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拍手まとめ2

☆もしもヒスイが惚れ薬を呑んだら☆


――どうしましょう。可愛いすぎるのですが。


「旦那様―っ」

僕の膝の上に乗っているヒスイさんは、ごろごろと猫のように胸にすり寄ってきている。

しかもぎゅっとしがみ付いてくるという、可愛らしさをプラスして。


わかっています。わかっています。これは惚れ薬。惚れ薬。

頭では理解出来ているのに、つい触れてしまう。その体に。


ヒスイさんはつい先ほどイレイザ兄さんの作ったわけのわからぬ薬を飲んだ。

なぜそんな要注意人物から貰った物を呑んだかと言えば、身長が高くなる薬と訊いたかららしい。

そんなに気にすることないのに。そう僕は思うけれども……


しかも薬が錠剤だったらしく、水で飲めば良かったのだがヒスイさんは紅茶で飲んでしまった。

そしたら化学反応が起こり何故か惚れ薬に。


――もう少し早く帰宅していれば防げたのですが……


「兄上。どうしてくれるんですか」

テーブル越しにいる元凶者へと告げれば、ソファに座りながら優雅に紅茶を手に持ちつつ、

「えー」とわざとらし声を上げた。

「普通、薬飲むと言えば水じゃん。というか、紅茶のなんの成分に反応したんだろうな? 一体」

「そんな事はどうでもいいんです。妻はこのままなのですか!?」

「あー。薬の効果が切れれば勝手に戻る。なんだ、嫌なのか?」

「いえ、嫌ではありませんが……これではヒスイさんの意志が……」

只でさえ我慢しているのに、これでは抑えるのが大変なんですよ。

妻に構いすぎて嫌われたくないですからね。


そうこうしている間にも、僕の体をヒスイさんが撫でまわしてくる。特に鎖骨。

好きですものね、鎖骨。いたって普通だと思うのですが。


……まぁ、ヒスイさんが気に入ってくれているなら嬉しいですけどね。


「旦那様。旦那様」

「どうしました?」

ヒスイさんの方へ顔を向ければ、手招きされた。

そのためちょっと屈みこむと、ちゅっと頬に何か柔らかいものが。


「え」

「隙ありすぎですよー。駄目ですよ? ちゃんと警戒心を持たないと! 旦那様はカッコいいのですから」

「……」

いいんですか? そんな事をすると僕もリミッター解きますよ?


「旦那様もしてくれないのですか?」

うるっと潤んだ瞳で見つめられ、僕はもうどうでも良くなった。

こんな可愛い妻のおねだりを断れるはずがない。


だがその前に――


テーブルへと手を伸ばすと、置かれていたベルを取り揺らした。

ガランガランとなるその音により、メイドのアイリスが入室。


「何かご用でございましょう……あら?」

こちらの様子に気づくと、目を大きく見開かせた。

無理もないだろう。人前でいちゃつくなんて真似した事ないのだから。


「兄上がお帰りになるのでお見送りを」

「はぁ!? 俺、まだ五分も滞在してないんだけど」

「僕達は見送りできませんが、気を付けてお帰りを」

「なんでそんなに追い返したいんだよ。惚れ薬は悪かったって。あー。わかった。お前、狼になっちゃうわけぇ? なんだかんだヘタレな所があるけど、やっぱ男なのかー。お赤飯炊くかー?」

にやにやとした表情でこちらを見てからかっている兄に対し、僕はアイリスに命令を下した。

一刻も早く二人っきりになるために。


「アイリス。何をしているんですか? さっさとつまみ出して下さい」

「つまっ!? お前! 兄に向ってその対応酷くないか!」

「イレイザ様はもうお帰りになられるのですか? 今いらっしゃったばかりですよ?」

僕の衣服をひっぱり、ヒスイさんが訪ねて来た。

「えぇ、兄上もお忙しい身ですので。また今度ゆっくりお会いしましょうね」

「いや、大丈夫だ。お前達と夕食を一緒に摂る時間ぐらいあ……――」

「アイリス」

妻に違和感を与えないように僕は言葉を遮ると、アイリスに再度告げた。

するとあっという間に兄の姿は扉の奥へと消えて行った。

アイリスに担がれて。




☆怖い話


「……なぁ、暑くないか?」

「夏ですからね。それより、ここなんですが」

そう言いながら俺は手元にある資料を、テーブルを挟んで反対側に座っているイレイザ兄上へと差し出した。

ここは兄上の執務室。三階というためか、一階部分よりも熱が籠っている。

時折開け放たれた窓から風が頬を撫でるが、それも生温い。


だが、寒かろうと暑かろうと、騎士として国を守るのとは無関係。

だから今日もこうして国防に関して兄上に助言を求め、民が安全に暮らしやすいように基盤を作ろうと知恵を借りている最中だ。


「あー、もう無理! 俺、冬生まれだから夏が苦手なんだよ。涼しくしてくれ。そしたら相談に乗るぞ」

「そんな事を申されても……」

「怪談話でもしろよ」

「なんて無茶ぶりを」

確かに兄上は夏が不得意だ。

いつも城に併設されているプールに毎日訪れるし、部屋に魔法で出した氷を置いて涼んでいる。

寒さなら問題ないらしく、冬は多少寒くても問題ないそうだ。


……というか、またいつものように氷を用意すればいいのでは?


「もしかして、ただ怪談話が聞きたいだけですか?」

「当たり。ほら、夏と言えば怪談だろ? 聞いただけで背筋も凍る話をしろよ」

「申し訳ありませんが、俺では……」

そう返答した時だった。突如として第三者がこの空間に割って入ったのは。


「――僕が話をしましょうか?」

「ニクス!」

それは異母弟のニクスだった。

風通しをよくするために開けっ放しにしてある扉から顔を覗かせ、人懐っこい笑みを浮かべている。


また家庭教師から逃げ出して来たのか、どうやら付き人の姿も護衛も見当たらない。

全く、この子は……


「おい、ニクス。また逃走か? 戻れって。今頃、みな血眼になって探しているぞ」

「休息も大事ですよ。それに怖い話なら僕がして差し上げます。それからでも遅くはないかと」

そう言いながら部屋に入ってきたニクスに対し、「それもそうだな」と言ったイレイザ兄上の対応に俺は頭を抱えた。


「兄上!」

「いいじゃんか、アクセラ。ニクスが怖い話をするって言っているんだ」

「ニクスが話すのなんて、怖くないに決まっていますよ。子供の話す内容なんですから」

「僕は怖くありませんが、兄上達は怖いと思いますよ。絶叫間違いなし」

そう告げると、ニクスはくすくすと笑った。


父上からも溺愛され、誰からも可愛がられている。

俺から言わせて貰えば、それは猫被っているのは見え見え。

本当は大人びていて、上手に周りをコントロールしているように感じる。


――……でも、ヒスイ姉上の前だけ子供になるんだよなぁ。


姉上には甘えるし、ねだる。

ついこの間も、姉上と二人で城下町の甘味処に行ってきたそうだ。

休みのライト兄上も連れて行けば良かったのに、ニクスに「ライト兄様は駄目です。姉様と二人で行くんですから」と言われたらしく、拗ねた兄上が城に来て大変だった。


俺達にはあまりそう言った事を滅多に言わないのに。

かなり気に入っているのだろう。

ニクスと姉上が年齢離れていて助かった。

もしニクスにとって姉上を恋愛対象としたら、ライト兄上がまた暴走する。

しかもニクスはかなりの上手。一筋縄ではいかないだろう。

猫かぶりVS病み。そんなのが二つ揃えば、もう誰も手に負えない。

……というか、勘弁して欲しい。


「おー、そんなに怖いのか。なら、話して見ろよ」

「構いませんが、仕事が手に付かなくなっても知りませんよ?」

「そんなにか?」

「えぇ」

所詮、子供の怪談話。

そう思っていたがそこまでニクスが言うのだから、もしかしたら本格的なものなのかもしれないな。

俺はそう思うと、その唇から紡ぎだされる言葉へと耳を傾けた。


「さて、これから話す事は全て真っ赤な嘘です」

「おいおい、ニクス。お前、それを言うのか? 作り話で俺達が怖がるとでも?」

「問題ありませんよ」

「大した自身だな」

「当然です。さぁ、目を閉じて下さい」

それには、言われた通りに瞳を閉じた。

遠くから蝉の鳴き声が耳に届き、余計体感温度が上がった。


「想像して下さい。ライト兄様とヒスイ姉様が喧嘩をして、姉様が離縁状を置いて実家に戻ってしまったら? さぁ、この後の兄上の行動を考えてみて下さい」

「!?」

「ね? 身の毛もよだつ怖い話でしょ? 結局生きている人間が一番怖いってお話です」

ニクスはそう告げると、「部屋に戻ります~」と歌を唄うような音色で退室。

その後、執務室には俺とイレイザ兄上の絶叫が響き渡ったのは言う間でもない。




☆一番怖いのは人間です


「お帰りなさいませ、旦那様」

従者の手により開けられた玄関の扉をくぐれば、いつものように執事達が出迎えてくれた。

けれどもそれに対しすぐに違和感を覚え、小首を傾げてしまう。


メイドの姿が半分近く少ない――


今日は学会があったから、三時間ばかり早い帰宅。

殆ど定時帰宅の僕は殆ど時間が一緒だ。だからそれに合わせてヒスイさん達が出迎えてくれるのだけれども、どうやらここには居ない事から、もしかしたらアイリス達がヒスイさんに付いていてくれているのかもしれない。


「ただいま。ヒスイさんは?」

「他の者達とリビングにおります」

「そうですか。わかりました。今日は気温が高かく暑苦しかったので、アイスを購入して来ました。全員分あるので、皆もわけて下さいね」

「ありがとうございます。では、早速奥様に」

「えぇ。お願いします。では、僕は妻の元へ向かいますので」

そう告げると、そそくさと愛しい妻の元へと向かった。



長い廊下を渡りリビングへと向かっていると、「ギャーッ」と何やら鴉のような鳴き声が響き、鼓膜を破るように激しく伝わった。


――この声は、ヒスイさん!?


並んでいる扉のうち反射的にリビングへと繋がる扉を見れば、数秒と経たずにヒスイさんが飛び出してきた。


「このパターンは……」

何時ぞやにも経験した気がする。

たしかあの時は書庫前だったけれども。


「また怪談ですか?」

子リスのように廊下の柱にへばりついて震えている妻の方へ足を進め、肩を叩けば「ギャーッ」という悲鳴と共に触れた手が払いのけられ心にヒビが入った。

いや、もう完全に割れた。

可愛い妻の拒絶。

勿論それは僕に触れられて叫んだというわけではないのだけれども。


「ヒスイさん。僕ですよ」

と屈んで声をかければ、「……だ、だん…なさ…ま?」とこちらを見詰める潤んだ瞳とかち合い、そのまま抱きつかれた。


「あら、旦那様! お帰りなさいませ。いつもよりも三時間ばかり早くありませんか?」

とタイミング良く扉から顔を覗かせたのは、ランだった。


「えぇ、学会から直帰です。それよりもまた怪談ですか?」

「そうですわ。今日は青い騎士ですの。奥様が子リスのようにがくがくと震えてしがみつくのが可愛らしくて。ふふっ」

「青い騎士……また古い怪談ですね。たしか青い騎士の怪談話を最後まで聞かないと、全身の血を抜かれた青白の騎士達が夜中襲ってくるって話でしたっけ?」

「え」

その言葉にヒスイさんの体が強ばった。


「私、途中で逃げて来ちゃったんです! どうしましょう!?」

「あら、奥様たーいーへーん」

と、ランの後ろから現れたのは、アイリス達。

室内は真っ暗。どうやら遮光カーテンを引いて、怪談をやっていたようだ。

ランの怪談話は我が屋敷でも有名で、臨場感ある話し方により夏の暑さを忘れさせてくれるらしい。

これはヒスイさんが怖がるのは無理もない。


「来ちゃいますよー。奥様の所」

「嫌―っ!」

「なら、最後まで聞かないと。ほら、奥様中へ」

「全く貴方達は……ヒスイさん、気になさらずに――」

と、口を開こうとしたら、「旦那様も一緒に居て下さい」と言われてしまう。

そんなの子供だましですよ? と言おうとしたが、結局震えるヒスイさん可愛さに了承してしまった。



――あー、もう可愛い。可愛すぎる!


締め切られたカーテンはヒスイさんの為に全開され、皆の顔がはっきりと見えるようになっている。

それでも妻にとっては怖いらしい。

ソファに座る僕の上に、ヒスイさんが胸に顔を埋めるようにしがみついて座っている。やはり怖いのか、横向きに座り、足を床に付けずにソファの上へ。どうやら足を下ろしていると、隙間から手が伸びてくるかと思って怖いらしい。

けれども何故か足の上にクッションを乗せている。それが気にかかって仕方なく、僕は尋ねた。


「ヒスイさん。そのクッションは?」

「ゆ、幽霊に触られないためです」

「幽霊であろうと貴方に触れる人は許せませんね」

こんなに怯えて可哀想という面もあるが、この状況が可愛くて仕方がない。

庇護欲を駆り立てられ、ますます守ってあげたい。


「旦那様。ぎゅっとして居て下さいね」

「大丈夫ですよ。ヒスイさん。寝る時も、お風呂も一緒です。ぎゅーってしていますからね」

「お風呂は良いです」

「何故ですかっ!?」

「明日の朝に入りますから、一人で良いです」

「ラン! 明日の朝までヒスイさんが引きずるような、もの凄くヒスイさんが怖がる話を! 青い騎士なんて生温い!」

「!?」

えぇ、気にしません。僕も男です。下心丸出しですよ。

ですからメイド達の濁った視線になんて。構いませんよ。

ヒスイさんと一緒にお風呂が待っているなら、そのような現状スルーします。




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