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賑やかな王族

なんだかいつもは脇役の自分が今日は主人公のような気がする。

そんならしくない事を、一歩一歩足を進めながら思った。

パイプオルガンの音色と共に。


ライト様は先ほどステンドグラスが綺麗だって言ったけど、それを見るなんてそんな余裕は私には無かった。だってこんなに左右から無数の視線を感じる事なんて今までなかったから。

私達が歩いている赤い絨毯の敷かれたバージンロードの左右にいる彼らより、まるでナイフのような視線を向けられている。

きっと来賓者だから、どっかの王族やそれに近い方達なのだろう。

視線も言葉も何もかもが突き刺さるように私を傷つける。


『おい、あの髪色……災いの色だ』

『まぁ! あの色は何? 彼女は異国の方なのかしら? あのような髪色見たことないわ。薄気味悪い』

『なんでも花屋で働いていた娘という話だ。庶民の娘を嫁に貰うとは落ちたものだな』

『しかも孤児院育ちだそうよ』


――怖い。


ひそひそと内緒の話をするなら、いっその事大声で話して欲しい。

そっちの方がまだ清々する。じわじわより一撃での方がマシだ。

髪色や孤児院の事を言われるのは慣れていた。地方によって風習などが違うように、私の髪色は不吉の色とされる地域もあるから。

でも反対に幸福とされる地域もあると兄さんが言っていた。

だから気にした事なんてなかったのに……


でも、気弱になった心では受け止めるには辛い。

それが体にも表れたようで小刻みに震えてしまい、私はそれを削ぐようにゆっくりと息をゆっくり吐き出す。


どうやらライト様に振動が伝わったようで、彼に添えている手を優しく撫でるように叩かれた。

そっと、トントンと大丈夫というように二回。

弾かれるように顔を見れば、微笑まれ、視線で前方の上部を指された。


――何だろう……?


そちらを見上げれば、太陽の光が注ぎ込まれたステンドグラス。

先ほどライト様がおっしゃっていたあの賢王の描かれているやつだった。

ちょうど私達が向かう司祭様がいらっしゃる頭上に盛大に広がっている。

赤や黄色や、青などの鮮やかな色彩で、衣服の柄なども実に細かい。

石英でも入っているのか角度により、キラキラと星々の様に輝きを放っていた。


綺麗……

なんだかすっと心が晴れ渡っていく。

どうやらライト様は私を元気づけてくれたみたい。

王子様モードだと頼れる人だなぁ。


そんな彼の気遣いもあり、私達はなんとか壇上へと距離が近づき、やっと司祭様達の元へたどり着く。

その付近にはすでに招待客ではなく、親族席になっているようで、右手には彼のご家族が。

硬貨に彫られている国王様や王妃様の姿。

その他にもパレードでお見かけした事がある王子様やお姫様達もいらっしゃった。


左手にはまだ始まっていないのに、号泣していて兄さん。

兄さんは彼女のアリーさんにハンカチを渡されていた。

親族は私には居ないので、王都に住む孤児院で一緒だった人達が座っている。

それを見てちょっと心が緩んだ。


しかしライト様に伺っていた話と違い、さすが王族とも言うべきか。

実に堂々しているし、凛々しい。ニクスですら纏っている空気が違う。


ライト様の嘘つき……王族はちゃんと王族じゃんか……と思った。

が、どうやらそれもほんの一瞬だけ。


『ちょっと見て! 髪の毛綺麗! 金色の天使みたい! 触りたいわ!』

『本当ね! 私的には身長差が気になるわ。あれは萌えるわね』

『おめでとうございます、リリアン様。先ほどもライト様が花嫁への気遣い素晴らしかったですわ』

『ありがとうございます。私もライトがこのような晴れの日を迎えられるとは思ってもおりませんでしたわ。まさか人間の女性に興味を持っていたなんて、未だに信じられませんのよ?』

「あれでひそひそ話だと思って言るのかしら。こちらまで届いてきましたのに。ねぇ、顔は覚えましたこと?』

『勿論よ。口を開けばあのような言葉しか出ないなんて、品がなさ過ぎだわ。外交大臣、この後パーティーで祝い酒飲みまくるって言ってたけど、あれ中止ね。宰相共にお仕事して貰わなければ』

『えぇ。本当に。あぁ、私も後で倍にして返しますわね』

『変人弟と結婚するというから、どんな相手かと思えば普通の人で良かったな』

『あぁ。本当にな。一体どんな相手が来るのかハラハラしてた。もしかしたら、未知の生物かと思ったよなー。逢わせてくれなかったし』

『カメラマン準備大丈夫か? 余すことなく写真撮ってくれよ。兄上の最初で最後の晴れ舞台なんだから』


……すみません。みなさん、司祭様が咳払いしてますよ?


口々に小声で喋る王族の皆さんに、私はこっそりとライト様を見れば、彼はこれが予想出来た事らしく、右手で頭を抱え項垂れていた。

これで会わせたくなったのですね。


「申し訳ございません、司祭様。無視して構いませんので始めて下さい」

若干呆れた声でライト様が声をかければ、司祭様は数秒間硬直していたけれど、すぐに顔を引き締めて頷き口を開かれた。





挙式は難なく終わり、城内の大広間にてお披露目パーティーへと移行した。

会場には更に人数も増え、周りは見渡す限り人ばかり。

それでも窮屈ではないこの広さは凄いって思う。

きっと端から端まで叫んでも聞こえないかも。


それに合わせて私はウェディングドレスから、湖のような濃いコバルトブルーのドレスへと着替え、

只今ライト様と共に彼のご両親へご挨拶中。

やっとまともに会話が出来るチャンス到来。でも粗相のないようにしないと!

ご迷惑はかけられないわ。


まずは国王様と王妃、それにライト様のお母様であるリリアン様と御目通し。

それから順次側室の方達、それから彼の兄弟姉妹達へと挨拶をしていく予定だそう。

されるがままにエスコートされ、私はただライト様に着いていくだけという形になってしまっている。

しかし、王妃様もリリアン様も御美しい。

ただお二人共、あの神殿でのイメージが拭えきれない……


「ライトの事はなんて呼んでいらっしゃるの?」

「普段のライトはどんな感じなのかしら? プロポーズはどちらで?」

「ヒスイさんの髪綺麗ね。触ってもよろしいからしら? あらやだ! 金糸よ! 金糸!」

「まぁ! 素敵! 私も触ってよろしいかしら?」

途切れなく、そして脈絡無くお話がマシンガンのように繰り広げられていく。

そして一切それに返事をする隙間がない。

どうやら王妃様と旦那様のお母様がテンションが上がるぐらいに、ライト様の結婚を祝っていらっしゃるよう。

ライト様に助けを求めようとしたら、あちらは国王様のお相手で手が一杯らしい。


「いやー。なんて目出度い日だ! 祝砲を追加であげるべきだな。よし! 追加で100発!」

「辞めて下さい。少し飲み過ぎじゃないですか? まだパーティーが始まったばかりですよ」

「いや、構わぬ。余が構わぬと申しておるから構わぬ。なんと言っても目出度いのだからな。

まさか研究所と結婚すると思っていたお前が、人間の娘と結婚。三角フラスコや試験管でなく、

人間だぞ! に・ん・げ・ん!これが目出度いはずがない。しかもお前から見初めたというではないか。しかも年下幼妻」

「……」

あぁ、ライト様が黙ってしまった。


「ところで、ヒスイさん。お兄様はどちらに?」

と、気を抜いていた時に王妃様に言われ私に緊張が走った。

実は兄さんはこのパーティーに参加してない。

泣きすぎて頭痛がするというので、無理せず帰って貰ったのだ。

パーティーは少なくても一時間以上はかかるから、負担になるからと思って……


兄さんは最後まで出席の意向だったけど、顔色の悪い兄さんを心配したライト様が、体の方が大事だからとおっしゃってくださったので、やっと帰る気になり自宅へ戻った。


「頭痛が酷く顔色が悪かったようなので、自宅へ戻って頂きましたよ。何事も体が資本ですので。父上と母上に宜しくとおっしゃっておりました」

「まぁ! それは大変。お医者様には?」

「申し訳ございません。兄さん……兄は泣きすぎてしまっただけでして……」

「そうよね。可愛い妹を奪われてしまったのだもの。でも奪ってくれて良かったわよねー、リリアン」

「えぇ、本当に。私にこんな可愛い娘が出来るなんて! 喜ばしい事だわ。あの研究一筋のライトが。

最初結婚するって言われた時は焦ったわ。とうとう……って、悲観してしまったし。でも、ちゃんと可愛らしい女の子で良かった。ありがとうヒスイさん。ライトと出会ってくれて」

「いえ。お礼を言わなければならないのはこちらです」

ライト様……貴方様は一体ご家族にどのように思われていたのでしょうか?

試験管と結婚だったり、未知の生物だったり……


「これで一安心ね」

王妃様とリリアン様は少女のように、手と手を取り合って喜んでいる。

王妃様と側室と言えば仲が悪いイメージだったのだけれども、意外とそうでない事がわかった。

まるで本当の姉妹のように接しているのだもの。


そんな事をぼんやりと思っていたら、クスクスと笑い声が聞こえてきた。

それは勿論ライト様。口元を手で押さえ、少し斜めを見て笑っている。

それがなんだか癪に障るため、唇がへの字になってしまう。


「すみません。ヒスイさんがあまりにも顔に出やすいのでつい……うちはこんな風です。不思議な事に泥沼とは無縁なのですよ」

「そうなんですか」

「えぇ」

それはどういう心境なのだろうか。

みんな割り切っているのかなぁ? よくわからないけれども不仲よりも断然いいかもね。


「それで、ライトにヒスイ」

国王様はごほんと咳き込まれ、姿勢を正したのでこっちも自然と背を伸ばす。

何を言われるのだろうとドキドキしていたが、次に出た言葉に拍子抜けしてしまった。


「屋敷の方にはいつ向かうんだい?」

「本日向かいます」

「おや、今日は泊って行かないのかい?」

「えぇ。屋敷の者達が準備をして待っていてくれるそうなので」

「そうかい」

と国王様は答えると、じっとこちらを見つめてきた。

なんだろうと首を傾げれば、何やら言いにくそうに口ごもっている。


「時にヒスイ」

「はい」

「ライトの屋敷には行った事があるかい?」

「いいえありません」

そう答えたら何故か国王様も王妃様、それにリリアン様も固まった。

屋敷に一体何があるというのだろうか。

つい先ほどまでのお祭りムードが吹っ飛んでしまっている。


えっと……


「ライトの屋敷の使用人は少し変わっておってな。いや、何ほんのちょっとだけだ。だからその……あまり驚かないように……というか、結婚破棄とかしないでくれ…別にライトの趣味ではないんだよ」

待って。どういう事!?

テンションの高い国王様達が変わったというぐらいだから特殊な人達なわけ?


ライト様を見れば、「年が近く綺麗な女性が苦手なんです」と言って、彼は少し困った風に笑っただけだった。




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