…もちろん今からだ」
そこで彼はいったん間を置きこう続けた。
「秘密特訓名は題して…【どこでもアウトドア】だ」
う…。いつになく唐突だ。しかもなんだそのネーミング…。
でも準備はもうしてあるって言ってるし、彼はいつになく本気だ。
これはぼくに拒否権は無いんだな…。
ぼくは渋々了承する。
「分かったよ、ドライモン」
「よし、歯を磨いて服を着替えろ。出発は20分後だ」
こうしてぼくはキャンプに行くことになった。
◆◇◆
40分後…。
ぼくは裏山にいた。
ここは住宅地がひしめくこの地域にとっては珍しいくらいに自然が溢れる豊かな山だ。
そのため休日は多くのレジャー客たちが集うキャンプスポットでもある。
そしてぼくも山の中腹に設けられたキャンプ場の一角にいるんだけど。
二つほど腑に落ちないことがあるんだよね。
一つはまさかのドライモンの不在。
車でぼくをここに連れてくるなり、荷物を置いて颯爽とイリーナさんと共に去っていってしまった。
マジか…。
しかしそれよりも大変なのが二つ目だ。
え?キャンプ道具が用意されてなかったんじゃないかって?
違う違う。ドライモンはそこら辺は抜け目がないから。
テントから飯盒炊爨まで完璧だったよ。
ただね、現場に着くととんでもないオプションが着いてたんだ。
「ねえ、もぶ太くーん。こっちのテント張るの手伝って~」
「あれ?火を点けるのって難しーんだね…」
「私キャンプなんて久しぶりだから楽しいな!」
そう女子の皆様である。
簡単に紹介するね。
今テントの準備をしてくれているのが高校2年の及川 智夏さん。
茶髪で行動力のあるお姉さん的存在だ。
続いて炭にチャッカマンで点火しようとしているのが中学3年の三島 陽菜さん。
マイペースでどこか抜けてる癒し系。
そして最後にキャンプで興奮気味なのが唯一の同学年、谷口 結衣ちゃんだった。
天真爛漫な明るいムードメーカーってところ。
…うん、おかしいよね。
あのオオカミAI。
ぼくに何がさせたいんだ!?
確かにライオンは自分の子供を強くさせるためにあえて谷底へ突き落すって聞いたことあるけど。
ぼくみたいな生まれたての小鹿にこんな仕打ちはないんじゃないかな!
基準がおかしいよ。
何より彼女たちをどうやって集めたの?
例のギブアンドテイク?
というか…こ、このメンバーで一泊?
ヤバいヤバいヤバいぃッ!!
どーするんだぁぁぁ!!
もぶ太は心の底からシャウトした。
◆◇◆
キャンプ場が一望できる高台。
そこには一台の黒いシトロエンが停車していた。
そのわきには双眼鏡でじっと様子を伺う男とその傍らで控える女の姿があった。
ドライモンとイリーナである。
容姿端麗なその2人組はさながらにスパイ映画の主人公のようだ。
「上手くいくといいですね」
「ふ…、心配は無用だ。今回のプランに抜かりはない」
余裕綽々といった様子でドライモンは煙草にジッポで点火。
「流石のお言葉…」
うっとりとしたイリーナを横に彼はロレックスの高級腕時計に目を落とす。
「よし、そろそろ時間だ。もぶ太の最初のミッション【女子の要望にスマートに対応】のサポートを開始する」
かくして彼のもぶ太をプロデュース、その名も【どこでもアウトドア】作戦は始動する!