その物語(3)
つつけば、とんでもない事に巻き込まれそうな気がする。いや、必ず面倒な事になる。
だが、一方で元記者の血が騒いだ。芝香は、部下には命じずに密かに事件の周辺を調べ始めた。三人の共通点。素行。それとなく顔馴染みの租界警察の人間にも探りを入れてもみた。そして、死んだ三人の青年が首を括る直前に足繁く大世界に通っていた事を突き止めた。その矢先だった。
芝香はまた溜息を吐いた。
面倒臭そうに、と言うよりは気乗りがしなさそうな様子で、自分の背中にくっつくようにしてあるキャビネットを振り返り、資料の束に突っ込んだままの封筒に手を伸ばす。
芝香が担当する雑誌は月刊で、上海のゴシップから社会問題、流行りの映画評や生活便利帳的な記事まで中間層が暇つぶしに丁度いい具合いの読物を主として扱っているが、中には二、三篇の小説も掲載している。大概は他愛のない恋愛小説だ。
送られて来た作家志望の小説は、短編だった。小説欄が担当の李華生が採用してはどうかと言って芝香に持って来たのだが、芝香は一度目を通しただけで封筒に戻し、キャビネットに放り込んでしまった。それを、今一度いやいや封筒から引き出す。
粗末な原稿用紙であった。小学生が作文提出に使用するような質の悪い紙質。それが却って生々しさを感じさせ、芝香をぞっとさせる。おそらくは、初めてしたためた小説に違いない。文章の拙さが目立ったが、朴訥とした真摯さが妙に迫る筆致であった。
それは、上海の西方にある、かつては内陸へと続く水運拠点として栄華を極めた古い都市、蘇州に起こった物語である。




