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半強制結婚宣言っ!~女々しき王子と花屋の少女~  作者: 歌月碧威
最終章 偽りの終わりと青薔薇が囁く始まり
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冷たい箱

――……ん


肌に刺すような冷たさに、私は無理矢理目覚めさせられてしまった。

意識が段々と戻るにつれ、体の感覚が重く鉛のように感じていく。

それでもゆっくりと瞼を開けば、そこは見た事もないような場所。


天井と床を支える柱は腐れかかり所々がボロボロで黒ずんでいるし、壁は以前の色彩は多少残っているが埃に塗れて灰色だ。それから何故か、山積みになった木の箱。それが幾つも重なっている。

周辺を見回せば窓は見当たらなく、ただ上部に細長く切り抜かれ、空気孔かわりにとばかりに格子があるだけ。


「どこ、ここ……って、何!? この状況っ!」

やたら体が動かしずらいなぁと思えば、両手両足が縄で縛られている。

しかも食い込んでいるらしく、若干色が変わっているのが嫌だ。

加減して欲しい。というか、してくれないと困るんですけど。

だが、そんな中でも幸いな事に口元だけは布も何も押さえられていないため、こうして自由に動かす事が出来き、いまのように言葉を話す事が出来ている。


「どうしたんだっけ? えーと、たしか配達に行ってそれから……――」

自らたぐり寄せた記憶に、背筋が凍った。


「まさか、誘拐……?」

身代金目当てだろうか? それとも知らずに何か恨みでも買っていたのだろうか。

人様に迷惑をかけるような生き方してないって思ったんだけど。

もしかして、旦那様を好きな女性の嫌がらせ? あの方、モテるもん。

パーティーでもよく声をかけられているし。

考えてもわからないのに、ぐるぐると頭をそのような事が駆け巡っていく。

それと同時に旦那様にご迷惑をかけた事、それから兄さんに心配をかけた事で申し訳なくていたたまれなく、凹んでしまう。

たしかに怪しい人だった。でも、どうしても常連さんの名前を出されると……


「とにかく、なんとかしなきゃ」

そうぽつりと漏らしたその時だった。すぐ傍の扉が開かれたのは。


ガチャリと左側から耳に届いてきたそれに、私は視線を右手へと向ける。

元々は緑色だったのだろう。今は灰色と緑色の中間色的な扉が開き、そこからいかにもな厳ついお兄さん達が入室。


それから――


「え? メサイアさん……?」

どうして彼女がいるのだろうか。私は目を大きく見開いたまま、ただ呆然と彼女を凝視してしまう。

そんな反応を尻目に、メサイアさんは優雅に微笑んだ。

いつものあの表情で。


「お久しぶりね、ヒスイさん」

ここが廃墟だというのを忘れさせるような、優雅な衣装。

屋敷で着ていたような、上質な衣装と装飾品を纏い、扇子で口元を隠しながらこちらへとやって来ている。


「どうして、貴方が?」

「私がこの人達の雇い主だからよ」

「なんでこんな事を……」

すっと頭に浮かんだのは、リヴァン君と旦那様のこと。

きっと二人共傷つく。特にリヴァン君は。

当然だろう。母親がこんな犯罪に手を染めかけているのだから。


「……貴方があの屋敷にいたのは本当に予想外だったわ。おかげで私の計画に大幅な変更が生じたではないの。せっかく、あの優しいライト様に取り入れると思ったのに」

「どういう事ですか?」

「私の家が、没落貴族だって知っているかしら? しがない地方の領主だったの。でも事業に失敗して王都に逃げるようにやってきたわ。生きて行くために慣れない仕事をして、日々暮らしていた。それがたたって、父や母は病で倒れてしまったの」

「それは……」

お気の毒に。そんなありがちな言葉しか浮かんでこず、私は口ごもった。

最初から貧しい生活の庶民と、貴族から庶民へと成り下がり。それは違う。

私の場合は孤児院からだったけれども、逆だったら何も出来なかっただろう。

全て一から築き始める。それは、とても大変な事だ。


「だから私は確固たる地位が欲しかった。もう二度とあんな貧しい生活なんてしないで住むように。だから、ライト様に近づいたの。優しそうだし、頻繁に城下町で見かけていたから接触しやすかった」

「だったらどうして、旦那様じゃなくて他の人を!?」

嘘でも良いから、ちゃんと別れて欲しかった。

最後まで騙して欲しかった。

そのせいで旦那様がどれだけ深く傷ついたのか、彼女は分かっているのだろうか?


「目移りしちゃったの」

「はぁ?」

あっさりとはっきりと口にした彼女に対し、私は体の力が抜けてしまう。

いや、だってほら……もっと言い方があるじゃんか。

それは目移り……うん。まぁ、答えにはなっているけれども。


「仕方ないじゃない。付き合ってみて、つまらなかったんだもの。面白くもなんともない。いくら私の目的のためとはいえ、一緒にいるのが苦痛なぐらいつまらない男。ライト様が真面目過ぎたのかしら?」

旦那様がここに居なくてよかった。それと同時に、腹の底から怒りが湧いた。

この人はどれだけ旦那様を馬鹿にすれば気が済むのだろうか。

仮にも昔一緒に付き合っていた相手なのに!


「それに私が望む生活が出来ないと思ったのよ。私は確固たる地位か欲しかった。でも、彼はそれを望んでいなかったし……その時に今の夫と出会ったの」

そう口にしているメサイアさんが浮かべているのは、どこかを懐かしむような表情。

まるで遠い昔を思い出すような、そんな印象を受ける。口元は心なしか綻んでいた。


――もしかして、この人は……


「一緒にいると楽しかったわ。知らない異国の事を知るのがおもしろかった。

ジデン小国とヴァン王国は国交が無い。勿論、貿易はあるわ。けれども、現状では過去の因縁によりお互いの立場状国と認められない状況。だから、情報も知らず最初は彼の国を知らなかったの。そんな私に彼はいつもジデンの物を手土産に持参してくれて……それが凄く新鮮だったわ。つまらないライト様よりも、利用価値があると思い乗り換えたの。伯爵だし」

メサイアさんの声音が、優しさを含んでいる。しかも、目尻も下がり穏やかな顔。


それを見て、もしかして……と先ほど過ぎった疑いが核心に変わった。


「メサイアさん。もしかして、伯爵の事を好きなんじゃ……?」

「嫌いではないわ。利用価値があるし。だから一緒にいたもの」

「いえ、そうでなくて……その……」

言いにくい。こんな状況で無ければはっきり聞けたのに!


「伯爵との出会いから、深い関係になるのは時間がかからなかったわ。そして大切なリヴァンが宿った」

「だから逃げたんですか? 旦那様から」

「えぇ。それに夫の方が自由に出来た。私の願いをなんでも叶えてくれたし。戯れ言で言った、リヴァンを王にしたいという願いも。そのせいで今は謀反の疑いで捕らわれてしまっている。だから、私達は身の安全のためにこちらへとやってきた」

「だから旦那様に認知を……」

「えぇ。そうすればリヴァンは今まで通り、いえ、それ以上の生活が出来る。それに身の安全も保証されるでしょ?」

まるでそれが当然。

そんな言い方をしている彼女に対し、私は本当に旦那様がこの場にいない事に安堵した。


「でも予想外だったわ。優しいライト様の事だから、すぐに受け入れてくれると思って居たのに。貴方がいたせいで、予定が崩れた。彼にとって貴方はとても大切な存在なのね」

そう言ってメサイアさんは、扇子を閉じると屈み込んだ。

そしてその扇子を使って私の頬を撫でた。


「だから利用させて貰う事にしたの。貴方の命と引き換えに、リヴァンの認知と私達の身の保証を。それが確実になったら、貴方を解放してあげる」

「なんて事を……っ! どうして貴方はそこまで自分勝手なんですか!? リヴァン君の事も考えて下さい」

「おかしなことを言うわね。考えているわ。誰よりも」

考えてない。

だってこんな事になったら、リヴァン君が一人になってしまう。

伯爵は軟禁中だし、メサイアさんは誘拐と旦那様への恐喝。

家族がバラバラになってしまうかもしれない。そんな危うい状況なのに!


――でも、まだ間に合うかもしれない。


「私、誰にも言いません。ですから、こんなバカな真似しないで下さい。目を覚まして下さい、メサイアさん」

「……貴方とは話が合わないわね。残念だわ」

メサイアさんは笑みを消すと、立ち上がりそのまま静かに部屋を出てしまった。

それに続くように破落戸達の姿も消えて行った。


「……どうしようっ!」

旦那様にご迷惑をかけてしまった。

なんとかして逃げ出さなければならないけれども、両手両足が拘束中。

とりあえず、出口は二つ。


一つめは、左壁の上部にある格子の嵌められた細長い空気孔。

室内に光や空気をもたらす目的で作られたのだろう。

この建物自体がかなり放置されたせいか、格子の鉄はさびているが、その隙間から逃げるにはリスでもなければ無理だろう。


あとは――


「やっぱり、あの扉だよね」

と、視線で見詰める先は人間が通るには唯一の通路である扉。

つまりメサイアさん達が出入りしていた場所だ。

きっと叫んでも周りには民家すらないだろう。だから私の声は届かない。

小窓から見えるのは、木々ばかりだから。恐らくどこかの森だろうか?


「なんか縄切れるものないかなぁ……?」

硝子破片とか、鋭利な刃物代わりになるやつと思って床へと視線を舐めるようにしているが、そんなもの都合よくあるはずがない。


「木箱は?」

縄が太目だけれども、何もしないよりもマシだろう。

そう判断した私はずりずりと体を芋虫のようにくねらせ、そちらへと少しずつ進んでいく。

だが、そんな私に「待て!」とでも言う様に、「キィ!」という動物の鳴き声が壁の上部から耳に届いた。


「は?」

それに顔を上げようとすると、視線の先に何やら小さい集団の影が映し脱されているのに気づく。

それは五~六。いや、それ以上だろうか?


――まさか。




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