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半強制結婚宣言っ!~女々しき王子と花屋の少女~  作者: 歌月碧威
最終章 偽りの終わりと青薔薇が囁く始まり
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偽りの終わりと青薔薇が囁くはじまり

薪を積んだ荷馬車に、凍結防止のために水の止められた噴水。

今朝、初雪が観測されたせいか、空気も町もすっかり冬仕様に変ってしまっている。

これから本格的な雪の時期に突入していくのだろうけれども、私としては苦手過ぎてもう早く春が来て欲しい。そう店先の白く曇った窓を見ながら、そんな事を思った。


一応室内は暖房が入っているけれども、かなり弱め。

花屋なので、私が快適に過ごせる温かさだと花が痛んでしまうからだ。

だから特別寒がりは私は、コートにマフラー着用という外を歩く人と同じ格好。


「ヒスイ、ほらお茶飲んで温まれ」

近づき立ち止まった足音の変わりに、にゅっと目の前にカップが差し出され、そんな言葉が私を包み込んだ。

「ありがとう、兄さん」

私は寒いが兄さんは薄着。

現に手足が冷え、今すぐお風呂に入りたいのに兄さんは長袖を捲っているし。

しかも首もとに何かあるのが落ち着かないと、ざっくりと鎖骨が見えるように大きく広がったタイプの上着を纏っている。

この差は……? と思ったけれども、アイリスさん達も薄着なのできっと筋肉量の違いだろう。


「事務室で温まったらどうだ?」

私の傍にあった椅子へと腰を落としながら、兄さんはそう気遣ってくれた。

事務室では来客のために、暖房が焚かれてある。

そのため昼食や休憩などは、そこで行う。


「大丈夫。あと数分で閉店だし。ねぇ、それよりもそろそろ私も配達手伝うよ?」

メサイアさんの件から数十日が経過。

私は兄さんにより、配達禁止命令が出されていた。

もう大丈夫と言っても、不安で仕方ないらしい。


メサイアさんは捕まり国家間の協定により、この国ではなく自国で裁かれる事になっているそうだ。

だからもう大丈夫なのに……


私としてはメサイアさんの事より、私はリヴァン君の方が気がかり。

メサイアさんと伯爵が罪を犯してしまったので、両親と引き離されてしまうのだ。

旦那様に伺ったら、「ちゃんとした人に頼んでいるから、ヒスイさんは心配しなくてもいいですよ」とおっしゃっていたけれども。

罪状次第では、もう二度と会えないかもしれないし、抱きしめて貰えないかもしれない。

「せめて罪が軽くなるように」と旦那様にお願いしたけれども……

リヴァン君はお母さんの事大好きだから、きっと離れるのが辛いだろうなぁ。

そう思うと胸が締め付けられてしまう。


「ヒスイ?」

「え? あ、うん」

どうやらリヴァン君の事を考えてぼーっとしていたようだ。

私は誤魔化す様に曖昧に笑うと、口を開いた。


「兄さんばかり負担かかるし。それに私が働けるのもアリーさんが店に入る時だから、春まででしょ? それまできっちりやりたいの」

「わかっているけれども、心配な……――」

兄さんの言葉に覆いかぶさるように、教会の鐘が鳴り響く。

そのため言葉は途中で遮られてしまう。


「……って、もうこんな時間か。ヒスイ、そろそろ帰る準備しろ。屋敷から迎えが来るぞ」

「うん」

いつも徒歩だった通勤が、あれから送り迎えがつくようになった。

勿論、旦那様の言いつけ。

本当は仕事中も護衛を付けたいそうだけれども、それはお断りした。

王都は治安が良いし、それにこんなに人が沢山いる所で攫わないだろう。


――町の景色とか見ながら歩くの好きだから一人で帰りたいんだけれども、当分許可は下りないだろうなぁ。


「そう言えば話変わるけれども、兄さん」

「ん?」

「泊ってもいい?」

兄さんが結婚する前、ちょっとだけ独占したいというか、兄妹水入らずで過ごしたいという気持ちがある。

だから実家に泊ってゆっくりしたいなぁってずっと考えていたのだ。

まだ旦那様に伺っていないけれども、きっと「ゆっくりしてきて下さい」っておっしゃってくれると思うし。


「はぁ!? 今日か!?」

兄さんが慌てて立ち上がってしまったため、椅子ががたりと音を立てて転がってしまっている。

その様子に私は小首を傾げた。

珍しい。いつもは今日は泊まっていけって冗談っぽく自分で言うくせに。

何故、そんな反応に?


「今日は迎えが来るから無理だけれども……どうしたの? なんでそんな風に……? もしかして迷惑だった?」

「いや、泊るのはいつでも歓迎だ。だが、今日は帰れ。屋敷の迎えに来たら、すぐに帰るんだ」

「はぁ?」

もしかしてアリ―さんでも来る予定があるのか?

でも、もしそうだとしてもこんなに挙動不審にならないし。


「ほら、早く鞄取って来い。な?」

「あぁ、うん……」

急かすように立ち上がった兄さんに、背中をぐいぐいと押され事務室まで連れて行かれる中、私は一体なんなんだ? とますます怪しく感じてしまう。

何を隠しているのだろうか? もういっその事、一度帰宅した振りでもしてもって来ようかなぁ。




ガタガタと揺れる馬車からは、町に色づく街灯や軒下のランプ等の明かりがぼんやりと包み込んでくれていた。

オレンジ色のそれは、蛍の光のように心に残っていく。


「……アイリスさん。忘れ物をしたので実家に戻ってもいいですか?」

対面する座席には、メイド姿の青年が座っている。

本日迎えに来てくれたのは、アイリスさんだった。


「駄目です」

「は?」

いつもなら構いませんよと言ってくれるのに、何故か今日に限って笑顔で拒否。

それにはさすがに疑問を抱かずにはいられない。

兄さんもおかしいし、アイリスさんもおかしい。


「忘れものでしたら、私が後で取りに行きますわ」

「……何を企んでいるんですか? 兄さんもアイリスさんも様子が変です」

その質問にアイリスさんは人差し指を唇にあて、「内緒ですわ」と言葉を発した。

どうやら私に隠して水面下で何かが進行中らしい。

一体なんだろうか? 誕生日はとっくに過ぎているし。


――……なんだか、私だけ仲間外れにされたみたい。


「まぁ! 奥様ったら、リスのように頬を膨らませて可愛いー。でも、まだ駄目ですわ。ご安心下さい。待っているのは、絵本のような幸せな事ですから」

「絵本のような?」

「あらっ。私ったら、しゃべりすぎてしまいましたね。あぁ、目的地が見えてきましたわ」

アイリスさんが窓の外に視線を向けたので、つられてそちらを見ると遠くに大きな教会が見えた。

ここは屋敷とは反対方向の場所。

しかもあの建物は、私と旦那様が式を挙げた賢王の教会だ。


「どういう事ですか……?」

「奥様を連れて来るように旦那様より、命を受けております」

「旦那様に? どうして?」

私の質問に困惑顔を浮かべているアイリスさんを見て、私はそれ以上何も言えなかった。

それに尋ねても教えてくれなそうな気がするし。

そのため私はただ口を閉ざし、目的地に着くのを待った。





「――……なんだか、懐かしいわ」

見上げる先には、芸術的なステンドグラスが私を優しく見守ってくれていた。

日が沈んでいるため太陽の光ではなく、燭台の明かりだがそれが味わい深い。

式の時は参列者で埋まっていたこの広い場所も、今は私だけ。

ぽつりと赤い絨毯が敷かれた通路に佇んでいるため、まるで世界に一人っきりって気がする。


「最初はお金のためだったんだよね……」

でも、いつからだろう? そんな事を忘れて旦那様の事を好きになったのは。

式の時もそうだったけれども、優しくて思いやり溢れる素敵な人。

大人の包容力で私を包んでくれたかと思えば、時々監禁発言とか暴走してしまう時もある。

けれども、そういうのも全部含め愛している。


「ヒスイさん」

ギィと音をたて背後にある二枚扉の片方が開かれ、そのふわりとしたお日様のような声音と共に旦那様が現れた。

城にでも行っていたのか、正装している。

こうしてみると、王子様みたいだ。

……うん、王子様なんだけれどもね。暴走する印象が強くて、時々忘れちゃうんだよね。

しかも旦那様は、腕には何か大きな花束を持っているようだ。


「旦那様……?」

ゆっくりとこちらに足を進めてくる旦那様に、私は目を何度もパチパチとさせ凝視した。

彼はそんな私に微笑み跪き、花束をこちらに差し出してくれた。

純白のラッピング紙から覗くのは、青薔薇。しかも数えきれないぐらいの本数だ。

まるであの子供の頃に憧れていた絵本のように。


「ヒスイさん。ここで――……賢王の前でもう一度誓わせて下さい。最初にニクスの部屋で出会った頃は、強気な少女で正直性格が正反対過ぎて合わないと思いました。でも共に暮らしていくうちに、段々とヒスイさんを知り、惹かれていったのです。小さいのに自分を犠牲にしても孤児院や子供を守る正大きな心を持ち、花屋の仕事も一生懸命に働いている、そんな小さくて可愛い貴方に」

「旦那様……」

「僕の全てを貴方に捧げます。この身も命も。僕と結婚して、家族になって下さいますか?」

「――……っ」

瞳に映る旦那様がどんどんと滲んでいく。

悲しい事じゃない。だから笑って「はい」と返事をしなくちゃならないのに。

嗚咽でうまく口が動かない。

だから私は言葉ではなく、態度で示すために旦那様へと抱き付いた。

彼の首元に。そして何度も何度も頷く。

そんな私に対して旦那様は薔薇を落とさないように片手で持ち、空いた片手を私の背に回した。


「ありがとうございます。貴方も……それから、これから増えるであろう新しい家族も幸せにします」

「…そ……それ……それって…子供?」

「はい。時々想像するんです。僕とヒスイさん、それからヒスイさんに似た可愛い子供達とピクニックをしているのを。僕が遠い昔に諦めていた家族の風景が浮かんでくるんですよ。貴方となら楽しく幸せな未来が描ける」


自分と血の繋がった家族。

憧れていた。私にはそれが誰も居なかったから。

血がつながらないけれども、兄さんは家族だ。

それは頭ではわかっているけれども、どこかで求めていた。自分と同じ流れる血を――


でも、諦めていた。

孤児院存続の事で精一杯だったから。それにあそこにはまだ小さい子供達がいっぱいいる。

だから頑張って自分が働いてなんとか助けなきゃって。

お金を送らなければ! という、責任感だけで働いて生きてきた。

だから自分の事はいつしか後回しになってしまっていたのだ。


「私も……私も同じです……旦那様の…お蔭で叶います……子供欲しいです。旦那様の」

「ヒスイさん。その発言はちょっと……僕、ここで押し倒したくなりました」

「だ、駄目です……」

「わかっています。我慢します。大人ですからね」

そう言いながらも旦那様は何処か不満げ。

そんな子供っぽい姿を見れて、私はちょっと嬉しい。


始まりは契約結婚だった。

私はお金。旦那様は縁談避け。

でも今は違う。お互い愛し合っている。

ニクスが縁を結んだ半強制の結婚も終焉を迎え、私達は新しい夫婦生活が始まるだろう。

それはきっと幸せに満ちた物語。

あの青薔薇の絵本の王子様と花屋の娘のように――







☆あとがき☆

駆け足になりましたが、これにて半強制~の本編は終わりです(*^-^*)

読んで下さった方、お気に入り、逆お気に入りユーザー登録ありがとうございました<(_ _)>


こちらやブログに感想下さった方も!

読んで下さっている方の反応がわかるのは、嬉しかったです。

どうしても自分の考えた事を文章にしている以上、

これはこうだと勝手に自己完結と補正してしまっているので(;'∀')

あと、面白くない病にかかり筆が止まってしまった時に、

感想を頂けたので励みになりました!


またいつものように、完結のお礼を後日upしたいと思います。

では、お付き合いありがとうございました!


2014.9.30 歌月碧威





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