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夜にみかんがなる木(仮題)  作者: アレックス・フクリー


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3/4

(3)

 次の日、ケントとマイは、裏の山でカブトムシやクワガタを探していた。

 山道は細くて、木の根っこがところどころ地面から顔を出している。マイは時々つまずきそうになりながら、それでも楽しそうに兄の後をついてきた。小さな足で一生懸命歩く妹の姿を、ケントは時々振り返って確認した。

 普段の家の周りでは、当然カブトムシなんていない。お店で買わないと手に入らない。でも、ばあちゃんの家の近くだと、その辺にある木をよく観察すれば、見つけることができた。クヌギの木の幹には樹液が出ていて、甘い匂いが漂っている。ケントは木の根元をのぞき込んだり、枝の分かれ目を調べたりした。マイは少し離れたところで、セミの抜け殻を集めていた。透き通った殻を手のひらに乗せて、嬉しそうに眺めている。

 昼過ぎまで探したけれど、結局カブトムシは見つからなかった。でも二人とも疲れたという様子はなくて、汗をかきながら笑っていた。


「また明日も来よう」


 山を下りるとき、マイが言った。


「うん」


 ケントはそう答えた。


 ばあちゃんの家に二人が戻ってくると、テーブルの上にはまたみかんがあった。

 いつものかごに、きれいに並べられている。昨日と同じ。何も変わらない。

 ケントとマイはお腹が空いていたので、何も考えずに食べた。マイは「おいしいね」と言って、二つ目に手を伸ばした。ケントも黙って皮をむいた。みかんは甘かった。少し酸っぱいところもあったけれど、それがかえって喉に心地よかった。果汁が口の中に広がって、渇いた体に染み込んでいく。

 ただ、ケントは昨日の夜のことを何度も思い返していた。

 手を動かしていても、頭の中は別のことを考えている。みかんを食べながら、ケントは窓の外を見た。もう夕暮れで、空が少しずつ暗くなり始めている。裏山のシルエットが、黒く浮かび上がっていた。木々の輪郭が、ぼんやりと溶けていく。

 何もなっていなかった木。

 昨日の夜、ばあちゃんが立っていた木。

 あんなに大きくて、幹も太くて、枝もたくさん広がっているのに、何もなかった。ただの木。それなのに、ばあちゃんはじっと見上げていた。まるで、そこに何かがあるかのように。

 そして、ばあちゃんが口にした言葉。


「今日は、だれも思い出そうとせんかったんやね」


 だれも、とはだれのこと?

 思い出す、とは何を?


 ケントは考えようとしたけれど、答えは出なかった。ただ、胸の奥が少しざわざわした。何かが引っかかっている感じ。忘れてはいけない気がするのに、何を忘れているのか分からない。もどかしさだけが、ぼんやりと残る。

 しばらくすると、台所からばあちゃんの声が聞こえた。


「晩ごはんたべようか」


 その声は、いつものように優しくて、穏やかだった。


「はーい」


 ケントは答えて、立ち上がった。マイも一緒に台所へ向かった。

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