美しき野生の血
なんて綺麗なのだ。
なんて煌びやかなのだ。
なんてつるつるしているのだ。
なんて、なんて美しいのだ。
―――食いたい!!
―――頂きまーす!!
ガンッと、小さな体が跳ね飛ばされる。
―――どうしてだ。
―――わたしはこんなにあなたを思っているのに。
すかさずもう一度走り出す。
ツルッと、小さな体は拒絶される。
―――ああ、どうしてだ。
―――わたしはあなたを見ていることしか出来ないのか。
もう一度、もう一度……。
―――うわあああああああ!!
もっと大きく、力強く飛び込む。
小さな小さな旅人よ、その体が燃え尽きぬ内に、己の願望を達成せよ。
「ねえねえ、見てよこの子犬。ガラスに向かって体当たりしてるよ」
「マジ!?写メ写メ~。あははは」
―――どうしてだ!!
―――どうしてなのだあ!!
ありったけの力を振り絞る。
パリーーーン
―――は……。
意識が戻ると同時に、血の匂いが鼻を突く。
だが、それ以上に涙が止まらない。
そこにはもう、『あなた』は居なくて、残ったものは、鋭く光る固い破片ばかり。
―――あなたは……。
―――く……。う……。
地面に散乱している破片を噛み砕く。
血の味しかしない。
―――ぐ……。
―――あなたはきっと、それはそれは美味しかったのでしょうね。
血と涙が混じり合い、やがて意識は遠のいて行く。
―――いつかまた、会えた日には……。どうか、私のことを……振り向いて下さい……。
小さな小さな旅人は、広がり続ける血だまりの中で、最期の息を引き取った。
owari
夏なので、(個人的に)涼しいイメージの「ガラス」をテーマに書いたつもりだったのですが、いつのまにか方向性が変わってしまいました。ただ、一つ勘違いをして頂きたく無い事があります。
これは、「虚像」のお話ではありません。
ご感想頂けると嬉しいです。




