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拍手まとめ4

☆壁ドンっ!シリーズ(半強制~編)

――壁ドンかぁ……

私は手にしている本を注視している。

旦那様と同じ綺麗なエメラルドグリーン色をした表紙のそれは、恋愛小説だ。

王都の女性達が今、これを見て胸をときめかせているらしい。

中でも一番の胸キュンポイントが、壁ドンだそうだ。

何それ? と思ったが、アリーさんが解説してくれ、参考資料としてこれを貸してくれた。

恋愛物語なんてあまり読まないけれども、進められた以上は読んだ。

でも、いまいち想像力に欠けるのかぴんと来ず。


「あの~、壁ドンってどんな感じなんですか?」

座っているソファの後方に控えているムーンさん達をはじめとしたメイド達へと尋ねると、反応は様々だった。

頬に手を当て恍惚とする人達や、「あー、どうなんでしょうね?」という淡白な人達まで。

ここのメイド達は、オネェの人や女装癖の人、それから心も体も男の人等様々。

だからなのだろう。


「奥様。折角なのですから、旦那様にして頂いたらいかがでしょうか? そろそろ、イレイザ様に頼まれていた翻訳の仕事も終わり、下に降りてくると思いますし」

「旦那様にですか?」

私は小首を傾げた。

旦那様に壁ドン。なんだろう? しっくり来ない。恐らく、ワイルドさがないからかも。

どちらかと言えば、うちの旦那様は落ち着いた男性って感じだし。


……時々暴走するけど。


「でもあれよねぇ~。旦那様って壁ドンっていうより、鍵ガチャって感じしない?」

「あー。そうね。完全にそっちだと思うわ。監禁の方」

なんてメイド達が笑っているが、私は笑えない。

ぴったりすぎるのだ。鍵ガチャ。まさにそれ。


「みなさん、それ笑えませ――……」

「は!? ちょっ、旦那様っ!? 何処に?」

そんな叫び声のようなものが扉越しに聞こえてきたため、私の台詞は途中で切れてしまう。

くぐもった声は、アイリスさんのものだった。

それからそれと一緒に、回廊を駆け出す音も響いていた。


「……まさか」

私は駆け足で扉まで向かうとドアノブを掴んで押す。

すると、そこにはアイリスさんに拘束されている旦那様の姿が。


「ちょっと! アイリス離して下さい!」とじたばたと暴れているが、マッチョからそう簡単に逃げられるはずがない。

旦那様の身長は高いけれども、アイリスさん達は筋肉の塊だ。

ガタイがまず違う。旦那様二人分以上だし。


「旦那様。先ほどの会話聞いていたんですね」

そう尋ねれば、頷かれた。

「……はい」

「どうして逃げたんですか?」

「わ、忘れ物をしました。部屋に」

「そうですか。なら、私の目を見て下さい」

「……」

けれども、旦那様はこちらへ一切視線を向けて来ない。

ただひたすらに廊下に敷かれた絨毯を見ている。

まるで毛足の一本一本を観察するように。


「やっぱり、また物騒な物買ったんですね!?」

「買っていません! 屋敷中捜索して下さっても構いません。なんなら、僕の所有物件すべてどうぞ」

「そんな事できませんよ。旦那様が所有している不動産、この国だけじゃなく国外にも数十か所あるじゃないですか」

「本当にまだ手元にないんです。信じて下さい」

そう言って旦那様はこちらを見詰めて来た。

その瞳は揺らぐことはなく、ただ湖のように透き通っている。


――これは本当かも。


「あら? 今、まだっておっしゃいませんでした?」

「あっ! ラン余計な事をっ!」

待って。という事は注文中なの!?

以前は首輪に手枷に足枷。檻は未遂。

全く、うちの旦那様は本当に物騒なものばかり。

しかも、金額がもう桁が凄すぎるし。

確かにお金を使うのは経済回るからいい事だけど、使わなきゃ勿体ないのに!



☆雪だるま 

今日は珍しく王都でも雪が多く降った。

いつもこの時期はうっすらと地面が覆い隠されているぐらいなのだけれども、一夜だけで十五センチぐらいの積雪。

日中は雪掃きをする大人の傍らで、新雪に喜んでいる子供達は雪だるまや雪遊びをして楽しそうだった。

それを微笑ましく見ていたのだけれども……


「どうしてうちに?」

僕は首を傾げながら、目の前にあるそれを眺めている。

うちにはまだ子供がいないはず。

もしかしてニクスでも来たのだろうか。


帰宅して玄関前へと辿り着けば、何故か二つの雪だるまが出迎えてくれた。

一つが大きめ。そしてもう一つが、それより若干小さめの雪だるま。

それらが玄関脇に仲良く、寄り添うように並んでいたのだ。


「そちらは奥様作の雪だるまです。午後から天気も良かったので」

傍に佇んでいる、鞄を持ってくれている従者が穏やかに口を開いた。


「あの寒がりのヒスイさんが? 珍しいですね」

「初めて作ったとおっしゃっていましたよ。さぁ、体が冷えてしまいますので、中へ。奥様もお待ちですよ」

そう言いながら開けてくれた玄関。

そこから温かなオレンジ色の光がこちらへ零れてきた。


「ありがとう」

礼を言いながら中へと進むと、ホールにアイリス達を引き連れた可愛い妻のお出迎えが。

ヒスイさんは、ふわふかのカーディガンを羽織りまるで小羊のようだ。

丈が長いらしく、ちょこんとだけ指先が出ているのがまた可愛い。


なんて幸せなんだろう! こんなに可愛いヒスイさんのお出迎えなんて!

ああっ、もう疲れも寒さもどっか行ってしまった。

ニコニコとほほ笑むその可愛い妻は、こちらに来るとラズベリー色の唇を開いた。


「お帰りなさいませ、旦那様」

「ただいま、ヒスイさん。外の雪だるま見ましたよ。上手に出来ていましたね」

「本当ですか!? アイリスさん達が雪掃きをしていたので、その雪で作ったんですよ。左の大きいのが旦那様で隣のが私ですっ!」

「え?」

その言葉に僕は首を傾げた。

それもそうだろう。だってあれでは……――


「身長差が違いますよ。僕達はもっとあります」

「一緒です! 同じ!」

「違いますよ。だってあちらは多く見積もっても十センチ差ぐらいですよ?」

僕とヒスイさんは三十から三十五センチ差。

それなのに、あれはあまりにも違いすぎる。

もしかしてそこまで深く考えて作らなかったのだろうか? とも思ったが、ヒスイさんの目が泳いだため、そんな考えは打ち消された。


「み、見間違いですよ……」

「盛りましたね」

「違いますっ! 暗かったから、旦那様の見間違いです。えぇ、見間違いです。本当に」

「見間違いじゃないですよ」

僕は再び確かめるために玄関の扉に手を伸ばしかけると、空いている腕にヒスイさんがしがみ付いてきた。


「……駄目です」

若干涙目になっているヒスイさん。

あぁ、やはり身長を盛りましたね。


というか、それよりもまず胸が当たっているんですが。

人がいなかったら押し倒していましたよ?

あぁ、どうしましょう……顔がにやけそうになってしまいます!

僕はそれを誤魔化す為に、咳払いをすると唇に言葉を乗せた。


「どうして外へ出ては駄目なのでしょうか?」

「あ、えっ……えっと、そのっ……! ほら、あれですよ!」

「なんでしょうか?」

「ゆ、ゆっ、雪だるまも二人っきりになりたいそうです。だからですよっ!!」

「え?」

必死に誤魔化そうとしているのだろう。

挙動不審になりながらも、なんとか彼女が紡ぎ出した言葉。それが妙に可愛くて、僕はつい噴き出しそうになってしまった。


でも、あれは僕とヒスイさんがモデル。

だから……――


「そうですね。二人っきりの時間を邪魔するなんて可哀想ですね。そっとしておきましょう。あの雪だるまは僕とヒスイさんがモデル。僕達のように甘いひと時を過ごして貰いましょうか」

そう屈み込んで彼女の耳朶へと言葉を囁くように告げると、そのままふっくらとした頬へと口づけた。


「……あ。でも、あれはヒスイさんがモデルなら、盗まれないようにしなければなりませんね」

「え?」

「なんでもありません。さぁ、行きましょう。体が冷えてしまいます」

「はい!」

僕はヒスイさんの肩に手を添えると、廊下へと促した。

そっと玄関の扉を見詰めながら。

後で対策をしておかないと。



☆翌日の雪だるま

「……アイリスさん。これ、幻覚ですか?」

仕事に向かおうと、玄関へと出た。

そこでふと何気なく雪だるまが気になって一瞥すれば、そこには目を疑うような風景が。

それは檻に入れられた雪だるま。しかも、小さい方だけ。


「いいえ、奥様。私達にもちゃんと見えますわ」

「あらー。斬新」

「白と黒のコントラスト素敵ね」

「皆さん、感心している場合じゃないですよ! これどういう事ですか!?」

「聞くまでもありませんわ」

「ねー」

アイリスさん達の言葉に、私は視線を上へと向けた。

高く塔のようにそびえる屋敷を。きっと犯人はすやすやと夢の世界にいるだろう。


「旦那様が犯人ですね」

「えぇ。夜中こそこそとやっておりましたわよ。盗まれるのが怖いと」

「誰も盗みませんよ!? 雪だるまなんて!」

「モデルが奥様ですから、旦那様も心配なんですわ」

「心配って……」

雪だるまなんて盗んでも何もならないのに!

それに天気良いと溶けちゃうし。


それよりもまずどうしてだろう。

この雪だるまが他人事ではないように感じるのは――



☆どっちが好き?☆

ヒスイさんはマカロンが大好きだ。

以前プレゼントしてから、すごく気に入ってくれたらしい。

今日もリビングのソファに座りながら、おやつのマカロンを頬張っている。

その姿が、団栗を持つリスのようで可愛い。


「ヒスイさん。マカロンそんなに好きですか?」

「はい!」

にへらっとしたすごく幸せそうな表情を浮かべながら、ヒスイさんが頷いた。


「蟹とどちらが好きですか?」

「蟹です」

「蟹なんですか」

僕は笑いを零す。どうやら迷う事無く、即答で蟹らしい。


「では、僕と蟹どちらが好きですか?」

「え?」

一瞬きょとんとすると、彼女はリスを思わせるまん丸い瞳を何度も瞬かせる。

かと思えば、顎に手を添え小首を傾げてしまう。

それには、僕の心がどんどんと重苦しくなってしまった。

まさか、迷っているというのだろうか。

僕は蟹と同等!?

いや、もしかしたらそれ以下……


「えーとですね、旦那様。その質問には答えられません」

「!?」

そう耳に届いたヒスイさんの台詞。

それに気が遠くなりかけた。


蟹……許すまじ蟹!!

なんて羨ましい!!


こうなったら蟹が居ない場所へ……いえ、山にも蟹はいますね。

何処に行けば……――



おまけ1

ヒスイ「あれ? 旦那様どうしたんですかねぇ? 黙ったまま動かなくなってしまいました」

アイリス「奥様。どうして即答なさらないのですか?」

ヒスイ「え? だって蟹と旦那様って、ジャンルが違いますよ。だから比べる事が出来ないので答えられません。マカロンと蟹なら、食べ物ですけど」

アイリス「それ、今すぐ旦那様に伝えて差し上げて下さい。蟹の居ない所に連れて行かれますよ」

ヒスイ「それは困ります! 蟹好きなんですよ!」



☆唇に触れるのは、雪と――


「雲行き怪しいですね……」

手を繋いで隣を歩いている旦那様は、空を仰いでそう言葉を紡いだ。

つい先ほどまで晴天だったのに、今では分厚い灰色の雲が覆っている。

辺りを見回しても、人っ子一人いない。ひっそりと左右に木々が茂っているだけ。この道の先には旦那様の屋敷を始めとした高級住宅地へと通じている。


「そうですね。でも、もうすぐ着きますから」

「えぇ。ですが、寒くありませんか? やはり迎えの馬車を呼ぶべきでしたね。すみません、気が利かずに……」

「大丈夫ですよ。もうすぐ着きますし。それに、旦那様と久しぶりの散歩は楽しいです!」

そう告げれば、旦那様は顔を緩めた。


確かに私は寒さに弱いけど、歩いて体全体を動かしているせいか、体がぽかぽかとして温かい。

それにマフラーも巻いているし、コートも手袋も厚手だ。

それらが頬を撫でる冷たい風から身を守ってくれている。


「雪、降りそうですね」

ふと顔を上げれば、唇に何かが触れた。

ほんの一瞬だけ感じ広がる冷たさ。それに大きく体がびくつく。


「冷たっ」

そう言いながら唇へと指を滑らせれば、それはもうすでに溶けていた。

「あ……」

ふわりとした白い柔らかい物が、花吹雪のように地へと舞い落ちて来ている。

どうやら降り始めてしまったようだ。


「ヒスイさん。僕が温めて差し上げましょうか?」

「え?」

弾かれたように旦那様の方へと顔を向ければ、ほんの一瞬だけ唇に落ちた温もり。

それと同時に体へと浸透していくように燃え広がる熱となった。

きっと私は顔まで真っ赤だろう。


「温かくなりましたか?」

「はい……」

温かい通り越して、暑いです……



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