偽装結婚のお誘い
長いのできりよくわけます。
なので、ヒーローは次に。
なんで私っていつもこうなのだろうか……
おそるおそる王子の方を見れば、目をひん剥いて仰け反っている。かと思えば、ゆっくりと顔の表情を緩め今度は「あはは」と声を上げて笑い初めてしまう。
そんな様子に拍子抜けの私だったけど、その後方が恐ろしすぎる。
つい先ほどまで大人しく控えていた執事は、まるで人を視線で殺せるぐらい強く鋭利にこちらを射貫いていたのだ。
しかも容姿が整っている上に、オールバックで丸眼鏡というオプションの相乗効果のために恐怖心が倍増。
ごめんなさい、兄さん。普段兄さんに言葉使いについて、「うわー。うざったい」と思っていたけど、本当に言葉いうものは大切だったのですね。日頃の自分の性格が現れれているわ。
「ますます気に入りました。助けて貰ったお礼に、特別に貴方を僕の姉上にして差し上げます」
「……はぃ?」
「ですから光栄にも貴方を姉上にして差し上げますって言っているんですよ」
なんだ、こいつ。可愛い顔をしてやたらと上から目線の宣言。
やっぱり箱入りか! 誰もこっちは頼んでもいないっていうのに!
しかも差し上げますってなんだよ!?
これの何処がお礼なのかさっぱり。王子というものは、甘やかされて育ったからこんな性格なのか。
お礼ならお金にしてくれ。全て孤児院に渡せるから。
「ふざけたことを言わないで。そもそもなぜ私が養子に入らなきゃならないのよ。っつうか、私は孤児院育ちだってば」
「知っていますよ。恩人である貴方の事調べましたから。当然でしょ? それに養子ではありません。貴方は僕の兄上と結婚し義理の姉上になるのです」
「……はぁ!?」
この空間は魔空間なのか。いやこいつが魔なのか。
次から次に私のキャパを超える事ばかり言ってくる。開いた口が塞がらないうちに、また爆発的衝撃を受ける発言を……
「貴方にとって悪い話ではありませんよ。代わりにお金が手に入ります。施設の修理費不足しているのでしょ? 壊れた部分だけじゃない。他にも修理する箇所がある。違いますか?」
「それも調べたわけ?」
「えぇ。ですから兄上と偽装結婚してみませんか? 花屋を続けても構いません。施設の修繕費はこちらが全額負担致します。それに衣食住代は夫である兄上が負担するので、自由に使用できるお金が手に入りますよ。それにお兄さんもそろそろ結婚時期とか。どうせ貴方にはおつき合いされている方もいらっしゃいませんよね。結婚するラストチャンスですよ」
「どうせとか、ラストとか勝手な事言うな。貴方のお兄さんなら王子様でしょ? 無理よ。私は庶民だってば。良いところの綺麗な娘さん達との縁談山ほどあるでしょ?」
「たしかに兄上には縁談が山ほどあります。ですが、残念な事に兄上は綺麗な女性が苦手なのですよ。ですから縁談を拒絶しているのです。父上達も兄上の結婚を待ち望んでいるのですが、そのためなかなかか……ですが、その点貴方はそれをクリアしている。大丈夫ですよ。自身持って下さい。貴方なら兄上の苦手な女性ではありません」
「それ、バカにしているの?」
「いいえ全く」
「嘘つけ」
「それに悪い話ではないでしょ? お互いのメリットがあるのですから。それに兄上は将来有望ですよ。背も高くとても精悍な顔をした美青年ですし。決して脂ぎった太った中年ではありません。今は城にはおらず、外に屋敷を構え王立研究所にて研究員として勤務しております。あの人はインドアなので滅多に外に出ないですからお金がかからないので貯蓄も沢山ありますよ。ただちょっとメンタルがガラスのハートなだけが欠点ですね」
「ガラスのハートって……」
王子様ってメンタル弱くて大丈夫なのか? なんかいろいろ夜会とか出席しなくちゃならないんじゃ……
私のパーティーのイメージはドロドロの愛憎混じり会う場所なんだけど。
「どうです? 契約結婚してみませんか? ただ籍を入れるだけでお金が手に入る。なんて簡単で素晴らしい事でしょうか」
そう言われて悩んだ。だって紙に名前と印鑑させ押せば、孤児院の修繕費は全額支払って貰える。それに――兄さんもそろそろ結婚を考えてもおかしくはない。私が居たらきっと二人にとって邪魔になる。かといって一人暮らしするお金も無かったのだ。
衣食住の保証に孤児院の修繕費。これは美味しい話だ。
ただまた兄さんに怒鳴られるな……
私は頭を抱え、吐息を漏らす。深く濁った悩みと共に。




