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判断は、正しさではない。ただ、引き受け続けることだ。  作者: 科上悠羽


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第8章 記録されるもの、されないもの

記録の様式が、少し変わった。


公式に通達があったわけでも、制度が改定されたわけでもない。

ただ、書き方が揃い始めた。


条件。

結果。

判断。


その三つが、必ず並ぶ。


「判断」の欄に、以前は空白が多かった。

使ったか、使わなかったか。

それだけで十分だったからだ。


今は違う。


「判断者:――」


その行が、いつの間にか当然のように追加されている。


私は、その書類を見下ろしながら、指先に少し力が入るのを感じていた。


「……これ」


声に出す前に、隣のフィオが気づく。


「はい」


「この書き方」


資料を軽く叩く。


「前から、こうだっけ」


フィオは、少し考えてから首を振った。


「いいえ」


静かな否定。


「最初は、結果だけでした」


「だよね」


私は息を吐く。


「いつからだろ」


「前例が増えてからです」


淡々とした答えだった。


前例。

また、その言葉だ。


「判断者を残すようにしたのは」


フィオは続ける。


「確認のため、だそうです」


「何の?」


「……責任の所在、だと」


私は、その言葉を頭の中で転がした。


責任。

刻めない、と言われたもの。


「でもさ」


私は資料を閉じる。


「それ、責任を明確にするっていうより」


言葉を探す。


「判断を、人に固定してない?」


フィオは、すぐには答えなかった。


「固定、というより」


慎重に選ぶ。


「参照しやすくしている、という認識だと思います」


「同じじゃない?」


少しだけ、強く言ってしまった。


フィオは、視線を落とす。


「……結果としては、近いかもしれません」


私は、言い過ぎたかと思って、口を閉じた。

でも、訂正はしなかった。


記録は残る。

でも、迷った時間は残らない。

考えた過程も、残らない。


残るのは、名前と結果だけ。


「これ」


私は、別の書類を指す。


「この判断、桐生さんがしたやつだよね」


「はい」


「でも、この時」


思い出す。


「結構、迷ってた」


フィオは、小さく頷いた。


「はい。条件の読み替えで、時間を使っていました」


「でも」


書類を閉じる。


「それ、ここにはない」


「……はい」


沈黙が落ちる。


刻印盤の方を見る。

今日も、何も映していない。


「記録ってさ」


私は、独り言のように言った。


「残すためのもの、だと思ってた」


フィオが、こちらを見る。


「でも今は」


私は続ける。


「使うためのものになってる気がする」


フィオは、否定しなかった。


「便利ですから」


その一言が、すべてだった。


便利。

前例。

記録。


どれも、間違っていない。

でも、全部が同じ方向を向いている。


――判断が、個人に紐づいていく方向。


私は、その流れの中に、自分も立っていることを自覚していた。

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