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半強制結婚宣言っ!~女々しき王子と花屋の少女~  作者: 歌月碧威
最終章 偽りの終わりと青薔薇が囁く始まり
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月明かりの下で、再び

城の大広間には、見た事もないような数の人々が集まっていた。

皆、金箔や宝石を用いた絢爛豪華な室内にも負けず劣らず。


私達の結婚式でも多いと思って居たのに、やはり今回は規模が違いすぎる。

さすがは国王様の生誕の祝賀。

きっと旦那様と結婚しなければ一生出会わなかったであろう人々ばかり……

そのため、いつもより挨拶も大変だった。

初めてお会いした人達もいらっしゃるので、顔も名前も覚えなきゃならないし。

でもそれも一通り終え、やっと私にも自由時間が! 勿論、食! 食に走るに決まっている!

ドレスを着てから全く食べてないので、お腹が空いてしょうがないのだ。



……というわけで、私と旦那様は早速ずらりと並んでいる料理の前へと足を運んだ。


「見て下さい! 旦那様。全部美味しそうです!」

なんて素晴らしいのだろう。彩りも芸術品のような料理の数々。

私は前方にずらりと並んでいる料理をうっとりと眺めていた。


オーケストラが奏でる音楽に合わせてダンスを踊っている人々もいるけれども、私はまず腹ごなしが先。

旦那様はダンスのお誘いを受けていたけど、当たり障りの無い理由を付けて断り、私に付き合って下さっている。

私の事は気にしなくてもいいですよ? と言ったんだけど、「そのように官能的なドレス姿のヒスイさんを一人になんて出来ませんよ!」と、半ば切れ気味の返事が。

どうやらドレスに納得してないみたい。

「必ず僕と一緒に居て下さい」という条件付で、参加に許可が降りたんだけれども。


「ヒスイさん。貴方の大好物もありますよ」

「え?」

小首を傾げて旦那様の視線を追えば、なんとそこには――


「蟹……っ!」

蟹だ。蟹があるのだ。しかも帆立と海老も!


ヴアン王国では新鮮な魚貝類は湖で漁獲されたものだけで、生の海産物はあまり手に入らない。

それはこの国が海に面してないからだ。

そのため海産物と言えば、塩や油漬け、それから乾物等がメイン。

でも今は帆立のサラダや海老の半身焼きフルーツソースがけ等……様々な海産物ものが並んでいる。


立食式になっているため、食事は給仕が選んだ品物を皿に乗せて渡してくれるのだけれども、

私はただそれを直視して順番を待っていた。


美味しそう。いや、美味しいに決まっている。

なんていったって蟹! しかもボイルと生食ーっ!


「ヒスイさんはどれを食べられますか? と、聞くまでもありませんね」

隣に佇んでいる旦那は、こちらへと視線を向けるとクスクスと笑っている。


「はい! 蟹――あと、帆立と海老も! でも、どうやって運んできたのですか?」

「あぁ。それは兄上達が転移魔法で運んできたのですよ」

「なるほど。だから新鮮な魚貝類がいっぱいなんですね」

「えぇ」

ということは、イレイザ様と一緒にいれば食べ放題!

いいなー。魔法が使えるって。

今度お願いして、一緒に連れて行って貰おうかなー。


「ヒスイさん今、兄上が一緒にいればと思いましたね?」

「え? はい。よくわかりましたね」

と元気よく返事をすれば、何故か誰もが見惚れる笑みを浮かべられてしまう。

どこからどう見ても綺麗な微笑みなのに、どす黒い何かを感じてしまうのは、きっと私が人酔いしてしまったのかもしれない。


「貴方のお願いでしたら、僕が必ず叶えて差し上げるので頼って下さい。毎日新鮮な海鮮が食べたいのならば、海に面している国へ引っ越しましょうか?」

「引っ越し!?」

「えぇ。何処へ行きましょうか。ヒスイさんと二人きりならば、何処でも楽しいですね」

「いえ……その……私、この国がいいです。それに蟹を毎日食べていたら、きっと飽きてしまいますから」

「そうですか。では、山はどうですか? 自然に囲まれた空気の美味しい所ですよ。近くに湖もありますし。それに貴方のお友達もいらっしゃいます」

「友達? 誰ですか?」

「リスです」

「またリスですかっ!?」

なんで旦那様はいつも人をリス扱いするの!? 

ご自分はリスが好きだからって。そりゃあ、私だって嫌いじゃないけど。可愛いし。


「もしかして、森はお嫌いですか?」

「好きですよ。ただ、私は冬が苦手なのであまり雪深い山はちょっと」

「あぁ! そうでしたね。ヒスイさんは冬が苦手でした。どうしましょう……そこまで考えていませんでした……自分の事しか考えてなかった僕は、なんて愚かなのでしょうか」

突如としてテンションダダ下がりの旦那様。そんな項垂れる旦那様に、私は小首を傾げた。


――そう言えばこの間、土地を買ったって言っていたっけ。やっぱり別荘でも建てているのかな?


「私の事でしたら、気になさらないで下さい」

「いいえ、駄目です。ヒスイさんが快適に過ごせる家を作らなければ意味がありませんからね」

「え? 家?」

「はい」

ちょっと待って。家ってどういう事?

今の屋敷はメサイアさんと暮らして、私はそっちで暮らしてという事なのだろうか――


元々ネガティブな性格じゃないのに、変に深読みしてしまって仕方がない。

あぁ、なんだか気分が海の底に沈められてしまう。

真冬のように体が冷え、体温が低下していくのが押さえきれない。


大好きな蟹があるのに、今はそれもどうでもいい。

心に比例して体も反応したのか、自然と私は項垂れてしまう。


「ヒスイさん、どうしました?」

「……なんでもないです」

「何でもないわけありません。大好きな蟹を前にしてそんな風に……どうしました? もしかして具合でも……?」

その言葉と共に頬に温もりが広がり、視界が床から旦那様の顔へと移っていく。

それは旦那様の細くて長い優しい手によって、顔を上げられたからだ。


「顔色が良くありませんね……蟹はまた今度にして少し部屋で休みましょう」

「大丈夫です……人酔いしてしまったのかもしれません。少し外の空気を吸いに行きたいので、良いですか?」

「えぇ、勿論。ちょっと待って下さいね」

そう言いながら、旦那様は上着を脱ぐと私に羽織らせてくれた。


「さぁ、参りましょう」

「私ひとりで平気ですよ?」

「駄目です。貴方に何かあったらどうするおつもりですか?」

「庭では警備の騎士達もいらっしゃいます。それに少しだけですから」

「警備兵と言えども、すぐに駆けつけられるわけではありません。ですから僕も――」

そう、旦那様が言いかけた時だった。「ライト様」と、軽やかな声が飛んできたのは。


「メサイア……」

歪んだ旦那様の顔を気にせず、彼女はこちらへとやってきた。

それと同時に近くにいる人々がざわめき出す。


「デア国のブロー侯爵覚えてらっしゃる? 二人でお世話になったわよね。侯爵様がいらっしゃっているの。ライト様と是非お話されたいそうなのよ。ねぇ、行きましょう」

メサイアさんは旦那様の腕に手を伸ばし、からめるとそのまましな垂れる。

すると「ねぇ、あの二人って……」などと憶測を含んだ声が幾つも私の耳に入って来た。


「離してくれませんか? 貴方とはもう関係ないのですが」

「そうね。私とは関係ないわよね」

「私とは」そう、そこを強調するように告げたメサイアさんに、旦那様の顔が段々と険しくなっていく。そして無理矢理引きはがすと、「いい加減にして下さい」と、いつもとは違い大声を出してメサイアさんを戒めた。

するとそれに反応するように周りだけだったのが波紋が広がるようになり、他の人々に知れ渡り始めてしまう。


「何かしら?」

「元婚約者と奥様だわ…そう言えば、いま奥様が家を出て元婚約者が住んでいらっしゃるのよね」

「よりを戻したのかしら?」

「さぁ? もしかしたら、ずっとかもしれないわ」

「でもそれならば、どうして破棄するの?」


あちらこちらから耳に入ってくるのは、憶測を含んだ会話。

どうやら、私が家を出たのも広まっているみたいだ。

兄さんも知っていたから可能性が無かったわけではないが、自分のプライバシーが無いようで気分が悪い。


「いいのかしら? このようにおめでたい席でそんなに騒ぎを起こしても?」

「誰のせいですか? 挨拶なら後で僕が参ります。すみませんが、いま妻が体調不良なので」

「あら、そうなの? ヒスイさんは部屋で休んでいらっしゃったら? 一人で行けるわよね」

「いえ……外の空気を吸えば大丈夫なので……」

ざわめきが広がる中、私は旦那様に「少し庭にいますね」と告げると、メサイアさんにお辞儀をしてその場から逃げるように立ち去った。

その時に視界に入った、最後に勝ち誇ったような彼女の微笑みに唇を噛みしめながら――


どうしても苦手だ。

今まで悪意のある人間になんて出会った事が多々あるし、それなりに経験しているのに。なんでこんなに弱くなったのかな……?





「寒っ」

ほんの少しだけ空気を吸うために外に出れば、空気が肌に刺すぐらいの強さだった。

それも当然。マフラーと手袋が恋しい季節なのに、ドレスに上着を羽織っただけなのだから。

庭園には誰もおらず、私だけがぽつりと佇んでいる。

きっとこの寒さのせいだろう。

夏場などは、酔い覚ましなどで外に出ている人もいるけれども……


「中、戻りたくないなぁ……」

室内から漏れる煌々としてた明かりと月の光が足下を照らしてくれている。

私はそれを頼りに迷路のような垣根を越え奧へと進んでいく。

すると、庭の噴水にて人影を発見。どうやら先客が居たようだ。


――今、人に会いたくない。


そう思った私はすぐに体ごと方向転換しかける。

だが、「ヒスイ?」と声をかけられた事により、それを止められてしまう。


「え? もしかしてこの声ってアル……?」







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